90 元勇者の魔王、場の主
スキル名は【】、使用した能力や魔法は≪≫で記載しております。
未だ鋭い視線を向けてくるアルラウネ。
光縛を解けば、たちまちのうちに襲って来そうな様子である。
大人しい種族と言う情報が、疑わしく思える程だ。
やはりこの状態のままに、会話を進める他無いようだ。
知りたい事は幾つかある。
一つ目は、畑地帯から続く、何らかの結界のような力の詳細について。
二つ目は、この山での不可思議な現象について。
三つ目は、先程口にしていた、集落との決まり事について。
四つ目は、アルラウネが妖精の住処に居る理由について。
五つ目は、アルラウネが王子の支配の影響下にない理由について。
取り合えずはこんなところだろうか。
最初の二つは、魔物であるアルラウネは知り得ない情報かもしれないが。
尋ねないよりかは、尋ねてみた方が余程に建設的だろう。
素直に質問に答えてくれると良いのだが。
「では、幾つか質問させて下さい」
「嫌よ。答える義理なんて無いわ」
出だし数秒で交渉決裂した。
本当に、魔法使いとのやり取りに酷似している。
魔法使いの場合、僧侶さんの執り成しか、お菓子で大抵は解決出来ていた。
アルラウネの場合はどうしたものか。
傍らのブラックドッグが、不機嫌そうに唸り声を上げている。
アルラウネの敵意もまた、未だ健在らしい。
「これ以上、傷つけるつもりはありません。聞きたい事を聞いたら、解放します」
「それってつまり、尋問ってヤツじゃないかしら? 生意気な人間ね」
「手段を選ぶつもりがなければ、今頃は、貴女に支配を使用していますよ。そうしない事が、こちらの誠意だと捉えて欲しいですね」
「その支配っていうのも、アナタが勝手に言ってるだけじゃない。本当に魔王かすらも怪しいわ」
「先程、人間と妖精が一緒にいるのが珍しいと仰ってましたよね? まさしくそれです。ブラックドッグは支配の影響下にあります。敵意あるもの以外には攻撃しないよう、指示を与えてあります」
「――っ!? 魔王が妖精を支配してるって言うつもり!? 何なのよアナタ!」
「貴女は随分と、人間に対して非友好的ですよね? 解放した後も人間を襲うようであれば、相応の対処をせざるを得ませんが?」
「今度は脅迫って訳? ハッ、やれるものならやってみなさいな! ワタシは人間の言う事を聞くつもりは、これっぽっちも無いわ!」
どうやら強く押し過ぎたか。
意固地にさせてしまったかもしれない。
どうにも、感情を優先させる手合いは苦手だ。
長らく感情を抑制されていた故だろうか。
いまいち理解が及ばない。
「――はぁ、分かりました。では、拘束を解いたら、話をして貰えますか?」
「だから嫌だって言ってるでしょ! 何をされようが、従う気はないわ!」
埒が明きそうにないな。
折角、人語を介する相手と出会えたのだが。
これでは何を言っても無駄っぽいな。
「――分かりました。残念ですが、当初の、コロポックルを住処に戻すという目的は果たせました。俺達はこれで退散します」
「ちょっと! 拘束を解いて行きなさいよ!」
「十分離れたら、解除しますよ。そうでなければ、また攻撃を仕掛けてくるのでしょう?」
「勿論よ!」
「ではそのように」
背後の父さんに目配せをし、相手を見据えながら後退りをし始める。
まだ何か仕掛けて来ないとも限らない。
ジリジリと下がり続ける。
――何かおかしい。
途端に違和感を覚える。
確か、この妖精の住処へと足を踏み入れてから、数歩も進んではいない筈。
にも拘わらず、一向に外へと出る気配が無い。
意を決して振り返ってみる。
――あれ?
いつの間にか、父さんの姿が無い!?
父さんは妖精の住処から、外へと出られたのか?
