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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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86 元勇者の魔王、居場所

 食卓にて、最初に反応を示したのは、母さんだった。



「まぁまぁ、じゃあ、この子はコロポックルって言うのね?」


「恐らくは。ただ、便宜的に人間が勝手に名付けた可能性が高いですがね。何せちゃんと喋れませんし」


「コロポックルちゃん」


「コロ?」



 不意にコロポックルへと呼びかける、母さん。


 不思議そうに見つめ返すコロポックル。



「昔見た時は、小っちゃかったのに、随分と大きくなったのねぇ」


「コロ?」


「同じ個体とは限りませんしね。年齢や個体差もあるのかもしれませんし」


「それもそうね。あらやだ! そういえば、何も食べさせてあげてなかったわ!」


「妖精は魔力を糧としています。恐らく、この子も普通の食べ物は食べませんよ」


「そうなの? どうしましょう。お母さん、魔法なんて使えないわ」


「俺が魔力を与えておきますから」


「待て。余計な真似はせず、山に帰すんだ」



 母さんとの会話に、強い口調で父さんが割り込んできた。



「お父さん? でも、お腹が減ってるなら可哀そうじゃありませんか」


「人間とは違うんだ。下手に何かをして、結果、悪い方へと事態が動きかねん」


「少し考え過ぎじゃありませんか?」


「山に住んでいたなら、山に魔力とやらもあるのだろう。昨夜は遅くなったから、仕方なく自宅へと招いたが、速やかに住処へ戻すべきだ。他の手出しは控えろ」


「――母さん。俺も手出しは控えるべきだと思います。人間の常識と、妖精の常識では、どうしたって異なります。こちらの最善が、相手にとっても最善とは限りません」


「貴方まで!? でも、貴方は黒いワンちゃんを連れてるじゃない?」


「ソレとコレとは関係ありません。何も、無理矢理に住処から引き離した訳ではありません。あくまでも保護しただけです」


「じゃあ、この子も保護してあげれば良いじゃない?」


「母さん。この子だって、山に家族が居るかもしれませんよ? 自分の都合で引き離してしまうつもりですか?」


「ズルいわ、そんな言い方」



 膝に乗せていたコロポックルを、ひしと抱きしめてみせる。


 ついでに頬ずりまでしている。



「ポ、ポ、ポ」



 されるがままのコロポックルは、状況を理解出来ていないようだが、心なしか嬉しそうにしている。


 一見すると微笑ましい一幕ではあるのだが。


 余程に手放したく無いと見える。



「詳しい事情も知らぬままに、保護する訳にはいかないでしょう。今日、俺が住処まで連れて行きますよ」



 コロポックルから顔を覗かせた母さんが、何かを思いついたように話し出した。



「――もし、もしもよ? 住処が見つからなかったら、その時はまた、家に連れ帰ってくれるのよね?」


「それは――」



 チラリと、横目で父さんの様子をうかがう。


 案の定、渋面を浮かべていた。


 そもそも、俺の滞在すら、許可された訳では無い。


 安易に連れ帰るとの口約束は出来ない。


 もし仮に、山にコロポックルの仲間が生息していなかったならば、俺が連れて行くしかないだろう。


 実家では、魔力供給の術が無い。


 いかに母さんが可愛がっていようが、魔力を与えてやれなければ、コロポックルとて生きて行く事は叶わない。



「――最悪の場合、俺が引き取りますよ」


「そんなのズルいわ! どっちも連れて行くなんて!」



 ズルいズルくないという問題ではない。


 というか、母さんは随分と子供っぽいところがあるんだな。


 昔は、自分が子供だったから、そうは感じなかったのかもしれないが。



「いい加減にしないか。みっともないぞ」


「――お父さん。はい、済みません」



 父さんの一声で、途端に大人しくなってしまった。


 少しだけ可哀想かわいそうではあるが、人間の都合で家に留め置く訳にもいくまい。


 消沈する母さんを横目に、山歩きに備え、荷物を纏める事にした。






 自室に戻り、バッグに本を入れ直してから背負う。


 未だ、懐かしさよりも、見慣れぬ感じが強い自室。


 自室、自宅、故郷。


 とは言ってみたものの、どこか違和感が拭えない。


 既視感は確かにある。


 俺が感じているのは、違和感と言うよりかは、異物感なのだろうか。


 この場所に紛れ込んだ異物。


 つまりは俺自身だ。


 変化に乏しい山裾やますその集落。


 俺にとっては"過去"でしかない。


 現在でも未来でも無い。


 かつて居た場所。


 そう感じる。


 いつまでも居座るべきでは無いのかもしれない。


 どのみち、いつ王都に戻る事になるかも不明瞭だ。


 しかも、俺の意思とは無関係に、魔法使いによって転移させられるらしい。


 用足しや入浴中とかで無い事を祈りたい。


 室内を一瞥いちべつする。


 忘れ物は無い。


 未練はどうだろうか。


 良く分からない。


 子供時分の俺。


 まるで別人のような感覚だ。


 幻視する子供の頃の俺。


 いずれ故郷を離れ、長い長い旅をする事になる。


 助言も警告も叶わない、只の幻だ。


 幻影を置き去りにするかのように、部屋を出る。






 食卓の席には、未だ母さんの姿があった。


 父さんの姿は既にない。


 今なお抱きしめ続けているコロポックルを受け取るべく、手を伸ばしながら声を掛ける。



「さぁ、渡して下さい。住処の見当も付いていないのですから、急いで出発しなければ、発見が何時になるか分かりません」


「――また会えるかしら?」



 その言葉は、コロポックルに対してか。


 もしくは、俺に対してだろうか。


 あるいは、両方に対してだったのか。


 僅かに考え込んだ後、返答する。



「――生きていれば、また会う事も叶うでしょう。いつか、きっと」


「そうかしら。いえ、そうかもしれないわね」



 悲し気な微笑を浮かべ、コロポックルを手渡してくれた。


 しかと受け取る。



「コロ?」



 コロポックルは俺と母さんを交互に見やり、不思議そうな顔をしている。


 自身の置かれている状況を理解していないのだろう。


 ずっと母さんの隣に座っていたブラックドッグが立ち上がる。


 共に玄関へと向かう。


 その後を母さんも付いて来る。


 玄関のドアを開けた先、待ち受けていたのは父さんの背中だった。






 ドアの音を耳にしたのか、こちらに振り返る。



「もう行くのか?」



 言葉少なげな物言い。



「はい。まだ住処の見当も付いていません。急ぐに越した事は無いでしょう」


「そうか」


「では、失礼します。二人共、どうかお元気で」


「待て、オレも行く。勝手に山を歩かれるのは困る」


「――え?」



 別れの挨拶を、と思いきや、そんな言葉を掛けられた。


 どうやら父さんも付いて来るつもりらしい。


 非常に気まずい。


 出来れば遠慮したい。


 とは言え、勝手な真似をしているのは俺の方でもある。


 この集落の決まりや習わしには疎い。


 山で勝手な真似をすれば、ツケは集落の住民達が支払うことにもなりかねない。


 我が儘を言うべき状況ではない。



「分かりました。では向かいましょう」


「あぁ。家の事は頼んだぞ」


「はい。いってらっしゃい」



 後半は母さんに向けた言葉だったのか。


 母さんは、分かっていますとばかりに応えてみせた。


 二人と二体。


 昨夜に引き続き、山に入る事になった。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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