35 元勇者の魔王、恐怖の活用法 【修正】
22/06/29 全体を若干修正
闇魔法の恐怖とブギーマンの恐怖の具現化。
併用するのは、予想以上に凶悪なコンボだったらしい。
眼下の戦果を見下ろしながら、そんな感想を覚えた。
初見となった昨日は動揺こそしたが、恐怖で気絶するまでには至らなかった。
まぁ、討伐対象がブギーマンだと知らず、対策無しに挑んだのであれば致し方ないのかもしれない。
同じ冒険者としてはどうかとは思うが。
一瞬で制圧してみせた地上へと下りる。
既に光牢の魔法は解除済みだ。
各々その場に倒れ伏している。
追加で現れた2人組は、やはり最初に遭遇した者たちだった。
倒れた拍子に開いたのか、カバンから中身が飛び出していた。
随分と中身が詰まっているらしいソレ。
見るとはなしに視線を向け、その中身が何であるか気が付いた。
薬草類だった。
中身全部そうなのか?
人の上半身ぐらいはありそうなカバンいっぱいに、ギッシリと中身が詰まっているらしい。
これだけ乱獲されていたら、見付からないのも無理はあるまい。
俺たちも朝食後すぐにこの森に来たのだが、コイツらはそれよりも前から森で採取していたのだろうか?
そうでなければ、これだけの量の薬草類を集められないだろう。
…………。
少し迷ったが、手間賃として採取クエストに必要な量を分けて貰うことにした。
乱獲、駄目、絶対!
前回と同様に、冒険者たちをそばの木にもたれ掛けさせて置く。
物理的な昏倒ではないから、どれぐらいで目覚めるのかは分からないが、これだけ人数が居れば誰かは夜までには目覚めるだろう。
思わぬ形とはなったが、これで討伐クエストの阻止と、採取クエストを完了することができた。
採取のために洞窟まで走らずに済んだのはありがたい。
これ以上、他の冒険者に絡まれても面倒だし、さっさと王都に戻るとしよう。
と、その前に、せめて木を背もたれにするよう、移動させておくか。
道中、他の冒険者に出くわすこともなく、無事王都へと辿り着いた。
相変わらずの雨雲により、時間が分かり辛いが、まだ夕方前だろう。
ブギーマンには姿を消して貰い、同行して貰っている、はずだ。
何せ姿が見えないから確認のしようがない。
声を掛ければ答えてくれるだろうが、傍から見れば独り言を言っている様にしか見えないことだろう。
かといって、姿を現して貰っては、いかに雨で普段より人通りが少ないとはいえ、小さくない騒動が起きてしまうだろう。
アイツの姿と並んで歩きたいとも思わない。
そんなことを考えつつも、足は着実に動いており、程なく四階建ての冒険者ギルドへと辿り着いた。
一階は未だに閑散としていた。
皆、魔物探しに躍起になっているのかもしれない。
勿論、空いていることに文句などあろうはずもなく、カウンターで素早く採取クエストの清算を済ませる。
後すべきことは……セントレアへの顔見せか。
機嫌を損ねても面倒になるのは火を見るよりも明らかなので、大人しく王城へと向かうことにする。
門番と挨拶を交し、敷地内へと入る。
どうやらこの雨の中、外を出歩いてはいないようで、姿は見当たらない。
寄り道する事無く、厩舎へと向かう。
「あら、ダーリン! こんな雨の中、わざわざアタシに会いに来てくれたのね! いっそこのまま結婚しましょう!」
中に入るなり、いつのもオッサン声のオネェ口調が出迎えた。
「……事ある毎に結婚を迫らないでください。無理ですからね?」
「愛の前にはどんな障害も意味を成さないものよ……ダーリンにも何れ分かる時が来るわ……きっとね」
「理解したくはないですね」
「まぁ、随分と冷たいじゃない! さてはあのオンナの所為ね!? そうなんでしょ!?」
「いや、違いますから」
以前、この場に銀髪眼鏡の受付嬢さんを連れてきたことがあった。
何せ人間でも会話できる魔物なのだ。
今後の活動を考えれば会っておきたいと思うのは至極当然のことだろう。
相手が予想外の変りモノでなければ、だが。
俺と共に居る彼女の姿を見るなり、食って掛かってきたセントレア。
同じ職場で働くことになる人間だと説明しても聞く耳を持たず、終始、嫉妬に荒れ狂っていた。
今でもこうして、度々嫉妬が顔を覗かせる。
受付嬢さんはと言えば、自身に向けられる嫉妬に構わず、人間同様の言葉や感情を向けてくるセントレアを、興味深げに観察していた。
彼女もまた、変り者ではあるようだった。
「――それにしても、昨日より大分マシになったみたいね、ダーリン」
「え?」
