47 元勇者の魔王、周囲の動向 【修正】
23/01/03 誤字修正
昇級試験を受けてから、およそ一ヵ月が経過した。
魔物保全機関の建設は進み、骨組みが出来上がっていた。
だが、依然として求人の効果は皆無。
仲間からの連絡すらも無い。
皆、事情もあるのだろう。
仲間への手紙に関しては、また改めて出しておくつもりではある。
それでも、少しは進展もあった。
学者風の男性──やっぱり学者だったわけだが、彼が王城からの派遣として機関に参加してくれることになった。
元々俺、つまりは勇者という存在に憧れていたらしく、また、より見識を広げるためにも、是非参加したいとの理由らしい。
先月、魔物たちのお披露目をしてみたわけだが、未だ魔物に対して排他的な意見が主流のようだ。
院長さんが言っていたように、また突然狂暴化してしまうのではないか、という不安も含まれているのかもしれない。
言わずもがな、自分が魔王であるうちは、魔物を狂暴化させるような真似など、するはずもない。
だが、俺亡き後、次の魔王が誕生した場合に、どうなるかまでは未知数だ。
そこまで考えてしまうと、強くは言い出せない。
先のことは、誰にも分からない。
何の保証もできはしないのだから。
魔物が狂暴化する原因が、魔王の支配にあるのだとすれば、解除、もしくは、影響を防ぐ術を見出すことが、魔物との共生には有効かもしれない。
せめて、仲間だった魔法使いが協力してくれれば、何かしらの方法を見出せるかもしれないのだが、何の連絡もないわけで。
もし会えたなら、文句の一つも言ってやらねばならない。
当然、ダンジョンでの出来事について。
勇者を本気で倒そうと準備万端整えているとか、俺よりも余程に魔王らしい所業と言えよう。
僧侶さんの協力も、できれば欲しいところ。
彼女たち聖職者の用いる聖魔法は、怪我や病気の治療だけでなく、精神へ作用することも可能だ。
闇魔法が精神汚染を得意とするならば、聖魔法は精神の保護や汚染の除去などが得意と言える。
光魔法にも精神を高揚させる魔法はあるが、やはり、聖魔法のほうがより特化している。
聖魔法を利用すれば、魔王の支配から逃れられるかもしれない。
最上位の聖魔法の使い手は、知る限り僧侶さんをおいて他にいない。
戦士については、仲間内で一番、冒険者としての経験が長い。
多くの場所に赴き、見知った経験が、魔物を保護する場合になど、機関が始動すれば必要となるかもしれない。
魔法使いには知識を、僧侶さんには魔法を、戦士には経験を、それぞれ頼みとしている。
そうなると、やはり、仲間には協力してもらいたい。
とは言え、だ。
魔王を倒すため、10年程も旅を続けていた。
平和になった今、皆、それぞれにやりたいことがあるだろう。
無理強いはできない。
魔物の保護や共生は、あくまでも、俺がやりたいことでしかないのだから。
色々と試行錯誤を重ねつつ、ブギーマンによる人間からの恐怖の摂取に関しては、週に2回のペースで例の小屋を実施していた。
教会の聖職者に協力してもらい、事前に聖魔法を付与することで、気絶者も出なくなった。
勿論、命を落とすようなことも無い。
その分、数をこなす必要はあるが、安全第一。
一般人は未だ稀だが、兵士や冒険者が中心となって、参加してくれている。
精神修練の一環になっているのかもしれない。
最近では、ブギーマンが霧状に見えるようになった。
最早、アイツの幻影を見ることも無くなったのだ。
恐怖を克服できたのか。
あるいは、見慣れたことで感情が薄れただけか。
ここで1つの懸念が生じた。
参加者全員が恐怖を克服してしまった場合、ブギーマンの生存が危うい。
未だ参加していない人は沢山いる。
かといって、強制するわけにもいかない。
本当に一刻を争う事態にでもならない限り、無理にお願いするつもりはない。
生き続けるためには、恐怖され続ける必要があるなんて。
もし、これから先、ブギーマンを多数保護したとして、果たして生存を確約できるのか。
あり得ないとは断言できない未来。
皮肉にも、不安だけは尽きることがない。
そういえば、王都地下の一件で、少し進展があった。
商人は未だ拘留中だが、冒険者たちは奉仕活動の従事を条件に釈放された。
今では冒険者ギルドではなく、兵士たちの監視下の元、奉仕活動を行っている。
収監し続けていても、益は無い。
損得だけの話ではないが、損得を抜きにも考えられない。
何にだって金は掛かるのだ。
ならば、自分たちで稼いで貰う方が理に適っている。
ただ、例の武闘家だけは、手枷足枷の重しを装着した状態での奉仕活動となっているようだ。
彼は、他の者とは比べ物にならない位に、ステータスが高すぎる。
怪我の所為で盲目となってしまったようだが、その気になれば、王国の兵士全員を相手取っても勝てるかもしれない。
Sランクの冒険者とは、それ程の強さを誇るのだから。
警戒するのも無理からぬ話だった。
時折目にする限り、大人しく指示に従ってはいるようだ。
元々、商人の護衛をしていただけで、彼自身が悪事を働いていたわけではない。
もっとも、悪人の護衛が悪事にならないのかは、議論の余地があるだろうが。
平和になった今、レベルを上げる術は限られてくる。
生き物を倒すことでしか経験値が得られず、魔物も見かけなくなったならば、どうやってレベルを上げるのか。
動物、そして、人間だ。
当然のことながら、そんな真似はしないし、させられない。
そうした正当な理由なき行為は、法律により固く禁じられている。
必然的にレベルは上がらなくなり、高レベルの者の希少価値が高まる。
ただ、Sランクの依頼は無くなり、Aランクの依頼ですら、それ程多くはないだろう。
高レベルの者とて生きてゆかねばならない。
護衛という仕事も、護衛対象が異なれば問題になってはいなかったはず。
ジャイアントの一件以降、魔物の襲撃があったわけではないが、万が一の事態に備え、王国は戦力を補強しておきたいのかもしれない。
気掛かりなのは、王子が行方不明の一件。
事が発覚してから、二ヵ月程が経っただろうか。
Aランクの最優先依頼となっていたはずだが、未だに発見されたとの報は聞かれない。
王都の人間、それも王族が行方不明。
まず疑わしいのは誘拐だろう。
身代金目当ての誘拐事件。
だが、それらしき脅迫は行われてはいないそうだ。
次は、怨恨による事件に巻き込まれた線、だろうか。
無い、とは言えない。
王子は性格に難があった。
知らず、敵を作り出していても、おかしくはないのかもしれない。
失踪から日数が経つにつれ、可能性は高まっているように感じる。
あるいは、事故か。
これも無いとは言えないが、痕跡も無い。
可能性は否定できない、と言ったところだ。
最後は、自ら失踪した場合。
理由は定かではないが、これも可能性は否定できない。
事件か事故か、それとも些細な家出に過ぎないのか。
いずれにせよ、無事でいて欲しいものだ。
個人的には好きではない人物。
そうだとしても、いなくなって欲しいとまでは思わない。
ようやく、平和が訪れたのだから。
王様と言えども、息子が行方知れずなのだ。
心配していて当然だ。
本当は気が気でないはずなのだ。
それこそ、動員できる限りの人員を配して、捜索に当たってもおかしくない。
だが、そうはしていない。
秘密裏にAランクの依頼としているだけだ。
自制心が強いのか。
国王としての責任故か。
余人に計り知れるモノではないのだろう。
何があったのか。
それとも、未だに何かが起こっているのか。
一刻も早い発見を願うばかりである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




