27 元勇者の魔王、邪魔者の末路 【修正】
22/06/20 全体を若干修正
地獄のような地下から、地上へと生還することができた。
冒険者を追った挙句、魔物に追い駆けられようとは、予想だにしなかったが。
未だ耳には、あの声が残っているような感覚がある。
なるべく思い出さないようにしながら、王城を目指して駆け出そうとして、思い止まる。
ここからならば、外壁の門の方が近い。
そこに居る兵士に声を掛ける方が良いだろうか。
まだ早朝のこの時間では、前回と同じく城門は開いていない気がする。
勿論、そちらにも伝達して貰うが、まずは外壁部の門へと向かうことにしよう。
予想どおり、外壁部の門では兵士が見張りをしていた。
そこに駆け寄り、声を掛ける。
「済みません。幾つか協力して貰いたいことがあるのですが」
「何だ藪から棒に。こんな早朝から、一体何をそんなに慌てているんだ?」
「王都の地下に洞窟が掘られていたんです。しかも、王都外へと通じています」
「……急に何を言い出しているんだ、君は? 酔ってるのか?」
「至って正気です。せめてご自身の目で確認しては貰えませんか?」
「我々も暇を持て余しているわけではない。あまりしつこいようだと、こちらも相応の対応をせざるを得ないぞ?」
「――待て。もしやとは思いましたが、アナタは勇者殿ではありませんか?」
遣り取りを聞いていた、もう一人の兵士がそう訊ねてきた。
「……えぇ、そのとおりです」
元ですが、との言葉は呑み込んでおく。
「やはり! 先の魔物の襲来の際、そのお姿を拝見させていただきました! こうしてお目に掛かれて光栄に存じます!」
「っ!? ゆ、勇者殿であらせられましたか!? 知らぬこととはいえ、大変失礼いたしました!」
「いえ、そう畏まらなくても結構ですよ。……それで、先程のお話なのですが」
「王都の地下に洞窟がある、とのお話でしたね。早速、確認に向かいましょう」
「ありがとうございます。それと、お手数ですが、王城にもお伝えいただきたいのですが」
「分かりました。そちらも手配しておきましょう。他には何かありませんか? 無ければ早速向かいましょう」
「……洞窟内には、首謀者たちを昏倒させてあります。結構な数なので、それなりの人員を手配していただきたいのと――」
さて、あのケンタウロス――セントレアについては、どう伝えたものだろうか。
一般的な魔物とは違い、人間との会話が可能だ。
色々と規格外な相手ではあるが、話をすれば敵対しないことは理解して貰えると信じたい。
だが、そうなるまでが問題だろう。
初遭遇に於いて、冷静な判断を下せるだろうか。
俺は違う意味で取り乱したが、他の人たちにとってみれば、魔物というだけで脅威だろう。
……こればかりは仕方が無いか。
現場で仲裁する他あるまい。
余計なことを口走らなければ、即討伐されることも無いはず。
まずはそう信じよう。
どうしても無理そうなら、王都外へと逃がしてやろう。
「――洞窟内には魔物が一体居ます。予め危険が無いことは確認済みです。なので、間違っても攻撃を加えないように周知を徹底してください」
「王都の地下に魔物!? しかも、手出しするなと仰るのですか!?」
「えぇ、そうです。手出し無用に願います。責任は俺が取りますので」
「そ、そうは仰いましても……」
「……勇者殿にも何かお考えのあってのことだろう。まずは王城への伝達と人員の確保だ。首謀者たちに逃げられでもしたら、それこそ問題だぞ」
「…………分かりました」
同僚からの説得もあり、何とか了承して貰うことができたようだ。
ふぅ、何とかなりそう……かな?
