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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
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30 元勇者の魔王、穏やかな午後 【修正】

22/06/23 全体を若干修正

 早朝からハードなミッションを達成し、朝食を取るために宿屋へと戻った。


 残念ながら、朝食が提供される時間は終了しており、空きっ腹を抱えたまま宿を後にする。


 こうなったら朝昼兼用で食事を取ることにする。


 が、食事の確保より先に、ある場所へ向かうことにする。






 辿り着いたのは、今朝ぶりの場所。


 四階建ての冒険者ギルドへと入る。


 一階は閑散としていたが、それも無理はあるまい。


 何せ、先程大勢が捕まってしまったのだから。


 カウンターへと歩み寄り、目的の人物と話すことにする。



「お疲れ様です、冒険者様。ご用件は何でしょうか?」



 今朝と同じ台詞で出迎えてくれる銀髪眼鏡の受付嬢さん。


 他の利用者が居ないとはいえ、世間話をし続けるわけにもいかない。


 ここは手早く用件を伝えることにする。



「今朝方、大勢の冒険者が兵士に捕えられたそうですよ」


「……それが事実だとすれば、当ギルドとしても一大事となります。早急に事実確認をさせていただきます」



 そう言った受付嬢さんが、眼鏡越しに目配せをすると、他の職員が奥へと姿を消した。


 恐らくは、事実確認に向かったのだろう。


 もっと詳しく事情を説明してあげたいところだが、ことがことだけに、余り大っぴらに言うのも(はばか)られる。


 何せ王都の地下が外壁の外と通じていて、魔物の取引が行われていた挙句、それには冒険者が多数関与していたのだから。



「確かに、事実確認は早めに行った方が良いと思います。他の冒険者への信用にも関わってきますしね」


「仰るとおりかと存じ上げます。貴重なご意見を(たまわ)り、誠にありがとうございます、――それで、本日のご用件は何でしょうか?」


「あ、あぁ、はい。討伐クエストはありませんか?」



 念のため、魔物の目撃報告が無いか確かめておく。



「――該当する依頼はございませんね」


「そうですか。それでは採取クエストを。これギルド証です」


「お預かりしたします。――はい、ご本人様と確認いたしました。ギルド証はお返しいたします。採取クエストでしたら――」



 それからは、いつもどおりの遣り取りを済ませ、冒険者ギルドを後にした。






 屋台で軽食を多めに買い、道具屋でエーテルを購入する。


 そうして最後に、花屋で幾つか見繕(みつくろ)って貰った花を購入し、ようやく王都外へと向かう。


 正門から出て、街道を外れる。


 向かう先は山……ではなく、薬草の群生地だ。


 久方ぶりに訪れたそこは、木の板による囲いが敷設(ふせつ)されており、立ち入り禁止と書かれた看板も立てかけられていた。


 この位置からでは、あの洞窟へ通じる穴がどうなったのかまでは確認できない。


 仕方がなく、付近で良さそうな場所を見繕うことにする。


 草むらから左程離れておらず、王都側からは死角となる位置。


 そこに周囲の石を拾い集め、積み上げていく。


 出来上がった少し歪な石の山に、買ってきた花と(わず)かばかりの食べ物を供える。


 それに向け手を合わせ、黙祷(もくとう)する。


 遅くなってしまったが、これで少しでも洞窟内で犠牲となった魔物たちへの供養となれば良いのだが。


 そんな思いと共に、しばしの間、そこで時を過ごした。






 草むらへの立ち入りが禁止されている以上、ここで魔物たちに食事を与えることは叶わないので、いつもどおりに山へと向かうことにした。


 今は動物や鳥しか居ない山だが、今朝の一件で冒険者が捕まったことで、時間が経てば魔物が棲み付いたりするかもしれない。


 そんなことを思いつつ、気が付けば昼時、ようやく山へと辿り着いた。


 周囲には当然と言うべきか、冒険者どころか人の気配は無い。


 これまたいつもどおりにスライムたちとブラックドッグを外に出してやり、開けた場所へ向かい、なだらかな山道を登って行く。


 流石にこれだけ一緒に行動していることで慣れたのか、時折、スライムたちがブラックドッグの上に乗ったりしている。


 危害を加えているわけでもないので、ブラックドッグは抵抗する様子もない。


 何とも穏やかな光景だった。


 ――その言葉が聞こえさえしなければ。



『ワンコ、オトナシイ!』


『ノリゴコチ、ワルクナイ!?』


『イドウ、ラクチン?』



 ブラックドッグが大人しいのを良いことに、少し調子に乗っていた。


 ブラックドッグの頭を撫でてやりながら、全力疾走するように指示してやる。


 指示を受け、すぐさま駆け出してゆく。


 その速度に耐え切れず、スライムたちが宙へと放り出される。



『カゼニ、ナッタ!』


『コレハ、ボウソウ!?』


『コノママ、オチル?』



 流石にそのまま地面に落ちるのは可愛そうだ。


 その後を付いて行った俺が、次々とスライムたちをキャッチしてやる。


 腕の中に回収されたスライムたちはプルプルとその身を震わせていた。


 少しやり過ぎたかもしれない。



『ワンコ、コワイ!』


『マサカノ、ハンラン!?』


『ヘイワ、モトム?』


「余り調子に乗らないように、いいですか?」


