38 元勇者の魔王、Bランク昇級試験② 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/07/04 全体を若干修正
一夜明け、遠征二日目。
魔物による夜襲もなく、お蔭で十分な休息が取れた。
とはいえ、完全に寝入ったわけでもなく、何かあればすぐに起きれる程度の浅い眠りだった。
魔物は居なくとも、人間は居るかもしれない。
そして、その人間が友好的とは限らない。
野盗と化した者たちが居ないとも限らないからだ。
場所柄から言って、可能性は低いだろうけれども。
何せ、ここに来る人間は、冒険者ばかりだろう。
それを態々襲うといのは、あまりにも賢くない。
普通は商人辺りを狙うはず。
野盗に遭遇しなかったのだから、僥倖と言えよう。
可能席が低かろうと、油断は禁物。
何事も決めつけは良くない。
もっとも、野盗が襲ってきたとしても、ブギーマンによる恐怖の洗礼が待ち受けていただろうが。
順調に行けば今日中にダンジョンに着くはずだ。
手早く朝食を済ませ、再び歩き出す。
昨日よりも雲が多いようだが、雨にはならなそうだ。
日は陰っているものの、明るさから察して、早朝は過ぎ、朝になった頃合いか。
周囲が岩場のためか、朝の空気という感覚は味わえない。
代り映えのしない景色の中、黙々と目的地を目指して歩く。
ブギーマンとは必要最低限の会話しか交さない。
勿論、嫌っているとかではなく、ブギーマン自身が余り話すのが好きではないらしく、それを尊重してのことだ。
アイツの姿と楽しげな会話、というのも難しいかもしれないが。
この辺りには余り人が来ないのか、昨日に比べて足場が悪い。
足元に注意を向けながら、それでも速度は緩めない。
最初に感じたのは、音ではなく足裏から伝わる振動だった。
ブギーマンを脇に抱え、素早くその場から飛び退く。
直後、地面から無数の何かが飛び出してきた。
細長い管状の物体には見覚えがある。
魔物だ。
見かけないと思ったが、随分と数が居るな。
ワームという足の無い芋虫のような管状の魔物。
色味や地形から察するに、岩場を好むロックワームのようだ。
目は存在せず、振動により獲物を感知する。
先端部全体にある口にびっしりと生えた牙により、地中を掘り進み、岩をも噛み砕いてみせる。
どうやら不用意にも、ロックワームの巣の上を歩いてしまったようだ。
巣をつついたような騒ぎで、10体以上のロックワームが地中より次々と躍り出てくる。
ワームには成長限界というものがないのか、大きい個体になると、家一軒ぐらいは丸呑みできる化け物サイズになる。
眼前の群れは、いずれも全長1メートル、太さ15センチ程度といったところ。
まだ幼生体らしい。
不本意な遭遇となったが、会話が可能か試してみよう。
「突然済みません。アナタたちに危害を加えるつもりはありません。言葉が通じるなら、何か返事をしては貰えませんか?」
『ギュィ』
『ギュ』
『ギャ』
『ギャギャッ』
『ギィィィ』
鳴き声しか頭の中には響いてこない。
幼生体だからだろうか?
こちらの言葉の意味が通じているのかも怪しい。
その証拠とばかりに、数体がこちらに向かって突っ込んできた。
ブギーマンを抱えたまま、軽くバックステップを行い回避する。
この様子では、会話を試みるのは無駄だろうか。
ロックワームたちを観察する限り、表面に怪我の類いは見受けられない。
人間に襲われたりはしていない様子。
であれば、このまま素通りしても良いのだが。
気掛かりなのは、巣穴から地上に出てきてしまったこと。
このまま巣に戻っていったとしても、地上から巣まで、穴が空いたままの状態になってしまう。
冒険者が見付ければ、退治されてしまうかもしれない。
できれば巣穴に戻った後にこの穴を塞ぐか、別の場所に巣を移動して貰うかした方が良さそうなのだが。
如何せん、言葉が通じない。
言葉が通じず、人間を襲う魔物というならば、今なお危険な魔物ということになってしまう。
保護対象とするのも難しい。
対応を決めかねていると、一際大きい振動が足元から伝わってきた。
危機感に逆らわず、全力でその場から飛び退く。
直後に、地面から柱と見紛う巨体が姿を現した。
ロックワームの成体。
太さは1メートル程、全長は地上に出ている分だけで優に5メートルは超えていそうだ。
現れた場所は、俺と幼生体たちの間。
もしかしなくとも、親なのだろう。
巨体がこちらを威嚇するように、先端部分の口を開きながら向けてくる。
「アナタたちに危害を加えるつもりはありません。俺の言葉は通じてますか?」
『グギャァアアアアアァァ!』
……どうにも通じていないらしい。
