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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
115/364

95 元勇者の魔王、振り返れば

スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。

 頬に冷たい感触を得た。


 意識が急浮上する。


 瞼を開くと、空はいつの間にか黒い雲に覆われていた。


 既に雨がポツリポツリと降り出しているようだ。


 今朝方、遠くに黒い雲を見た覚えがあった。


 やはりこちらへ雲が流れて来たか。


 どれぐらい寝ていたのだろうか?


 再び目をつむり、ステータスを確認してみる。



 ========================================


 HP:91/548

 MP:0/548


 ========================================



 浮かび上がった数値では、MPが全く回復していない。


 つまりは、先程の戦闘から、ほぼ時間が経過していない事になる。


 疲労も解消されてはいない。


 腕を地面に突き、気怠い上体を起こす。


 どうせ目覚めてしまったのだし、戻るとしようか。


 また、転移のようなモノを使って貰えると有り難いのだが。


 ひとまず、バッグの所まで戻る事にした。






 山へと足を向ける。


 瞬間、地面が跳ねた。


 体が宙へと浮く。


 ――何事だ!?


 背後から、音と衝撃波が打ち付けて来た。


 ろくに抵抗も出来ず、山側へと吹き飛ばされる。


 どうにか姿勢を整えて着地を果たす。


 視線は背後へ。


 そのまま上方へと移動させられる。


 そこには、在り得る筈の無いモノが立って居た。


 先程倒した筈の超巨大なスカルだ。


 ――どうなってる!?


 頭の中を疑問符が占める。


 確かに倒しきった筈だ。


 骨のことごとくを破砕して見せた。


 先程の衝撃波の影響か、空気中に白い物が散らばっていた。


 骨粉だ。


 ではやはり、先程の個体は破砕出来ている筈。


 では、眼前の個体は何だ?


 ――まさか、新たな個体だとでも言うのか!?


 これだけの大質量を二体も?


 どれだけの死骸を集めて来たと言うのか。


 眼前の白い山が動き出す。


 接近して来る。


 対して、こちらはもうMPは0で、HPも後僅かだ。


 バッグの中には、ポーションはコロポックルの為に使い切ってしまったが、エーテルはまだ残っている。


 兎にも角にも、まずはMPを回復するべきだ。


 視線を白い山から切り、再び緑の山のふもとを目指して駆け出した。


 遠い。


 先程の光体の影響か、全身の疲労が抜けていない。


 体が重い。


 背後から巨体が迫る。


 数百メートル程の距離が、今は余りにも遠い。


 このままでは、辿り着く前に追い付かれてしまう。


 それでも、今は全力で駆ける他無い。


 刻一刻と、彼我の距離が埋まって行く。


 気配は既に、すぐ背後へと迫っている。


 雨足が次第に強まって来た。


 体に当たる雨粒すら、行く手を邪魔されている気分になってくる。


 僅かに走りを遅くしている。


 また距離が詰まる。


 いつ頭上に巨体の足が現れても不思議ではない。


 地面は巨体により上下に揺れ続けている。


 これもまた走りの邪魔をしている。


 ――これは、間に合わない、か!?


 背に砂粒が当たる。


 巨体が踏み砕いた地面の破片だろう。


 もうすぐそばまで迫っている。


 残り二百メートル程か。


 数秒後に踏み潰される光景が脳裏をよぎる。






 不意に、眼前から黒い影が迫って来た。


 咄嗟の事で、避けられない。


 体が宙に浮く。


 ――何だ!?


