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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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88 元勇者の魔王、緑の広間

 何処をどう歩いているのかも不確かなまま、ブラックドッグの後へと続く。


 頭上からは常に木洩れ日が差し込んでいる。


 時間の感覚が狂う。


 既に今が何時かも不確かだ。


 朝に出発し、今は昼過ぎか、はたまた既に夕方頃だろうか。


 腹の減り具合は当てにならない。


 何故だか腹は空いてこないのだ。


 妖精達と同様に、人間もまた、この山中では何かしらの影響を受けているのか。


 背後から追従ついじゅうする父さんからも、特に声は上がらない。


 会話も無い。


 ただ、山道を行く足音だけが響く。


 そういえば、この山に入って以来、動物や鳥の鳴き声を聞いた覚えが無い。


 人間が立ち入れるのに、動物や鳥が入れないなんて事があるのだろうか?


 何もかもが不確かな山歩きは、唐突に終わりを迎える。






 変化は突然だった。


 明らかに周囲の雰囲気が変わった。


 いや、変わったのは雰囲気だけではない。


 風景もまた変化していた。


 相変わらず、数多の木々に囲まれてはいるのだが、その高さが変わっている。


 どの木々も先程までの数倍以上の高さだ。


 ずっと頭上を枝葉が覆っていた為、まるで天井が高くなったように感じられる。


 そして、眼前が開けた場所になっている。


 直前までは、こんな空間など見えもしなかった。


 先程までの山ではない。


 何処かに足を踏み入れたらしい。


 先導していたブラックドッグは歩みを止めていた。


 すると、ここが目的の場所なのだろうか。


 一瞥いちべつした限りでは、妖精の姿は確認できない。


 気配は――どうにも不確かだ。


 何と言うか、命に満ち溢れているとでも言えば良いのか、そこかしこから気配がする。


 木々からの存在感までもが凄まじい。


 先程までとは桁違いだ。



「――何だ此処は? まだ山の中なのか?」



 背後から声が聞こえた。


 父さんが思わず声を漏らしたらしい。



「まだ山の中には違いありません。恐らくは妖精の住処の一種のようです」


「これが妖精の住処だと?」



 物珍しそうに周囲を見回している父さん。


 腕の中のコロポックルの様子はどうだろうか?


 視線を下へと向ける。



「ポーー!」



 先程までのように左右に揺れるのを止め、正面に向かって声を張り上げている。


 まるで自分の帰還を告げている様にも見える。






 そして、その推察は正しかったらしい。


 周囲の木々から、無数の緑色の球体が降って来た。


 眼前の広間が、見る間に緑色の球体で埋め尽くされてゆく。


 ブラックドッグは特に警戒を示してはいない。


 相手に敵意は無いようだ。


 背後の父さんからは、緊張を強めたのが伝わって来る。


 しばらく待って居ると、緑の雨は止んだ。


 眼前には緑の丘が形成されている。


 数十、いや、数百は居るだろうか。


 これら全部がコロポックルらしい。


 丘が次第に崩れてゆく。


 周囲に移動しているようだ。


 俺達はその様をジッと見守っている。


 眼前の丘が消え、周りをコロポックルの群れに囲まれてしまった。


 どの個体も、今抱えている子よりかは、二回り以上小さく見える。


 だが、手のひら大の個体は見当たらない。


 昔に拾ったのは、人間で言う子供、妖精の幼生体のようなものだったのか。


 それならば、今この場に見当たらないのは、何故だろうか?


 こちらを警戒して、子供は姿を現していないのか?


