49 元勇者の魔王で代表、機関始動 【修正】
▼10秒で分かる?これまでのあらすじ
王都も、王都周辺も、何も起きずに時間だけが過ぎゆく
昇級試験から三ヶ月が経過した
22/07/22 学者くんの口調修正、全体を若干修正
昇級試験から三ヶ月。
実に半年もの期間を経て、遂に建物が完成した。
魔物保全機関。
何とも感慨深いモノがある。
地上二階、地下一階、縦よりも横に長い造り。
王城の東側にある公園だった場所に建設されており、下水道が元々この地下には無かった。
そのため、地下室を造る際、下水道も新たに拡張し繋げてもらった。
完成してみれば、宿屋よりも遥かに大きい建物となった。
一階だけで10部屋以上もある。
二階は主に人間用として、複数の個室と、執務室、書庫がある。
一階は魔物たちの部屋と、あとは共有施設がある。
まだまだ魔物の生態は不明な点も多いため、大体は内装もほぼ無い、空き部屋となっている。
それでも、一階には風呂やトイレ、食堂も設けてある。
人間はもちろん、魔物の食事も提供してもらうために、通いの料理人を雇った。
今後、活動の拠点となる場所。
長くお世話になった宿屋を引き払い、こちらに住むつもりだ。
みんな、この建物に移住するわけだし、それがよいだろう。
地下は今のところ、倉庫代わりの予定。
後は、日差しに弱い魔物など、地上暮らしが困難な場合、住むことが可能なように区画分けされている。
既に、スライムたちが気に入っているみたいだが。
建物の周囲の庭部分は、大きく分けて三区画からなる。
西が一番大きく、次いで東、北が裏庭だ。
西にはブギーマンの小屋も建っている。
試作時の掘っ建て小屋から、ちゃんとした木造の小屋に。
もちろん、住むのは機関の部屋だが。
週に2回、午前と午後の部に分けて、聖職者の聖魔法の補助も借りつつ、一般にも開放する予定だ。
兵士と冒険者には試し済み。
やはりと言うべきか、冒険者のほうが、抱く恐怖は強いらしい。
実体験に基づいた恐怖が再現されるのだろう。
逆を言えば、一般人のほうが、安全なのかもしれない。
東の庭には、以前構想していた魔物のお墓というか、慰霊碑を建てた。
できることならば、余り出番が無いのが望ましい。
約半年掛けて建物は完成したのだが、求人の成果は全く振るわなかった。
主要なメンバーは、俺を代表として、元受付嬢さんが秘書兼副代表、王城から出向という形式の学者くんの三名。
そう、たったの三名だ。
会議室での王様や宰相、家臣たちの渋い顔が思い起こされる。
後は、門前に配された警備の兵士や、先に挙げた料理人がいる程度。
彼らは、正確には職員という扱いではない。
結局、仲間たちからの連絡は無かった。
皆、それぞれ忙しいのか。
それとも、最早連絡を取ることすらも拒絶されているのか。
王都で別れた際、険悪な雰囲気など微塵も無かった、はずだ。
少なくとも、俺はそう思っている。
魔王になったこと、魔物を保護すること。
その辺りが原因なのかも。
もしくは、皆の身に何かあった可能性も、考えたくはないがあり得る。
できることなら、返事の手紙が欲しい。
せめて無事が確認できるだけで、安心できる。
例え協力や理解が得られずとも、無事ならばそれでよい。
増えなかったのは人間だけではなかった。
依然として魔物は、スライム3体、セントレア、ブギーマン、それと妖精のブラックドッグだけだ。
最近は王都周辺で魔物を全く見かけなくなった。
痕跡すらも見当たらないほど。
かといって、何か王都に脅威が迫っても来なかった。
保護しているみんなに尋ねてみても、理由は分からないと言う。
もっとも、別に必ずしも王都で保護することに拘る必要もない。
魔物が不必要に虐げられていなければ、それでよい。
よって、左程変わらぬメンバーにて、いよいよ本格始動と相成った。
「代表、演説お疲れ様でした」
「ありがとうございます。それにしても、その呼び名は慣れる気がしませんね」
銀髪眼鏡の受付嬢──もとい、秘書さんにそう返事する。
どうにも着慣れない正装に身を包み、髪も普段ではあり得ないほど整った姿。
