48 元勇者の魔王、恐怖に挑む 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/07/21 クエストに関して加筆、全体を若干修正
奇妙なことが起こっていた。
昇格試験から一ヵ月後のある日。
王都東に広がる岩場に生息していたロックワーム確認のため、冒険者ギルドからBランク冒険者が派遣された。
残念ながら、Aランク冒険者は例の優先依頼のために出払っていた。
案内役として同行したわけなのだが、警告のために立てておいた石柱の先には、何故か一匹も居なかったのだ。
東側だけでなく、南北に渡って周辺を捜索してみたが、見つからない。
あるのは、巣食っていたであろう痕跡だけ。
数十匹、最悪、三桁にも届くかという数。
それが全て居なくなっていた。
残骸も見当たらない。
まず懸念されたのは、王都への侵攻。
すぐさま王都側へと引き返し、周辺を探ってもみた。
だが、そこにも居はしなかった。
結局、一匹もその姿を確認することは叶わず、以降、目撃した場合は即報告するように周知し、王都へ帰還することとなった。
ロックワームに遭遇して以降、他の魔物を見かけてはいない。
目撃情報も無く、討伐依頼も出ていない。
まるで王都周辺から、魔物が一斉に居なくなってしまったかのような、そんな錯覚さえある。
偶然の産物なのだろうか?
偶然、ロックワームたちが住処を変えた。
偶然、王都周辺に魔物が居つかなくなった。
あり得ない、なんてことは、あり得ない。
人間の常識が、魔物に通じるはずもないのだから。
魔物の生態は既知の部分よりも、未知の部分のほうが圧倒的に多い。
だが、居なくなったということは、逆を言えば、何処かには居るということ。
問題は何処に行ったのか。
いや、それとも、何故居なくなったのか、だろうか。
以前、ジャイアントが王都へ迫った時のように、脅威から逃げ出したとすれば、一大事だ。
同じ懸念を抱いたのか、冒険者ギルドでも、遠征による外敵の調査の依頼が出されていた。
遠征期間が割と長期に亘るため、参加は断念したが。
みんなを長期間、他人に預けるのも不安ではあったし。
それに、もし本当に王都へと脅威が迫って来るならば、行き違いになる可能性のある行動を取るべきではない。
俺こそが最終防衛の要なのだ。
王都を離れるという選択肢は選べるはずもなかった。
そんなことがあってから、早一ヵ月が経過していた。
昇級試験からは、約二ヵ月が経過したことになる。
懸念は杞憂に終わったのか、今に至るまで、特に何事も起こってはいない。
王都に脅威は訪れておらず、周辺に魔物の姿は見当たらない。
王子を発見したという報も、聞こえてこない。
俺はと言えば、相変わらず人材は集まらず、手紙の返事も来ない。
停滞している。
そう感じる。
決定的に悪いほうへと、進んでいないことだけが救いか。
徐々に完成へと近づいてきた魔物保全機関。
当初、完成まで半年程掛かる想定だったから、後三ヵ月程で完成するはず。
それまでには、諸々好転していて欲しい。
「──勇者様? 相変わらず、何かお悩みなのですか?」
横合いから掛けられた声に、ふと我に返る。
少し回想に耽っていたらしい。
「いえ、最近パッタリと魔物が姿を見せなくなったな、と。そう思いませんか?」
「確かにそうかもしれませんね。冒険者ギルドでも、最近は討伐依頼を扱っておりませんし」
銀髪眼鏡の受付嬢さんの歩幅に合わせながら、会話を続ける。
草木の独特な匂いを嗅ぎながら、来ている場所は王都の外、西側に広がる森だ。
今は、セントレア以外のみんなを引き連れている。
そう、ブギーマンも一緒に。
道中、Bランクの採取クエストの対象となるキノコ類を拾いながら、森の奥へと進んで行く。
そういえば、何故キノコの採取がBランク扱いなのだろうか。
難易度はCランクの薬草類と変わらないと思うのだが。
「一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「はい? 勿論構いませんが、何でしょうか?」
「ふと疑問に思っただけなのですが、キノコの採取が何故Bランク扱いなのでしょうか?」
「Bランクの理由、という意味ですか?」
「えぇ、Cランクと難易度は変わらないように思えるのですが」
「ランクの選定に携わったわけではないので、正式な理由は分かりかねます。しかし、私見で良ければお答えできます。それでもよろしいですか?」
「それで構いません。本当にただ疑問に思っただけなので」
「大きく分けて二点、考えられます。まず一点目は、乱獲を予防するためです」
ふむ?
