26 元勇者の魔王、追い縋る運命? 【修正】
22/06/19 全体を若干修正
耳が複数の足音を捉える。
先程の光体を使用したことで、光や揺れにより異変を察したのだろう。
この場に倒れている冒険者は10人にも満たない。
想定では、後40人ほどが関与している可能性がある。
残り全員がこの場に向かって来ているのかは不明だが、このまま見逃すわけにもいくまい。
光体を使用した代償で、MPはゼロ。
いつもの目潰し作戦は使えない。
若干気怠さもあるが、戦力差は未だ歴然。
彼らが悪事を働いていたのは最早覆らぬ事実。
ならば、正体を隠す必要もない。
正々堂々、正面から返り討ちにしてしまおう。
「あらやだ、誰かこっちに来るみたいじゃない?」
決意したそばから、気が抜けそうになる。
このオッサン声のオネェ口調には、未だに慣れない。
正直な話、このケンタウロス――自称セントレアを檻から解き放てば、Cランクの冒険者ぐらいなら蹴散らすのは容易く思える。
それにも拘わらず、どうして掴まっているのか理解に苦しむところなのだが、今はそんなことを気にしていても始まらない。
それに、何となくではあるが、聞くと後悔しそうな予感がする。
この洞窟の奥への通路は、分岐点からは一本道だった。
であれば迎撃は容易だ。
不意打ちされる恐れも無い。
ブラックドッグのそばに歩み寄り、頭を撫でてやる。
この場に留まり、自衛とスライムの護衛をするように指示を与えておく。
軽く一鳴きして返事をしたのを確認し、通路へと向かおうとする。
「やだ、ちょっとお待ちになって、魔王様! アタシを置いて行かないで!」
「――――」
冗談なのか本気なのか分かりかねるが、ちょっとイラっとした。
せめて黙っていてくれないだろうか。
助ける気力が削がれてゆく一方なんですが。
「後で助けに戻ります。今はその場を動かないでください」
「まぁ! それじゃあ、魔王様ったら、アタシのために戦ってくださると仰るのね! ス・テ・キ!」
「――――」
背中がゾワッとした。
MPはもう尽きているのに、さっきから精神攻撃が止む気配を見せない。
誰か助けてください!
そう叫び出したくなるのを堪え、通路へと歩みを進めた。
結果は言うまでもなかった。
いずれもCランクが20人ほど。
潜んでいたのか駆け付けたのかは知らないが。
八つ当たり気味に、多少手荒になってしまったかもしれない。
しかし、悪さをしたのは彼らの方なのだ。
苦情は受け付けられない。
洞窟の最奥に戻る際、並々ならぬ気力を振り絞ることにはなったが、あの場所にスライムやブラックドッグを置き去りにするわけにもいかない。
そう観念して洞窟奥へと舞い戻って来た。
「魔王様! アタシを守ってく――」
「――檻の鍵は誰が持っているか知っていますか?」
俺は学習した。
好き勝手に喋らせては駄目なのだと。
セントレアの言葉を遮り、質問を投げかけた。
「え、そ、そうねぇ。確か冒険者が持っていたんじゃなかったかしら」
「成程。では少し待っていてください」
答えに従い、倒れた冒険者たちの所持品を漁っていく。
程なく、目的の物を見つけることができた。
非常に気は進まないが、檻の錠を開けてやる。
中から二メートルを超える巨体が迫り出して来た。
思わず後退る。
「うーーん、シャバの空気は美味いわ!」
「…………」
……もう何も言うまい。
努めて冷静に後始末をしてゆく。
取り敢えず、逃げられると不味いのは2人、武闘家と商人だ。
この2人を檻の中に入れてやる。
鍵は勿論、俺が持っていく。
……武闘家の力で檻が破壊されないか若干不安だったが、兵士を呼んで来なければならないのだ、致し方あるまい。
さて、残る問題はセントレアだろう。
どうしたもんかね。
改めてその姿を見やる。
ケンタウロスにしては色白だろうか。
二メートル超えの体躯に、引き締まった筋肉で構成された肉体。
上半身には女性用と思われる、膨らみのある胸当てを、下半身には馬鎧を身に着けていた。
顔は髭こそ無いがオッサンだった。
長い黒髪はポニーテールにしている。
馬でポニー……。
いや、気にしたら負けだ。
何に負けるのかは分からないが、とにかく気にしないのが一番だ。
「あらやだ、そんなに熱い視線でアタシの全身を嘗め回すように見つめるだなんて。魔王様ったら、大胆なのねん。いいわ、もっとよく見て!」
「――――」
サッと視線を逸らし、精神への負荷を最小限に留める。
ブラックドッグの元へ移動し、バッグを受け取る。
ついでに黒霧化してローブ内に隠れて貰う。
厄介なのは置いて行こうか。
そう決断すると同時に、全速力でその場から逃げ出す。
「――ちょ、ちょっと、魔王様!? 何処に行かれるの!? アタシを置いて行かないでー!」
そんな声と共に、四つの蹄の音が猛烈な勢いで追い縋って来るのを耳が捉える。
振り返っては駄目だ。
追い付かれても駄目だ。
縄梯子まで辿り着けば、もう追っては来れないはず。
――くっ、速い!
