94 元勇者の魔王、やっぱりコレでしょ
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
空間の歪みから抜け出す。
時間にして一瞬の出来事。
既に集落とは反対側の山裾へと辿り着いていた。
白い山以外は、平野が広がっている。
転移魔法陣と同じような仕組みなのだろうか?
人間が生み出した技術ではない。
魔物、というか、魔王とはまた異なる御業か。
脅威を排除した見返りとして、王子捜索の手伝いを願ってみるのも悪く無い考えだろう。
だがそれよりも先に、コロポックルを傷つけた事へのケジメを要求すべきだ。
国や街とは異なるが、一個のコミュニティで、一個体を蔑ろにするなど、許されざる所業では無かろうか。
どこか王子を連想させるような振る舞い。
先程見た、アルラウネに似た妖精ドリュアスは、コロポックル達を守護する立場の筈。
到底見過ごせるものではない。
しかし、それらは後回しだ。
皆を護り生き延びる為に、脅威を退けなくては。
改めて、眼前の脅威に意識を向ける。
平野に聳え立つ白い山。
距離はもう1キロも無い。
視線は自ずと上へと向かう。
大き過ぎる。
数百メートルか、あるいは、千メートル超えしていてもおかしくない。
文字通り山程もある大きさだ。
何かの生き物を模した、という見た目はしていない。
一瞥した限りでは、手も足も付いてはいない。
膨大な量の骨を、まさしく山の形に組み上げたような姿。
三角錐のような体形をしている。
巨躯を支える為に、下側がより大きくならざるを得ないのだろうか。
どうやって移動しているのかも分からない。
一体全体、何を目的として作られたのか不明だ。
圧倒的な質量で以って、進路上のあらゆるを踏み潰しでもするのか?
いや、それなら山ではなく、町へ向かえば済む話だ。
力を持ち過ぎた妖精を排除するつもりか。
あるいは、俺を狙っての戦力投入だったのか。
いずれにしろ、放置できるような存在ではない。
背負っていたバッグを地面に下ろす。
中から白銀の籠手を取り出し、装着する。
流石に、これ程の巨体相手では、上級以上の魔法を使わざるを得ないだろう。
光魔法への耐性を、少しでも上げておくべきだ。
後は、首に下げていた宝石を外す。
魔法使いから渡された転移魔法の宝石だ。
今、転移されては、山も集落も守れなくなってしまう。
逆に王都へ駆け付けられなくなってしまうが、その場合、妖精の転移に似た力で、どうにか王都の近くまで送って貰えると信じよう。
まずは、この脅威を排除する事に集中しよう。
こうしている間にも、相手は着々と距離を詰めて来ている。
数百メートルほどの距離だろうか。
徐々に全貌が明らかとなって来た。
成程、足元には、無数の足が生えているらしい。
底部一面に足が生えているようだ。
敢えて例えるならば、兵士の軍団が、全員で巨大な兵器を担ぎ上げて移動しているようなモノだろうか。
あれで移動しているのか。
随分と悪趣味な造形だ。
ともあれ、どう対処したものだろうか。
先程、ドリュアスやアルラウネには、大口を叩いて見せた訳だが、魔王城を消滅させたのは神級魔法によるものだ。
確かに、神級魔法を使えば、山ぐらい吹き飛ばすのは訳無いだろう。
後の事さえ考えなければ、の話ではあるが。
本命は王子を倒す事だ。
もしも、この化け物を倒した直後に、王都が王子の襲撃を受けた場合、役立たずになってしまう。
神級魔法の使用は、出来得る限り控えておくべきだろう。
魔法使いにも忠告されていたしな。
であれば、超級以下の魔法で対処する他あるまい。
光炎の使用は、以前のスカルボアの一件もある。
この規模の骨が分散し、個別に形を成した場合、とても面倒な事になるのは、火を見るよりも明らかだ。
やるならば、分散させる事無く、まとめて始末してしまいたい。
粉砕か消滅。
どちらかが望ましい。
威力で言えば、超級の光体が一番だろう。
だが如何せん、相手が馬鹿でかい。
未だかつて相手取った事の無い大きさだ。
果たして、通用するのだろうか。
――まぁ、物は試しか。
もしも通用しなかった場合は、神級にて一瞬でケリを付けるとしよう。
念の為、バッグの中からエーテルのビンを取り出す。
