22 元勇者の魔王、姿なき冒険者達 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/06/14 全体を若干修正
日暮れを待たずに二人で下山する。
スライムやブラックドッグには、それぞれバッグとローブに隠れて貰っている。
周辺に冒険者の姿は無い。
そのことが嫌な想像を膨らませずにはいられない。
魔物を執拗に狙う冒険者。
それはまるで、かつての自分のようでもある。
ともすれば駆け出したくなる衝動を必死に堪え、受付嬢の歩幅に合わせながら王都へと向かう。
我ながら魔物に対して過剰な反応だと思う。
やはり、俺は変わったんだろう。
今はそれが良い変化であることを願うばかりだ。
道中、交わす言葉も少なく、目は忙しなく冒険者の姿を追い求める。
けれども見付からない。
そりゃあ、毎日クエストを受けているわけでもなかろうが、王都の冒険者の数は軽く百人は居るはずだ。
その半分以上がCランクだったか。
つまり、最低でも五十人は主に採取クエストか住人の手伝いのような依頼を受けていることになる。
この平和になった世では、ランクが上がるのに比例して依頼も減少する。
ランクアップするメリットが薄い。
無い、ではないのは、高ランクを見越してスカウト等があるからだ。
危険な地域への素材回収や、郵便や物資の配達や護衛など、平和となっても危険を伴う仕事は存在する。
Aランクならソロで、BランクならPTでそういった依頼を受けている可能性はある。
消去法で言えば、Bランクのソロ、及び、Cランクが怪しい。
流石にその全員が魔物討伐に躍起になっているとは思えないが、もしもの場合の覚悟は決めておく必要があるかもしれない。
冒険者ギルドの依頼無しに魔物を討伐することは、現状禁止されているわけでは無い。
現場なり証拠なりを押さえたとして、相手を非難できないことになる。
例えそれが、眉を顰めずにはいられないような状況であろうと、目を背けたくなるような状況であろうとも、だ。
俺はただ、独善的な理由により彼らの邪魔をしに行くことになる。
それこそ、下手をすれば俺こそが捕まりかねないだろう。
だがそれでも、無害な魔物が虐げられているのを見捨てることはできやしない。
相手は人間で、対立は必至。
戦闘は避けられないだろう。
負けは無い。
例えどれほどの数の冒険者が相手だろうとも、負けはしない。
1人の死者も出さすに済ませてみせる。
今の俺でも、それぐらいならばできるはず。
問題はその後だろう。
保護した魔物たちの処遇と、冒険者たちによる俺への罪科の訴え。
どちらも一筋縄ではゆくまい。
後者はもしかしたら元勇者の威光でどうにかなるかもしれないが、前者はまだ場所の確保ができてやしない。
少数なら宿屋の部屋でも問題無いかもしれないが、そうでなかった場合に困る。
いっそのこと、魔物を引き連れて国でも興した方が早いかもしれない、なんて妄想をしてみる。
魔王城は……あの戦闘で跡形も無くなってる。
残骸すらなく、ただの更地だ。
魔界は……魔物が山ほども居る地獄だった。
かつて魔王に放り込まれた際、仲間共々死にかけた。
もう二度と行きたくない。
いやいや、そもそも前提がおかしい。
魔物を匿うだけでは、将来的にまた同じ問題に直面する。
人間と魔物の共存こそが重要なんだ。
人間に魔物を正しく理解させないと駄目なんだ。
「――またお悩みですか、勇者様」
「え?」
掛けられた声に、思考を中断された。
「……そう言えば、どうして今もまだ俺を勇者と呼ぶんですか? 魔王になったのは知っているんですよね?」
思考を中断されたために、そんなことを疑問に思った。
「私にとって、勇者様は勇者様ですから」
「?」
「勇者だったから、そうお呼びしているわけでは無いってことです」
「???」
分からない。
彼女が何を言っているのかが分からない。
困惑を隠せずにいると、彼女が言葉を重ねてくる。
「どうか、御心のままに行動してください」
「……はぁ? 分かりました?」
どうしても疑問形だった。
よく分からないままに、王都外壁部へと辿り着いた。
こうして外壁部に上るのはいつ以来になるだろうか。
振り返れば、壁よりも低い建物が建ち並んでいる。
遠目に他よりも抜きん出た建物が3つ。
近いのが冒険者ギルドで、遠くに王城と教会がある。
だが、今見るべきはこちらではない。
顔を正面に向ければ、正門から伸びる街道と、一面の平野が広がっている。
そこには、冒険者の姿も魔物の姿も無い。
平和な光景ではある。
この光景を見た多くの人々はそう思うことだろう。
実際、平和ではあるのだ。
