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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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96 元勇者の魔王、目覚めは衝撃と共に

 何だろうか。


 何かが額に当たっている気がする。


 何度も何度も、繰り返し繰り返し。


 突然、一際強く額に衝撃が加えられた。


 一気に意識が覚醒する。



「――んんっ」



 瞼越しに光を感じる。


 思わず口から声が漏れる。


 薄目を開けながら、周囲の様子をうかがう。


 正面、空が遠い。


 いや、木々の枝葉で覆われている。



「やっと目を開けたわね。幾ら叩いても起きないんだから」



 左側には、俺の額の辺りから、手を引っ込めていく緑色の人の似姿。


 ジト目でこちらを見下ろしているのは、魔物のアルラウネ。


 もしかしなくとも、直前まで額を叩いていたのは彼女だろうか。


 右側には、アルラウネによく似た姿がある。


 精霊のドリュアスだ。



「――まずは苦労を掛けたな。皆を代表して礼を述べよう。お主の奮戦のお蔭で、皆も山も無事に済んだ。感謝するぞ」



 最初に聞いた声よりか、幾分か和らいだ声音が耳に届く。


 次第に、記憶が蘇って来た。


 山の如き異形のスカル。


 あろうことか、二体連続で襲撃を掛けてきたのだったか。


 どうにか、どちらも討伐は叶ったようだ。



「あれから、敵の増援は?」


「――無い。どうやら、敵方も打ち止めと言ったところかの。あれ程の巨体じゃ、そうそう用意も出来まいて」


「ホントに一人で倒しちゃうとはね。とんでもない人間ね、アナタ」


「――まさしく、元勇者に相違あるまいて。そしてまた、別に魔王が存在するのも確かのようじゃ」


「人間が魔王を僭称せんしょうするなんて。おこがましいにも程があるわ」


「――確か、転職したとか言うておったな。はてさて、この世は一体、どうなっておるのやら」


「いつまでも寝そべってないで、いい加減起き上がったら? 体力も魔力も、少しは回復してる筈よ」



 言われ、疲労感が体から失せている事に気が付いた。


 腕と腹に力を込め、起き上がる。



「どのぐらい眠ってましたか?」


「――ふむ、人間で言う所の二時間程かの」


「そうですか」



 返事を聞きながら、周囲に目を向ける。


 緑の群れ。


 コロポックル達が沢山居た。


 正面には、未だに巨大化したままのブラックドッグの姿もある。


 視線が合うと、一鳴きしてみせた。


 先程の戦闘では、ブラックドッグの助けが無ければ、バッグに辿り着く事も出来ず、踏み潰されていたことだろう。


 事前に巨大化していた事も、幸いした。


 そうでなければ、あれ程素早い移動も叶わなかっただろう。


 後で十二分に労ってやるとしよう。



「――さて、もし敵を倒せたならば、妾に出来る事なら叶えてやると言った訳じゃが。何ぞ、既に望みがあるようじゃったが?」


「何でもは駄目よ。節度とか倫理とか、キチンとわきまえなさい!」


「――何を言い出すかと思えば。邪推は止さぬか。ともあれ、今すぐでなくとも構うまい? まずはゆるりと、体を休められるが良かろう」


「そうですね。その辺の話は、また日を改めて……」



 いや待て。


 まず、やらせるべき事があった筈だ。



「いえ、今すぐ叶えて頂きたい事がありました」


「――何じゃ? 随分とせっかちな事じゃのう」


「謝罪を要求します」


「――謝れじゃと? 妾に何を謝れと申すのじゃ?」


「コロポックルに怪我を負わせたせきです」


「――あれは妾の過失ではあるまい? あの子が勝手にやった事じゃ。それに、貴重な願いを叶える機会を、そんな事に消費して良いのかえ?」


「"そんな事"? どの辺りが貴女にとって些末事さまつごとなんでしょうか?」



 漏れ出る怒気にアルラウネが反応する。



「ち、ちょっと!? ここで暴れないでよ!? ドリュアス! この件についてはアンタが悪いわ! あの子、危うく命を落とすところだったのよ? つべこべ言わずに、謝りなさい!」


