28 元勇者の魔王、身柄は何処に 【修正】
22/06/21 全体の補正と共に、王様との会話周りを加筆修正
ようやく王城からの応援が到着し、全員が捕縛・連行されてゆく。
当然の様に魔物のケンタウロス――セントレアに初遭遇した兵士たちは似たような反応をしていた。
これで残る問題は2つ。
この洞窟の後始末と、セントレアの処遇についてだ。
一応、兵士たちにはセントレアが人間に敵対していないことは理解して貰えたとは思うが、それでも王都で暮らすいうのは難しい。
せめて組織の建物が完成していれば、そこに住んで貰うことも可能だったのだが、時期が悪かった。
流石に宿屋に泊めるわけにもいかない。
宿屋の女将対セントレアという夢の対決にも少し興味はあるが、そんな妄想は妄想に留め置くのが無難だろう。
肝心のセントレアはというと――。
「アタシ、ダーリンと離れるなんて死んでも嫌よ! アタシたちの仲を引き裂こうとする輩には、もれなく蹴りをお見舞いしてやるわ!」
「……この王都で魔物が暮らすのは、まだ無理なんです。住民が怯えるだけならマシですが、逆上して襲って来ないとも限りません。今、魔物たちを保護する組織を建造している最中なんです。それが完成したら、また王都にいらしてください。それまでは故郷にお帰りいただいた方が、確実に安全です」
オッサン声のオネェ口調で話す筋肉。
もとい、セントレアに、そう諭してみる。
「それなら、ダーリンを連れて故郷に帰るわ! そうすれば離れずに済むもの!」
「それはちょっと……」
それは何と言うか、人生終了の予感しかしない。
今でも生き残っている魔物たちがいることは喜ばしいが、まだ王都周辺にも生き残っている魔物がいるかもしれない。
折角、魔物保全機関を立ち上げるというのに、就職を希望してくれた受付嬢さんや、組織を放っておくわけにもいかない。
そもそも、行きたくない。
「なら、アタシも王都に住むわよ。邪魔するお馬鹿さんは足蹴りしてやるだけよ」
「……それ、一般人相手だと普通に死にますからね。絶対にしないでください」
「約束はできないわ! アタシは愛に生きるオンナ! ダーリンとの生活を守るためなら、どんな障害も粉砕するだけよ!」
「…………」
何故こうも好かれてしまったのか。
セントレアが言っていたみたいに、魔物を引き付けるという特性が、魔王に備わっているのだろうか?
今はとても凄く迷惑なのですが……。
後、女では無いね。
「……仕方ありません。王城で匿って貰えないか、頼むだけ頼んでみましょう」
「まぁ! それじゃあ、アタシ、王城に住めるっていうのかしら!?」
「いえ、流石に王城内への立ち入りは無理かと……あくまで城門の内側、という辺りが限界だと思いますよ」
「あらそうなの? それは残念だわ。ダーリンとお城で暮らすっていうのも悪くないと思ったのに。……それにしても、ダーリンが王様じゃないのね」
「え?」
「だって、まお――」
「――おっと、それ以上は結構です。勿論、俺は王様ではありませんよ」
今、絶対、魔王って言おうとしていたな。
そういえば、それについて口留めしておくのを忘れていた。
隠し通したいわけではないが、今は無用な混乱を起こして欲しくは無い。
「そ、そうなの? でも、いずれは成るのよね?」
「その予定はありません」
「じゃあ、一体何処でアタシと暮らすって言うの!?」
「その予定もありません」
「……成程ね。焦らしてアタシの気を引こうとしてるのね」
「違いますから。……またここで待って居て貰っても良いですか? すぐに戻って来ますので」
「……置いて行ったりしたら嫌よ。そんなことされたって分かったら、アタシ、何するか分からないわよ」
「……肝に銘じておきます」
この場を兵士たちに任せ、王城へと向かった。
予め応援を要請していたことにより、すんなりと城門を通過し、王城へと入ることが叶った。
しかし、最近になって頻繁に王城へ出入りするようになってしまったな。
まさか、勇者から魔王に転職した途端、こんなに足繁く通うことになろうとは思わなかった。
そんな妙な感慨に浸りながら、謁見の間の前で用意が整うのを待つ。
事前の通達無しに訪問してしまったので、王様の準備がまだ整っていなかったためだ。
そもそもが、本来であれば謁見のために順番待ちをしなければならないところだが、今回もまだ公務の時間外にも拘わらず、急遽謁見に応じていただいた形だ。
王様には色々と無理を強いてしまっていて、申し訳ない思いだ。
そして今回もまた、無理な頼みをしに来ているわけだった。
ようやく空全体が明るくなった頃、謁見の間へと入室が許された。
前回とは違い、王様と近衛騎士団団長の二人のみしか姿が見えない。
例によって、玉座の前で跪き首を垂れる。
「――此度は急な謁見の申し出をお聞きくださり、誠にありがとうございます」
「良い。して、何やらまた一騒動起こったそうだが? 顔を上げて、子細についてご説明願いたい」
「はっ。実を申しますと、一部の者たちにより、王都の地下に秘密裏に洞窟が造られておりました」
「この王都の地下に、じゃと? それは真か?」
「はい、この目で確認しております。既に首謀者と実行犯に関しては、兵士の皆様方のご協力により、捕えていただいております」
「……そうか。それは不幸中の幸いじゃな。――して、何のためにそんなものを造っておったのかは、分かっておるのか?」
「自分が話を聞き出した限りでは、商人と冒険者が結託して、魔物を捕えて商品として取引を行っていたようです」
