52 元勇者の魔王で代表、元凶 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/07/26 王子の台詞を加筆修正、全体を若干修正
周囲を見渡せるようにはなったが、やはり暗い。
日は沈み、夜になってはいたようだ。
光源は空の月と星。
後は背後の王都からの明かり。
そうして照らし出されているのは、王都を背にした俺と武闘家に対し、半円状にして囲む、数百に届く魔物の群れ。
直前まで相対していたはずのダークドラゴンに代わり、巨大な白骨が姿を晒していた。
何故か、ドラゴンはその後方へと場所を移している。
『邪魔ヲスルナ! 勇者ハ我ガ──』
「──何度も同じことを言わせないでくれませんかね? 独断専行はここまでにしてもらいますよ」
ドラゴンの声は頭の中にしか響かない。
にも拘わらず、王子はそれに返答してみせた。
魔物と会話をしているのだ。
「やれやれ、少しは親を見習ったらどうですか? アナタと違ってとても従順だと言うのに」
『何ノ世迷言ダ、人間。我ガ王ヘノ侮辱ハ、捨テ置ケヌゾ』
「おや? まさか、自分の親だと理解できていないのですか? 随分と親不孝な子供ですね」
『先程カラ、何ヲ言ッテ──』
「ほら、此処に居るではありませんか。私が乗っているコレですよ、コレ」
『──ッ!? マサカ、王ノ亡骸ヲ辱メタノカ!? キサマァーーー!!!』
激高したドラゴンが、背後から王子に襲い掛かる。
「いつまでも煩わしい子供ですね、まったく。”大人しくしていろ”」
『グゥッ!?』
ドラゴンにはもう目もくれず、こちらへと向き直る王子。
先程の遣り取りから察するに、その身を預けている存在は、俺が倒したドラゴンの王の亡骸らしい。
つまりは、スカルドラゴン。
アンデッドだった。
だが、アンデッドを作り出せる存在は──。
「お待たせしてしまいましたか? 何分、躾けの行き届いていない子供で、手間ばかりかけさせられて、大変でしてね」
「王子、アナタは一体何者なんですか?」
「お分かりになりませんか?」
沈黙を返す。
「魔王ですよ、魔王。それ以外にあり得ないでしょう? こうして魔物を従えているんですから」
そう、その可能性しかない。
魔物を従えていることも、そして、アンデットを作り出せていることも。
だが、俺にはアンデッドを作り出すスキルなど、持ち合わせていない。
もしかしたら、魔法なのかもしれないが、少なくとも闇魔法の初級には無い。
「全ては貴方のお蔭です。貴方が魔王を倒してくれたからこそ、こうして魔王に成ることができました」
「……どういうことですか?」
「私は、天職のみしかありませんでした。転職先は何も無かったのです」
そうして、王子は語り始めた。
状況を理解するためにも、情報は必要か。
周囲の魔物たちにも動きは見られない。
これだけの数に支配を適応しているということなのか。
「転職場は私が管理・運営しておりました。そこで石板に何度も触れる機会がありましたが、常に何も表示されはしなかった」
失意を滲ませながら話し続ける。
おおよそ、王子から他に転職なぞ望まないと思うが。
「ですが、貴方たちにより魔王が倒された後、今まで無かった変化が訪れた。石板に文字が表示されたのですよ。表示されたのは二文字、”魔王”とね」
「そんな馬鹿な……だって俺が──」
「──私も驚きましたよ。まさか、私の”後”に、魔王に転職する者が現れようとは、ね」
「それでは、魔王が何人も居ると言うのですか?」
「可笑しなことを仰る。現にこうして二人の魔王が同時に存在しているではありませんか」
口調が心底愉快そうなモノに変わる。
「魔王とは実に素晴らしい! この魔力! 魔物を支配する力! 貴方には、どれだけ礼を申しあげても足りないぐらいです。魔王を倒してくださり、本当にありがとうございました」
「目的は何ですか? これほどの魔物を従えて」
「先程申し上げたとおりですとも。世界を、と」
「かつての魔王に成り代わるつもりですか」
「さてね。生憎とその魔王との面識はありませんから。目的が同じかどうかなど、分かりかねますね」
「魔物の狂暴化は解け、ようやく魔物の保護に乗り出したというのに。また魔物を操り、世を乱すつもりだと?」
「乱すわけではありません。ただ、あるべき姿へと正すだけです」
「あるべき姿?」
「そう、私によって支配される世界! それこそが、世界のあるべき真の姿!」
「随分と、妄想が過ぎるようですが」
「力が伴わなければ、妄想と言われても仕方がないでしょうね。ですが、見合うだけの力を有した今、叶えられる未来になったのですよ」
陶然としたような表情を浮かべる王子。
「一体、何が起こっている? 喧しいのと一緒に、気配が随分と増えたようだが」
