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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
34/364

33 元勇者の魔王、雨林での遭遇 【修正】

スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。


22/06/27 全体を若干修正

 目覚めは最悪に近かった。


 原因は考えるまでもなく、昨日見たアイツのことだ。


 その正体はブギーマンと云う魔物らしいが、まさか恐怖を具現化するなんて能力を持っているとは驚きだ。


 そして、何より驚きだったのは俺の恐怖はアイツだったということ。


 昔から苦手だとは思っていたが、まさか恐怖していたとは自分のことながら思わなかった。


 数多の魔物と戦って、遂には魔王を倒したというのに。


 何とも気の小さい話だ。


 起き上がる気にもなれず、ベッドに身を預けたまま、時間が過ぎるに任せる。


 そしていつもの朝食時という辺りでスライムたちが声を掛けてきた。



『マオウサマ、チョウショク!』


『イカナイト、タベレナイ!?』


『オカミ、サイコワ?』


「……そうですね、朝食にしましょうか」



 気は滅入っていても、腹は減るらしい。


 未だ身体の上で微睡んでいたブラックドッグを起こし、霧状になって貰う。


 いつもの身支度を整えて、皆を連れて部屋を後にした。






 一階の食堂にて朝食を受け取る。


 と、俺の顔を見た宿屋の女将さんが声を掛けてきた。



「アンタ、随分と顔色が悪いみたいだけど、大丈夫なのかい?」


「えぇ、体調不良というわけではありませんから、大丈夫ですよ」



 宿屋の女将にしては珍しく、声量を抑えてこちらを気遣ってくれているようだった。


 普段はアレだが、実は良い人なんだよなと再認識する。



「まさか病気じゃないだろうね? 下手に歩き回って、他の客にうつしたら承知しないよ!」


「いえ、病気でもありませんから」


「ならシャキッとしな、シャキッと! 背筋が曲がってるよ、だらしない!」


「――――」



 割と容赦がなかった。


 その声を背に受けながら席に着く。


 ああは言ったものの、食欲もあまりない。


 普段よりも時間を掛けて、どうにか平らげる。


 食器を返却し、食堂を出て、そのまま宿屋から外へ。


 そこでようやく気が付いた。


 珍しく雨が降っていたのだ。


 今の今まで、雨音に気が付かなかった。


 ……随分と気が抜けているらしい。


 出入口には宿泊客用の傘が常備されている。


 とはいえ、散策に出向く予定の俺には全身を覆うコートの方が良いだろう。


 仕方がなく、ノロノロと部屋へと引き返す。


 コートを着るなら、ローブは不要だろう。


 ローブを脱ぎ去り、コートを引っ張りだしてきて羽織る。


 こうして、ようやく宿屋を後にした。






 雨の所為か、人通りは少なめだ。


 いつもの活気や喧騒は遠く、石の路面を打ち付ける雨音が耳に良く響く。


 雨音を聞き続けることで、少しだけ気分が落ち着いてきた。


 多少軽くなった足取りで、冒険者ギルドを目指す。


 一階のカウンターには銀髪眼鏡の受付嬢さんの姿は無かった。


 今日は休みなのかもしれない。


 こんな雨の日は、いつもだとカウンター横のテーブル席にたむろしている連中が居たものだが、今日は閑散としていた。


 珍しいこともあるものだ。


 もっとも、王都地下の一件で、Cランク冒険者の総数自体が減ってしまった所為もあるかもしれないが。


 一番近くのカウンターに歩み寄り、手早くクエストを受けることにする。



「お疲れ様です、冒険者様。ご用件は何でしょうか?」


「――ギルド証はこれです。えぇっと、討伐依頼って何かありますか?」


「――はい、ご本人様と確認いたしました。ギルド証はお返し致します。討伐依頼ですと、一件ございます」


「あるんですか!?」


「? はい、ございますが、何か?」



 予想外の返答に思わず大きな声が出てしまった。



「い、いえ、ではその討伐依頼と――」



 討伐クエストと、いつもの採取クエストを受けて、カウンターから離れる。


 素早く討伐依頼の写しに目を通すと、王都近辺で魔物と思われる目撃例が複数報告されていると書かれていた。


 ……もしかしなくとも、昨日のブギーマンのことだろうか?