「何と!? 魔物を商品に、とな!? ……よもや、魔物の減少にはその影響もあったのか?」
「……それは分かりかねます。どれぐらいの数が犠牲となったのか、捕えた者たちへの尋問で今後明らかとなってゆくかと思われます」
「そうか。それにしても、商人と冒険者が、とはな。これでは、この王都内も平和とは言えんな」
本当にそのとおりだと思う。
ただし、想像している意味は異なっているかもしれないが。
王様は人にとってを考えており、俺は魔物にとってを考えているのだろうから。
「よくぞ事態を早期解決へと導いてくれた。礼を言わせてくれ。……勇者殿には助けていただいてばかりで、この国の王として些か申し訳ない思いだ」
「いえ、国民の一人として、こうしてお役に立てて何よりでございます」
「……そう言ってくれるか、勇者殿。……それで、勇者殿からお話があるとのことだったが、今の件ではないのか?」
「関連はしておりますが、別件となります」
「そうであったか。それではお話を伺いましょう」
「……実は、洞窟内にて魔物を一体保護いたしました」
「ほぅ? ということは、無害な魔物だったということかな?」
「左様でございます。……しかしながら、まだ魔物を保護するための建物は完成しておらず、保護する場所がございません。そこで、城門内にて匿っていただくことはできないかとお願いに上がった次第でございます」
「城門内に、ですと? その魔物、一体何だったのですかな?」
「ケンタウロスです。半人半馬の。極めて流暢に会話も可能です」
「……そんな魔物が王都の地下におったのか? 一体どこから?」
「説明が足りず申し訳ございません。洞窟は王都外へも通じており、そこから運び込んだようです」
「……それでは外壁の意味がないではないか。まったく、何ということを……世が世なら、その所為で王都が壊滅していたやも知れぬわけか」
「…………」
「しかし、ケンタウロスとは。保護すると仰るが、怪我でも負っておるのか?」
「いえ、至って健康です。ただ、魔物自身がこの王都を離れたくないと申しておりまして」
「それはまた、変わった魔物もおったものだな。……成程、それでこの城で匿って欲しいと仰ったわけか」
「はい。……如何でしょうか?」
「失礼ながら、口を挟ませていただきく」
「騎士団長か。許す、申してみよ」
「ハッ、ありがとうございます。王城の敷地内に魔物を匿うなど、近衛を預かる身として看過できませぬ。何卒ご賢明なご判断を願います」
流石に横槍が入ってしまったか。
そうそう上手く事は運んではくれないらしい。
「ケンタウロスに後れを取ると申すか?」
「一般兵であれば、対処は難しいかと」
「近衛ならばどうじゃ?」
「……近衛であれば問題無く」
「それでも反対と申すか」
「敢えて危険を犯す必要は皆無でありましょう。命を救ったのです。後は放逐すれば済む話かと」
「救ってみせたのは、他ならぬ勇者殿のようじゃがな」
「……仰るとおりです」
「いずれは城に隣接した魔物保全機関にて、魔物を保護することになろう。なればこそ、予め魔物への対処に馴れておく必要があるとも思うがな。それについてはどう考える?」
「……事前の備えは、意義深いことと存じ上げます」
「兵士共々、上手く勤め上げてみせよ」
「ハッ!」
「……さて、勇者殿。話を中断してしまい申し訳ない」
「いえ」
「場所は城門内に、でしたかな」
「はい」
「危険性は無く、会話も可能だとか」
「はい」
「先の遣り取りをお聞きになられていたでしょうが、ここで改めて。お引き受けいたしましょう」
「っ! ありがとうございます!」
「兵士たちが魔物にどう対処してみせるか。今後のための試金石とさせていただきましょう。魔物に対し、敵対心を抱く者も未だ多い」
「そうですね……ですが、兵士たちが魔物に対して友好的に接することで、住民たちの魔物への悪感情が和らぐかもしれません」
「成程。万事上手くいけば、そうかもしれん。流石に楽観的に過ぎるとは思いますがな」
「……そう、ですかね」
「ともあれ、一度承諾した以上は、何とかしてみましょう」
「お願いします」
こうして、少しばかり不安は残ったが、一時的な保護を頼むことができた。
急ぎ、王城でも情報の周知と受け入れの準備が行われ始める。
それを横目に足早に王城を後にし、再び洞窟へと向かった。
一体何があったのか。
セントレアはすっかり、兵士たちを従えていた。
本当に、何があったんだ……。
「あら、ダーリン! ハネムーンの準備は整ったのかしら?」
「……そんなものは未来永劫、行われません」
「いやん! ダーリンの、い・け・ず!」
「――――」
会話がシンドイ。
見ると、周囲の兵士たちも似たような表情を浮かべていることに気が付いた。
成程、従えたというより、気力を喪失させたわけだ。
その気持ちは痛い程分かります。
「――王城で保護して貰えることになりました。これから一緒に向かいましょう。……その体では縄梯子で地上へ上がるのは無理ですから、王都外へと通じる通路を使用して、改めて王城を目指すとしましょうか」
「嫌だわ、その体だなんて。ダーリンたら、どんな目でアタシの肢体を見ていたのかしらん」
「……さぁ、行きましょう」
極力聴覚を遮断して、この苦行を終えることに注力する。
ただ、建物が完成してしまえば、頻繁に会うことを免れないわけだ。
とても気が重くなった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




