105 元勇者の魔王、遊びましょう
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
く、苦しい。
果実を5つ食べただけなのだが。
まさか、これほど腹が膨れるとは思わなかった。
「やっぱり、言わんこっちゃない」
「――何じゃ、食い過ぎか? ここでは色々と勝手が違うからの。おそらく10日以上は滞在することになるじゃろうから、早う慣れるんじゃな」
「は、はい。善処、します」
「――その様子では、話すのも難しかろう。しばし食休みをするがよい」
「そ、そうさせて、頂きます」
椅子の背に体重を預け、脱力する。
もし今、襲撃に見舞われたらかなり不味い。
ちょっと動けそうにない。
「コロォ~?」
不意に地面から声が聞こえた。
「――ん? 何じゃ? どうした、オマエだけか? はぐれたのかの?」
ドリュアスの視線を追うと、コロポックルが一体だけ居た。
っと、不味い。
あんまり下を向くと、出る。
上へ向き直り、消化に努める。
そうしている間にも、ドリュアスがコロポックルと会話を続けている。
「コロ?」
「――何、心配いらん。只の食い過ぎじゃ」
「ポ」
「――そうじゃ。しばらく経てば、動けるようになるじゃろうて。それよりも、もう怪我の具合はよいのか? 妾の不徳じゃ、堪忍してたもれ」
「ポ! ポー」
「――そうか、ありがとうな。其方は良い子じゃな」
「ポー」
「――分かった。じゃが、後でな。ほれ、皆の所へ戻っておれ」
「ポ」
視線だけを向けていると、コロポックルが飛び跳ねながら視界の端へと消える。
先程の遣り取りを聞いていた限り、どうやら会話が成立していたらしい。
もしかしたら、俺の意思疎通と似たような感じなのかもしれない。
「相変わらず不思議な会話よね。傍から見てても、サッパリ意味不明だわ。何て言ってたの?」
「――人間と遊びたがっておったわ。オヌシ、余程に気に入られたと見えるな。済まぬが、後で相手をしてやってたもれ」
「構いませんよ。只、残念ながら、何を言っているのかまでは分かりませんが」
「――慣れるしかあるまいて」
「アドバイスが雑ね」
アルラウネが呆れた声を返す。
表情を窺えば、視線もジト目となっていた。
「――ならば、其方がアドバイスをしてやるのじゃな。先達じゃろう?」
「また勝手な事を……それに、アタシは好かれてないから、参考にはならないわ」
「――どちらかと言えば、其方の方が避けておるように見えるがの」
「うっさい!」
腕を組んでそっぽを向いてしまう。
アルラウネは、コロポックルが苦手なのだろうか?
「――まぁ、ブラックドッグが懐いておるようじゃし、問題はなかろうて」
「でも、それって支配とかってやつの影響じゃないの?」
横目で胡乱気な眼差しを向けながら口を挟む。
「――生憎じゃが、異なる系統故に、意思を汲み取ることは叶わんが、無理矢理に従っている訳でないのは、見て取れる」
ドリュアスの言葉に引っかかりを覚え、質問を口にする。
「言葉が通じないのですか?」
「――妾の場合じゃと、植物系統の妖精とならば意思疎通が可能じゃ。じゃが他の系統とは、言葉が喋れん限り、意思を汲み取ることは叶わん」
言葉の壁。
と言うよりかは、意思疎通の壁、とでも称するべきなのだろうか。
共存を図るためには、避けては通れない問題だ。
ある種、支配ならば、無理矢理に可能にはできるのだろう。
ただし、期間限定の。
魔王が倒された時、支配は解除される。
魔物の狂暴化が解けたのが良い証拠だろう。
つまり、俺が居なくなれば、また元通りというわけだ。
意味がないとまでは言わないが、あまりに無責任が過ぎるだろう。
これはまたとない機会だ。
何せ、人間と魔物と妖精。
他種族で会話が成立している、極めて稀な状況なのだ。
最優先すべきは王子の発見と討伐だが、この縁は大事にしたい。
いや、大事にするべきだ。
「うぷっ」
いかんいかん。
考えるだけでも、込み上げて来る。
今はジッとしていよう。
直上から差し込む陽光に、目を細める。
相変わらずの昼間の陽気。
正確な時間はまったく把握できない。
ようやく動ける程度には消化ができたが、外界では何時だろうか。
木々に挟まれた通路を進む。
後にはブラックドッグが続く。
