100 元勇者の魔王、今後の方針
山の中とも、妖精の住処の広間とも異なる。
どこか厳かな雰囲気。
様々な草花を敷き、正面奥には、悠然と聳え立つ巨大な樹。
妖精のドリュアス曰く、母との事だったが。
意味を尋ねるよりも早く、声を掛けられた。
「――さて、折角移動して立ち話もなんじゃ。まずは座ろうか」
ドリュアスが促した先で、植物が独りでに蠢き出す。
互いに絡み合い、見る見るうちに形を成してゆく。
僅かな時間で出来上がったのは、三脚の椅子だ。
アルラウネとドリュアスは、慣れた所作で席に着く。
必然的に、残った席に俺が座る事になった。
傍らには、身を伏せるブラックドッグ。
「で? 何の話をするんだったかしら?」
「王子捜索の為の助力を願いたいのです」
「――いきなりじゃな。先日の望みの一件かの?」
「はい」
「――具体的には、妾達にどうしろと申すのじゃ?」
「貴女がたは、転移に似た術をお持ちです。その力で俺を、いえ、俺達を各所へ移動させて貰いたいのです」
「――お主が妾の力をどう理解しているかは知らぬが、それ程までに万能な力ではないぞ? この山から、より正確には、この樹から離れる程に、行使出来る力は弱まるじゃろう」
「では、他の地に住む妖精に、ご紹介願えませんでしょうか」
「――まぁ、それは無理とは言わぬが、余り効果は無いと思うがの。同じ住処内の相手ならいざ知らず、他所の事情にまで関わろうとする妖精は稀じゃろう」
「そう、ですか……」
皮算用が過ぎたか。
思い描いていたのは、妖精の助力を得て仲間達と合流し、共に王子捜索を行うつもりでいた。
加えて、各地の妖精からも情報と助力を得る事で、より素早く王子発見へと至れればとの算段だった。
「――そう気を落とすな。最初の件についてじゃが、現状のままでは無理、というだけの事じゃ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「――妖精の力の源とは魔力じゃ。無ければ生きられぬし、より多く取り込めば、それだけ力を増す事が可能じゃ」
「つまり、魔力があれば可能だと?」
「――その通りじゃな。今すぐにとは行かぬじゃろうが、数日もあれば、人の都ぐらいまでなら、移動出来るようになるじゃろ」
「魔力の当てがあるんですか?」
「――何を戯けた事を申しておる。お主じゃ、お主。決まっておろうが」
「アンタが魔力を供給するってわけよ。取らんと欲する者は先ず与えよ、ってヤツでしょ」
「随分と人間の言葉に詳しいんですね」
「なによ? アタシを馬鹿にしてるの?」
「いえ、そういうつもりではありません。ただ感嘆しただけです」
「そ、そう。ならいいけど」
「俺が大樹へと魔力を注ぎ込めば、遠からず王都までの移動が可能になる、と?」
「――恐らくはの。試した訳ではないから、確約は出来んがな」
「ですが、人間の魔力は、妖精にとって余り良い影響を与えなかったのではありませんか?」
「――じゃな。とは言え、手を拱いて居ても、またいつ何時、襲撃されぬとも限らぬ。自衛のためにも、多少のリスクは承知の上じゃ」
「他の妖精については、どうでしょうか?」
「――それに関しても、魔力が増せば感知範囲も広がる筈じゃ。流石に感知の外まではどうにもならんがな」
「どちらにしろ、魔力が必要な訳ですね」
「――そうじゃ。それで、どうするのじゃ? 魔力を提供したとて、必ず望みが叶うわけではないぞ? それでもやるかの?」
「もちろんです。是非ともお願いします」
俺がドリュアスに頭を下げた時、隣のアルラウネから何気ない風に疑問の声が上がった。
「でもさ、魔力が枯渇してる最中に、また襲撃があったらどうするわけ?」
「――おぉ、盲点じゃったわ。二度ある事は三度、と言うしな。ふむ、どうしたものかの」
「肥え太った妖精達から貰っちゃえば? 最近、随分と肥満気味に見えるわよ」
「――確かにのう。必要以上に魔力を吸収しておるしな。丁度良い機会かもしれん。人間の魔力回復は睡眠じゃったか?」
