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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
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45 元勇者の魔王、露見する秘め事 【修正】

22/07/17 全体を若干修正

 朝食後、部屋で何気なくブラックドッグを撫でながら、考え事をしていた。


 いつもローブの中に霧状になって隠れてもらうのも忍びない。


 かと言って、2メートルもある体は、大き過ぎて悪目立ちしてしまう。


 今後、王都の住人に認知されるには、もう少し目立たない姿が望ましい。


 小型犬とか子犬サイズであれば、住人を無暗に刺激することもないのだが。


 そして変化が起きた。


 ブラックドッグが縮んでいた。


 両手で抱えると少しはみ出す位の子犬サイズへと。


 霧状に変化できるのだから、サイズ変更ぐらい可能というわけなのか。


 物は試しと、触れながら最大サイズをイメージしてみる。


 現れたのは、いつもと変わらない2メートルの姿。


 いつも最大サイズだったらしい。


 寝る時にいつも決まって乗っかってくるが、質量を左程感じないため、苦にはならなかった。


 だが、大型犬よりも小型犬、それこそ子犬なら見た目も愛らしい。


 寝るときは是非、このサイズになってもらおう。


 とはいえ、外を連れ立って出歩くには、子犬サイズでも目立つだろうか。


 俺の後を健気に付いてくる子犬。


 微笑ましい絵面に思えるが、そのまま連れ回すと周囲からの視線の意味も変わってきそうだ。


 虐待とまではいかないだろうが、子犬が連れ回されて可愛そうとか、非難を受けそうな予感がする。


 中型犬ぐらいが、丁度いいか。


 しかし、首輪やリードも無しに放し飼いだと、かえって危機感を煽ってしまう。


 いや、待てよ。


 霧で作れそうな気もする。


 試してみると、一応、それらしい物は再現できた。


 色は黒限定のようだが。


 リード状に変化した霧を持っていれば、体に触れているのと遜色ない。


 有事の際は、指示もそのまま与えられる。


 折角だし、連れ立って外に出てみることにしよう。






 昨日、セントレアと歩いたり走ったりしたばかりだが、疲れが残っているわけでもない。


 スライムたちはバッグに、ブギーマンには姿を消してもらい、街路を歩く。


 中型犬や子犬の姿になったブラックドッグが、王都の住人たちに容認されるようであれば、次はスライムたちを外に出してやりたい。


 敵対しない魔物や妖精に対して、危機感が薄れていってくれればよいのだが。


 広い中央通りを抜け、王都の中心部へとやって来た。


 今のところ、ブラックドッグの姿を見て騒ぎが起きる様子はない。


 しかしそれも、四階建ての建物に近付くまでのことに過ぎなかった。


 冒険者ギルド付近に差し掛かった際、運悪く冒険者にブラックドッグを正面から見られてしまった。



「ブラックドッグだ!」



 黒い体に赤い目。


 特徴から正体に察しがついたらしい冒険者が、声を上げた。


 喧騒が一瞬止み、ザワザワとした人々のざわめきが広がる。


 まだパニックは起こってはいない。


 一般の人には、ブラックドッグがどういったモノなのか、見当がついていないのだろう。


 正体が妖精であると知る者などいまい。


 ブラックドッグを知る者の多くは、魔物だと認識している。


 何せ、俺だってそうだったのだから。



「王都内に、魔物が入り込んでるぞ!」



 次に放たれた言葉で、ようやく意味を理解したらしい住人たちが、悲鳴を上げ逃げ惑い始める。


 遂にパニックが発生してしまった。


 騒ぎを聞きつけたのか、北の王城や東西の門から、兵士たちがこちらに向かい走ってくるのが遠目に確認できる。


 完全に失敗した。


 ──馬鹿か俺は!


