17 元勇者の魔王、迫る脅威 【修正】
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
22/06/05 全体を若干修正
目覚めは衝撃を伴った。
揺れた。
それもハッキリと、だ。
すぐさま意識が覚醒し、状況の把握に努める。
地震……ではない?
地震にしては揺れが等間隔なうえに揺れの強さも一定に感じる。
窓から外を見やると、まだ薄明かりを湛えた早朝らしかった。
耳をそばだててみれば、屋内だけでなく、屋外でもこの振動に気が付いた住人たちで少し騒ぎが起きているようだった。
心なしか、断続的に伝わってくる振動が徐々に強くなっているようにも感じられてきた。
一体全体、この振動の原因は何なのか?
そう疑問に思ったところで答えは返ってなどこない。
座して待つのは愚策、ここは行動あるのみだ。
ベッドから起き上がり、身支度を整える。
さて、スライムやブラックドッグはどうしたものか。
この場に残し、もしこの地揺れで宿屋が倒壊でもしようものなら、悔やんでも悔やみきれない。
いつもどおり連れて行くべきか。
思案は一瞬、すぐにバッグへとまだ寝ているスライムたちを掴み入れ、ブラックドッグは霧化させてローブ内に潜ませる。
準備万端、部屋を出る。
室内よりも騒ぎが顕著になる。
他の宿泊客も各々の部屋から出て、状況把握と避難の是非について話し合っているようだ。
それらを余所に足早に宿屋を後にする。
――間違いない、何かが近づいてきている。
この断続的な振動は、何か巨大な質量の接近を表しているようだ。
方向は……どっちだ?
視線を周囲へと素早く這わす。
南側に面した此処は、家々の明かりが点き、道にも人々が多く出て来ている。
北側、中央の冒険者ギルドには多少の人影が見受けられるものの、その先の王城から兵士の動きは見て取れない。
ならば向かうべきは南の正門か。
進路を定め、大通りを駆け抜ける。
王都全体が揺れに見舞われるなんて、尋常ではない。
一体、どれ程の質量を以てすればそんなことが可能なのか。
しかも、それは刻一刻と王都へと接近しているらしいのだ。
…………。
待てよ、何かが引っかかる。
最近、そんな話を聞いたような覚えが……。
――そうだ、王子だ。
確か魔物が王都に現れたらどうするか、みたいな問答をつい昨日したばかりではなかったか。
余りにもタイミングが良すぎやしないか?
王城か、正門か。
一瞬、向かうべき場所を逡巡してしまう。
が、やはり足を止めること無く、当初の目的どおりに正門を目指す。
王子を問い質すのは後からでもできる。
今は、王都に迫る何かへの対処こそが肝心だろう。
魔物であろうことは見当が付いている。
問題なのは、その種類。
何がこの揺れをもたらしているのか。
その疑問への答えは、あの外壁部の外にある。
大型の魔物として、真っ先に思い付くのはドラゴンだが。
個人的に狙われる理由について、心当たりもある。
混乱を次第に増していく住人たちを無視するように、一人、王都の外を目指して走る。
――よりにもよってコイツか。
まず思ったことといえばそれだった。
正門を抜けた先、迫りくる異様を仰ぎ見る。
今なお迫りくるソレは、巨大な人型をした緑色の魔物。
ジャイアントだった。
申し訳程度の腰巻だけを身に着け、ゆっくりと歩いて来ていた。
驚くべきは、その大きさ。
外壁部の高さを超えるほどの体長を誇っている。
これ程の巨体を目にしたのは初めてのことだった。
魔王討伐の旅路で、ジャイアントと戦ったことはあった。
あったが、そのどれもがこんな規格外な大きさではなかった。
精々大きい個体でも、大体一階建ての建物と同じぐらいの3メートルといった程度だった。
こんな10メートルを超える個体には、終ぞお目にかかったことはなかった。
昨日の赴いた山に動物たちが居なかった原因はコレか。
恐らく、人よりも危険に聡い動物たちは、いち早く脅威を察知し何処かへ逃げ延びたのだろう。
食品の減少も、王都周辺の動物たちが逃げてしまったがために起きたことなのかもしれない。