困惑を言葉にしたのは、武闘家だった。
盲目の彼は、状況の変化を認識し切れないようだ。
「魔物の群れが現れました。目測で数百規模です。そして、群れを操っているのは、この国の王子のようです」
「……それが全て事実だと?」
「えぇ、残念ながら」
「先程、魔王とか言っていたようだが?」
答えを返すよりも先に、余所から声が掛けられた。
「──私も、そこの元勇者殿も、現在は魔王というわけですよ。それで、貴方はどなたでしょうか? 新しいお仲間ですか?」
「別に何でもない。ただの冒険者だ」
「それはまた、何とも運の無い人ですね。こんな死地に居合わせるだなんて」
「お前が王子と言うのは本当なのか? 何故自分の国を攻める? いずれはお前が治めるのではないのか?」
「端役が随分と喋りますね。何、簡単なことですよ。目論みが外れて、魔王城が跡形も無くなっていたのでね。代わりの住処として城を貰いに来たんですよ」
「魔物で侵攻せずとも手に入ったのではないのか、と問うているのだが?」
「……不愉快な人ですね。自分の物なら、どう扱おうが構わないでしょう」
「成程、王子の評判は噂以下らしいな」
「何だと? 平民風情が、王族への口の利き方がなってないようだな」
「生憎と、下種に仕えるのは、もう懲り懲りなんでね」
武闘家の挑発に、王子は言葉ではなく行動で応えた。
スカルドラゴンが前足を振るう。
武闘家は盲目とは思えぬ所作で、華麗に躱してみせた。
「結局、自ら動こうとはしないわけか。成程、王族らしい振る舞いだな」
≪汚泥≫
今度は魔法が放たれた。
武闘家の足元が泥状に変化する。
泥の中へと沈み込む武闘家の足。
「汚物は埋めるに限る」
王子が侮蔑するように言い捨てる。
今の魔法は、闇の中級魔法のはず。
当然、レベル1では使用できない。
つまり、王子はレベルを上げたというわけだ。
それも、魔王が倒された後に。
生物を倒したのだ。
少なくない数を。
人か、動物か、それとも、支配した魔物を犠牲にしたのか。
知らず、怒気が漏れる。
「おや? 助けなくてよいのですか? 魔法も使えない人間では、脱出は困難だと思いますよ?」
Sランク冒険者のステータスを侮り過ぎだ。
その瞬間を見逃さぬよう、気取られぬ程度に身構える。
「一つ、お尋ねしたい。どうやってレベルを上げたんですか?」
「そんなことを今問うのですか? 人助けもせず?」
「生き物を犠牲にしたのか」
「……ふぅ、まぁ、そうですね」
「どうやって?」
「知ってどうするのですか? そういえば、妙に魔物に肩入れしてましたね」
「魔物を犠牲にしたのか?」
「王都に居た頃は、伝手を頼って魔物を仕入れてましたね。これで満足ですか?」
魔物を仕入れた?
伝手を頼って?
何か……何かが妙に引っかかる。
魔物、伝手、仕入れる。
──まさか、まさかまさかまさか。
「商人経由で魔物を取引していたんですか?」
「おや? 何かお心当たりでも?」
「王都地下に洞窟を造って、魔物を取引していた商人ではありませんか?」
「よくご存じで。その様子では、まだ続けてたんですね。そして露見した、と」
王都地下のあの一件。
それがここに、王子に繋がった。
王子こそが魔物を買い取って……。
「──人間のする所業ですか」
「ん? 何か仰りましたか?」
「それが、人間のする所業なのかと問うているのです!」
「人間”だから”魔物を倒すのでしょう? 何かおかしいですか?」
「アナタも魔王なら、魔物の言葉が理解できるのでしょう!?」
「それが何か?」
「言葉が分かるのに、どうして!」
「同じ生き物では無いから、いや、自分じゃないからですかね? 他の生き物のことが、それ程大切なのですか?」
「失われずに済む命のはずです!」
「まるで説得力がありませんね。貴方こそが、一番多く魔物をその手にかけてきたでしょうに」
「平和を願っていればこそ──」
「──お題目を掲げていれば良い、と? 経緯が違えども結果は同じ。貴方に非難される謂れはありません」
絶句する。
さらに王子が声を発しようとして、邪魔が入る。
「破っ!」
半身が泥に沈んだ武闘家。
両手を泥につき、気合と共に掌底を放つ。
反動を利用し、下半身を泥から引き抜いてみせた。
「何っ!?」
意識が逸れていた武闘家の突然の行動に、一瞬気を取られる王子。
その瞬間を見逃さない。
≪光体≫
光の超級魔法。
──が、発動する前に、横合いから衝撃が加えられた。
横へと吹き飛ばされる。
地面に転がりながら、攻撃の主を確認しようと視線を向ける。
「な、何で、アナタが!?」
視線の先、そこにはセントレアの姿があった。
第一章、終盤です。
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