向かう先は広間だ。
目的は当然、コロポックルと遊ぶため。
敵の襲撃は途絶えている。
だからと言って、油断はできない。
先程までのように、身動きが取れない事態は避けたい。
何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如し。
程々にしておくべきだ。
広間を前に足を止める。
眼前には無数の緑の群れ。
サイズが小さくなったことで、より数が増えたような錯覚を起こす。
「コロ?」
一体がこちらに気が付いた。
連鎖反応でもするかの如く、他の個体も一斉にこちらを向く。
ナニコレコワイ。
「「「「「ポーー!」」」」」
唱和が起こる。
次々に飛び跳ねている。
喜んで貰えているようだ。
しかし、この数を相手に、余力を残すことは叶うのだろうか。
不安が尽きない。
「ポ」
一体が足元から見上げてくる。
期待に満ちた目だ。
応えてあげたい。
全力を尽くさないよう、頑張ろう。
決意も新たに、広間へと足を踏み入れる。
緑の群れが寄って来る。
あっという間に、扇状に囲まれた。
さて、どうしたものか。
会話は通じない。
ドリュアスは魔力の調整とやらで、手が離せないらしい。
アルラウネは、明らかに面倒がって拒否していた。
俺がどうにかするしかない。
不意に、黒い影が前方へ動いた。
ブラックドッグだ。
緑の群れに頭から突っ込んだ。
「え?」
思わず口から疑問が漏れる。
次々に宙へと打ち上げられるコロポックルたち。
「コロォ~~!?」
「ポーー!」
コロポックル達から、様々な声が上がる。
緑の海を黒い影が泳ぐ。
水しぶきの代わりとでも言うかの如く、緑の球体が宙を舞う。
何だこれは。
スライム達に対してもそうだったが、ブラックドッグは宙に跳ね飛ばすのが好きらしい。
緑の雨が降る。
ボトボトと落下するコロポックルたち。
突然の事態に硬直していた体が、ようやく反応する。
遅れて駆け寄り受け止める。
状態を確認してみるが、その表情は楽しげだ。
「ポ!」
流石に加減をしていたのか、怪我をした個体も居ないようだ。
これで遊んでいる事になるのだろうか。
甚だ疑問ではあるが、少なくとも嫌がっている様子はない。
そばにいるコロポックルたちは、期待の眼差しを向けてきている。
俺も真似してやれば良いのだろうか。
試しに、両手に一体ずつ乗せ、宙へと飛ばしてやる。
「「ポーーー!」」
聞こえて来るのは楽しげな声。
重力に引かれ、落ちてきたところをキャッチしてやる。
「「ポ!」」
やはり、その表情は楽しげだ。
周囲のコロポックル達が跳ね回る。
要するに、高く飛び跳ねるのが楽しいって事なのだろう。
しかし、コロポックルの数は軽く百体以上はいる。
両手を使っても、中々に大変だ。
ここは一計を案じることにする。
一度に大量の個体を相手にできる手段。
そして、落下時に怪我をさせない措置。
イメージするのは、弾性のある網といったところか。
≪光糸≫
光の中級魔法。
余り魔力を消費し過ぎないよう、注意する。
糸を太くし、弾性を持たせる。
更に、交差させ網状に仕上げてゆく。
網目はコロポックルが落ちない程度に調整する。
出来上がるのは、即席のネットだ。
広間の両端へ渡し、ネットを張る。
そこにコロポックルたちを次々と乗せてやる。
何が起こるのか分かっていない様子で、大人しくされるがままとなっている。
十分乗せ終わったところで、ネットを上下に揺らしてやる。
すると、ネット上でコロポックルたちが跳ね回った。
「「「「「ポーーー!!!」」」」」
コロポックル達は軽い為、自重による反動でネットを揺らすのは難しい。
つまりは、俺が揺らし続ける必要があるわけだが、ネットを揺らし続けるぐらいは、それほど苦にはならない。
一体一体を相手するよりかは、余程に効率的と言えるだろう。
もっとも、ネットを用意する為に魔力を消費するので、次回以降は、ドリュアスに頼んで、蔓でネットを再現して貰った方がよいだろう。
ネットで飛び跳ねる個体と、ブラックドッグに跳ね飛ばされる個体。
広間では、楽しげな声が響き渡っていた。
22/03/23 誤字修正
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