ジャイアントは人型の魔物ではあるが、人語は解さない。
独自の言語を用いているのだ。
だが、俺には【意思疎通 (魔)】のスキルがある。
これで対話は可能なはず。
問題は対話に応じてくれるかどうかだが。
そう考えている間にも、ジャイアントは王都へと距離を詰めている。
それに、この場に居るのは俺だけではない。
門の外や外壁部の上に兵士たちの姿がある。
皆、迫る脅威に対し、及び腰になっている感は否めないが、それでも遁走をはかる者は一人も居ない様子。
だが、今はそれこそが問題でもある。
ジャイアントの膂力は並大抵の強さではない。
殴れば岩を砕いてみせる。
しかも迫り来るのは、一際大きな個体だ。
その有するであろう膂力は、鎧を着込んだ兵士と言えども、一撃で文字どおり粉砕してのけることだろう。
逃げろと言って聞くとも思えないし。
先んじて対峙する必要がありそうだ。
さて、今のステータスで対抗し得るだろうか……。
念の為にと、バッグとローブをその場に置き、一気にジャイアントへと距離を詰める。
周囲の兵士たちから制止の声が掛けられるが、当然無視。
近づけば近づく程に、その異常とも思える大きさが否が応にも伝わってくる。
最早空を見上げるように首を傾けながら、その姿を視界に収める。
ジャイアントの歩幅で後数歩という位置で立ち止まり、声を掛ける。
「そこで止まってください! それ以上王都に近づけば、如何にその巨体と言えども無傷では済みませんよ!」
『――――』
返る言葉は無かった。
その代わりとでもいうように、足が振り抜かれた。
数歩分の距離は忽ち零へ。
「ガッ!?」
肺の空気を強制的に吐き出させられる。
そして宙に浮く身体。
衝撃は前と後ろで二度。
正面は蹴りを、背後は外壁部への衝突だった。
数十メートルは離れていた外壁部まで蹴り飛ばされてしまった。
痛い――なんてものじゃない!
全身がバラバラにされたかと思う程の衝撃だった。
今でも五体満足なのが不思議なぐらいだ。
目を閉じ、HPを確認してみる。
============================================
HP:300/548
MP:548/548
物攻力:548
物防力:548
魔攻力:548
魔防力:548
素早さ:548
============================================
1撃で250近く削られていた。
防御力分を差し引いてこの数字ってことは……。
つまり、相手の物理攻撃力は800近いってことか!?
後2撃食らったら死ぬぞこれ……。
しかし、返事の代わりに蹴りを見舞ってこようとは。
ブラックドッグに引き続き、またも意思は伝わってこなかった。
今度も実は魔物じゃないとかいうわけではなかろうな。
支配をしようにも、この力は相手の頭部に触れる必要がありそうだ。
あの巨体の頭部に触れるのは、容易なことではない。
というか、単純に届かない。
体感したばかりの脚力からして、転倒させるというのも困難だろう。
周囲の兵士たちを見やれば、俺の有様を知ってか、接近戦は諦め弓矢やボウガンによる遠距離攻撃を行っていた。
だが、あの巨体相手である。
大した効果は見込めそうもない。
兵士よりかは、冒険者の方が余程に役立つだろうが。
未だ、現場に到着してはいないらしい。
いや、そもそも来る気があるのか。
念願の魔物がこうして現れたはず。
我先にと殺到しそうなものだ。
だと言うのに、誰の姿も無いなんて。
どういうつもりなのか気になるところだが、今は思考を割いている余裕も無い。
ジャイアントにどう対処すべきか。
売り払ってしまった愛用の剣ならば、容易く斬り裂いてみせるのだろうが、討伐したいわけではない。
まだ、兵士に犠牲者は出ていない。
どうにか説得するなり、せめて王都から退いてくれさえすれば良いのだが。
人型にめり込んでいた外壁から抜け出し、地面へと降り立つ。
そこでふと、先程置いていったバッグやローブを思い出す。
置いていって正解だった。