 次いで、体が強制的に移動する。


 向かう先は山側だ。


 視線をすぐそばの黒い影に向ける。


 巨大化したブラックドッグだった。


 口に俺を咥えて、山へと運んでくれているようだ。


 有り難い。


 あっという間に、バッグの元へと辿り着く事が出来た。


 地面へ降ろされると同時に、バッグからエーテルを取り出し、一気に中身を飲み干す。


 全身を淡い光が包む。


 魔力が回復してゆく。


 後数十メートルまで迫って来ている敵。


 もう一度光体を使用したとて、こちらの体力が持たない。


 別の手段を講じるしかない。


 これはもう、神級を使わざるを得ないだろうか。


 いや、更に次が来ないとも限らない。


 ここで全力を出しきる訳にはいかない。


 だが、眼前の敵は倒しきる必要がある。


 この土壇場で、思い付きを試すのはリスクが高過ぎる。


 とはいえ、他の手段も思い浮かばない。


 多分、恐らく、きっと。


 成功すると信じる。



光糸ストリング



 光の中級魔法。


 必要なのは数と長さ。


 魔力を注ぎ込む。


 数十、数百、数千、数万。


 次だ。



光体アウゴエイデス



 光の超級魔法。


 黒天を地上から光が照らす。


 降りしきる雨粒に光が反射して、辺り一面がより一層、光で満たされる。


 MPが0になる。


 しかし、既に発動した光糸は解除される事は無い。


 ここまでは予想通りだ。


 光剣、光槍、そして光糸。


 これら武装系の中級魔法は、魔法発動時にMPを消費する。


 以降、維持の為にMPは消費されない。


 威力などを上げる為、追加で魔力を注いだとしても、維持の為のMPが増えることは無い。


 故に、この方法を思い付いた訳だ。


 あらかじめ、中級魔法を発動させ、更に魔力で強化しておく。


 その後、光体を使用し、全ステータスを限界突破させる。


 出来上がるのは、攻撃力が最強と化した、数万からなる光糸による斬撃だ。


 光体を使用して以降は、光糸を強化する事は叶わない。


 増やす事も伸ばす事も不可能だ。


 よって、事前に備えておいたという訳だ。


 最早間近へと迫った白い巨体に対し、光糸の奔流が殺到する。


 雨粒よりもなお多い、光の糸の群れ。


 光糸の一本一本が、光体の影響により999の限界を突破した状態だ。


 骨の群れに対し、僅かも抵抗を覚える事無く、瞬断してみせる。


 連続する。


 その数、数万。


 瞬間的に巨体が斬り刻まれてゆく。


 細断は足元から始まり、徐々に上へと移動する。


 重力に引かれ、崩れ落ちてくる先から、骨粉へと姿を変える。


 その様は、まるで白い巨体の絵を、下側から消していくかのような、どこか現実味に欠ける光景だった。


 光糸が空を斬る音だけが響く。


 骨の切断音など、全く聞こえてこない。


 脳が過熱する。


 光糸を操作するのは、指というよりも、操作する意思による所が大きい。


 必然的に、数万もの光糸を操るという負荷は、脳が請け負う事となる。


 脳からは今にも火を噴き出し、目からは火花でも散って見せそうな具合だ。


 全く以って、万全とは程遠い。


 今にも魔法を解除し、座り込みたい衝動に抗い続ける。


 もう少し、もう少しだ。


 既に全体の三分の二は削り切った。


 もう少し。


 保たせろ。


 保って見せろ。


 護り切って見せろ!


 叫ぶ。


 雄叫びを上げる。


 日に二度の超級の使用。


 初の試みだ。


 負担は一度目の比では無い。


 全身の感覚が無くなって行く。


 痛みさえもが遠い。


 自分が立っているのかさえも不確かだ。


 それでも、光糸を操作し続ける。


 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。






 ドサッと音がした。


 掠れた視界には、雨に濡れた地面が間近にある。


 遂に力尽き、地面へと前のめりに倒れ込んだのだ。


 同時に光体も光糸も解除される。


 壮絶な負荷から解放される。


 最後の力を振り絞り、首を動かす。


 視線の先には、白い山。


 骨粉だ。


 もう骨の群れは存在しない。


 力尽きる前に、どうにか倒しきったようだ。


 流石に負荷がありすぎた、か。


 火照った体に、冷たい雨が心地よい。


 意識が途切れてゆく。


 体の欲するままに、休息を得る為、眠りについた。






久々にステータス出したので、数値計算の詳細を記載。


HP・MPの数値は、戦闘が8分と想定して算出。

また、戦闘開始時には、HP・MPが全快していたものとする。


籠手の合計した光耐性を5%と定める。


光体使用時のHPへの継続ダメージを毎秒1と定める。


▼HPの計算

8分 = 480秒 ※軽減無しの場合、480のダメージを受けている事になる


480 × 105% = 457 ※光耐性を反映、小数点以下切り捨て


最大HP548 ー 457 = 91 ※この値を記載


▼MPの計算

こちらは、単純に光体使用時に全MPを消費する為、0となっている


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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