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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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97 元勇者の魔王、帰り道

▼10秒で分かる、前回までのあらすじ

 王都を仲間達に任せ、二週間程かけてブラックドッグと共に故郷へと到着する

 十数年ぶりの実家や家族に違和感を覚える

 立ち入りを禁じられた山へと入ってしまう

 コロポックルを救助し、日を改めて住処を探す

 妖精の住処に辿り着くが、魔物の襲撃に見舞われ、全力を出し尽くし倒れ込む

 妖精の協力の約束を取り付け、一度家に帰ることになった


それでは、本編の続きをどうぞ。

 変化は一瞬だった。


 頭上の木々が、いきなり低くなった。


 しかし、木洩れ日は依然として健在だ。


 雨は降ってはいない。


 山の外では雨が降っていた筈だが、山の中は特殊な空間になっているのか。


 妖精の住処から出て、山の中へと戻って来たようだ。


 ドリュアスの計らいで、父さんのそばに出られたはずなのだが。



「ようやく出て来たか」



 投げかけられた声に向き直る。


 父さんが居た。


 大層機嫌が悪そうだ。



「不在の間、何か変わりありませんでしたか?」


「それはこちらの台詞だ。何故、またソイツを抱えているんだ? ソイツを帰しに来たんだろうが」



 鋭く細められた視線の先にあるのは、腕の中のコロポックルだ。



「色々とありまして。今度は正式に預かってきました」


「あの場所で数時間も、一体何をしていた? 先程の揺れと地鳴りは何だ?」



 矢継ぎ早に繰り出される質問の数々。


 疑問に思うのも当然だが、今はとにかく家路を急ぎたい。


 また襲撃がないとも限らない。


 魔法使いから貰ったエーテルは飲み切ってしまった。


 後は、バッグの中に市販のエーテルが数本あるだけだ。


 一度全快するのが精々といった量しかない。


 出来るだけ予備には手を付けず、自然回復するべきだろう。



「取り合えず、家に戻りましょう。道中で説明します」


はぶかず、全て話せ」


「はい」



 父さんを先頭に、山を下り始める。


 っと、そういえば忘れるところだった。



「少し待って下さい。バッグから荷物を取り出したいので、この子を少し預かっていて下さい」


「オレがか?」


「どうしても嫌だと言うなら、ブラックドッグに任せますが」



 少しの間を置いて、父さんが答えた。



「分かった。何をするにしろ、手早く済ませろ」


「はい。では少しの間、お願いします」



 父さんにコロポックルを預ける。


 その際、父さんの表情を見て驚いた。


 眉尻を下げ、何とも困った様な表情をしていたのだ。


 初めて見る表情だった。


 視線をそちらに奪われながらも、手では地面に下ろしたバッグから、目的の物を手繰り寄せていた。


 魔法使いから預かった、宝石が付いたペンダントだ。


 いつ転移させられるかも分からない。


 ひとまずの脅威は退しりぞけたのだし、着け直しておくべきだろう。


 手早く首に下げる。


 バッグを背負い直し、父さんに声を掛ける。



「お待たせしました」


「さっさとコイツを回収してくれ」


「分かりました」



 父さんからコロポックルを受け取る。



「コロ?」



 視線が合うと、不思議そうな声が発せられた。



「何でもありませんよ。さぁ、家に帰りましょう」



 通じているかは分からないが、そう声を掛けてやる。



「ポーー!」



 理解しているのかいないのか。


 元気な声が返って来た。






 山の中を、俺の声だけが響き続ける。


 大きな独り言などでは、断じてない。


 父さんと別れてからの事情を、説明しているのだ。


 時折、父さんからの短い相槌が挟まれる以外は、会話は無い。


 唯一、相槌以外の会話だったのは、ブラックドッグについての事だった。


 今、ブラックドッグは二メートル程の大きさになっている。


 だが、家に居た際は、小型犬サイズだったのだ。


 突然大きくなっていれば、疑問に思うのも当然と言える。


 いぶかし気な父さんに対し、ブラックドッグが体のサイズを、ある程度変化させられると説明した。


 時折、頭をいて見せる父さん。


 情報過多なのかもしれない。


