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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
113/364

93 元勇者の魔王、響く音

 けたたましい音が響き渡る中、近づいて来るモノがあった。


 黒い影。


 次第に大きさを増してゆく。


 ブラックドッグだ。


 どうやら、ようやく戻って来たようだ。


 十メートル程の巨体の上には、小さく緑色の何かが乗っかっていた。



「何があったの!?」



 かたわらのアルラウネが、迫り来るブラックドッグに向かって声を掛ける。


 警報音が響き渡る中、声を通らせる為に、必然的に大声になる。



「――魔物じゃ。忌々しいことに、この山に近づいておる」



 すると、返って来たのは、聞き覚えのある声だった。


 となると、上に乗っているのが、声の主だろうか。



「魔物って、ワタシ以外、近づく事も出来ないんじゃ?」


「――どうも他の魔物とは勝手が違うようじゃ。本来であれば、この場所を認識すら出来ない筈なんじゃが。どういう訳か、一直線に此処を目指しておる」



 ブラックドッグが眼前で立ち止まる。


 見上げる背には、緑色の女性の姿。


 アルラウネが先程言っていたように、確かに似ている。


 緑色の妖精は、フワリといった様子でブラックドッグの背から降りて来た。


 間近で見ると、やはり似ている。


 女性の人の似姿。


 葉や草に似た緑色の体色。


 違いはつるではなく、葉で全身が覆われている事か。


 頭部から髪のように伸びた幾つもの葉が、衣服のように全身を覆っている。


 彼女が声の主なのか?


 頭をぎるのは、俺を庇い傷ついたコロポックルの事。


 言いたい事は一言どころではない。


 しかし、今は非常時らしい。


 怒りを抑え、まずは状況の確認に努めよう。



「ちょっと! ジロジロ見てるんじゃないわよ! この変態!」



 降り立った存在を観察していると、横合いからアルラウネが注意してきた。



「おっと、失礼しました。それで、貴女がこの妖精の住処の主でしょうか?」


「――正確には違うが、まぁ似たようなものじゃな。妾はドリュアス。妖精じゃ」


「この山に魔物が迫っているとか? どういうことでしょうか?」


「――まぁ待て、まずは警報を切る。いざ鳴ってみると、五月蠅くて敵わんな」


「あ、はい」



 言うなり、ずっと鳴り響いていた警報が止んだ。


 だが未だに、耳鳴りのような残響ざんきょうが聞こえているかのようだ。



「まだ耳がおかしな感じがするわ。もっと小さい音で良かったんじゃない?」


「――うむ、そうじゃな。鳴らぬに越した事は無いが、いざという時、五月蠅くては敵わん」


「えぇっと、それで、魔物と言うのは?」


「――そうじゃったな。丁度、人間の集落とは反対側から、巨大な魔物が迫っておるのじゃ」


「どんな魔物かは分かりませんか?」


「――そう急かすな。ほれ、そこに映し出してやるわ」



 ドリュアスと名乗った妖精が、何もない中空を指し示す。


 余計な口を挟まず見守る。


 次第に何かが浮かび上がって来た。


 これは、風景だろうか。


 山中ではない。


 山の外、こちらへと迫る、白く巨大な何かが居た。


 スカル、つまりはアンデッドか。



「どうやら、アンデッドのようですね」


「――アンデッドじゃと? まさか、本当に魔王が復活しておるのか?」


「復活とは違いますかね。他の人間が魔王に転職したので」


「――魔王とは職業だったのか?」



 ついさっき、同じ疑問をぶつけられた気がするな。


 俺に言われても、俺も転職して魔王になっている訳だしな。



「そのようですね。これも王子の仕業でしょう」


「――アンデッドと申したが、あの白いの、この山ほどもあるぞ? あれ程巨大な生物など、おったのか?」


「恐らくは、複数の生物を組み合わせて、巨大な一体にしているのでしょう。道中、もっとサイズは小さかったですが、遭遇した覚えがあります」


「――生き物を弄ぶが如き所業。今代の魔王は、余程に下衆げすな手合いのようじゃな。気分が悪うなるわ」


「魔王様の品位をおとしめるなんて、これだから人間は!」


「人それぞれですよ。皆が皆、そうではありません。王子を擁護は出来ませんが」


「――しかし、どうしたものか。あんな化け物、とてもではないが、相手取れん」


「俺がどうにかして来ましょう。このままでは、山にも、ふもとの集落にも被害が出てしまいますし」


「人間が一人で戦って、どうにかなる相手じゃないでしょ!? 見なさいよ、アレ! 大きさが山程もあるのよ!?」


「まぁ、あれぐらいなら、どうにかなるでしょう」


「アンタねぇ!?」


「かつて、魔王城を俺一人で消滅させていますからね。大きさとしては同じぐらいでしょう」


「――とんでもない事を、さらりと言いおったな。まぁ、妾達ではどうにもならんしな。任せる他あるまい」


「問題は距離ですかね。この山も十分広いですし。反対側へ行くのに、どれだけ掛かるか」


「――それについては任せて貰おうかの。この住処から出た先を、山の反対側へ繋げておく」


「そんな事が出来るんですか?」


「――別に、この山だけでなく、他の場所に繋げる事も可能じゃて。もっとも、そんな事が出来るのも、世界に魔力が満ちておるお蔭じゃがな」



 それはつまり、多くの犠牲の上に成り立っているという事か。


 無駄ではない。


 無駄になどしない。



「――しかし、ホンに一人で、あの巨体を退治出来るのか? 及ばずながら、戦えそうなモノを集めるぐらいはしてやれるぞ?」


「いえ、俺一人で十分ですよ。――ただし、これは貸しです」


「――何じゃと?」


「命の恩人に対して、誠意を見せて下さいね」


「おい人間! 調子に乗るな!」


「――まぁ、見事退治して見せたのなら、何ぞ、望みの一つぐらい、妾に叶えられるなら、叶えてやらんでもないぞ」


「ちょっと!? 何を言い出してるのよ!?」


「――構わんよ。他所よそへ避難しようにも、この住処から移動出来ぬモノもおる」


「それはっ!?……そうかもしれないけど」


「――であれば、そこな人間を頼る他あるまい?」


「ぐっ。アンタ、言うからには、ちゃんと退治して来なさいよ!」


「勿論、そのつもりです。その間、ブラックドッグを預かっていて下さい」


「――うけたまわった。せめて、山の護りを強化しておくかの」



 ドリュアスが再び中空を指し示す。


 今度は上ではなく、正面側だ。


 途端、正面の空間が歪みを見せる。



「――ほれ、繋げてやったぞ。精々、励まれるがよかろう」


「まぁ、アンタが負けたら、こっちもヤバいしね。あれだけ豪語してみせたんだから、さっくり倒して来なさいよ!」


「はい、ではまた後で」



 激励らしき言葉を受け取り、空間の歪みへと歩み寄る。


 だが、引き留めるかのように、頭上から甲高い鳴き声が響いた。


 巨大化したままのブラックドッグだ。


 俺の身を案じてくれているのだろうか。


 言葉は通じないとは分かってはいるが、声を掛けてやる。



「心配無用です。それと、指示通りに連れて来てくれて、ありがとう」



 応じるように、再び一鳴きが返って来た。


 思わず口元に笑みが浮かぶ。


 言葉は分からずとも、通じ合えるモノはある。


 色々と目まぐるしい展開が続いているが、まずは迫る脅威に対処するとしよう。


 もう振り返る事無く、空間の歪みへと入って行った。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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