「――何で妾が……」


「ドリュアス!!!」


「――相済まぬ」


「謝る相手が違うかと」


「――ぐぬぅっ」



 顔を歪めたドリュアスだったが、体を反転させて、コロポックル達に向くと頭を下げた。



「――此度は妾の不徳の致すところじゃった。家族を不要に傷つけた事、誠に相済まなかった。どうか妾を許してたもれ」


「コロ?」



 コロポックル達は不思議そうに声を上げている。


 もしかして、言葉が通じていないのでは?


 そう思ったのも束の間、変化が起きた。



「「「「「ポーーーッ!!!」」」」」



 コロポックル達が一斉に声を上げたかと思うと、ドリュアスの体へと大挙して押し寄せたのだ。


 あっという間に、緑の山の中へと消えるドリュアス。


 発掘するのにしばしの時を有した。






「――コホン。では改めて。望みを聞くのは明日にしよう」



 咳払い一つで、先の一件を無かった事にするつもりらしい。


 まぁ、謝罪は聞いたし、コロポックル達が許すというなら、俺に否やは無い。



「――帰るのも手間じゃろう。どれ、人里まで繋いでおくかの」


「そうですね――」



 ドリュアスの提案に乗ろうとして、少し考える。


 そういえば、父さんはあれからどうなったのだろうか?


 恐らく、この妖精の住処の外へと、出されてしまったようだったが。



「俺と一緒に来ていた、父さん――人間はどうなったか分かりませんか?」


「――何じゃ、お主の父君じゃったのか。しばし待て。……ふむ、まだ山の中におるな。恐らくは、お主を待っておるのじゃろう」



 その言葉を聞き、軽い衝撃を受ける。


 何故だろうか。


 妙な感じがした。



「――どうする? 父君の元へ繋げた方が良いかの?」


「お願いします」


「――うむ。……ほれ、後ろに用意しておいたぞ」



 立ち上がりつつ、後ろを確認する。


 確かに、背後の空間が歪んでいる。



「おい、荷物を忘れるなよ」



 声と同時に、見覚えのあるバッグが投げつけらえる。


 反射的に受け取る。


 どうやら、俺と一緒に荷物も回収してくれていたみたいだ。



「ありがとうございます」


「べ、別に礼なんて言われる程の事じゃないわ。むしろ、こっちが礼を言わなきゃいけないぐらいよ」


「いえ、あの敵の事でしたら、恐らく狙いは俺でした」


「え? どういう事よ?」


「一度目なら偶然で済みますが、連続して二度目ともなれば、意図的な襲撃だとしか思えません」


「――成程のう。王子とやらは、余程にお主の事を警戒しておるようじゃな」


「遠からず、決着をつけるつもりです」


「――左様か。まぁ、詳しい話は明日致そう。今宵はゆるりと休まれるが良い」


「はい。ではまた明日、伺います」



 不意に頭上に影が差す。


 見上げてみれば、ブラックドッグがそばに来ていた。


 これ、元のサイズに戻れるだろうか。


 鼻を寄せて来るのに合わせて、手で撫でつけてやる。


 小さくなるように指示を与えてみる。


 ――あれ、小さくならない?