ただ、それでは表現として十分ではないというだけで。
そう、”人間にとっては”平和なのだ、と。
魔物にとって、そうでないことは明白。
魔王が倒されて、やっと正気に戻ったと思ったら、問答無用で人間に襲われているわけなのだから。
阻止しなければ。
人間の、元勇者で、現魔王である俺が。
外壁部の上で一人、そう思いを固める。
受付嬢も来てくれると言ってくれたが、丁重に断りお帰りいただいた。
そもそも部屋にも山にも、こちらの都合で付いてきて貰ったのだ。
これ以上付き合わせるのは申し訳なかった。
それに、彼女には悪いが、明日まで待つつもりはない。
ゆえに、荒事に巻き込まないためにも、お帰り願ったわけだ。
さて、来たばかりではあるが、場所を変えるとしよう。
そもそもが、だ。
いつもいつも正門から外へと出掛けている俺が他の冒険者の姿を見かけていないのだ。
なのに正門付近を見張っていても成果は見込めないだろう。
四方を外壁で囲まれている王都。
可能性としては他の三方、だが、正門とは正反対に位置する王城側の外壁は兵士たちが見張りを行っているし、そもそも北側に出入り可能な場所は存在しない。
なので、見張るべきは東西の二方向に限られる。
当然、普通は1人で正反対に位置する箇所を見張ることなどできるはずもない。
――が、俺は普通ではない。
≪複数視点≫
中級の光魔法。
これで場所を移動する事無く、他の地点を監視できる。
理論上は3か所以上見ることも可能だが、人間の目が2つなためか、3つ以上は強烈な負荷が掛かる。
無理せず2か所の監視に留めるとしよう。
視界を左右に2分割したような状態で、監視を行う。
空の端が茜色に滲み始める。
そろそろ、誰かが王都へ帰ってきてもおかしくないんじゃないかな。
そう思い、気を引き締めて監視を続ける。
空が茜色に染まる頃になっても、まだ冒険者の姿は見付けられなかった。
――おかしい。
以前、夕方に冒険者ギルドに赴いた際、一階は冒険者が長蛇の列を成していた。
この時間になっても、誰も王都に帰って来てないなんて変じゃないか?
マルチビューの対象を切り替える。
切り替えた先は冒険者ギルド。
するとそこには、既に冒険者が列を成していた。
どういうことだ!?
見張っていた方向から冒険者は帰還していないのは確実だ。
では、他の方向から帰還したのか?
だが、王城側からは王都内には入れない、王都に出入りするには3か所の門の何れかを通るしかない。
方角的には、北側は王城となり、南側が正門、残る出入口は東西の門だけだ。
今回、俺は魔法を用いて東西の門から王都の外側を監視していたわけで。
つまり、王城のある北側から帰って来たとしても、俺の視界に入らないわけがない。
俺の死角と成り得たのは、唯一、正門側だけだ。
だが、今なお目に映っている冒険者ギルドに集まる冒険者たち。
その全員が正門側から帰還したのか?
いや、そんなはずは無い。
いつも正門を利用しているのに、他の冒険者とは遭遇しなかった。
では、一体どこから冒険者たちは現れたというのか……。
こうなっては致し方ない。
何処から帰って来るかではなく、何処に行くかを確かめるしかないようだ。
予定が狂ったが、明日、早朝から冒険者を張り込むしかあるまい。
そしてその後を付けるのだ。
まるで訳が分からないが、その疑問は明日、必ず晴れることになるだろう。
今はただ、俺の懸念が取り越し苦労であることを願うばかりである。
外壁を下りた後、冒険者ギルドへと向かう。
冒険者へ詰問しに行くわけではない。
採取クエストの報酬を貰うためだ。
先程外壁の上から見た時よりは数を減らした冒険者の列に並ぶ。
後を付けるのは明日にしたとはいえ、情報収集は怠らない。
こうしてる今も耳をそばだて、それらしいことを言っている者が居ないか探っている。
しかし、魔物の魔の字も聞こえては来ない。
ふと気になったことがあったので、カウンター付近の会話に意識を集中させる。
――妙な話だった。
聞こえてきたのは、採取クエストの完了報告ばかり。
これだけの人数が、一体どこでそれを成したというのか。
何か妙なことに首を突っ込んでいるような気がしてならない。
しばらくして俺の順番が来たので、手早く手続きを終わらせる。
その折、他の冒険者あっちの採取クエストについて聞いてみた。
どれも質の良い品ばかりだったそうだが、余り参考にはならなかった。
周りの冒険者たちを見やり、後ろ髪を引かれる思いながらも、帰路に着く。
ともかく今日は早く寝て明日に備えよう。
明日、決着させる。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




