44 元勇者の魔王、想いを形に 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/07/15 全体を若干修正
通称、恐怖小屋のお試しから数日後。
真っ昼間から、平野を全速力で駆けていた。
後方から、蹄の音と渋い声が、徐々に距離を詰めてくるのが分かる。
「ダ~リ~~ン! 待って~! 待ってってばぁ~!」
「────っ!」
まるで影の様に追い縋ってくる、半人半馬の魔物。
程なく追い付かれる。
そう判断を下すと、迎え撃つ覚悟を決めた。
反転して、すぐさま目を閉じる。
両手は前方に突き出し、魔法を発動。
≪光縛≫
光の初級魔法。
「あら? やだ、動けないわ!? ちょっと、どうなってるのよ、これ!?」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」
相手の声を頼りに、魔法の成果を確かめ、荒げた呼吸を整える。
事の発端は、昇級試験だった。
遠出した際、セントレアに言い忘れていたのだ。
数日間、訪問しなかったことを大層怒っていた。
何故、オッサンの機嫌を窺わねばならないのか、甚だ疑問ではあるものの、非はこちらにある。
お詫びとご機嫌取りを兼ねて、何か要望が無いか聞いてみた。
セントレアは水浴びをしたいと言い出し、その護衛兼監視として、王都の東にある小川に同行したわけだったのだが、どうしてこうなったのか。
小川に到着し、胸当てや馬鎧を脱ごうとしたセントレア。
見た目はオッサンだが、中身はそうではないらしいので、水浴びを見ないように背を向けて佇んでいた俺に対し、何を血迷ったのか襲い掛かってきたのだ。
足音と声にいち早く反応し、今の今まで逃亡を図っていたのだった。
「ダーリンの仕業ね! 全裸のアタシを魔法で拘束するだなんて、とんだ鬼畜っぷりね! でも、そんなダーリンも嫌いじゃないわ!」
「ぜぇ、ぜぇ。全裸で追い駆けてくる、ぜぇ、アナタに言われたくは、ぜぇ、ないですけどね」
こっちは息切れしているのに、全く息を切らせている様子のないセントレア。
流石はケンタウロスと言ったところだろうか。
追い駆けられたこっちとしては、堪ったものではないが。
「息を切らせるダーリンって、いいわ、凄くいい。今夜はアタシ、興奮して寝付けないかもしれないわ!」
「好きなだけ寝不足になってください。その方が大人しくなって助かります」
目を閉じていてなお、セントレアが身をくねられている様が浮かんでくる。
「まぁ、弱ったアタシに何をするつもりなのかしら!? 小川でもっと体を綺麗にしておかなくっちゃいけないわね!」
「では、魔法を解除しますから、大人しく小川に戻ってくださいね? もしまた襲ってきたら、少しばかり手荒な対処をせざるを得ないですよ?」
言葉と同時に闘気を放ち、牽制する。
「……どうやら本気みたいね、ダーリン。分かったわ。お楽しみは後に取っておきましょう」
「後にも先にもありませんよ、そんなものは」
目を閉じたまま、魔法を解除してやる。
こちらには向かってこず、遠ざかっていく足音を耳が捉え、ホッと息を吐く。
何故、オッサンの水浴びに付き添っただけで、こうも疲れなければならないのだろうか。
不可解かつ理不尽な現実であった。
どうにかセントレアの水浴びも終わり、今度は王都外周を歩くことにする。
今回の外出の本命はこちらなのだ。
以前、薬草の群生地や、王都地下の洞窟を発見、報告したわけだが、もしかしたらまだ他にも存在する可能性があるため、王城から冒険者ギルド経由で調査を依頼されていた。
また、王都地下の洞窟の処遇に関して、埋め立てるのも手間なので、いっそのこと、王都の避難通路として流用しようという話になったらしい。
なので、現在は兵士たちと業者が洞窟内の補強工事を行っている最中だ。
王都外への出入口には、鍵付きの鉄柵を設置するとのこと。
確かに、どうせなら有効活用したほうが良いだろう。
掘るのも埋めるのも手間が掛かるわけだしな。
そこで、他にも洞窟が造られていないか探すため、色々関係している俺に白羽の矢が立ったという事情である。
セントレアと連れ立って、草むらを中心に、不自然な穴などが空いていないか確認して周る。
スライムとブラックドッグは本日もお留守番だ。
宿屋の部屋ではない。
仕事が休みという受付嬢さんに預かってもらっている。
度々のことに申し訳なくなりつつも、謝るよりも感謝を伝えるほうが良い。
何かしらで報いられないものか。
ちなみに、ブギーマンだけは、宿屋の部屋で留守番してもらっている。