どういうことだろうか。
「薬草類に比べて、キノコ類は成長に時間を要します。これをCランクの依頼にしてしまうと、すぐさま摂り尽くされてしまう事態が予測されます」
「あぁ、成程。そういう意味でしたか」
「次に二点目。キノコの毒性についてです。キノコには毒性を有する種があります。知識に乏しい冒険者が誤って触れてしまわないとも限りません。それを予防しているのではないか、とも考えられますね」
「それについても納得です。旅慣れたことで、その辺りの観察眼は鍛えられましたが、確かに普通なら危険ですからね」
「ご納得していただけたようで何よりです。もっとも、後者に関しては、昇級時に説明を受けられたかと思いますが」
Bランクへと昇級するにあたり、冒険者ギルドから細々とした説明があった。
キノコ類に限らず、毒物に関する説明が主だ。
種類の判別、必要な装備、採取方法、運搬方法、等々。
報酬が高額な分、相応以上に危険を伴う。
もっとも、この手の依頼を好んで受ける連中がいるため、態々競合してまで行おうとは思わないが。
「山ではあまりキノコ類を見かけなかったのは、何故でしょうかね」
「森は広大で、方角を見失うと迷いかねないですからね。一方で、山は比較的小規模ですし、傾斜がありますから、下山することは容易でしょう」
「つまり、山のほうが安全に採取が可能、というわけですか」
「恐らくは、そうなのではないでしょうか」
こうして、割とどうでもよさそうな会話をしているのは、他でもない。
できるだけ、彼女の気を紛らわせようとしているのだ。
今日、森に来た主な目的は、彼女の恐怖の克服だった。
宿屋の部屋では、悲鳴を上げた際、もれなく宿屋の女将による追求と説教が付いてくる。
周囲に迷惑が掛からない場所ということで、森の奥が候補地となった。
流石に一度で改善するわけもないだろうが、彼女たっての希望である。
協力はしてあげたい。
以前、ブギーマンと遭遇した時は雨だったが、今日は晴れている。
足元もぬかるんでおらず、歩き易い。
朝食後、程なく出発し、今は昼過ぎといった頃合い。
森を踏破しようとすれば、丸一日程は掛かるだろう。
今回、そこまで遠出をする意味も無い。
多少開けた場所を見繕い、そこで昼食を取った後に試すとしようか。
丁度、良さげな場所を見つけることができたので、腰を下ろす。
バッグの中のスライムたちを外に出してやる。
最早、住人に隠す必要もなくなったみんなではあるが、素早く移動するには、スライムたちに移動させるより、持ち運ぶほうが効率的なのだ。
ブラックドッグやブギーマンは自力で移動してもらっている。
当然、ブギーマンは姿を消したうえで。
『ヤット、オソト!』
『モリ、ヒサビサ!?』
『ノンビリ、オショクジ?』
外へ出たスライムたちが、すぐさま落ち葉を平らげてゆく。
そんな様子を横目に、最早手慣れた所作で、ブラックドッグにエーテルを与えてやる。
何となく、移動中以外は子犬サイズにすることが多いかも。
和む。
明らかに触りたがっている様子の受付嬢さんに、手渡してあげる。
食事も疎かに、子犬を愛でる彼女。
随分とリラックスしている様子だ。
『マダ、オワランヨ!』
『オクレハ、トラヌ!?』
『マケラレナイ、タタカイ?』
スライムたちは大食い競争でもやっているのだろうか?
以前、満腹云々と言っていた気もするが、そもそもスライムに消化器官などありはしない。
透明の体内に吸収され、消滅してゆくだけ。
要するに吸収限界みたいなものか?
何でも人間の尺度で測れるわけではないのだろうが、理解が及ぶのはまだ先のことらしい。
「キャァーーーーーッ!!!」
耳をつんざく様な悲鳴が辺りに響き渡る。
悲鳴の主は受付嬢さんだ。
試作の結果は失敗に終わった。
すかさず、ブギーマンには再び姿を消してもらい、彼女に対し魔法を発動する。
≪光気≫
光の初級魔法。
精神を高揚させる効果がある。
恐怖を打ち消せるわけではないが、生憎と聖魔法は使えないので代替手段だ。
悲鳴が止む。
次第に落ち着きを取り戻してゆく、彼女。
想像している以上に彼女の恐怖、というよりもトラウマは根深いものらしい。
やはり僧侶さんによる聖魔法の助力が必要に思える。
未だ連絡は取れていないが。
「──済みませんでした。また、大声をあげてしまって」
そう謝ってみせる彼女。
思い詰めた表情をしたままで。
「いえ、気にしていませんよ。どうしても克服したいと仰るなら、幾らでもお付き合いしますから」
「本当に済みません。自分がこれ程臆病だったなんて」
「臆病とは違うのではないでしょうか。実体験から来る恐怖なんですから、仕方が無いのではありませんか?」
「ですが、勇者様は恐怖を克服なされたと仰っていたではありませんか。それに比べて私は……」
「俺の場合は、勇者の特性として感情が抑制されていた所為で、元々の恐怖が僅かだったのかもしれません」
「…………」
「それ程思い詰める必要もないでしょう? 気長に克服していきましょう」
「……情けないですね、私って」
「そんなに思い詰めないでください。命を落とし掛けたのであれば、恐怖が段違いなのも仕方が無いですよ」
「ですが──」
行きとは打って変わって、帰りはひたすらにネガティブな彼女を励まし続けた。
きっと、俺には理解も共感もできはしないのだろう。
あれだけの旅路を経てなお、アイツ──父さんを恐怖の対象として捉えていたぐらいなのだ。
命を脅かされる恐怖など、想像の埒外だ。
本当の意味で、彼女の助けとはなってあげられないのかもしれない。
自分は他人とは違う。
当たり前のことではある。
あるが、共感できないというのは、どうにも疎外感が生まれる。
他人とは決定的に違うのだという、自身への異物感。
心が冷える。
そんな気がした。
【次回予告】
さぁ、次回更新分で第一章は終了となります。
以降は、各キャラのSS、キャラや魔法の設定一覧を投稿した後、第二章開始となる予定です。
第一章の集大成。乞うご期待!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