先のジャイアントの一件で、勇者としての認知度が上がっていたのが功を奏したようだ。
だが逆を言えば、勇者ではなくなっていると知られれば、騒ぎになるかも。
差し当たっての懸念は、セントレアが俺を魔王と呼ばないかだが。
他の人間にも言葉が通じるというのは、こういう時に不便だ。
……そう言えば、何か途中からダーリンとか呼んでたな。
あれはあれで迷惑極まりないのだが、兵士たちの前で魔王と呼ばれるよりかは幾分マシだろうか。
ともあれ、こうして兵士の協力は得られることになったのだ。
連中に逃げられる前に、洞窟に向かうとしよう。
まずは数名の兵士を連れだって、例の納屋へと辿り着いた。
「こんなところに納屋があったのか……しかし、一体何の目的で?」
声を発した兵士以外も、訝しげに周囲を見回している。
「ここから洞窟へと出入りが可能になっています」
「何ですと? では、納屋は偽装というわけですか」
「そうなりますね。深さから考えて、下水道よりも深い位置に洞窟を掘ったみたいですね」
「……地下にそんなものができていたとは……しかし、何のためにそんなことをしたんだ?」
「それは、捕まえた者たちに尋問なさってください。まずは捕えることを優先しましょう」
「そ、そうですな」
「俺から先に地下へと下ります。皆さんは間隔を開けて、下りて来てください」
「分かりました。では、2人この場に残り、その内の1人は追加の人員を誘導してくれ。もう1人はこの場で待機し、他の者を近付けるな」
「「分かりました!」」
2名の兵士を残し、俺たちは縄梯子を伝って地下へと向かった。
「ダーリン! アタシを迎えに来てくれたのね!」
「……少し静かに願います。じきに他の人間もここに来る手筈となっているので、くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も、不用意な行動や言動は避けてくださいね」
「任せて頂戴! アタシ、故郷では大人しいって評判だったんだから!」
……それは嘘だろう。
もしくは、周囲が気を使っていたのかもしれない。
「なるべく単語だけで喋ってください」
「んー、ダーリンの頼みとあっては断れないわね。いいわ、やってみる」
「お願いしますね」
不安だな。
魔法使いが居れば、沈黙の魔法でも使って貰うところだ。
と、縄梯子を兵士が下りて来た。
その足が地面に着くより先に、視線が魔物の姿を捉える。
「ひぃっ!? け、ケンタウロス!? ど、どうして洞窟の中に!?」
「まぁ、失礼しちゃうわね! アタシを呼ぶ時はセントレアって呼んで頂戴!」
「ぎゃぁあああああぁぁぁーーーーー! しゃ、しゃべったぁーーーーー!」
「何よ、アタシが喋るのがそんなにおかしいのかしら」
予想は悪い方に的中した。
事前に双方に情報を伝えておいたにも拘わらず、この有様だった。
「はぁ……ですから、単語で喋ってくださいとお願いしたのに……」
「あらやだ、ごめんなさい。つい、反射的に。許して、ダーリン」
「……とりあえず兵士さん、どうか落ち着いてください。こう見えて害はありませんから」
「こう見えて? 一体、どう見えるって――」
「いいから、黙っていてください」
「はーい」
兵士を宥めるのに、それから数分を要した。
当然ながら、残りの兵士たちも似たような調子だった。
先行隊でこれだ。
応援部隊が合流したら、もっと大変そうだな。
そう憂鬱になりながらも、どうにか連れだって洞窟の奥へと進んだ。
分岐点に差し掛かり、地面に多くの冒険者が倒れているのを目にする。
「この者たちが首謀者の一味ということですか?」
「えぇ、正確には共犯者とかになるかもしれませんが、概ね間違ってはいないと思います」
「……それにしても多いですな。ざっと見積もっても20人程は居ますね」
ふむ、この場に20人程、洞窟の奥に10人未満だとすると、Cランクの冒険者の残りは20人程になるか。
無関係だったか、既に王都外に出ていたか、関係者ではあるが今日は不参加だったのか。