魔物保全機関の完成披露として、庭での軽い演説を終えて、建物内へと戻って来たところだった。
とは言え、台本を読んだだけなのだが。
「慣れていただかねば困ります。機関に所属する者は皆、貴方を代表とお呼びするのが規則です」
「別に3人しか居ないんですし、今までと変えなくてもよいのでは──」
「──規則ですから。代表といえど、守っていただかねば困ります。他への示しが付きません」
「はい、済みません」
以前に比べて、確実に圧が増した。
おかしい……もっと優しく接してくれていたのに。
「本日、代表のご予定は、王都の名士の方々へのご挨拶回りと、陛下への謁見となっております。くれぐれも謁見の時間に遅れないでくださいね」
「はい、気を付けます」
どうやら、お偉方には、直接訪問して挨拶しなければならないらしい。
完成披露に訪れていたのは、知人や周囲に居を構える人々だった。
「私は残念ながら他への挨拶回りがあり、ご一緒できませんので、十分にお気を付けください」
「分かってます、分かってますとも。子供じゃないんですから、大丈夫ですよ」
「……では、道中に困っている方を見かけたら、如何なさるのですか?」
「それは勿論、声を掛けてあげるでしょうね」
「謁見の時間が差し迫っていたら?」
「困っている人を助けるのは当然じゃないですか? もし遅れてしまったら、後で王様には謝っておきますよ」
「ハァッ。今から心配でなりません」
「一応、謁見の時間は一番最後にしてもらってますし、きっと大丈夫でしょう」
「それはつまり、遅刻厳禁と同義なのですよ? お分かりですか?」
「全力疾走しますから、大丈夫です」
「……やはり、もっと無理をしてでも職員を募るべきでしたね」
「望んでいない人に、無理に来ていただいても、双方にとって益はありませんよ、きっと」
「ですが──」
「──それに、気心の知れた人たちと一緒のほうが、余程に心強いでしょう」
「……困ったお人ですね、まったく」
「気付かぬうちに、色々とご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんね」
「いえ、元々、お役に立ちたくて、私自ら言い出したことですから。それよりも、手早く食事を済ませてしまいましょう。時間は待ってはくれませんから」
切り替え早く、次の行動に移ろうとする。
異論などあろうはずもなく、後に続く。
「ダーリン! とっても、とっっっても素晴らしい演説だったわ! アタシ、興奮しっぱなしよ! 今も動悸が収まらないもの。ほら、触って確かめてみて」
廊下で声を掛けてきたのは、セントレアだった。
屋内の天井は高めに設計されており、セントレアの長身でも頭をぶつけるような心配はない。
セントレアからのたっての希望により、厩舎を併設するのではなく、屋内での居住を叶えたのだった。
一階西の角部屋を改造し、外に出られる扉を備え付けてある。
自室から、庭の演説を見ていたのだろう。
「謹んで遠慮します」
「じゃあ、この胸にかき抱いてあげるわ! さぁ、飛び込んで来て! いえ、むしろアタシが飛び付いちゃう!」
「代表は、この後も予定が詰まっております。セントレアさんはどうか、自重してください」
秘書さんが口を挟んだ。
「あらアナタ、居たのね」
「えぇ、勿論です」
「「…………」」
両者が無言で見つめ合う。
──周囲の温度が下がった!?
そう錯覚するほどに、両者の空気が張り詰めている、ような気がする。
基本的に、セントレアが絡み、秘書さんが軽く流す、といった組み合わせだったのだが、どうやら今日は長引きそうだ。
火種は間違いなく俺なのだろうから、この場に留まるよりも、移動したほうが賢明だろう。
その場を離れ、独り、一階の食堂を目指すことにする。
3部屋を繋げた大部屋。
4人掛けのテーブルが6個並んでいる。
職員が3名では、何とも持て余す広さだった。
奥の厨房に向かい、今日からお世話になる料理人の方に挨拶をして、昼食を作ってもらう。
改めて思う。
今日からは軽食を購入する必要もないのだ。
三食、この建物に居るだけでありつける。
しかも、国費で!
