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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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104 元勇者の魔王、妖精の母

 妖精の住処の最奥。


 大樹がそびえる空間に、再びコロポックルの群れが訪れる。


 コロポックルの総数は不明だが、予想通り、数回に分けて大樹へと魔力供給を行っているようだ。



「――そう言えばオヌシ、腹は減っておるのか?」


「え? そうですね。多少減っている気がします」


「――やはりそうじゃったか。妖精は言うに及ばず、アルラウネも十日に一度の食事でこと足りておる。じゃが、人間はそうもゆかぬようじゃの」


「人間て不便なのね」


「――確か、まだたくわえがあった筈じゃ。案内してたもれ。妾はしばらくここを動けんでの」


「まったく、仕方ないわね。付いてらっしゃい」


「はい」



 言われるまで気が付かなかったが、昨日から丸一日、何も食べていない。


 その割には、空腹感が僅かだ。


 精々が一食分の空腹と言ったところだ。


 妖精の住処では、あまり空腹を覚えないらしい。


 これも外界に比べて、魔力が満ちている所為なのだろうか。


 先導するアルラウネに続き、大樹の空間から通路へと出る。


 通常では在り得ぬ程の高さを誇る木々の合間。


 広大な回廊にでも足を踏み入れたかのような感覚だ。


 もっとも横幅は、大人3人が両腕を伸ばした程度の広さだが。


 天井の異様なほどの高さに比べて横幅が狭い分、妙な圧迫感というか閉塞感みたいなものを覚えもする。


 広場までの道中、特に目印らしき箇所は見当たらない。


 だが、通路の途中でアルラウネが立ち止まった。


 左側の木々に向かい、手を伸ばす。


 木の表面に触れて間もなく、変化が起きる。


 木々が左右に分かれて行き、奥に空間が広がっている。



「じゃあ、中から食べ物を見繕ってきて。ただし、余り欲張らない方が良いわよ。外界とこことじゃ、満腹を感じるまでの量も違うから」


「分かりました」



 出来上がった部屋の入り口に佇むアルラウネ。


 その横を通り、部屋へと足を踏み入れる。


 中には、様々な果実が保管されていた。


 ふと頭をぎるのは、スライムたちのことだ。


 スライムたちは果実を好んでいた。


 この場にいれば、きっと大はしゃぎしたに違いない。


 少し寂しさを覚える。


 こちらを気遣ってか、ブラックドッグが身を寄せてくる。


 しゃがみながら、体を撫でつけてやる。


 さて、果実だと、どのくらいの量で腹が満たされるのだろうか。


 流石に腹一杯になるまで、果実を食べた経験がない。


 先程のアルラウネのげんもある。


 想像よりも少ない量の方がよいのだろう。


 果実を五つほど手に取り、部屋を後にする。



「そんなに持ってきて、ちゃんと食べられるの?」


「え? これでも多いですかね?」


「アタシが人間の食事の量なんて知るわけないでしょ?」


「はぁ……?」



 では一体、何を注意されたのだろうか。



「またお腹が空いたら声を掛けなさいよ? 人間がいつ空腹になるかなんて、こっちは分からないんだからね」


「分かりました。世話を掛けます」



 突き放したような物言いに反して、面倒見は良いらしい。


 難儀な性格のようだ。


 果実を抱えながら、再び歩き出したアルラウネに付いて行く。


 方向的に、大樹の空間へと向かっているようだ。


 そこで食事を取ればよいのだろう。


 何の説明もないけど、多分。






 戻ってきたら、丁度、コロポックルの群れとすれ違った。


 皆、小さくなっていた。


 器用に跳ねて移動している。


 遠のく姿は、まるで葉が波にさらわれていくかの様だ。



「――食べれそうな物はあったかの?」



 大樹のそばに居た、ドリュアスが問いかけてくる。



「はい、有難く頂戴します」


「――人間じゃと、二日程度で空腹を覚えるかもしれぬな。もし戦闘などあれば、より短時間で腹も空くじゃろう。気付かぬやもしれぬから、声を掛けてたもれ」


「分かりました」


「それで、コロポックルたちの魔力供給は終わったの?」


「――うむ。一通り終わったところじゃ。皆、元の愛らしい姿に戻っておったわ」


「最近はずっと大きな姿のままだったものね」