尋問の結果、他に関係する者たちも捕らえることができれば良いのだが。
そう考えている間にも、兵士たちは倒れた冒険者を縄で拘束してゆく。
流石にこの場に居る兵士たちだけでは、この人数を運び出すのは難しかろう。
運び出すには、応援を待つしかないか。
――と、洞窟奥から金属が破砕するような音が響き渡った。
「「「!?」」」
思わず、皆が音のした方向へと顔を向ける。
「な、何の音だ今のは?」
「あれは恐らく――」
恐らく、檻を破壊した音だろう。
それが可能な者といえば……。
しばらくして、洞窟奥から規則的な足音が聞こえて来た。
コツ、コツ、コツ、コツ。
まるで、こちらにその存在を知らせるが如く、足音を殺しもせずに、こちらへと向かって来る。
やがて姿を現したのは、予想違わず武闘家だった。
商人を連れてきているかと思ったのだが、こちらは予想が外れて手ぶらだった。
「キサマ、そこで止まれ!」
兵士の一人がそう警告を発する。
しかし、武闘家は足を止めない。
なおもこちらへと速度を変えずに接近してくる。
「我々は王都を守護する兵士だ! 我々の指示に従わない場合、相応の罪に問われることになるぞ!」
武闘家の歩みは止まらない。
兵士の声を無視するように、反応すら示さない。
それも当然と言えば当然か。
この場の兵士たちが束になっても、武闘家には敵わないだろう。
Sランク相当。
最上級の冒険者。
先だっての戦闘では、光体を用いて一撃で倒しはしたが、まともに戦えばその実力は伊達ではないだろう。
MPは光体を使用したことにより枯渇したまま。
使用時間とは関係なく、全MP消費なのが光体の欠点だ。
こちらに有効な手札は無い。
さて、今の俺が魔法の補助なしに、彼を倒せるだろうか。
武闘家と俺たちとの距離が、残り10メートルを切った。
瞬間、武闘家の姿が掻き消えた――そう錯覚する程の速度と姿勢の低さで、俺の元へと迫って来た。
緩急を突いた見事な戦法。
動体視力は反応してみせたが、肝心の身体の反応が鈍い。
勇者としての経験に対し、魔王としてのステータスの低さが、ここにきて足を引っ張る。
碌に防御も成せぬまま、強烈な一撃を食らってしまう。
勢いを殺せず、吹き飛ばされる。
それを追従してくる影。
武闘家だ。
更なる一撃を加えるべく、再びこちらへと迫る。
しかし、動体視力では捉えているそれに対し、身体は反応を遅らせる。
またも強烈な一撃を食らう。
――かと思われた刹那、横合いから馬の足蹴りが武闘家に直撃した。
「――っ!?」
武闘家は声も出せず蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。
ドゴン。
洞窟が揺れる。
そのまま動きを見せないことから、どうやら昏倒してしまったようだ。
「「「…………」」」
辺りを居たたまれない沈黙が支配する。
それを破ったのはセントレアだった。
「――もぅ、アタシのダーリンを攻撃するだなんて、とんだお馬鹿さんね! 後百発は入れてやらないと気が済まないわ!」
「ゴホ、そんなことをしては、ゴホッ、流石に相手が、コホ、死んでしまいます」
「ダーリン! 大丈夫!? アタシの熱いベーゼで癒してあげるわ」
「結構です!」
迫り来る新たな脅威を退けながら、思わず嘆息する。
今のは結構危なかった。
セントレアの横槍――横蹴りがなければ、どうなっていたことか。
魔法無しの肉弾戦では、勝機はかなり薄かった。
突然の事態に驚愕で固まっていた兵士たちが我に返ったのか、倒れた武闘家を縄で拘束してゆく。
まぁ、武闘家が目覚めたら、縄ぐらい自力で引き千切りそうではあるが。
まったく、最後は何とも締まらない結果に終わったな。
セントレアにも、改めてお礼をしないといけないな、これは。
ただ、ベーゼは勘弁だが。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