「はい、その通りです」
「――ならば、睡眠を取る直前に魔力供給を行って貰うとするかの。お主、先日の怪物がまた現れたとして、魔力は如何ほど必要じゃ?」
「そうですね……」
問いに対し、しばし考えを巡らせてみる。
二度戦った訳だが、あの巨体を相手に、対抗手段は限られている。
光体の使用は必須だろう。
すなわち、戦えばMPは0にならざるを得ない。
前回のように、光糸からの光体であれば、光糸に要する魔力と、光体で退治するまでの、十分な時間を確保できるだけの魔力が必要になるわけだ。
およそMPが200、余裕をもって250程度あれば十分だろう。
「恐らくは半分ほど残っていれば、大丈夫だと思います」
「――では、魔力供給は半分としようかの。日中に来れば全力で、夜中に来れば半分の魔力で相手取ることになるわけじゃな」
「こっちから見ていた限りじゃ、相手は木偶も同然だったじゃない? 人間の手伝いは癪だけど、住処を守る為ならアタシが出張ってもいいわよ」
「いえ、それは止めた方がよいでしょう」
「何よ? アタシじゃ力不足ってわけ?」
「貴女は魔物です。極力、この住処から出ない方がよいでしょう。王子の支配の影響が出るかもしれませんからね」
「そういえば、そんなことを言ってたわね」
「もしもの場合に備え、この住処の防衛に徹してください」
「分かったわよ」
幾分声色が弱まった返答があった。
「――さて、そうなると夜まで暇を持て余すな。どうしたものかの」
「では、少し質問してもよろしいですか? まだ分からないこともあるので」
「――協力の件とは別口じゃ。となれば、一方的に聞いてやる謂れはないわけじゃ。違うかの?」
「いいえ、違いませんね」
「――じゃから、妾からも幾つか質問しようかの。それで帳尻も合うじゃろ」
「もちろん、それで構いません」
「じゃあ、アタシから質問!」
いち早く声を上げたのはアルラウネだった。
「――恐ろしく空気を読まんのう。オヌシに異論がなければ、聞いてやってくれ」
「えぇ、別に構いませんよ」
「外の魔物はどうなってるの? みんな人間に退治されちゃった?」
「それは……数は減っていますね。但し、最近では目撃する事も減っていました」
「"いました"? どういう事かしら?」
「目撃例の減少は、一部の人間の仕業でした。経験値を得るため、もしくは、己が欲求を満たすために、魔物を捕獲し、売買していたのです」
「人間って最低ね。魔王様が滅ぼそうとしたのも無理ないわ」
「ですが、最近になって、多くの魔物を目にすることになりました」
「? 魔物の巣でも見つけたのかしら?」
「王子が魔物の群れを率いて、王都を襲撃したのです」
「アンタ確か、王子ってのが魔王だって言ってたわよね? でも王子ってことは、王都に住んでたんじゃないの?」
「数か月、行方知れずとなっていました。再び現れたのが、襲撃の時でした」
「自分の住処を襲撃しに来たわけ? 何考えてるのかしら?」
「いずれ自分の物になるから好きにする、みたいな物言いをしていましたね」
「まるで子供ね。まぁ、王子とやらはどうでもいいわ。魔物は沢山いたのよね?」
「そうですね。数百はいたかと」
「アナタが迎撃したのよね?」
「正確には、俺と仲間達が、ですかね」
次の問いかけは、小さくか細いものだった。
「全部退治しちゃったの?」
「いえ、保護していた魔物を含めて、全て王子が転移してしまいました。退治した魔物はいません」
瞼を閉じて、アルラウネは呟いた。
「そう……良かったわ」
様子から察して、外の魔物の身を案じていたのは、想像に難くない。
視線を横に向ける。
アルラウネを慈愛の目で見つめるドリュアスの姿があった。
遂に本編100話を突破しました!
目指せば遠いが、気が付けばいつの間にやら、といった感じですね。
残念ながら特別な企画などはありませんが、これからもよろしくお願いしますm(__)m
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