この機関自体が国営なのだ。
勿論、何もせずに、とはいかない。
一月毎に、王城へ成果を報告しなければならない。
成果とは、王都周辺の魔物の生息状況、機関での魔物の保全状態、魔物の生態調査報告などだ。
当初の想定では、もっと魔物を保護できると踏んでいたのだが、当てが外れてしまい、現状では増える見込みは無い。
いきなり、先行きが不安となっている有様だ。
厨房に一番近い席に着き待っていると、程なく、良い香りが鼻孔をくすぐる。
思わず、ゴクリと喉を鳴らす。
それを待っていたわけではないだろうが、秘書さんとセントレアが並んで食堂へと姿を現した。
秘書さんが向かい側の席に着き、セントレアは立食用のテーブルへと移動する。
セントレアの食事は馬と同じ、というわけもなく、かといって人間と同じでもなかった。
曰く、調味料を控えめにした、素朴な味わいが好ましいらしい。
先に、俺と秘書さんの料理が出された。
セントレアの分は、別途用意されるようだ。
「「いただきます」」
声を揃えて、食事を頂く。
少し遅れて、セントレアの料理も出された。
軽く今後の段取りを詰めながら、食事を進めていく。
そろそろ終えようかというところで、もう1人の職員が食堂に姿を現した。
「も、もういらしてたんですね。ぼ、僕も誘って欲しかったです」
「代表も、私も、後の予定が詰まっております。そんな暇はありません」
学者くんに対し、秘書さんがにべもなく言い放つ。
「わ、割とボクには、つ、冷たいですよね」
「そんなつもりはありません。それよりも、留守をお任せいたしますので、どなたか訪ねていらしたら、対応をお願いしますね」
「えぇ!? ぼ、僕、そ、そんな話聞いてないですよ!? ど、どうすればいいんですか!?」
「お名前と、訪問の目的を聞いておいてください。忘れないためにも、メモを取っておくように」
「え、えぇっと、じ、じゃあ、そ、それもメモしておきますね」
「……そうしてください」
食事を終えたので、席を立ち、食器を片付けようとする。
「代表。後は私が片付けておきますので、ご支度なさってください」
「済みません。では、お願いしますね」
遠慮しても聞かないであろうことは分かっていたので、ありがたく厚意に甘えさせてもらう。
「ダーリン、気を付けて。行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
「いやん! まるで夫婦の会話みたいじゃない、今の!」
興奮するセントレアを余所に、学者くんと入れ替わるように食堂を後にする。
吹き抜けのエントランスにある階段を上がり、自室で外出の準備を済ませる。
建物から出た庭では、スライムたちとブラックドッグが戯れていた。
『ツカマッタ!』
『ダッシュツ、フカ!?』
『ケシキ、グルグル?』
というか、ブラックドッグが一方的にスライムたちを跳ね回していた。
宙に跳ね上げられる度に、スライムたちの声が頭に響く。
『オチツケ、ワンコ!』
『ブンリ、シチャウ!?』
『クルクル、グルグル?』
ちょっとスライムたちが持たなそうなので、ブラックドッグに駆け寄り、撫でながら大人しくさせる。
鼻先から解放され、地面にポタポタ落ちるスライムたち。
『マオウサマ、アリガト!』
『マダ、ユレテル!?』
『コロコロ、マワッテル?』
「少し出掛けてきます。庭の外には出ないように。いいですね?」
『ワカッタ!』
『ゴキュウケイ!?』
『オルスバン?』
ふと視線を向けた先、小屋の前に人は居ない。
今は昼時だ。
恐怖小屋は、また昼過ぎから開放されるだろう。
門前の兵士たちと挨拶を交わし、名士への挨拶回りへと赴くのだった。
第一章 終盤です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




