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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
32/364

31 元勇者の魔王、手紙と追憶 【修正】

22/12/27 誤字修正

 ”親愛なる仲間たちへ”


 ”王都で別れてから早数年が経過しましたが、皆は如何お過ごしでしょうか。”


 ”皆のことですので、ご健勝のことと存じます。”


 ”私事ではありますが、この平和な世に勇者として成すべきことが無くなったと考えた俺は、一念発起して転職しました。”


 ”皆には驚かれるとは思いますが、俺は転職して魔王になりました。”


 ”そう、魔王です。”


 ”何の因果か、転職先が魔王しかなかったのです。”


 ”魔王になったことで、魔物との会話が可能になりました。”


 ”そして、敵意を持たない魔物に出会うことができました。”


 ”ですが、人間はそうした魔物たちへの認識を改めることなく、今なお魔物を討伐し続けています。”


 ”挙句の果てには、商売の道具扱いしている始末です。”


 ”そんなこともあり、俺は魔物の保全に努めようと、ある組織を国の支援を受けて設立する運びとなりました。”


 ”名を、魔物保全機関、と言います。”


 ”無害な魔物を人間の手から保全し、魔物の生態を知り、人間に魔物についての認識を改めさせ、理解を広める活動を目指しています。”


 ”こうして筆を取らせていただいたのは他でもありません。”


 ”組織の一員として、皆の力を今一度貸してはいただけませんでしょうか。”


 ”久方ぶりの手紙で、急にこのような頼みごとをしてしまい申し訳ありません。”


 ”良いお返事をお待ちしております。”


 ”元勇者の魔王より”