先程、ブラックドッグに魔力を分け与えたので、万全とは言い難い。
回復して挑むのが最善だろう。
液体を飲み込んでゆく。
三分の一程飲み干したところで、魔力が満たされた。
ではいきますか。
≪光体≫
光の超級魔法。
たちまち、全身が凄まじい光に包まれる。
籠手のお蔭か、全身への負担は、多少軽減されているような気はする。
空には未だ日が昇ったままだ。
それに加えて、地上に偽りの太陽の如き光が姿を現した。
辺り一帯が強烈な光で満たされる。
白い山が光を反射し、一際眩い。
対する相手は超巨大アンデッド。
聖魔法ならともかく、光魔法に怯む相手ではない。
もとより、そんな生物的な反応は示さない。
非生命。
かつて何らかの生き物だった、成れの果ての傀儡。
魔物や動物や人間。
それらの集合体。
せめて速やかに、安らかなる終焉を。
力強く一歩を踏み抜く。
瞬間的に数十メートルを踏破する。
ものの数秒で接敵を果たす。
狙うは足元。
右手を振りかぶる。
左足を踏みしめ、右手を全力で前方へと振り抜く。
空気が破裂した。
右手の拳の先から、放射状に地面が抉り取られてゆく。
骨の塊も同様だ。
拳の先に存在していた骨が、瞬時に粉砕された。
出来上がるのは、直径十メートル以上にもなる空洞だ。
――あぁ、全力で殴りつけると、こうなるのか。
間の抜けた感想が、頭の中に浮かんでくる。
得られるのは手応え。
十分に通用する。
とはいえ、全体からすれば、被害は極々一部に過ぎない。
足元ですらも、まだ数百メートル規模で残っている。
となれば、次に取るべき行動は決まっている。
右足を踏み込み、未だ健在な骨の群れへ向けて、左手を全力で振り抜く。
繰り返す。
前に、右に、左に、時には上に。
連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打。
光体には時間制限がある。
悠長にしている余裕は無い。
ただひたすらに、骨の群れを砕き続ける。
拳を振るう。
蹴りを放つ。
周囲から骨が無くなれば、次いで上から骨が降って来る。
繰り返し繰り返し。
粉砕し続ける。
止まらない。
光魔法により、魔王の体が痛みを訴えてくる。
HPもまた、時間の経過と共に削られていく。
それでも止められない。
倒しきる。
知らず、口からは雄叫びが放たれていた。
もっと速く。
もっと多く。
もっともっともっと。
周囲には、粉砕された骨の破片が舞っている
光が反射する様は、いっそ幻想的にすら思える程だ。
――いかんいかん、思考がブレている。
集中しろ。
砕け。
砕ききれ。
間に合わなければ、犠牲になるのは、数多の妖精達と家族を含む人間達だ。
先へは進ませない。
ここで潰す。
諸共に潰えろ。
どれほどの時間が経過したのか。
光体の持続時間は、10分と保てない筈だ。
後どれだけの猶予がある?
しかし、目を瞑ってステータスを確認している暇などありはしない。
僅かな時も無駄には出来ない。
拳を、蹴りを、見舞う。
既に攻撃は、上側へと集中して久しい。
終わりは近い筈だ。
疲労が蓄積している。
痛みもかなりのものだ。
動きが鈍くなってきているかもしれない。
それでもなお、一心不乱に、腕を、足を、動かし続ける。
終われ。
終われ終われ終われ。
何千回か、何万回か。
幾度目かの攻撃の後、空が現れた。
白い骨はどこにも見当たらない。
周囲を見渡せば、地面には骨粉の海原が出来上がっていた。
他に骨の痕跡は無い。
――倒しきった?
酸欠気味の脳に、ようやく現状への理解が追い付いて来た。
遣り遂げたのだ。
光体を解除する。
同時に脱力し、地面へと仰向けに倒れ込んだ。
――疲れた。
どうにか遣り遂げてはみたものの、負担が思っていた以上に大きい。
これ程までに、限界近くまで、光体を使い続けた事は無かった。
しばらく休まないと、起き上がるのすら苦行だ。
瞼を閉じて、全身を休ませる。
身体が休息を欲している。
急激に眠気が襲って来た。
恐らくは、普通の魔物や動物は近づけないのだろうし、このまま一眠りしてしまおうか。
誘惑に負け、意識を手放した。
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