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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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102 元勇者の魔王、悲しみの寝床

 せがまれるままに、王都での出来事を話して聞かせた。


 主に質問してくるのは、アルラウネ。


 魔王討伐に関しての話題には、極力触れたがっていない様子だった。


 無理もない。


 つまりは魔物退治の話に他ならない。


 到底、気分のいい話には成り得まい。


 夜を迎えるまでの間、話は続いた。


 とはいえ、ドリュアスが夜を告げなければ、いつ夜になったのかさえ分からず仕舞いだったわけだが。


 語るにつれ、連れ去られた皆への想いがつのった。


 焦燥感もまた込み上げてくる。


 次第に話が尻すぼみになっていったころ、ようやく夜の訪れを告げられた。


 ドリュアスに促されるままに席を立ち、空間の奥へと進み出る。



「――さて、先の話し合いの通り、魔力を半分ほど、母へと注ぎ込んで貰うぞ。準備はよいか?」


「はい、いつでもどうぞ」


「――うむ。では始めてくれ」



 大樹へと手をあてがう。


 目を瞑り、手の平へと意識を集中させる。


 やるべき事は、ブラックドッグへの魔力供給と変わらない。


 ステータスを確認しながら、MPの半分ほどを、大樹へと流し込んでやればよいのだ。


 魔力が移動を始める。


 体から腕を伝い、手の平から大樹へと流れゆく。


 大樹が淡い光を宿す。


 しばらくして大樹から手を放す。


 一気に半分ほどの魔力を失い、体には少し倦怠感がある。


 もっとも、この後は寝るだけだ。


 襲撃がなければ、の話ではあるのだが。



「――まずは成功じゃな。やはりまとまった魔力を吸収すると、母と言えどもこたえるようじゃな。魔力量を調整して正解じゃったか」


「そうですか。それで、俺は何処で寝ればよいでしょうか?」



 大見得おおみえを切って実家を出てきた手前、舌の根の乾かぬ内に戻るのは、とても気まずいものがある。


 できれば、この住処で寝泊まりしたいところなのだが。



「――そうじゃのう。襲撃に備える為にも、いちいち集落に戻していては間に合わぬかもしれぬしな。まぁ、この場でよい――」


「よくないから! 全然よくないから! 別の場所にして!」



 ドリュアスの言葉に被せるようにして、アルラウネが否定の声を上げた。



「――おぉぅ。それほど嫌がらんでも、寝込みを襲ったりはされんと思うぞ?」


「そ、そんな心配してないわよ! 信用もしてないけど!」


「――ほんに難儀よのう。では、少し離れた場所に寝床を用意しよう。それでよいか?」


「異論はありません」


「――ひとり寝が寂しいなら、友か妾を呼べば良かろう。添い寝ぐらい、遠慮せんでよいぞ?」



 ドリュアスが何やら言い始めた。


 血相を変えたアルラウネが、食って掛かる。



「遠慮しなさい! ってか、何言い出してるのよ!?」


「――無論、冗談じゃよ。さて、コロポックルに協力して貰うのは、昼間にしようかの。では、寝床へ案内しよう」


「はい、お願いします」



 大樹に背を向け、草花が占める空間から出て行くドリュアス。


 からかわれたと理解したらしいアルラウネを置き去りにする。


 置いて行かれないように付いて行く。


 ブラックドッグも遅れずに来る。


 山中の数倍の高さを誇る木々の間を、歩くことわずか。


 ドリュアスが右隣にある木に手を伸ばした。


 すると、木々が自ら左右へと移動してゆく。


 どういう原理なのか、まるで見当も付かない。


 見る間に、一部屋分の空間が出来上がっていた。



「――広さはこれで十分じゃろうか?」


「はい」


「――後は寝具じゃな」



 かざした手はそのままに、室内に変化が起こる。


 葉だ。


 大量の葉が積み上がってゆく。


 山を成す葉が、腰の高さを超えたところで、手が下げられた。



「――葉の布団じゃ。人間でも寝られそうかの?」


「野宿には慣れてますから、十分過ぎるぐらいですよ」


「――それは重畳ちょうじょう。いや、オヌシも難儀したようじゃのう」



 伊達に十数年も旅を続けていたわけではない。


 もっと劣悪な環境下で野宿をしたことも、それこそ数知れないのだ。


 部屋に入り、葉の状態を確認する。


 とても柔らかい感触が手に伝わる。


 濡れてもおらず、形も綺麗な葉。


 オマケに虫も居ない。


 普通の野宿よりも、快適そうなほどだ。



「――後は明かりじゃな。放っておけば、ずっと昼間のままじゃからな。暗い方がよいなら、この部屋だけ暗くしておくぞ?」



 明るいと寝られない、と言う程に神経質ではないが、体内時計が狂っても困る。



「では、暗くして貰ってよいですか。可能であれば、山の外と同じように日の昇り沈みが分かると、大変有難いのですが」


「――えらく注文を付けて来たのう。日がな一日、この部屋に居るわけでもあるまい? 暗くしておくぞ」


「分かりました。それで構いません」



 返事に応えるようにして、部屋が暗くなる。



「――では、また明日じゃ。よく休んで魔力の回復に努めよ」


「おやすみなさい」



 ドリュアスが立ち去ると、唯一の光源が消える。


 出入口が木で覆われたのだ。


 どうやら、自由に出歩く事は叶わないらしい。


 大人しく寝るとしよう。


 慣れぬ暗闇の中を、手探りで移動する。


 手に触れた葉の山に潜り込み、ほどよい場所を探る。


 ズボッと顔を出し、仰向けになる。


 悲しくなるほどに、素晴らしい寝心地だ。


 悲しみの理由は、宿屋の堅いベッドを思い出したからなのだが。


 モゾモゾと腹の上に乗ってくるのは、ブラックドッグだ。


 ここ数日は、母さんと共に寝ていたはずだが。


 久しぶりに乗っかられた気がする。


 重さは殆ど感じないものの、体長二メートルだと流石に大き過ぎる。


 手で撫でつけながら、子犬サイズへと変えてやる。


 ブラックドッグの上の葉をどけてやり、目を閉じる。


 いつ何時なんどき、襲撃が来ないとも限らない。


 とはいえ、いつまでも警戒していては、魔力の回復もままならない。


 寝るのも仕事、というのは少し違うかもしれないが、休息は必要不可欠だ。


 有事に備えるためにも、休めるときに休むべきだ。


 肺の中の空気を全て出すように、ゆっくり長く息を吐く。


 苦しくなる前に、今度は肺一杯に空気を溜めるように息を吸う。


 交互に繰り返す。


 思考を止め、呼吸だけに専念する。


 高ぶっていた気が静まってゆく。


 周囲からは物音一つしない。


 環境音が一切ない。


 耳鳴りがしそうなほどの静寂。


 現実が遠のいてゆく。


 意識が薄れる。


 何か、大いなる存在に包まれている。


 そんな感覚を最後に、意識が途絶えた。






【次回予告】

妖精との交流を経て、王都への帰還を目指します。


22/01/15 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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