『ワカッタ、ソウスル!』


『キュウセン、キョウテイ!?』


『ワンコ、オナカマ?』


「もう少しすれば、もっと仲間が増えるかもしれませんしね」


『オォ!』


『シンイリ!?』


『オミアイ?』


「お見合いではありません。……その時は仲良くしてくださいね」


『マエムキニ、ゼンショスル!』


『ヤブサカデハナイ!?』


『クルシュウナイ?』


「本当に分かってますかね……」



 正しく意思疎通できているか疑問に思わないでもないが、腕の中のスライムたちは心なしか嬉しそうにその身を上下に伸び縮みさせていた。






 先行して到着していたブラックドッグにようやく追い付く。


 早朝からずっと動きっぱなしで、空腹も相当なもの。


 やっと食事を取ることができる。


 スライムたちは周囲の落ち葉を食べて回っている。


 連日訪れている所為か、この場所の落ち葉も随分と無くなってきた。


 また別の場所を探さないと、食べるものが無くなってしまいそうだな。


 そう思いつつも、ブラックドッグにエーテルを与えてやり、俺もようやくの食事にありつく。


 ――と、ブラックドッグがスライムたちを見て、尻尾を振っていることに気が付いた。


 もしかして、一緒に遊びたいのだろうか?


 不用意に攻撃しないよう予め指示を与えているが、その他の行動に関しては霧状になってもらっている時以外は特に強制してはいない。


 その身を軽く撫でつけながら、遊んできて良いと念じてやる。


 すると、食後の運動中なのか、飛び跳ねていたスライムたちに向かい、突撃して行った。


 器用に鼻先を使い、次々とスライムたちが宙に打ち上げられる。



『ワォ!』


『ナニゴト!?』


『オホシサマ?』



 突然の事態に困惑?している様子のスライムたち。


 落ちてくるスライムたちを、再び宙へと打ち上げ返してゆく。


 ……あれは、ボール代わりにされているのかもな。


 数度繰り返されることで次第に慣れてきたのか、スライムたちも楽しげな声を上げている。


 良い光景だ。


 本当に。


 本当に、この場にセントレアが居なくて良かった。


 そう、しみじみと思った。






 そうして空が茜色に染まり始めるまでのんびりと過ごし、下山する。


 後はいつものとおり。


 王都に入ると冒険者ギルドで納品して報酬を貰い、宿へと戻る。


 一瞬、セントレアの様子が気になりはしたものの、一日の内にそう何度も遭遇したいとは、精神的に思えなかった。


 また明日様子を見に行くとしよう。


 他の宿泊客の目を掻い潜り、隙間時間を狙い皆で風呂を済ます。


 その後は本日初となる宿屋の食事を堪能し、部屋へと戻った。






 皆を部屋の中へ出してやり、自分はベッドに腰を下ろし、今日の出来事について考える。


 昨日はどうなることかと思われたが、どうにか良い方向へと決着できたのではなかろうか。


 またしても人間の手により魔物が犠牲となっていたわけだが、今回の件が最後であることを願いたい。


 そこでふと、妙な考えが湧いてきた。


 もしも、今の人間と魔物の立場が逆だったなら、一体どうなっていたのだろうか、と。


 大勢の魔物が住まう都市で、僅かな人間たちはどのような扱いを受ける?


 食料か、奴隷か、憂さ晴らしの道具扱いか。


 いや、この考えすらも人間のものに過ぎない。


 魔物がその時、どうするかなど分からない。


 同じ種類の魔物にだって個体差があることだろう。


 この想像自体に意味が無い。


 想像するべきは、もしかしたらあったかもしれない現実ではなく、今あるこの現実の在り方についてだろう。


 魔物に対する悪感情に変化は未だ見られない。


 一応、セントレアの存在により、その認識が良い方向へと改められると良いのだが、如何せん癖が強過ぎるのが懸念でもある。


 明日以降、魔物の目撃例が増加すれば、また討伐依頼が出されるかもしれない。


 冒険者の数が減ったことで、魔物への被害が減じたと思いたいところだが、今回の一件に絡んでいたのはCランクが主だった。


 Bランク以上はそのまま数を減じていないなら、冒険者の戦力自体は減少していないと見てまず間違いないだろう。


 Cランクの俺はBランク以上の依頼を知る由も無い。


 どこかで魔物が目撃されていても、その情報を知ることすらできないのだ。


 こういう時にランク制度は足枷になる。


 魔物保全機関として行動する際、そういった情報も仕入れる必要があるだろう。


 ……今回の件の口留め代わりに冒険者ギルドとそうした取引をしておけば良かっただろうか、とそんな考えが頭を()ぎりもする。


 情報源に関しては、何か他の手を打つしかないだろう。


 また受付嬢さんと話し合いの場を設けてみるべきかもしれない。


 まだまだ組織の人員も足りていないことだし、前途多難である。


 だが、やらねばならない。


 遣り遂げなければならない。


 本当の意味でこの世界に平和をもたらすために。


 できる限りのことを。


 そんな思いを胸に、ベッドに背中から倒れ込む。


 俺が寝ると察したのか、ブラックドッグが素早く俺の上に乗り身を丸める。


 何故かスライムたちまでその上に乗ってきた。


 ……まぁ、重くは無いから構わないけどね。


 されるがままに、眠りについた。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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