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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第一章 王都改革編
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25 元勇者の魔王、真相と遭遇と 【修正】

22/12/22 誤字修正

 さて、どれから片付けたものか。


 まずは、唯一意識のある商人から済ませてしまおうか。



「えー、突然のことで困惑されているところ申し訳ありません。お話を伺わせていただきたいのですが、勿論構いませんよね?」


「――キサマは誰だ!? 一体何をした!? 用心棒はどうした!?」



 まだ目が眩んでいるのか、腰を抜かしたまま問うてくる。



「全員昏倒しています。……最初の質問には、お答えする気はありません」


「何だと!? キサマ……私が誰か分かってないから、そのような口を利いていられるのだぞ!」


「知りたいのは貴方が誰かではなく、何をしていたのかなのですが」


「そんなもの、素直にハイそうですかと言うわけがなかろう。すぐに兵を呼んで、全てキサマの責任に仕立て上げてくれるわ!」


「…………」



 よくもまぁこの状況で、そうも強気でいられるものだ。


 その胆力には、ある意味関心してしまう。


 余程に影響力のある商人なのかもしれないな。


 とはいえ、そんなことは俺には関係ない。



「誰を敵に回したのか、存分に後悔させてくれるわ!」


「仕方がありませんね。貴方には、そこにある檻に入って貰うとしましょうか」


「……何? 檻だと? ……ば、馬鹿かキサマは!? あの中には魔物が――」


「魔物が、何ですか? まさか、王都の地下に魔物を捕えているのですか?」


「くっ」


「素直に話してくださらないなら檻の中です。さあ、どうしますか?」


「…………話すことなど無い」


「では檻の中へどうぞ。幸い、聞く相手には困りませんし」


「――いや、待て、待ってくれ! わ、分かった、話す、話すから止めてくれ!」



 まだ檻の中にどんな魔物が囚われているのかは分からないが、この場に倒れている冒険者たちが捕まえられる相手なのだから、そこまで狂暴だとか強いということは無いと思う。


 もし万が一にも狂暴な魔物だった場合には、流石に檻の中に人を入れようとは思わないが、脅し文句としては十分効果があったようだ。



「では、まずはこの場所について教えてください」


「……この場所は人目を避けて魔物を取引するために造ったものだ」


「他の通路は何処に繋がっているんですか?」


「……王都の外、外壁上からは見えない場所へと繋がっている」


「そこから魔物を運び込んでいたと?」


「……ああ。王都の中を運ぶわけにもゆかぬしな」


「運び入れた魔物は、その後どうされたのですか?」


「……素材になりそうなら処理を。愛玩用になりそうなら高値で買い取ってくれる好事家に売り渡した」


「――他には? そのどちらでも無かった場合は、どうされたんですか?」


「……売り払ったさ。だが、用途までは知らん。経験値の足しにするか、ストレス発散のための道具とするかは買い手次第だ」


「――――」



 溢れ出しそうな感情を、必死に抑制する。


 まだ聞くべきことがある。


 全てを(つまび)らかにする必要があるのだ。


 僅かに漏れ出た怒気を感じ取ったのか、少し離れた場所に居るブラックドッグが怯えた鳴き声を上げた。


 すると、その鳴き声に驚いた商人が声を荒げる。



「ひっ!? ま、魔物が目覚めたのか!? た、頼む、檻には入れないでくれ!」


「――どうするかは、貴方の態度次第です。それで、冒険者たちとは、どういう取引を行っていたんですか?」


「……ぼ、冒険者共には魔物を捕えて貰い、それに対価を支払っていただけだ」


「薬草などについて、何か知りませんか?」


「…………」


「何度も言わせないでください。話さないなら檻に入れるだけです」


「くっ、わ、分かった……奴らには採取クエストを受けさせ、裏で魔物を捕縛して貰っていた。その報酬として金銭とは別に、採取クエストの薬草などを手配していたのだ」


