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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
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44 元勇者の魔王、想いを形に 【修正】

スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。


22/07/15 全体を若干修正

 通称、恐怖小屋のお試しから数日後。


 真っ昼間から、平野を全速力で駆けていた。


 後方から、蹄の音と渋い声が、徐々に距離を詰めてくるのが分かる。



「ダ~リ~~ン! 待って~! 待ってってばぁ~!」


「────っ!」



 まるで影の様に追い(すが)ってくる、半人半馬の魔物。


 程なく追い付かれる。


 そう判断を下すと、迎え撃つ覚悟を決めた。


 反転して、すぐさま目を閉じる。


 両手は前方に突き出し、魔法を発動。



光縛ロック



 光の初級魔法。



「あら? やだ、動けないわ!? ちょっと、どうなってるのよ、これ!?」


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」



 相手の声を頼りに、魔法の成果を確かめ、荒げた呼吸を整える。


 事の発端は、昇級試験だった。


 遠出した際、セントレアに言い忘れていたのだ。


 数日間、訪問しなかったことを大層怒っていた。


 何故、オッサンの機嫌を窺わねばならないのか、はななだ疑問ではあるものの、非はこちらにある。


 お詫びとご機嫌取りを兼ねて、何か要望が無いか聞いてみた。


 セントレアは水浴びをしたいと言い出し、その護衛兼監視として、王都の東にある小川に同行したわけだったのだが、どうしてこうなったのか。


 小川に到着し、胸当てや馬鎧を脱ごうとしたセントレア。


 見た目はオッサンだが、中身はそうではないらしいので、水浴びを見ないように背を向けて(たたず)んでいた俺に対し、何を血迷ったのか襲い掛かってきたのだ。


 足音と声にいち早く反応し、今の今まで逃亡を図っていたのだった。



「ダーリンの仕業ね! 全裸のアタシを魔法で拘束するだなんて、とんだ鬼畜っぷりね! でも、そんなダーリンも嫌いじゃないわ!」


「ぜぇ、ぜぇ。全裸で追い駆けてくる、ぜぇ、アナタに言われたくは、ぜぇ、ないですけどね」



 こっちは息切れしているのに、全く息を切らせている様子のないセントレア。


 流石はケンタウロスと言ったところだろうか。


 追い駆けられたこっちとしては、堪ったものではないが。



「息を切らせるダーリンって、いいわ、凄くいい。今夜はアタシ、興奮して寝付けないかもしれないわ!」


「好きなだけ寝不足になってください。その方が大人しくなって助かります」



 目を閉じていてなお、セントレアが身をくねられている様が浮かんでくる。



「まぁ、弱ったアタシに何をするつもりなのかしら!? 小川でもっと体を綺麗にしておかなくっちゃいけないわね!」


「では、魔法を解除しますから、大人しく小川に戻ってくださいね? もしまた襲ってきたら、少しばかり手荒な対処をせざるを得ないですよ?」



 言葉と同時に闘気を放ち、牽制する。



「……どうやら本気みたいね、ダーリン。分かったわ。お楽しみは後に取っておきましょう」


「後にも先にもありませんよ、そんなものは」



 目を閉じたまま、魔法を解除してやる。


 こちらには向かってこず、遠ざかっていく足音を耳が捉え、ホッと息を吐く。


 何故、オッサンの水浴びに付き添っただけで、こうも疲れなければならないのだろうか。


 不可解かつ理不尽な現実であった。






 どうにかセントレアの水浴びも終わり、今度は王都外周を歩くことにする。


 今回の外出の本命はこちらなのだ。


 以前、薬草の群生地や、王都地下の洞窟を発見、報告したわけだが、もしかしたらまだ他にも存在する可能性があるため、王城から冒険者ギルド経由で調査を依頼されていた。


 また、王都地下の洞窟の処遇に関して、埋め立てるのも手間なので、いっそのこと、王都の避難通路として流用しようという話になったらしい。


 なので、現在は兵士たちと業者が洞窟内の補強工事を行っている最中だ。


 王都外への出入口には、鍵付きの鉄柵を設置するとのこと。


 確かに、どうせなら有効活用したほうが良いだろう。


 掘るのも埋めるのも手間が掛かるわけだしな。


 そこで、他にも洞窟が造られていないか探すため、色々関係している俺に白羽の矢が立ったという事情である。


 セントレアと連れ立って、草むらを中心に、不自然な穴などが空いていないか確認して周る。


 スライムとブラックドッグは本日もお留守番だ。


 宿屋の部屋ではない。


 仕事が休みという受付嬢さんに預かってもらっている。