とはいえ、これだけ大きな成体の親が付いているなら、巣の心配は無用かもしれない。
むしろ、冒険者の身の方が心配になってくる程だ。
同じように昇級試験を受けようとしているCランクのPTがもしいた場合、とても太刀打ちできないだろう。
冒険者ギルドに戻った際、ルートを変更するように進言しておくべきか。
いや、そもそも他の経路が安全とも限らない。
下手にロックワームのことを伝えてしまえば、討伐依頼として認定されてしまう気もする。
かといって、何もしなければ、冒険者か他の人間が被害に遭うことになる。
まぁ、悪いのは巣に土足で踏み込んだ人間の方ではある。
ここは人間が譲歩するのが道理か。
「俺たちはこの先に用事があり、ただ此処を通りたかっただけです。何もせず先を急ぎますので、どうか気を静めてください」
『ギャァアアアアアァァ!』
やっぱり通じてない感じだ。
そして、どうにもこのまま見逃しても貰えそうにない様子。
このままやり過ごそうにも、間違いなく邪魔をされた挙句、追いかけ回されることだろう。
ここは先手を打つか。
≪光縛≫
光の初級魔法。
対象を一定時間拘束する魔法。
以前使用した光牢の単体版のような魔法になる。
巨体のロックワームが、魔法の効果によりその動きを止める。
その隣りをブギーマンを抱えたまま駆け足で通り抜ける。
幼生体からも距離を取り、そのままやり過ごした。
日が中天に差し掛かろうという頃。
眼前では、巨大なロックワームがその身をこちらに向けていた。
先程の個体ではない。
先程の地点から奥は、ロックワームの巣だらけだったのだ。
既に何度目の遭遇になるかも分からない。
≪光縛≫
この個体も同じように対処してやり過ごす。
だが、またすぐに別の個体が地中から姿を現してみせるのだ。
今も新たな個体が地中から姿を現した。
「…………」
流石に声掛けするのも諦め、作業的に対処していく。
魔法で拘束し、先に向かう。
そしてまた新たな個体に遭遇し、魔法で拘束し、先に向かう。
それを何度も何度も繰り返す。
とてもではないが、昼食を取っている余裕はなかった。
まぁ、食べられないという程、切羽詰まっているわけでもないが、ゆっくりはしていられない。
当時通った時もロックワームが居ることは居たが、こんな馬鹿みたいな数ではなかった。
もしかしたら、当時から居たのかもしれないが、少なくとも今程群れてはいなかったことだけは確かだ。
一体、何が原因でこれ程までに異常増殖しているのだろうか。
昨日までとは打って変わって、危険な道行となった。
日が傾き、空が茜色に滲み始める頃。
ようやくロックワームの巣を抜けたのか、姿を見かけなくなった。
王都に帰り次第、冒険者ギルドにはあの辺り一帯を通らないよう、強く進言しておくとしよう。
あれでは最早、巣というよりも狩場に他ならない。
もしかしたら、冒険者の幾人かは既に餌食となっていたのかもしれない。
生き延びるため、互いに身を寄せ合い、ああして外敵から身を守り、且つ、獲物を捕らえていたのだろうか。
残念ながら言葉が通じないので、その真意は分からないままだった。
日が完全に沈むよりも早く、野営の準備をする。
今朝思い描いていた予定では、既に目的のダンジョンへと辿り着いているはずだったが、思わぬ障害に出くわしたことにより、それも叶わなかった。
とはいえ、明日の昼前には辿り着けるはずだ。
ダンジョンに入ってしまえば、掛かる時間は片道分で良い。
ゴーレムを倒した最奥には転移魔法陣があり、それを利用すれば一瞬で外に脱出が可能だからだ。
小規模なダンジョンではあまり見かけることもないが、中規模以上になると、基本的には最奥に転移魔法陣が設置されている。
当然、人間が作った物ではない。
仲間だった魔法使い曰く、転移魔法陣を研究するために、元々あったダンジョンを改造したらしい。
ダンジョン攻略は明日一日を使わなくても済むだろう。
帰りは来た道を戻るよりも、他の迂回路を模索した方が、後人のためにもなりそうだ。
ロックワームたちにとってみれば、余計なお世話に違いないだろうが、魔物を生かすために人間を犠牲にしたいとも思わない。
彼らには彼らで、逞しく生きて行って貰うことを願うばかりだ。
昼夜兼用となってしまった食事を取り、一息つく。
会話が叶わなかったのは残念だが、今も魔物が逞しく生存していたことは喜ばしい限りだ。
残す距離は後僅かではあるが、他の魔物の生存も確認できれば良いのだが。
そんなことを思いつつ、今日は早めに身体を休めることにした。
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