不意に掛けられた言葉に、まともに反応を返せなかった。
「昨日は随分と取り乱して……はいなかったかもしれないけど、不安定って感じだったわ。でも、今はそうでもないみたいじゃない?」
「……昨日はご迷惑をおかけしました」
「そんな他人行儀なこと、言わないで頂戴な。アタシたちの仲じゃない」
「……いえ、割と他人同士な感じですけど?」
「まぁ、アタシの愛を試しているのかしら!? いいわ、アタシがどれだけダーリンのことを愛しているのか、たっぷりと聞かせてあげるわ!」
「結構です」
「即答なの!?」
存外、ショックを受けている風なセントレアを余所に、脱線しかけた話を戻す。
「……昨日言っていた魔物ですが、無事保護することができました」
「あら! 良かったじゃないの! ……今は連れてきてないのかしら?」
「いえ、姿を消して貰っているだけです。今もそばには居るはずです」
「何よそれ! それじゃあストーキングし放題じゃないの! アタシも欲しいわ、その能力!」
「……そういう感想なんですね」
「だって、その能力があれば、ダーリンとこうして離れずに居られるわけじゃない? それってとっても素敵なことじゃなくて?」
「とっても迷惑ですね」
「いやん、ダーリンのイ・ケ・ズ!」
口端が思わず引き攣る。
まぁ、こうして冗談を言っているのも、こちらを気遣ってのことかもな。
普段の行動や口調こそアレだが、気遣いや心配りは人並み以上にできるように思える。
そうでもなければ、俺も頻繁に会いには来なかったかもしれない。
「――っと、それで魔物はブギーマンだったのよね?」
「えぇ、ご推察のとおりでした」
「昨日は随分と動揺していたみたいだったけど、その様子だと克服したのかしら?」
「……いえ、残念ながらまだアイツの姿で見えますよ」
「……そう。でも、保護することにしたのね?」
「はい、それは勿論です」
すると、言いにくそうに、セントレアが口を開いた。
「……水を差すようで悪いんだけど、他の人間は受け入れられるのかしら?」
「当然の疑問ではありますね。……そういえば、ブギーマンの生態について新たに分かったことをお伝えしていませんでしたね。実は――」
恐怖を具現化するのは自衛のためではなく、恐怖を糧とすることで生存しているのだと話した。
「――そうだったのね。好きな相手に意地悪をしてしまう、みたいな感じね」
「全然違うと思いますよ、それ」
「そうかしら? それにしても因果な体質、というか敵の只中に居なければならないってことよね」
「確かに、相手からは恐れられてばかりではありますが、それを逆手に取ってしまえば良いと考えたわけですよ」
「……どういうことかしら?」
怪訝そうな顔をするセントレアに、考えを説明する。
「つまり、危険に晒される事無く、恐怖を得られるってことです」
「……御免なさい。ダーリンの言わんとしていることが分からないわ」
「ええっとですねぇ……ブギーマンは見られることで、その時生じた恐怖を糧にできるわけです」
「そうらしいわね。それで?」
「見る側が何の身の危険も無く、恐怖を体験したいと考えた場合、どうなると思いますか?」
「……ブギーマンを見世物にしようってことかしら? 性質上、それも仕方のないことかもしれないけど、そんな特殊な考えの人間が居るのかしら?」
「人間、怖いもの見たさってのは誰しもあると思いますよ。一日に見れる人数を制限すれば、それなりの期間、恒常的に恐怖を得られると思うのですが」
「……そんなものなのかしら? アタシにはちょっと理解できない感覚ね」
「そうですか……」
「でも、ダーリンならきっとできると思うわ。アタシのハートがそう囁いているんだもの」
「……受付嬢さんとも相談してみますね」
「――何ですって? アタシじゃあ力不足ってことかしら、ダーリン?」
「え? い、いや、そういうつもりでは――」
「ちょっと、腰を据えてお話しましょう? ねぇ、ダーリン?」
「ちょ、こわ、やめて、近付かないでくださ――」
それからしばらくの間、雨の中で全速力の追い駆けっこが続けられた。
バッグの中のスライムたちが、何事かと慌てている声を頭で聞き取りながら、説明してやる余裕もなかった。
もしかすると、ブギーマンにより恐怖を具現化された内の何人かは、セントレアの姿を見ることになるかもしれないと思わせる程の気勢だった。
本日、これが一番疲れた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