 度々のことに申し訳なくなりつつも、謝るよりも感謝を伝えるほうが良い。


 何かしらで報いられないものか。


 ちなみに、ブギーマンだけは、宿屋の部屋で留守番してもらっている。


 まだ、受付嬢さんの前に姿を現すのは控えさせているためだ。



「──ダーリンたら、アタシをそばに侍らせておきながら、他の人のことを考えてるわね?」



 そんな考えを読み取ったのか、セントレアが声を掛けてきた。


 訂正したいことはあったが、グッと堪えて要点だけを問う。



「どうしてそう思ったんですか?」


「オンナの勘よ!」



 即答だった。


 成程、まったく根拠がないことだけは分かった。



「いえ、日頃の感謝をどう伝えるべきか、考えていたんですよ」


「そんなの簡単じゃない。さぁ、今すぐ熱い抱擁を交わし合いましょう!」


「アナタに、ではありません」


「……何ですって? じゃあ、そのお相手とやらは、一体誰なのかしら?」



 正直に答えると、(へそ)を曲げそうな気がしてならない。


 だが、後から事が露見した場合、より悲惨な目に遭う気もする。


 意を決して、正直に打ち明ける。



「アナタもよく知る受付嬢さんです。相談にも乗ってもらってますし、皆を預かってももらっていますしね」


「やっぱり、あのオンナだったのね!? 筋肉よりも脂肪の方が、ダーリンは好きってことかしら!?」


「好みの問題ではなく、日頃の感謝だと言ったでしょう?」



 脂肪とやらが、一体何を例えているかなんて、まるで見当もつかない。


 あぁ、全く何のことやらだね。



「そういえば、そんなことを言ってたわね。御免なさい。アタシったらつい興奮し過ぎちゃってたみたい」



 興奮を抑え、幾分落ち着いた口調に戻った。



「それで、あの眼鏡の娘の好きな物は何なの? 女子と言えば、やっぱり定番のスイーツとかかしら?」


「さぁ? 存じ上げませんね」


「……ちょっと待って頂戴。ダーリンったら、事前に相手の好みも把握してないのかしら?」


「え、えぇ、そうなりますね」



 妙な迫力をかもし出すセントレアに、若干及び腰になりながら答える。



「駄目じゃない! 駄目駄目よ! 感謝云々の前に、相手に興味を持つべきじゃなくて?」


「興味、ですか?」


「えぇ、そうよ。ダーリンは誰に対しても丁寧に接しているみたいだけど、その実、深く付き合おうとはしていないんじゃなくて?」


「────」



 正鵠(せいこく)を得ている指摘だった。


 口調が母さん譲りならば、他人への無関心はアイツ譲りなのだろうか。


 半生を魔王討伐に捧げたこの身は、他の人たちが当たり前に行っている事柄に総じてうとい。


 関係性が深い人物といえば、かつての仲間たち以外にはいない。


 その仲間たちとでさえ、旅を通じての関係性でしかない。


 戦友であり、友人であり、家族だった。


 それでも個人的な相談などは、した覚えがない。


 今にして思えば、皆は色々と気遣ってくれたようにも感じられる。


 が、勇者としての特性故か、自身の感情が希薄な分、他者の感情にも疎かった。


 思い出せる以上に、色々と世話になっていたに違いない。


 手紙を出してから一カ月程か。


 次に会えたなら、彼らにこそ感謝を伝えるべきだろう。



「──ちょっと、聞いてるの、ダーリン?」



 耳元で声を掛けられ、ハッと我に返る。


 大分、思考が脱線していたようだ。



「えぇっと、何でしたっけ?」


「まったく、また考え事かしら?」


「少し、他事を考えてしまっていたみたいです」


「それじゃあ、もう一度言うわよ? 別に相手の好みが分からなくたって、感謝は伝えられるわ。それこそ言葉でいいのよ。大事なのは相手に伝えることなんだから。もっと大事なのは相手に伝わること、だけどね」


「はぁ、まぁ、そうですね。勿論、感謝の言葉は伝えるつもりですけど」


「後は、ダーリンが相手との関係性を深めるつもりがあるのか次第、かしらね」


「関係性を深める、ですか」


「アタシには、ダーリンがあの子をどう思っているのかまでは分からないわ。どうなりたいのかもね。もし関係性を深めたいのであれば、なるべく一緒に行動してみたらどうかしら? そうすれば、相手のことも色々分かってくると思うわ」


「……随分と親身になってくれるんですね。正直、意外でした」


「アタシは愛に生きるオンナ。愛に貴賎(きせん)は無いわ。誰しもが得られるべきモノよ。他の花がつけた蕾だろうと、摘み取るような真似はしないのよ」


「はぁ……そう、なんですか」



 何だか良いことを言われた風なのは何となく察したのだが、いまいち理解できなかった。


 その後は、王都周辺を歩きながらの、セントレアによる恋愛談義が開催された。


 生憎と、恋愛相談をした覚えはなかったのだけれども。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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