ブラックドッグは霧状になっているから良いとして、スライムたちは下手をすれば潰されていたな。
少しの判断ミスで、容易く犠牲が出る。
現状、目的不明で対話不可な相手。
それも今の俺よりも強いときたものだ。
ここにはかつての仲間たちも居ない。
他の誰かには頼れない。
ここで阻止できなければ、どれ程の被害が出るかも分からない。
折角平和になったのだ。
その平和を踏みにじられるわけにはいかない。
誰も死なせない。
例え勇者ではなくなったこの身であろうとも。
思いは今も失ってはいないのだから。
そして、勇者の力の一部も――。
出し惜しみは無し。
元より、これは全力でしか在り得ない。
使う。
≪光体≫
光の超級魔法。
瞬間、極大の光量が地上にて発生した。
朝を待たずに王都周辺が明るく照らされる。
全身が強烈な光に包まれ、身体の輪郭さえも視認できなくさせていた。
まさに光の化身。
さしものジャイアントも、この光量を前に足を止め、両腕で目を庇っている。
まずは王都から離れて貰おうか。
その場で前方へと軽く跳躍してみせる。
次の瞬間にはジャイアントの胴体に触れる位置まで移動していた。
眼前の胴体を手の平で軽く押してやる。
すると冗談みたくジャイアントが吹き飛んでしまった。
相変わらず、とんでもないな、コレ。
光の上級魔法の更に上、超級魔法。
時間制限付きとはいえ最強の自己強化魔法だ。
全MPを消費して発動し、1MPにつき1秒換算でMP消費分の活動が可能となっている。
最大の利点として、ステータスの上限を超えて、物理と魔法の値を加算した状態へと至れる。
故に攻撃も防御も、物理と魔法が一体化しており、レベル1の俺でもステータス的には1000超えとなっているはず。
基本、この状態に勝てる相手は存在し得ない。
勇者のみが扱えた光魔法の極致だ。
まさか魔王に転職しても使えるとは思わなかったが。
今はそれを喜ぶべきだろう。
さて、時間制限もあることだし、あまりのんびりはしていられない。
流石にこの巨体と、スライムたちみたく共に暮らすわけにもゆくまい。
棲み処に戻って貰うしかない。
――と、身体に違和感を覚える。
何だ?
全身がピリピリする?
次第に倦怠感すら覚え始めてきた。
どういうことだ?
目を瞑って状態を確認してみる。
============================================
HP:230/548
MP:0/548
物攻力:1096(+548)
物防力:1096(+548)
魔攻力:1096(+548)
魔防力:1096(+548)
素早さ:548
============================================
一体何が……。
ん?
HPがさっきよりも減ってる!?
何で……?
そうしている間にも、段々とHPが減っていってしまう。
おいおいおい!?
どういうこと――ハッ!?
そうか!
魔王のスキル【光属性弱化 (小)】か!
今は全身を光魔法に包まれている状態なわけで、光魔法に弱い魔王は継続ダメージを受けている状態なのか!
これは不味い!
さっさとケリを付けねば、時間制限を待たずに、HPが尽きてしまう。
……とんだ自爆技になったもんだ。
そう頭の中で愚痴りながら、目を見開き、ジャイアントを追っ払うために再度接近を試みる。
――つもりだったのだが、視界には遠ざかっていくジャイアントの背中が映っていた。
は?
え、何?
もしかしなくても、既に逃げているのか?
まだ交戦らしい交戦を行ってもいないのに……。
いや勿論、交戦が目的ではないのだが。
茫然とその後姿を見送る。
何とも肩透かしな幕引きだった。
結局、あのジャイアントの目的は何だったんだ?
その疑問に答える者は残念ながら居なかった。
お気付きかとは思われますが、あの魔法の元ネタはバ○タードです。
ちなみに、次点は光の巨人でした。
こっちは有名な宇宙人と被る上にルビが思い付きませんでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