流石は四足歩行、馬力が違う!
いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。
アレの面倒は到底見切れまい。
誰か良い人に拾って貰ってくれ。
それか逞しく生き延びてくれ。
そう願いを込めながら、ひたすらに走り続ける。
突然、地面の感触が消えた。
驚愕に身構える。
意を決して振り返った先には、脇を両腕で抱え上げる怪異。
セントレアの姿があった。
「もぅ、お茶目な魔王様ねぇ。突然、何も言わずに追い駆けっこをさせるだなんて。でも、そんな魔王様も、アタシ嫌いじゃないわ」
「――――」
もう勘弁してくれ。
遠退きそうになる意識を必死に繋ぎとめる。
「お、降ろしてください」
「あら、追い駆けっこはもう終わり? アタシはもっと続けても構わないわよん」
「いえ、結構です」
真顔でそう言った。
そんな拷問は勘弁だ。
せめて光体が使えれば逃げ切れたものを……。
あの武闘家さえ居なければ、こんなことにはならなかったのに。
檻に閉じ込めておくのが正解だったのか。
「それで、これからどうするのかしらん?」
ようやく、その場に降ろされた俺。
再び駆け出したくもあるが、どうせ追い付かれるのは今ので十分理解した。
とはいえ、このまま地上には連れて行けない。
そもそも縄梯子では上がれないだろう。
出るとすれば、王都外へと続く通路を進む他ない。
「――えぇっと、セントレア、さん? 何処か帰る当てはありますか?」
「住処ってことかしら? それなら近場には無いわねぇ。走っても十日以上は掛かるかしら」
「一応、帰る当てはあるんですね? では、すぐに帰ることをお勧めします」
「嫌よ! 魔王様のお言葉とはいえ、お断りさせていただくわ。折角、王都まで来たのに、手ぶらでなんて帰れないわよ!」
「……手ぶらとは? 何を持ち帰るつもりだったんですか?」
「さっきも言ったじゃない。忘れちゃったの? 男よ、オ・ト・コ!」
「――――」
「アタシの生涯のパートナーを探しに、遥々この王都に来たのよ」
オスだろ、お前は!
そうツッコミたくなるのを必死に堪え、説得の材料について考えてみる。
さっき倒した冒険者でも宛がってやるのはどうだろうか?
「でも、お蔭で運命に相手に巡り合うことができたわ」
嫌な予感しかしない。
この先を聞いては、きっと後悔することになる。
そんな思いを余所に、相手はその続きを口にしてしまう。
「魔王様。アナタこそが運命の相手に違いないわ! さぁ、アタシと添い遂げましょう!」
「お断りします!」
再び全力でその場から逃げ出した。
案の定、再び捕えられた。
魔王は逃げられなかった。
「じゃあ、魔王様もアタシの故郷にいらしてくださるわよね?」
「……先程お断りしました。その考えは今後も変わることはありません」
「恋ってね……頭じゃなく心でするものなのよ」
「…………」
そんなことは聞いてはいない。
それよりも、この立派な両腕による羽交い絞めを一刻も早く解いていただきたいのですがね!
その思いが伝わったのか、地面に降ろされる。
「いずれ、魔王様にも分かる時が来るわ。今日、この時こそが運命の出会いだったんだってね」
まだ続いてたのか、それ。
この熱烈なアプローチが、女性のケンタウロスからだったならば、断りはするものの悪い気はしなかったかもしれない。
だけど、あんたは無理だわ。
「――ともかく、帰るつもりは無いんですね?」
「勿論よ! 愛しのダーリンと離れるつもりは一瞬たりともないわん!」
……ダーリンとは、誰のことだろうか。
見知らぬ誰かなのだろう。
きっとそうに違いない。
「ひとまずは、この洞窟内で待っていてくれませんか? 先程の商人や冒険者たちを兵士に引き渡したいので」
「――まさか、逃げる気じゃないでしょうね? 他に女がいるの!? 浮気!? 浮気なの、ダーリン!?」
「正気に戻ってください。さもなければ実力行使に出ますよ?」
「わ、分かったわ。だから、そんなに怖い顔をしないで頂戴」
「……では、大人しくここで待っていてくださいね?」
「分かったわ。ダーリンと離れるのはとても寂しいけれど、離れた時間の分だけ、愛しさが募るのよ。アタシ、耐えてみせるわ!」
「…………」
本当に言葉が通じているのか不安になったが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
檻に入れた2人以外は野晒しのままだ。
いずれは目を覚まして、逃げてしまうだろう。
そうなる前に兵士を呼んで来なくてはならない。
できればこの悪夢から目覚めるために、あらゆる手を尽くしたいところではあるが、今は現実と向き合うことにしよう。
ホント、どうしようかな、アレ。
セントレアはキャラが立ってて書きやすいのですが、話が遅々として進まないのが難点ですかね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




