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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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91 元勇者の魔王、抑えきれぬ怒り

▼10秒で分かる、前回までのあらすじ

 王都を仲間に任せ、故郷を目指して約二週間

 故郷へと辿り着くが、再会した家族との仲はどこかぎこちない

 立ち入りを禁じられた山へと入ってしまい、妖精のコロポックルを保護する

 一時的に実家にて預かったものの、住処へと帰す事に

 山の奥で妖精の住処に辿り着くも、魔物のアルラウネにより攻撃されてしまう


それでは、本編の続きをどうぞ。

 この場に居るのは、人間一人と、魔物が一体と、妖精が無数。


 かたわらにはブラックドッグが、周囲にはコロポックル達が居る。


 先程からの声の主の姿は無い。


 だが、こちらの様子は把握しているようだ。



「――しかし、勇者を自称するとはな。もし本物であれば、感謝の一つも述べておくべきかもしれぬがな」


「どういう意味でしょうか? 嘘を申し上げたつもりはありませんが」


「――かつて、魔王が人間共を間引きし、勇者が魔物共を間引きした。これがどういう事か、人間のオヌシに理解出来るか?」


「いえ」


「――であろうな。この世のあらゆるモノには、量の多寡たかは違えども、魔力が宿っておる。そして、人間と魔物が減少すれば、その魔力はどうなると思う?」


「世界に魔力が溢れる、ですか?」


「――まぁ、そんなところじゃな。そして、魔力の影響を最も強く受ける生物。それが妾達、妖精という訳じゃ」


「では、この山の異常も、魔力の影響によるものだと?」


「――左様。成程な。確かに、オヌシは他の人間共とは頭の出来は違うようじゃ。馬鹿は好かぬが、利口な者は好ましい」


「それはどうも」


「――そういう訳で、魔王と勇者には、感謝する理由があるという事じゃ。何せ、妾達妖精の為に、間引きしてくれたのじゃからな。カカッ」



 間引き。


 多くの命を奪った。


 大多数は魔物を。


 時には野盗化した人間も。


 失われた命は数知れぬ。


 ――それを感謝する、と?


 そう言うのか。


 そんな考え方を、妖精はするのか?


 少なくとも、声の主はそうなのだろう。


 不愉快だ。


 とても、とても不愉快だ。


 王子も大概だったが、この声の主も相当なモノだ。


 闘気が、怒気が、漏れ出してゆく。



「――何じゃ、妾の物言いが、かんさわったかの? 人間も大概に難儀よな?」



 頭に血が上って行くのが分かる。


 わらわれたのだ。


 奪われた命と、奪った命が。


 あらゆるモノが犠牲者だった筈だ。


 それを、よりにもよって、わらうなんて。


 到底、許せる所業ではない。


 許して良い筈がない。


 魔法無しで、どれ程の事が出来るのかは不明だが、流石にこのまま大人しくあざけりを聞いてなど居られない。



「――これで知りたかったことの、幾らかは知れたであろう? 妾からの、せめてもの餞別せんべつじゃ。いや、手向けになるのかの?」


「人間をあなどり過ぎではありませんかね」


「――まずは、オヌシ達の始末を付け、次に外に出した人間、最後に集落の者達とするかの」


「させません」


「――抗う事すらも、叶わんよ」



 途端、周囲の空間から、見えない何かが射出されて来た。


 魔法、ではない。


 何か特殊な技なのか。


 素早くブラックドッグを抱き上げ、勘を頼りに、回避し続ける。



「――ほぅ、これを避けて見せるか。存外、只者では無いようじゃな」



 何か返事をするよりも早く、次の一手が加えられる。



「――避けられては詰まらぬ」



 何だ!?


 急に動けなくなった!?


 周囲の空気が、まるで固体化でもしたかのように、強い抵抗を返してくる。


 どの方向へも動けない。



「――これでもう避けられまい?」



 再び迫り来る、見えない何か。


 駄目だ、避けられない!


 せめて、ブラックドッグだけでも無事にと、霧化させる。



「ぐぅっ!?」



 全身を何か所も何かで貫かれる。


 だが、致命傷は避けられたようだ。


 しかも何故か、周囲の戒めが解けた。


 原因は地面に横たわってた。


 コロポックルだ。


 大きさからいって、俺達が運んできた一体だ。


 身体からは、緑色の血のようなものが流れ出ている。


 先程の攻撃から、庇ってくれたのか!?