「――母が子を生まぬよう諭すのも、一苦労じゃな」


「大樹がどうかしたの?」


「――いつにも増して、魔力がみなぎっておるからのう。放っておくと、必要な魔力以外で、子を生もうとしてしまうのじゃよ」


「大樹が妖精を生み出すのですか?」


「――左様。妾も、コロポックルたちも、母から生まれたのじゃ」


「そうだったんですね」



 ドリュアスの愛しげな視線が、この空間の主であろう大樹へと向けられる。


 たびたび、ドリュアスの口から発せられていた、母という単語。


 疑問には思っていたが、成程、そういう意味だったのか。


 妖精は植物から生み出されていたのか。



「――オヌシ、勘違いしておりそうじゃな」


「え? 何がでしょうか?」


「――何も、全ての妖精が大樹から生み出される訳ではないぞ?」


「そうなんですか?」


「――よく考えてもみよ。オヌシの連れのブラックドッグが、大樹から生まれると思うてか?」


「それは……」



 考えてみれば違和感があるか。


 一概にそうという訳ではないらしい。



「――基本的に、植物からは植物の妖精が、動物からは動物の妖精が生まれる感じじゃな。例外的に、鉱石などからも妖精が生まれる場合があるようじゃがな」


「そうだったんですね。知りませんでした」



 生まれるとはいっても、出産という訳ではないのだろう。


 植物が出産というのも変な話ではあるのだが。


 しかし、ブラックドッグは動物から生まれたのか。


 この大樹のように、母たる存在は特別な個体だったのだろうか。



「具体的には、どういったモノが、妖精の母体足り得るのでしょうか?」


「ちょっと待って! まずは座らない? 食事もまだなのに、何で立ち話し始めてるのよ」



 アルラウネから制止の声が掛かる。



「――済まぬ済まぬ。久方ぶりの新たな話し相手を得て、妾も興奮しておるのやもしれぬ。許せ」


「アタシじゃ不満だったってわけ?」


「――長い付き合いじゃ。大体、お互いの考えていることは、言葉にせずとも分かるじゃろう?」


「まぁね。何となくだけど」


「――考えが読めぬからこそ、面白いんじゃよ。さて、また怒られんうちに、こさえてしまおうかの」



 ドリュアスの言葉と同時に、植物によって緑の椅子と丸机が出来上がる。



「話好きだったなんて、初耳だけど」



 言いながら、アルラウネがいち早く席に着く。


 ドリュアスが続く。


 二体の視線がこちらに向けられる。


 遅れて、俺も着席した。



「――さて、何の話じゃったか……妖精の母についてじゃったか?」


「はい」


「――まぁ、見当ぐらいは付いていようが、魔力を特別宿したモノが成るようじゃな。いわゆる、"ぬし"と呼ばれる存在じゃろうか」


「なるほど。動物などは分かり易いですね。では、鉱物の場合は?」


「――古いモノとかじゃろうかのう。ほれ、ノームとか分かり易いじゃろう。奴らの母は、地面そのものじゃ」


「ノーム、ですか」



 確か、洞窟などで目撃例が報告されている妖精だったか。


 残念ながら、見たことが無い。


 しかし成程、確かに地面ならば、最も古いモノと言えるだろう。



「――恐らく、一番数が多いのは空気を母とする妖精じゃろうな。次に水、三番目がノームじゃろうな。あいにくと、この山は母の領域。他の妖精はおらぬがな」


「妖精も種類によって、住み分けしている訳ですか」


「――住み分けと言うのかどうか。基本的には――」


「あのさぁ、まずは食事を済ませたら? アンタたちって、そんなにお喋りが好きなわけ?」


「あ」



 アルラウネに指摘されて気が付いた。


 未だに果実を抱えたままだ。


 つい先ほど、食事を促されて席に着いたばかりだというのに、また性懲しょうこりもなく、話し込んでしまっていた。


 興味深い内容の話に、ついつい夢中になってしまった。



「――これは相済まぬ。そうじゃったな。まずは食事を取られるが良かろうて。話す時間は十分にあるじゃろう」


「はい、では頂きます」



 礼を言ってから、果実に手を付ける。


 口内に広がる、僅かな酸味と圧倒的な甘味。


 美味しい。


 普通の果実とは、別物にすら感じられる。


 しばしの間、果実を平らげる事に夢中になった。






22/01/30 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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