 何せ昨日の今日だ。


 その特異な能力故に、正体がどんな姿なのかは分からないが、遠距離から攻撃されたりすれば倒されてしまいかねない。


 一階がこれ程閑散としているのは、皆、この魔物討伐に出払っているのか?


 余り猶予は残されていないかもしれない。


 急ぎ冒険者ギルドを出る。






 向かう先は……どうしたものか。


 昨日遭遇した小川付近にまだ居るだろうか?


 いや、闇雲に探して見付かるとは思えない。


 というか、平野では隠れようもないだろう。


 昨日討伐されずに、今日依頼が出ているということは、まだ生き延びている公算は高い。


 ならばどこかで身を潜めている可能性はありそうだ。


 王都周辺ならば三か所。


 山か洞窟か森だ。


 南側の山は採取目的で冒険者が複数人訪れていたはず。


 東側の洞窟には、昨日俺が居た。


 となれば、残るのは西側の森か。


 目的地を西門に定める。


 道中、軽食と果実とエーテルも忘れずに購入しておく。


 果実は、森でスライムたちに食事をさせられなかった場合の保険だ。


 西門に向かい駆け出した。






 門を抜けて平野を挟み、一面の森が広がっている。


 木々の葉を打ち付ける雨音に交じり、人の声と足音を耳が捉える。


 どうやら先客が居るらしい。


 見通しが悪い森は、初心者向けとは言い難い。


 しかしそれも、かつての話。


 魔物が物陰から襲い掛かってくることも、むしろ珍しいことなのか。


 邪魔をされるのは勿論のこと、目撃されても面倒だな。


 皆は外に出さず、まずは先客の排除に掛かるとしよう。


 極力足音を殺しながら、音源の元へと近付いてゆく。


 人の声は二種類。


 最低でも2人以上というわけだ。


 雨の森は殊更に暗い。


 これは利用できそうだ。


 出力を弱め、地面スレスレを狙う。



(ダーク)



 闇の初級魔法。


 足元から闇が辺りを浸蝕してゆく。


 周囲一帯が闇を濃くした頃。


 ようやく違和感に気が付いたらしく、不審げな声が聞こえてきた。



「――おい、この暗さ、何だかおかしいぞ」


「だな。さっきよりも暗さが増してるみたいだ。まだ昼前だってのに、こりゃおかしいぜ」


「魔物は? まだ見えてるか?」


「いや、見失った。畜生め、これも魔物の仕業か?」



 視界全てを奪えてはいないが、意図せずして、見付かっていたらしい魔物を逃がす手助けができたようだ。


 ひとまずは安心かな。


 冒険者であろう2人には申し訳ないが、素早く昏倒させてしまうとしよう。


 十分に接近を果たしたことを確認した後、魔法を最大出力で発動する。


 すると、一気に辺りが暗闇で閉ざされてしまった。


 暗闇の中から困惑する声が聞こえてくる。


 その音源に向けて素早く接近し昏倒させる。


 特に抵抗される事無く、2人共を昏倒させることができた。


 魔法を解除し、2人の身体を近くの木にもたれ掛けておく。


 さて、これで残るは魔物の捜索のみだ。






 少し迷ったが、皆を外に出すことにする。


 他の冒険者が来ることを考慮し、念の為、俺が王都側を歩き、皆は森の奥側を歩いて貰う。


 雨の森の中を1人と4体が行く。


 昨日に引き続き、新しい場所を訪れた所為か、4体共機嫌が良さそうだ。


 スライムたちは跳ね回ったり、平べったくなったり、落ち葉や雨を堪能しているようだった。


 ブラックドッグはというと、ヒクヒクと鼻を動かし頻繁に匂いを嗅いでいる。


 人間でいうところの深呼吸的なものだろうか?