 集落での生活。


 きっと穏やかなものに違いあるまい。


 勿論、集落には集落なりの、王都では分からない苦労も、多分にある事だろう。


 日常に降って湧いた、非日常。


 十数年ぶりの息子、妖精の存在、妖精の住処に加え、突然の襲撃。


 いきなり全てを理解しろ、と言うのは余りにもこくだ。


 ひとまずは、あらましだけでも分かって貰えればおんだ。


 粗方説明し終えたところで、先を行く父さんから声が掛けられた。



「魔物が居たのか?」


「そうなりますね。俺達を襲ったのがアルラウネという魔物で、山を襲撃して来たのは、巨大なスカル――つまりは白骨化したアンデッドでした」


「アレは魔物だったのか」


「アルラウネの事ですか?」


「昔、山で見かけた事があった」



 思いがけぬ独白に、数瞬、返す言葉に迷う。



「そうなんですか?」


「あぁ、冒険者に追われていたようだった。つい魔が差して、冒険者に嘘を伝えてやったが。そうか、生き延びていたのだな」



 確かに、冒険者から逃げて、山に来たと言っていた覚えがある。


 よもや、両者にそんな因果関係が存在していたとは、予想だにしなかった。



「どうしてそんな真似を?」


「さてな。随分と昔の事だ。忘れたな」



 振り返る事無く、言葉を切る。


 今の話が本当ならば、先程のアルラウネによる一方的な襲撃は、随分と恩知らずな事になっていたわけか。


 もっとも、父さんが直接的に助けたわけではないのだが。


 世間は広いようで狭い、というヤツだろうか。


 誰しもが、他の誰かと関係性を築き上げている。


 自身の行いが、他者に幸いとなる事もあれば、災いとなってしまう事だってあるだろう。


 果たして、今回はどうだったのか。


 失われた命は無い。


 であれば、幸いだったということか。


 とはいえ、態々《わざわざ》アルラウネに話すようなことでもあるまい。


 どうやら随分と昔のことらしい。


 既に敵対する間柄でもなくなった。


 昔は昔、今は今だ。


 新たな関係性を築いていけばよい。


 願わくは、良好な関係でありたいものだ。






 話を終え、お互いに無言で山を下りることしばらく。


 山を抜け、視界が一気に広がる。


 すぐさま頭上からは、雨粒が降り注いで来た。


 空は暗い雲に覆われている。


 まだ雨は降り続いてたようだ。


 家までの距離を走る。


 腕の中のコロポックルは、雨が珍しいのか、声を張り上げている。



「コロ? コロ? コロ? ポーー!」



 集落の目もある。


 更に速度を増して、家路を急ぐ。


 程なく家に到着し、玄関を潜る。


 すると、待ち構えていたかのように、大きめの布が被せられた。



「お帰りなさい。ずぶ濡れ……って程でも無いわね? お風呂は沸かしてありますから、順番に入ってくださいね」



 母さんだ。


 雨に濡れて帰って来るのを見越して、布を用意していてくれたらしい。


 風呂の準備といい、流石の手際だった。



「あら? 連れ帰ってきちゃったの?」



 母さんの視線は、俺の腕の中のコロポックルに向けられていた。


 目敏めざとい、という程でもないか。



「住処は見つけることができたのですが、色々とありまして。もう一晩預かることになりました」


「まぁまぁ。じゃあ、またお母さんが抱いてても良い? 良いわよね?」



 妙な迫力を感じさせる母さんに、首肯しゅこうしながらコロポックルを手渡す。



「ポ!」


「あら? ワタシのことを覚えてるのかしら?」


「ポ!」


「あらあら。本当に可愛いわね」


「ポーー」



 何となく、会話が成立しているらしい。



「先に風呂に入れ。オレは後でいい」


「そうですか? ではお先に頂戴します」



 お互いに濡れていたが、俺の方が一度山の外で戦闘していた所為か、体が冷えている感じがする。


 問答せず、有難く先にいただくことにする。


 ――あれ、そういえば、何かを忘れているような?



「きゃぁ!? ワンちゃんが大きくなってるわ!?」



 あぁ、母さんにブラックドッグの大きさについて、説明し忘れていたのか。


 父さんが説明しておいてくれるだろうか?


 母さんの声を背に聞きながら、風呂場を目指した。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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