 ペンを置き、椅子の背に身体を預ける。


 慣れないことをした所為か、思った以上に疲れてしまった。


 しかし、我ながら何とも情けない話だった。


 魔物保全機関の建設は順調に進んでいる。


 にも拘わらず、その人員の確保が未だにままならない。


 というか、あの受付嬢さん以外だと、王城からの人員以外誰も応募して来ない有様である。


 こうなっては、なりふり構っている場合ではない。


 俺の数少ない伝手を頼る他あるまい。


 という考えに至り、かつての仲間に手紙を書くことにしたわけだった。


 僧侶さんは故郷に、魔法使いは魔法協会に戻ったのは知っていた。


 残る一人、あのアフロこと戦士だけは、冒険の旅を続けているはずなので、所在不明だ。


 まぁ、何処に居ようとも、しぶとく生き延びていることは間違いない。


 見た目こそアレだが、腐ってもSランク冒険者。


 なので、冒険者ギルド経由で町や村に片っ端から手紙を送っておく。


 冒険者ギルドの支部が各地にあるため、そこに手紙を送っておけば、彼が訪れた際に手渡される寸法だ。


 遠方や僻地(へきち)程、料金が割高になるが、この際致し方あるまい。


 とはいえ、手紙が無事届いたところで、応じてくれるかは分からないわけだが。


 今は僅かな可能性にも賭けておくべきだろう。


 朝食後、すぐにこうして手紙を(したた)めていたが、既に昼時だ。


 本来なら三人分で済むところを、戦士のために手紙を量産しなければならなかった所為で、こんな時間になってしまった。


 さっさと昼食を取るとしよう。


 残念ながら、宿で提供される食事は朝と夜のみ。


 昼は外で取る他無い。


 セントレアには……また帰りにでも顔を見せるか。


 先に会いに行くと時間を取られそうだしな。


 そういえば、王城に赴いた際に妙な話、というか、とんでもない話を聞いた。


 何でも、王子が行方不明だと言うのだ。


 箝口令(かんこうれい)が敷かれており、住民たちには知れ渡っていないものの、王子の捜索に関してはAランクの最優先依頼にもなっているらしい。


 確かに、王様への謁見を禁じておきながらも、干渉してくることは無かった。


 その時にはすでに行方不明だったのだろうか。


 気にはなるものの、心当たりがあるわけでも無い。


 いて言えば、ジャイアントの一件に何らかの関わりがあったのではないか、という疑問を晴らす機会が失われたということか。


 ともあれ、王子に関してはAランク冒険者に任せて、俺は俺のできることをするとしよう。


 (たま)には、山以外に行くのも悪くないかもしれない。


 手紙の束を忘れずに持ち、いつもの身支度を整えて、皆を連れて部屋を出た。






 宿屋を出て向かったのは冒険者ギルド。


 手紙の配送依頼を忘れずにしておき、討伐依頼が無いことを確認した後、いつもどおりに採取クエストを受けておく。


 あの王都地下の洞窟の一件から数日が経ち、比較的事件への関与が軽い少数の冒険者たちに関しては、罰金の支払いのみで釈放されていた。


 とはいえ、冒険者ギルド側から何のお咎めも無いはずもなく、厳重注意と今後そのような犯罪に手を染めないとの誓約書を書かせたらしい。


 当然、破れば冒険者資格の剥奪だ。


 今後二度と、冒険者になることは叶わない。


 だからか、最近はいつも行っていた山でも、冒険者の姿を見かけるようになっていた。


 それもあって、今日は山以外に行こうと考えたわけだ。


 冒険者がまっとうに働くのは喜ばしいことではあったが、その影響により皆と連れ立ってのハイキングができなくなってしまったのは悩ましいことだった。


 かといって山に行くのを避け続けていれば、山に魔物が現れた時、後手に回ってしまう。


 なので、ある程度他の場所を見繕いつつ、日毎にローテーションで回ることにしよう。


 屋台で軽食を、道具屋でエーテルを買い、いつもの南側の正門ではなく、東側の門を通って王都外へと出る。






 今日の目的地は小川と洞窟だ。


 小川は王都の外壁上からでも見える距離のため、皆を外に出してやるわけにはいかない。


 だが洞窟内ならば、中に人さえ居なければ外から見られる心配もない。


 これだけ王都に近い場所にある洞窟なので、魔物は居ないかもしれないが、確認がてらローテーションの一つに加えても良いだろう。


 街道は王都の南側しか敷かれていない。


 この東側も、近場は平野が広がっているのみ。


 大して歩くこともなく、小川へと辿り着く。


 目指すは洞窟。


 今度は小川の流れに沿って歩いてゆく。


 その先に見えて来たのは、小川が洞窟の中へと消えていく光景だった。


 そのまま洞窟の中へとある程度入ったところで足を止める。


 洞窟内に光源は無い。


 洞窟内の壁に等間隔で設置された松明に火が点けられていないことからも、この洞窟内に他の人間が居る可能性は低そうに思えた。


 以前、盗賊から接収したナイフ同士をぶつけて火花を起こし、入り口に設置された松明に着火する。


 これで他の冒険者も余り立ち寄らなくなるだろう。


 こうして入口の松明を灯しておくことで、既に侵入した者が居ることを後から来た者たちに周知することができるのだ。


 余程人気のある場所や、ダンジョンなんかでは牽制の効果は薄いが、王都に近く、また小規模の洞窟なら競合を避けるのがセオリーだった。


 内部の松明に火を点けることはせず、光源には他を用いることにする。



(ライト)