 ピクシーが住んでいたのも森だった。


 ブラックドッグも同じ妖精なのだし、森に住んでいたのかも。


 未だ魔物の気配はない。


 だが、油断はできない。


 昨日も事前に察知することは叶わなかったのだ。


 気配探知よりも、視覚を優先させ周囲を探索する。


 一度見ていたからなのか、二度目の遭遇に左程驚きは無かった。


 やはり何の前触れもなく、見知った人影が現れていた。


 記憶どおりの、忌々しい姿。


 恐怖よりも嫌悪の方が強いと思うのだが。


 昨日よりも幾らかは落ち着いた心持ちで見つめる。


 スライムたちはともかく、ブラックドッグは特に反応を示していない。


 ということは、敵意は無いのだろう。


 セントレアに聞いたとおりに、あくまでも自衛のため、相手の恐怖を具現化しているに過ぎないのか。


 動揺を見せない俺に焦りを覚えたのか、その魔物――ブギーマンがその場から離れようとする。



「待ってください! 危害を加えるつもりはありません。言葉が分かりますか?」


『――――』



 返事は無い。


 だが、離れるのを止めたのか、その場に留まってはいる。


 姿形はアイツそっくりな相手に話し掛けることに違和感を覚えつつ、意思疎通を図るべく声を掛け続ける。



「言葉が通じるのであれば、何か返事をしてくれませんか?」


『――オマエ、ナニモノ? ナゼ、コトバ、ワカル?』


「!」



 通じた!


 頭の中に声が響いてくる。


 スライムたちと同じだ。


 話し方は、スライムたちより若干ではあるが流暢(りゅうちょう)かもしれない。



「俺は最近魔王になった人間です。スキルの効果で、こうして魔物と会話することができるようになりました」


『マオウサマ? ニンゲンノ、オマエガ、カ?』


「そうです。魔物は魔王を認識できるみたいなのですが、分かりませんか?」


『……ワカラナイ。マオウサマ、アッタコト、ナイ』


「そうですか。ですが、ほら、傍にスライムも居るでしょう?」


『スライム、イル!』


『ミンナ、シュウケツ!?』


『モヤモヤ、ナニコレ?』


「……もやもや、ですか?」


『――スライムノ、コトバ、ワカル、ノカ?』


「え? えぇ、勿論ですよ」


『ホカノ、マモノ、コトバ、ワカラナイ』


「……他の魔物の言葉は分からない、と?」


『ソウダ』



 ふむ、セントレアと同じなわけか。


 いや、正確には違うのかな?


 セントレアは人間と同じ言葉を話せるが、スライムやブギーマンは言葉を話しているわけではない。


 あくまでも意思が頭の中に声として伝わってくるだけだ。


 もしかしたら、完全に同じ種類の魔物以外では、魔物同士でコミュニケーションを取れないのかもしれない。



「何故、アナタは人間が多く住む王都付近まで来たのですか?」


『ダレカニ、ミラレナイト、シヌ』


「――何ですって?」



 それから、ゆっくりと話を聞いてみた。


 どうやら、ブギーマンという魔物は、人間の恐怖を糧に生きているらしい。


 誰かに見られないと死ぬ、という先程の言葉はそういう意味だったようだ。


 であれば、人間の多いこの王都に来たのも理解できる。


 言い方は悪いが、食事に来たのだろう。


 もう少し言い方を変えれば、生きるために来たと表現するべきか。


 また、魔物からは霧状にしか見えないらしい。


 さっきのスライムが言ったもやもやとは、正しく見たままを言ったのだろう。


 魔物には恐怖が無いのか。


 それとも、人間にのみ作用する特性なのかは分からない。


 人間の恐怖を糧とする魔物。


 では、人間が居なくなったらどうなってしまうのだろうか。


 およそ人間と共生するには不向きな特性に思える。


 恐怖の対象を歓迎する者は極めて稀だろう。


 その原理を知っている俺ですら、愉快な気分ではないのだ。


 しかし、人間に見られる必要がある以上、追い返したところで、生きるためには他の人間の元へ行くしかないわけだ。


 さて、またまた難問が課せられたらしい。






ブギーマンの設定に関しては、作者の自己解釈です。

海外では広く知られた存在のようで、その地域毎に姿形も違って伝わっているらしく、特に子供の躾けで「言う事を聞かないとブギーマンが来る」みたいな言われ方をしているようです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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