 いつものように、体の大きさが変化してくれない。


 何度か指示を与えてみるが、いずれも変化は無い。



「――何をしておるのじゃ? 愛でるなら、外でも出来ように」


「いえ、体の大きさを元に戻してやりたかったのですが。何故だか上手くいかないみたいでして」


「――ここは他所とは違い、魔力が殊の外多く在る。そうそう縮むのは難しいじゃろうな」


「それは困りましたね」



 流石に、十メートル程もあるブラックドッグを、連れて帰る訳にもいくまい。


 当然、家の中になど入れないし、集落の人の目もある。


 悪目立ちするのは避けたい。



「――ここで預かっても構わんが、ここに居る限り、小さくなる事は難しいじゃろうな。……仕様が無いのぅ。妾が魔力を吸ってやろう」



 ドリュアスがブラックドッグへと近づき、片手で体に触れる。


 すぐさま、ドリュアスの体が淡く光り始めた。


 対して、ブラックドッグの体が、見る見る縮んでいく。



「――む? 思ったよりも、ちと多いな。それに、自然にある魔力とは、何か違う感じがするのぅ。吸収するのは、ちと早計じゃったか?」


「ちょっと!? 大丈夫なの!?」


「――まぁ、多少は人間に近しくなってしまうかもしれんな。とは言え、一時的なものじゃろうて。日常的に人間から魔力を吸収しておれば、多分に影響を受けるかもしれんがな」



 ――何だって?


 今、結構大事なことを、サラッと言ったような。



「ここ数週間ほど、俺が直接ブラックドッグに魔力を与えていたんですが……」


「――では、既に影響を受けているじゃろうな。……もう、お主から離れて生きるのは難しいかもしれん」


「そんな!?」



 いずれは、仲間の元へと帰してやるつもりだった。


 魔法使いの提案に乗らず、市販のエーテルを買い与えていれば良かったのか。



「――ま、結果に責任を取る事じゃな。ほれ、元の大きさに戻ったじゃろ」



 ブラックドッグから手を離して、ドリュアスが言う。


 確かに、ブラックドッグのサイズは、二メートル程の大きさに戻っていた。


 しかし、妖精に魔力を与える事で、そんな影響があるとは思ってもみなかった。


 軽率な行動過ぎただろうか。


 支配を使った上に、性質にまで影響を及ぼしてしまったと言うのか。


 ブラックドッグが顔を寄せてくる。


 反射的に頭を撫でつけてやる。


 目を細めている様子には、嫌がっている素振りは無い。


 慣れたのか。


 それとも、ドリュアスの言うように、影響を与えたが故なのだろうか。


 どうにもモヤモヤする。


 意図した事ではない。


 知らない事だったのだから、誰を責めるという訳でも無い。


 いや、責は俺にある。


 あるいは、人と離れて生きる事で、また元の状態へと戻れるかもしれない。


 例え、戻れなかったとしても、その時は俺が共に居よう。


 ドリュアスとアルラウネに礼を言い、妖精の住処を後にする。


 ――よりも前に、声が掛けられた。



「――ちと待て。……そこの大きいの。一緒に付いて行くが良い」



 ドリュアスだ。


 何やら見覚えのある、一際大きいコロポックルに声を掛けている。


 庇って傷を負っていた子だ。


 無事に意識が戻ったらしい。



「――妾も常に外界を見張っている訳にもいかぬのでな。この場所までの道案内と、住処へ入る鍵代わりに、一体連れて行くが良い」


「は、はぁ」



 そもそもが、この子を住処に届ける目的だった。


 だと言うのに、こうして連れて戻る事になろうとは。


 何だろうか。


 徒労感が凄い。



「ポ!」



 バッグを背負い、元気になったらしい、コロポックルを抱き上げる。


 相変わらず、見た目に反して軽い。



「ポー!」



 腕の中のコロポックルは、随分と機嫌が良さそうだ。


 あんな目に遭ったと言うのに。


 ポンポンと軽く背を叩いてやる。



「ポ、ポ、ポ」



 叩くリズムに合わせて、声を発している。


 何とも気が抜ける光景だ。



「――ほれ、もう引き留めはせぬ。早う帰るが良い。父君も待ちくたびれておるじゃろう」


「そうでしたね。それでは、また明日」



 二体からの返事を背に受けながら、空間の歪みへと足を踏み入れた。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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