 光の初級魔法。


 俺を中心に周囲が明るくなる。


 もう少し中に入ったところで皆を外に出してやる。



『オヤマ、チガウ!』


『ドウクツ、ヒサビサ!?』


『ナンダカ、ヒンヤリ?』


「今日は山ではなく、小川が流れる洞窟に来てみました。奥には隙間からの日差しを受けて薬草類が自生していたはずです」


『オヒル、イソグ!』


『ドウクツ、タンケン!?』


『オサカナ、イル?』


「……居るかもしれませんが、食べるんですか?」


『オサカナ、カンショウ?』


「成程。でもまずは奥へ行きましょう」



 先行するスライム二体を追い駆けるように、俺とスライム一体とブラックドッグが後に続く。


 記憶が確かなら、この洞窟に入るのは冒険者ギルドに登録する際に、試験として訪れて以来だったかもしれない。


 冒険者ギルドが予め用意した、最奥に安置してある品を持ち帰る、みたいな内容だったはずだ。


 思えば、あれから随分と時が経過したものだ。


 今から十数年前、当時の俺は十代前半だったろうか。


 この洞窟にも魔物が数種類は生息していた。


 それが今や、魔物の影も形もありはしない。


 昔の自分はどんな気持ちでここを訪れていただろう。


 未知の洞窟を探検することへの期待と不安?


 いずれ相対するかもしれぬ魔王への闘争心に溢れていた?


 それとも、俺を見下し続けていたアイツに対する反抗心しかなかっただろうか?


 ……よく覚えてないな。


 思い出したくもない顔が頭に浮かんできそうになったのを、咄嗟に振り払う。


 昔の自分が通った道を、昔と異なる集団で進み行く。






 しばらくして陸地が途切れる。


 最奥へと辿り着いたのだ。


 道中、何の障害も無く、また、魔物にもやはり遭遇しなかった。


 頭上の洞窟の裂け目から、日の光が差し込んだ先の陽だまりの中に薬草類が自生している。


 そこに素早く近付いてゆくスライムたち。


 ブラックドッグ一緒に、ゆっくりと近付いてゆくと、その近くで腰を下ろすことにした。


 お座り状態のブラックドッグの首を撫でつけながら、エーテルを与えてやる。


 尻尾を振ってご満悦の様子。


 俺も食事を取る。


 やはり場所が場所だからだろうか、やたらと昔のことばかり思い出してしまう。


 最奥までの距離がもっと長かったように思える。


 当時は十代前半だったのだから、今とは体格差もあることだろう。


 魔王の影響により狂暴化した魔物が、この洞窟内にも蔓延(はびこ)っていたものだ。


 それを苦も無く倒しながら、この最奥へと辿り着いた。


 当時は仕方が無かったこととはいえ、今思い返すと複雑な心境にもなる。


 こんな狭い洞窟でさえ、次から次へと魔物が湧き出てきた記憶がある。


 それが今や、どこにも居はしない。


 全て倒されてしまったのか、それとも、何処か別の場所へと移動したのか。


 こんな王都に程近い立地の洞窟だ。


 平和になり、狂暴化が解けた魔物は冒険者にとっては格好の獲物だったろう。


 俺も王都に居たはずだが、魔物のことなど考えもしなかった。


 ただただ、平和になったのだと、そう安心しきっていた覚えがある。


 そりゃあ勇者とて万能ではない。


 あらゆる可能性を考慮して行動する、なんて芸当ができるはずも無かった。


 ”勇者ってのはそんなに大したものなのか?”


 そんな言葉を思い出す。


 ……本当に、今思い返しても嫌なヤツだ。


 できれば二度と会いたくない。


 帰りを心待ちにしているであろう、もう一人には申し訳ない気持ちで一杯だが、こればかりは譲れない。


 勇者として魔王を倒し、世界を平和にしてみせたはずだ。


 如何にアイツとて、それを否定はできまい。


 例え一生涯、認められずとも事実は事実。


 精々、俺の作り出した平和な世界で余生を過ごすが良いさ。


 ――唐突に理解する。


 俺の原点は、勇者として魔王を倒し世界に平和をもたらすことなどではなく、たった一人の人間に認めて貰いたかっただけなのだと。


 ……あぁ、今更そんなこと……気付かなければ良かった。






今回出てきた洞窟のイメージとしては、D○5の最初の町の洞窟でしょうか。

幼い主人公が一人で向かうことになる洞窟。

とはいえ、ゲームの主人公の方が余程幼いわけですが。

作者はシリーズでは5が一番好きです!(突然のアピール)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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