「冒険者は採取クエストを完遂しているように見せかけて、その実、魔物の取引を行っていたと? そのために納品する物を、貴方が代わりに用意していたというわけですか」


「そ、そのとおりだ。な、なぁ、もう十分話してやっただろう? 勘弁してくれ」



 納品物の質が良いのは、まさしく商品そのものだったからか。


 冒険者たちは建前上、採取クエストを受けるだけで、実際はその報酬以上の金銭を得ていたわけか。


 …………。


 平和だと思って過ごしていた王都での日々の裏で、そんなことが行われていたとは……。


 商人や冒険者たちへの怒りもそうだが、何も知らずにいた自分自身への怒りも湧いてくる。


 しかしそうなると、下水道で遭遇した三バカは無関係に思える。


 スライムたちを捕まえようとはせず、倒そうとしていたわけだし。


 だが、山で遭遇した冒険者たちは、もしかしたらこいつらの一味だったのかもしれないな。


 平和になった所為で落ちぶれたのか、元からそうだったのかは知らないが、冒険者の質も随分と落ちたものだ。


 王都の地下にこんな洞窟を造ったことといい、魔物を運びこんでいたことといい、罪に問われるのは彼らの方になりそうだ。


 とはいえ、だ。


 これまでどれほどの数の魔物が彼らの犠牲となってきたことか。


 少しは報いを受けるべきではなかろうか。


 商人のそばに近寄ると、その首根っこを掴み上げる。



「な、何をする!? 聞かれたことには全部答えてやっただろう!? さっさと解放してくれ!」


「自分たちが一体何を犠牲にしてきたのか、その目でよく確認してみては如何ですか?」


「何だと!? どうするつもりだ、おい!?」



 商人を片手に持ちながら、檻のそばへと近付いて行く。


 檻に触れられる距離まで近付き、ようやく魔物の正体を知る。


 ……成程、確かに”素材にも商品にも”なりそうにない。



「おい、聞いているのか! 放せ! 放してくれ!」



 その声で気が付いたのか、檻の中の魔物が動きを見せた。


 今までは気絶でもさせられていたのかもしれない。


 物音に気が付いたのか、今度は商人が怯えを見せ始める。



「な、何の音だ!? くそっ、まだ目が見えない!?」


「――さっきからうるさいわねぇ。お蔭で目覚めの気分は最悪よ」


「――――」



 立ち上がったソレを見上げる。


 流石にデカい。


 人間と遜色無いか、それ以上の見事な体躯。


 引き締まった肉体を持つ、立派な”オス”だった。


 何故かオネェ口調だが、耳に届いた声質は渋いオッサンのモノ。


 そう、耳に、だ。


 頭の中にではなく、耳に直接言葉が聞こえてきている。


 だが、それも当然のことと言えよう。


 上半身は人間と同様なのだから。


 意を決して、話し掛けてみることにした。



「何故、ケンタウロスが王都の近くに居たんですか?」



 その魔物――上半身が人間、下半身が馬という、半人半馬のケンタウロスにそう問いかける。



「何ぃ!? ケンタウロスだと!? 今の声は魔物の声だったのか!? では、魔物が目覚めたのか!? 早く離れろ、離れんか!」



 商人が俺の言葉を聞き咎め、割り込んで来る。



「ちょっと、止めてよね、その呼び方! アタシのことはセントレアって呼んで頂戴!」


「セントレア、ですか?」


「……何よ、人間の癖に随分と教養がないんじゃなくて? セントレアっていうのはお花の名前よ。何でもご先祖様が薬として使用していたことから、ケンタウロスの別名となったんですって」


「はぁ、そうなんですか……?」



 駄目だ、まったく頭に情報が入ってこない。


 それもこれも、この声質と口調のギャップに他ならない。


 オッサン声のオネェ口調……。


 所謂、特殊な接待のお店にでも迷い込んでしまったような気分にさせられる。



「おい、何を悠長に会話しておるのだ! 相手は魔物なのだろう!? 早く遠ざけてくれ!」


「何よ、失礼しちゃうわね。まるで化け物扱いじゃない。そんなに怖がらなくたって、そんな脂肪の塊みたいな風体、こっちから願い下げだわ。――それよりも、そこのアナタ。もっとこっちに来て、そのお顔をよく見せてちょうだいな」