 何が起きるか予想出来ない為、身動きを控えていると、不意に腕の中のコロポックルが声を発した。



「ポーーーッ!」



 一際大きな声。


 応えるように、周囲から声が返る。



「「「「「ポーーーッ!」」」」」



 凄まじい音の群れ。


 余りの大音量に、反射的に手で耳を覆ってしまう。


 必然、腕の中にあったコロポックルは落下してゆく。


 周囲をコロポックルに囲まれた状況において、同類を傷つけるような真似は不味過ぎる。


 再び反射的に拾おうと試みるが、僅かに間に合わない。


 そのまま地面に落ちると思われた瞬間、黒い影が動いた。


 ブラックドッグだ。


 器用にも、コロポックルを鼻先でキャッチして見せていた。



「「「「「ポォーーー」」」」」



 一連の光景を目撃していた周囲からは、感嘆とも取れる声が響き渡る。


 どうにか怒りを買わずに済んだらしい。


 ブラックドッグのお手柄である。


 しゃがみ込んでブラックドッグを撫でてやる。


 次いで、コロポックルを抱える。


 立ったままよりも、しゃがんでいた方が視線は近い。


 このまま話しかける事にした。



「突然の訪問、済みません。コロポックルを保護したので、住処へとお連れした次第です」



 返答を待ってみるも、返って来る言葉は"ポ"か"コロ"しかない。


 言葉が通じる個体は居ないのだろうか。



「人間の言葉を話せる妖精は居ませんか?」



 やはり返事は"ポ"か"コロ"のみだ。


 コロポックルは人語を話せないらしい。


 ブラックドッグならば、コロポックル達に意思を伝える事が出来るだろうか?


 いや、仮に出来たとしても、ブラックドッグから俺には意思は伝えられない。


 支配の関係上、俺からブラックドッグへの指示は与えられるのだが。


 ブラックドッグから意思を受け取る手段が無い。



「コロポックルは、確かに送り届けましたよ」



 取り合えず、抱えたままのコロポックルを地面へと、そっと下ろしてやる。


 すぐさまうつ伏せに倒れ込みそうになるが、周囲のコロポックルにより、どうやってか支えられた。


 どの個体も球体なのに、どのような方法で動いているのだろうか。


 どうにも謎である。


 ともあれ、当初の目的である、コロポックルの住処への移送は完遂出来た。


 出来れば妖精についてや、この山の事などを尋ねてみたいところではある。


 しかしながら、人語を介する妖精が居ないとあっては、それも叶わぬ望みと言えよう。


 ここは退散するしかないか。


 その場で立ち上がる。


 周囲のコロポックルの視線が集まって来るのを感じる。



「お話を伺えないのは残念ですが、当初の目的は果たしました。これにて失礼させていただきます」



 返答は期待できないものの、一応の礼儀としてそう声を掛ける。



「――待て、そこの人間。どうして妖精の住処に人間が足を踏み入れている? 約定を違えるつもりか?」



 しかし、返る筈の無い返事があった。


 それも幾分攻撃的なニュアンスで。


 声の発せられた方へと視線を向ける。


 よりも先に、ブラックドッグが吠えた。


 声に反応し、視線はブラックドッグへと誘導される。


 ブラックドッグの視線は、広場の奥へと向けられている。


 周囲のコロポックルが、サッと遠ざかって行く。


 改めて、声の主へと視線を向ける。


 人影か?


 いや、人型には違いないが、間違いなく人間では無い。


 人間の女性に酷似こくじした姿。


 もっとも、人間では在り得ぬ色味をしている。


 葉や草を彷彿ほうふつとさせる緑色。


 髪と思しきモノは、つるのように、頭部から地面へと這わせている。


 つるは胸部や下半身をも覆っている。


 頭上から伸びるつるが、まるで衣服のようにも見受けられる。


 つるの所々にある出っ張りは、蕾か何かだろうか。


 全て閉じた状態だ。


 色以外は人と同じ見た目の足で、こちらへと距離を詰めて来る。


 妖精だろうか?


 それにしては、ブラックドッグが警戒を示しているのが気になる。


 単に敵意を向けられたから、吠えただけだろうか?


 広間を埋め尽くしていたコロポックル達は、見る間に左右へと散って行った。


 俺達と、新たに現れた相手との間に、道のような空間が出来上がる。


 相手の視線は鋭い。


 対話を望むならば、慎重に言葉を選ぶべきだろう。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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