ブラックドッグは、未だ傍らに付いて来ている。
分断された?
一体誰に?
視線をアルラウネに向け直す。
未だにジッとこちらを睨んでいるだけだ。
何かをしたような形跡は見受けられない。
いや、そもそも魔物が妖精の住処に干渉できるのかも不明だ。
どちらかと言えば、妖精が何かをした可能性の方が高いのか。
周囲のコロポックルに視線を移す。
相変わらず、両脇に控えて、様子を窺っているだけに見える。
何か別の力が働いている?
そもそもが、妖精の許可無しに、住処へと入る事は叶わなかった筈。
であれば、この住処の主による意思か?
不意にどこからか、声が響いて来る。
「――妾の友への狼藉、終いにして貰うぞ」
女性の声だ。
声と同時に光縛が強制的に解除された。
アルラウネが解放される。
どう見ても、機嫌はよろしくない。
「この人間風情がぁ! 無事に帰れると思うなよ!」
「――待て、友よ。其方では敵うまいよ」
「何よ!? 邪魔しな――」
「――無論、無事に帰すつもりもない。安心せい」
何やら、不穏当な会話が成されている。
だが、肝心の会話の相手の姿が見当たらない。
この場にはおらず、声だけ届けているのか。
あるいは、この場に既に居て、姿を隠しているのか。
いずれにしろ、声の主こそが、この妖精の住処の主に相違あるまい。
「どなたかは存じ上げませんが、こちらに敵対の意思はありません。対話をこそ望みます」
「――下賤な人間風情が。妾と対話などとは、抜かしおる。身の程を弁えよ」
随分と上から目線な物言いだ。
俺の知っているピクシーは、こんなに流暢には喋れないし、悪戯好きではあったが、高慢でもなかった。
姿無き声の主は、少なくともピクシーでは無さそうだ。
「この妖精の住処の主かと推察致しますが、どうしても対話は叶いませんか?」
「――くどい。こうして人間と会話を重ねている事自体が不快極まりない」
「随分と人間を嫌っておられるようですね。集落の人間が不敬を働いたとは、到底思えませんが」
「――黙れ、人間。此度の沙汰、オヌシだけでなく、他の者達にも責を問わねばなるまいて」
「集落の人間に何かするつもりですか? それはオススメしませんよ」
「――ハッ、抜かしおる。手出しすれば、如何様にすると申すつもりじゃ?」
「本気で怒ります」
「――カカカッ。これは愉快! 人間にしては随分と面白い物言いよな」
「そういえば、先程は言いそびれましたが、今でこそ魔王ですが、少し前までは別の職業でした」
「――何じゃ? 突然何の話を――」
「前職は勇者。かつて魔王を倒した者です」
「――ハッ、オヌシが勇者だと? そも魔王というのも疑わしいわ。そう嘯いてみせたところで、露程も脅威には感じぬわ」
「脅し目的では使いたくありません。集落への手出しは取り止めて頂きたい」
「――妾を脅すと申すか。余程に己が力に自信があると見受けられる。良いぞ? 妾が許可してやろう。是非とも披露して見せよ。――もっとも、出来るものならば、な?」
警告はした。
それでもなお、取り止めぬと言うのであれば、致し方ない。
全力でもって分からせるまでだ。
≪光体≫
光の超級魔法。
全身が眩い光に包まれ、地上に偽りの太陽の如き光源が顕現する。
――筈だった。
しかし、どういう訳か、魔法が発動しない。
こちらの動揺を察したのか、哄笑が響き渡る。
「――カカカカカ。無駄じゃ無駄じゃ。この場の主は妾。誰も彼もが妾の許可無しに、力は振るえぬ。何をしようとしたのかは分からぬが、残念じゃったな?」
許可すると言っておきながら、その実、制限下にあった訳か。
魔法が使えないとなると、途端に不利だ。
未だ姿の見えぬ、この場の主とやらに、どう対処したものか。
22/03/06 誤字修正
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