「――――」



 きょ、強烈過ぎる。


 何も考えずに、この場から逃げ出したい。


 そうして硬直し続けていると、ケンタウロス――もとい、セントレアがなおも言い募って来る。



「あらやだ、照れちゃってるのね。……無理もないわ。これ程までに美しいセントレアを目にしたのは初めてだったのでしょう?」


「――――」



 助けに来なくても良かったのかもしれない。


 眼前でなおも何か言っているセントレアから、意識的に視覚と聴覚を切断する。


 ちょっと、いや、大分刺激が強過ぎる。


 具体的には頭と目と胃が痛い。


 俺の知っているケンタウロスのオスは、もっと勇壮かつ快活としている印象だったのだが。


 当時はまだ魔王が健在だった所為で、敵対関係にこそあったが、人に似た容姿もあり、討伐する事無く退けるだけに留めおいていた。


 それが一体どうしたことだろうか。


 いや、人間にだってそういう人たちはいるわけだし、人に似たケンタウロスにだって、いてもおかしなことではないのかもしれないが。


 何と言うか、今までの魔物の印象が木っ端微塵になった気分だ。


 気を取り直して、いやむしろ、気合を入れ直して遮断していた感覚を元に戻す。



「……やっぱり、よく見ると精悍さの中に何処か幼さを残している顔をしてるわね。とっても好みのタイプだわ!」



 再び感覚を遮断した。


 まだ気合が足りなかった。


 相手は檻の中だというのに、この言いようのないプレッシャーは何だろうか。


 逃げたらそのまま追いかけて来そうな気がしてならない。


 王都には、何故こうも俺が苦手とするモノが多いのだろうか。


 宿屋の女将しかり、王子しかり、極めつけにこの自称セントレアしかり。


 弱気になるな!


 元とはいえ勇者だろう!


 三度、挑み掛かる。


 感覚を戻す。



「ぎゃぁあああああぁぁぁーーー!!!」



 途端、叫び声が直近から聞こえた。


 商人だ。


 様子を確認すると、見開かれた目がセントレアへと向けられている。


 どうやら、ようやく視力が回復したらしい。


 その直後にご対面してしまったようだ。


 同情はすまい。


 遂には気絶してしまった商人の身体をその場に横たえる。



「アタシを見て歓喜の声を上げながら気絶するなんて、とんだシャイボーイね。それとも、人間をも魅了するアタシが罪深いのかしら」


「――――」



 耐えろ、耐えるんだ。


 遠ざかりそうになる意識を必死に繋ぎ止める。



「――それで、どうして王都の近くまでいらしたんですか?」


「あら、さっきもそんなこと聞いてきたわよね? そんなの決まってるじゃない。男よ、オ・ト・コ。イイ男を探しに来たのよ」


「――――」



 ……あぁ、駄目かもしれない。



「それにしても、まさかとは思ってたんだけど、やっぱりそうみたいね」


「?」


「アナタ、新しい魔王様ね? ……もしかしたら、アナタが居たから無意識の内にここへ来てしまったのかもしれないわね」


「……どういう意味ですか?」


「だってそうでしょ? 魔王様の元に集いたいって思うのは、魔物として当然の本能じゃないかしら?」


「魔物の本能……」



 魔王の元に魔物が集まる?


 魔物にそんな習性があるのか?


 それとも、魔王にそんな特性が備わっているのか?


 スライムたちからは得られなかった情報だ。


 やっぱり、元々喋れる魔物が相手だと得られる情報の幅が広がるな。


 ……問題としては、会話の度に何かが消費されているように感じられることか。


 いや、ここは貴重な情報源を得られたと、良い方向に解釈しよう。


 決して現実から目を背けているわけでは無い。


 で、俺は一体、この後どうすれば良いのだろう。






ケンタウロス=セントレアについての補足となりますが、一応、この作品独自の設定という訳ではなく、実際にそういう由来があるらしいです。

そうして語感の響きから誕生したのがあのキャラになります。


また、セントレアはあくまでも種族名なので、キャラ名ではございません。


今回更新分では結構喋るので、かなり癖が強いですが、お楽しみいただければ幸いです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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