まだ、受付嬢さんの前に姿を現すのは控えさせているためだ。
「──ダーリンたら、アタシをそばに侍らせておきながら、他の人のことを考えてるわね?」
そんな考えを読み取ったのか、セントレアが声を掛けてきた。
訂正したいことはあったが、グッと堪えて要点だけを問う。
「どうしてそう思ったんですか?」
「オンナの勘よ!」
即答だった。
成程、まったく根拠がないことだけは分かった。
「いえ、日頃の感謝をどう伝えるべきか、考えていたんですよ」
「そんなの簡単じゃない。さぁ、今すぐ熱い抱擁を交わし合いましょう!」
「アナタに、ではありません」
「……何ですって? じゃあ、そのお相手とやらは、一体誰なのかしら?」
正直に答えると、臍を曲げそうな気がしてならない。
だが、後から事が露見した場合、より悲惨な目に遭う気もする。
意を決して、正直に打ち明ける。
「アナタもよく知る受付嬢さんです。相談にも乗ってもらってますし、皆を預かってももらっていますしね」
「やっぱり、あのオンナだったのね!? 筋肉よりも脂肪の方が、ダーリンは好きってことかしら!?」
「好みの問題ではなく、日頃の感謝だと言ったでしょう?」
脂肪とやらが、一体何を例えているかなんて、まるで見当もつかない。
あぁ、全く何のことやらだね。
「そういえば、そんなことを言ってたわね。御免なさい。アタシったらつい興奮し過ぎちゃってたみたい」
興奮を抑え、幾分落ち着いた口調に戻った。
「それで、あの眼鏡の娘の好きな物は何なの? 女子と言えば、やっぱり定番のスイーツとかかしら?」
「さぁ? 存じ上げませんね」
「……ちょっと待って頂戴。ダーリンったら、事前に相手の好みも把握してないのかしら?」
「え、えぇ、そうなりますね」
妙な迫力を醸し出すセントレアに、若干及び腰になりながら答える。
「駄目じゃない! 駄目駄目よ! 感謝云々の前に、相手に興味を持つべきじゃなくて?」
「興味、ですか?」
「えぇ、そうよ。ダーリンは誰に対しても丁寧に接しているみたいだけど、その実、深く付き合おうとはしていないんじゃなくて?」
「────」
正鵠を得ている指摘だった。
口調が母さん譲りならば、他人への無関心はアイツ譲りなのだろうか。
半生を魔王討伐に捧げたこの身は、他の人たちが当たり前に行っている事柄に総じて疎い。
関係性が深い人物といえば、かつての仲間たち以外にはいない。
その仲間たちとでさえ、旅を通じての関係性でしかない。
戦友であり、友人であり、家族だった。
それでも個人的な相談などは、した覚えがない。
今にして思えば、皆は色々と気遣ってくれたようにも感じられる。
が、勇者としての特性故か、自身の感情が希薄な分、他者の感情にも疎かった。
思い出せる以上に、色々と世話になっていたに違いない。
手紙を出してから一カ月程か。
次に会えたなら、彼らにこそ感謝を伝えるべきだろう。
「──ちょっと、聞いてるの、ダーリン?」
耳元で声を掛けられ、ハッと我に返る。
大分、思考が脱線していたようだ。
「えぇっと、何でしたっけ?」
「まったく、また考え事かしら?」
「少し、他事を考えてしまっていたみたいです」
「それじゃあ、もう一度言うわよ? 別に相手の好みが分からなくたって、感謝は伝えられるわ。それこそ言葉でいいのよ。大事なのは相手に伝えることなんだから。もっと大事なのは相手に伝わること、だけどね」
「はぁ、まぁ、そうですね。勿論、感謝の言葉は伝えるつもりですけど」
「後は、ダーリンが相手との関係性を深めるつもりがあるのか次第、かしらね」
「関係性を深める、ですか」
「アタシには、ダーリンがあの子をどう思っているのかまでは分からないわ。どうなりたいのかもね。もし関係性を深めたいのであれば、なるべく一緒に行動してみたらどうかしら? そうすれば、相手のことも色々分かってくると思うわ」
「……随分と親身になってくれるんですね。正直、意外でした」
「アタシは愛に生きるオンナ。愛に貴賎は無いわ。誰しもが得られるべきモノよ。他の花がつけた蕾だろうと、摘み取るような真似はしないのよ」
「はぁ……そう、なんですか」
何だか良いことを言われた風なのは何となく察したのだが、いまいち理解できなかった。
その後は、王都周辺を歩きながらの、セントレアによる恋愛談義が開催された。
生憎と、恋愛相談をした覚えはなかったのだけれども。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