「――余計な真似を。妖精が人間如きを庇うなど、恥を知れ」



 響く声に頭が沸騰しそうになるが、今は捨て置け。


 コロポックルへの対処こそが最優先だ。


 背負っていたバッグを漁り、手早くポーションを取り出す。


 色味では判別出来ないので、蓋を見て確認する。


 以前付けた印がある。


 蓋を開け、コロポックルの全身に掛ける。


 中身が空になるまで、全て出し切った。


 改めて、横たわるコロポックルを見やる。


 出血は止まっている。


 傷口も既に消えたようだ。


 怪我のショックの所為か、未だ意識は戻らないようだ。


 ひとまずは安心だろうか。


 危ないところだった。


 ポーションが無ければ、命を落としていたかもしれない。


 共に過ごした時間など、ほんの僅かに過ぎない。


 にもかかわらず、身を挺して庇ってくれるなんて。


 助けてあげるつもりで来たというのに、逆に助けられていれば世話が無い。


 不甲斐ない。


 不甲斐ないぞ、俺。


 誰かに守られるなんて何時以来だ?


 ここ十数年だと戦士ぐらいか。


 もっと昔なら、父さんだろうか。


 ――流石にもう、我慢の限界だ。



「どうやら、貴女に主たる資格は無さそうですね。害する相手を誤るとは」


「――勝手に動いたのだから、妾の所為ではあるまいよ」


「貴女の意思に沿わぬモノも居る。それを理解していないのでは?」


「――抜かせ。人間風情が、調子づきおって」



 立ち上がり、黒霧へと手を伸ばす。


 魔法は使えなくとも、魔力はこの身に宿っている。


 ありったけの魔力を注ぎ込む。


 頼るのは忍びないが、矜持など、何の役にも立ちはしない。


 今は抗う時だ。



「目標は声の主。出来るだけ生かして捕えて来て下さい」



 黒霧が、見る間に体積を増してゆく。


 数倍、いや、十倍は超えただろうか。


 そうして顕現するのは、当然ながら、巨大なブラックドッグだ。


 体長は十メートル以上。


 ドラゴン程の威容だ。


 今までで一番大きい。



「――何だ、何が起きた!? 巨大なブラックドッグじゃと!?」


「行け」



 甲高い雄叫びが響き渡る。


 次いで、黒い巨体が姿を消す。


 速い。


 巨大化しただけでなく、身体能力も増しているようだ。


 指示に従い、声の主の元まで、凄まじい速度で駆けて行く。


 後に残るのは、コロポックル達と、俺。


 そして、眼前にまだ居続けていた、魔物のアルラウネだ。



「魔法が使えないなら、ワタシの敵じゃないわね」


「そうでもありませんよ。どちらかと言えば、魔法を使った方が手加減がしやすいってだけです」


「忌々しい人間ね。その減らず口、今すぐ永遠に閉じさせてやるわ!」



 腰に固定してあった、秘書さんから貰った短剣を抜く。



「アハハッ、自信の根拠はそれかしら? 随分と頼もしい事だわ、ね!」



 言葉を言い終えると同時に、つるの群れが槍衾やりぶすまの如く、眼前を覆い尽くす。


 右手で逆手に構える短剣を、力強く握り締める。


 両足を肩幅よりも開き、地面を踏みしめる。



「――シッ!」



 呼気が閉じた歯の隙間から漏れ出る。


 同時に放つは、高速の斬撃。


 殆どを斬撃が、残りは空いた左手が、弾いたり掴んだりして、つるの群れをしのいでいく。



「じょ、冗談でしょ。どんな化け物よ、アナタ」



 動揺するアルラウネの声が、つるの壁越しに聞こえて来る。


 緑の壁に穴が開く。


 次第に穴は増えてゆく。


 数か所、十数か所と。


 やがて、向かって来るつるは無くなった。


 全てのつるを凌ぎきって見せたのだ。


 そうしてあらわになるのは、自身から伸びるつるを切断された痛みと畏怖とで、体を震わせているアルラウネ。


 魔王としてのレベルこそ1でしかないが、ステータスはどれも500超えなのだ。


 並みの魔物相手に、遅れを取る事などありはしない。



「「「「「ポーーー!!!」」」」」



 周囲のコロポックルから、無数の声が上がる。


 悲鳴……という訳ではなさそうだ。


 どうやらお気に召したようだ。


 さて、ブラックドッグの方はどうなっただろうか。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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