 一般人ならまだしも、冒険者の存在を失念していた。


 特徴を知っている者が居てもおかしくないのだ。


 そんな当たり前の懸念を忘れ、浮かれた気持ちで連れ出して来てしまった。


 冒険者から放たれる敵意に反応し、ブラックドッグが唸り声を上げ始める。


 周囲のパニック状態に拍車がかかる。


 リード越しだけでなく、路面に膝をついて直接体に触れてやり、ブラックドッグを(なだ)めてやる。


 視線に晒されぬよう身体で庇い、周囲に向け弁解を試みる。



「待ってください! この子は人を無暗に襲ったりはしません。これ以上、刺激しないでください」


「正気かオマエは!? ソイツは未だ危険とされている魔物なんだぞ!」


「危険な魔物であるならば、俺が未だに無事でいるのは何故ですか? 何処に被害者が居ると言うのですか?」


「オマエがどうやってか手懐けただけだろう!? 被害が出る前に、さっさと退治するべきだ!」



 こんな人目の多い場所で、下手に抵抗するのは悪手に過ぎる。


 なるべく言葉だけで、気を静めてやる必要がある。



「退治する必要はありません。一旦落ち着いて、冷静になってください」


「そんなことできるか! いいからさっさとその魔物を──」


「──随分と騒がしいですね。どうかされましたか、冒険者様?」



 俺と冒険者の会話に、突然割って入ってきた声。


 視線を向けると、声の主は冒険者ギルドから出てきた、銀髪眼鏡の受付嬢さんだった。



「ブラックドッグだ! ほら、あそこ! あの黒い犬だよ、見えるだろ!」


「問題なく見えております。それで、それが何だと仰るのでしょうか?」


「アレは危険な魔物なんだ! それをアイツが庇ってやがるんだ! アイツ、絶対頭おかしいぜ!」


「危険、ですか」



 そう言うと、彼女はこちらへと静かに歩み寄ってきた。



「お、おい! 話を聞いてなかったのか!? 近づくと危険なんだぞ!」



 俺……というより、(かたわ)らのブラックドッグの眼前へとしゃがみ込んでみせる。


 周囲から悲鳴が上がった。


 その先に起こるであろう惨劇を予見したのだろう。


 だが、しばらく経っても、何も起こらない。


 ブラックドッグも、彼女も、どちらもその場から動いてはいない。


 襲わないし、襲われない。


 危険は無いと察したのか、パニックが次第に収まりを見せていく。


 遅れて、兵士たちがようやく辿り着いた。






 冒険者ギルドの最上階にある一室。


 俺とブラックドッグの他に、受付嬢さんとギルド長が居た。



「それで、その犬はブラックドッグで間違いないのですか?」


「はい、間違いありません」



 ブラックドッグを膝の上に乗せ、ギルド長からの問いに答える。


 テーブルを挟み、俺とギルド長が対面に、受付嬢さんは互いの間となる横側の席に腰かけていた。



「相違無いにも拘わらず、危険は無いと仰るわけですか?」


「はい。それに関しても間違いありません」


「では、我々の認識が間違っていると仰るのですか?」



 そう問われ、少し思案する。


 ブラックドッグという種類自体が無害、というわけでもない。


 あくまでも、この個体は俺が支配により大人しくさせているだけだ。


 敵意を向けられたり、危害を加えられない限り、誰も何も襲わない。


 でもそれは、この個体に限った話である。


 他の個体は、自衛以外にも人を襲うことは十分あり得る。


 当初、出会った時がそうだったように。



「いえ、そうではありません。あくまでも、この個体に限っての話です」


「突然変異の類いというわけですか?」


「えーと、まぁ、当たらずとも遠からず、という感じでしょうかね」


「はぁ? ともあれ、今もこうして人を襲う様子は見受けられません。ですが、何故王都内に? 騒ぎになるとは考えなかったのですか?」


「それは……そうですね、軽率な行動でした」


「一歩間違えれば、王都内で戦闘、なんて自体にもなりかねなかった。そうなれば、一般人にも被害が及んだかもしれません。それは理解しておられますか?」


「はい」



 少しの間を置いて、ギルド長が続ける。



「勇者殿が魔物の保護を訴えておられるのは、私も存じ上げております。ですが、建物の完成を待たずに、無断で王都内で匿うというのは承知出来ません」


「はい」


「無論、私に許可を与える権限などありません。ですが王都の一住人としても、また冒険者ギルドを預かる者としても、身近にある不確かなモノは警戒に値します」


「そうでしょうね」


「皆、勇者殿ほど強くはないのです。体も、心も。どうか、魔物だけにではなく、もう少し周囲の人間たちに対しても、心配りをお願いしたい」



さらにギルド長が続ける。



「城門内で匿われている魔物といい、例の新設される組織といい。勇者殿は少々、魔物に傾倒し過ぎとお見受けします。できることなら、お考えを改めていただきたいところですが、それは難しいのでしょうな」


「そうですね。考えは変わりません」


「勇者殿に力で抵抗できる者は、もう、この世界には居ないのかもしれません。だとしても、好き放題されては困ります」


「はい、済みません」


「陛下から頂戴した言伝によれば、魔物の身柄に関して、勇者殿に任せて問題無いと仰せつかっております。ひとまずは、ここまでといたしましょうか」


「この度は、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」



 ギルド長に、そして、咄嗟に機転を利かせてくれた受付嬢さんに対して、頭を下げる。



「一応は、例え勇者殿相手といえども、苦言を呈しておかねばならぬ立場ですからな。口(うるさ)く感じられたでしょうが、どうか心に留め置いていただきたい」


「いえ、(うるさ)いだなんてとんでもない。しかと心に留め置きます」


「くれぐれも、頼みましたよ。どうか、失望などさせないでください」


「はい」



 終始無言だった受付嬢さんと、ギルド長に見送られる形で、部屋を後にする。


 こんな騒ぎになってしまったのも、元はと言えば、黙って匿っていた所為だ。


 説明の手間を厭わず、他の人に、王様に許可を得ていれば良かったのだ。


 流石にあのまま黙っているのは、更に立場を悪くすると悟り、スライムたちを匿っていたことも話した。


 これまでの功績があったお蔭で、問題を起こさないだろうと信頼してもらった形だ。


 その信頼を裏切らないためにも、今後の行動には一層気を付けねばならない。


 好き勝手に振舞ってよいわけではないのだ。


 改めて、己が立場を痛感させられた。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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