85 元勇者の魔王、葉っぱの妖精
▼10秒で分かる、これまでのあらすじ
王都を仲間達に任せ、主人公は故郷を目指す
道中、幾度もアンデッドの襲撃を受けるも、
数週間を掛け、ようやく山の麓にある故郷の実家に辿り着く
父親に追い出され家を後にするも、立ち入りを禁じられた山で妖精を助け、
迎えに来た父親と共に実家へと帰るのだった
それでは、本編の続きをどうぞ。
食卓には既に二人共が席に着いてた。
テーブルの上には、先程から良い匂いを漂わせている朝食が並んでいる。
空いている席へと座る。
「「「いただきます」」」
示し合わせたかのように、三人共が唱和した。
何だろうか、無性に懐かしい。
朝食に手を付けながらも、視線は母さんの方へとどうしても誘導されてしまう。
器用というか、奇妙な事をしていた。
先日の緑色の球体を膝に乗せたまま、食事を取っているのだ。
もっとも、どこかに置いたりすれば、またうつ伏せに転がって、自力では起き上がれないのだから、仕方ないと言えばそうなのだが。
それにしても、過保護と言うか何と言うか。
もしや、昨晩も抱いたまま寝たのだろうか?
母さんの席の傍らには、ブラックドッグが鎮座している。
視線は母さん――と言うよりかは、膝の上の球体を見ているようだ。
当の緑色の球体は、と言えば。
「ポ、ポ、ポ」
微妙に母さんが膝を揺らしているのか、僅かに左右に揺られながら、リズミカルに声を発している。
機嫌は悪くは無さそうだ。
一方で、母さんの対面に座る、父さんの表情は険しい。
父さんの視線もまた、緑色の球体に固定されている。
未だに警戒しているのだろうか?
昨晩の発言では、長年住んでいるにも拘わらず、見た事が無いと口にしていた。
山に居た不明の生物。
まず間違いなく、妖精だろう。
無暗に山奥まで侵入しなければ、例え妖精が以前から生息していたとしても、遭遇する事は無いのかもしれない。
だが、山への侵入を禁じているような節があった。
つまりは、侵入すると不味い事がある訳だ。
山への侵入自体か、あるいは、山の特定箇所への侵入か。
記憶にある限りでは、子供の頃にそんな事を言われた覚えは無い。
であれば、不在の十数年間で、新たに決まった事なのだろう。
出来れば、対話が可能な妖精が、山に居てくれれば良いのだが。
再び視線を緑色の球体へと向ける。
「ポ! ポ! ポ!」
楽しそうに揺られている。
もしも、この種族以外住んで居なければ、情報収集は困難だろうな。
食事中の主な話題は、俺についての事だった。
故郷を飛び出し、どうしていたのか。
今はどうしているのか。
主に、と言うか、母さんだけが質問し続けていた。
父さんは終始無言だった。
流石にこんな僻地と言えども魔王討伐の噂は届いていたようで、自分の息子がそれを成したと聞いて驚いていた。
俺が討伐したとは知らなかったらしい。
一応、勇者が討伐した事は聞き及んでいたらしいが、それが息子の事だとは思わなかったようだ。
他に勇者が居たと思っていたらしい。
魔王は現状二人居るのだし、勇者が複数人居ても不思議ではないのだろうか。
そして、自分が転職し、魔王と成った事を告げた。
当然の事ながら、すんなりとは信じて貰えなかった。
自分自身の事とは言え、信じて貰えないのも無理はない。
現状、俺を含めて魔王が二人存在している事。
更に、もう一人の魔王が、王子である事。
しばし時間を要したが、どうにか一通りの説明は終える事が出来た。
信じて貰えたかまでは、分からないのだが。
三人共食事を終え、少しの間の食休み。
母さんは膝を動かすのを止め、緑色の球体を正面からジッと見つめ続けていた。
「コロ?」
当の緑色の球体は、不思議そうな顔で、母さんを見つめ返している。
食卓には、妙な緊張が走っている。
父さんですら、席を立つのを憚られている様子だ。
俺と二人して、母さんの様子を窺っている。
「やっと思い出したわ!」
突然、母さんが声を張り上げた。
「どこかで見た事があるような気がしてたけど、やっぱりそうだったのね!?」
「いきなりなんだ? 押し黙ったかと思えば、突然大声を上げて」
父さんが注意する。
母さんは若干興奮したような様子で、口早に返答する。
「この子ですよ! 昔、もっと小さい子を見た覚えがあったんです」
「何だと? どこでだ? まさかとは思うが、山に入ったんじゃないだろうな?」
「違いますよ。――いえ、そういえばどこで拾って来たのかしら?」
「どういうことだ?」
「ほら、覚えて無いかしら? 貴方がまだ小さかった頃、お母さんにこの子をもっと小さくした、手の平サイズの子を持って来て、見せてくれた事があったでしょう?」
母さんは俺を見ながら、そう問いかけてくる。
だが、何の事だかサッパリ分からない。
「残念ながら覚えがありませんね。しかし、それが本当だとすれば――」
いや、待てよ。
今朝の夢。
朧気ではあるが、今聞いた話に近しい光景だったような。
幼い自分が、母さんに何かを見せていた。
アレはサイズこそ違えど、緑色の球体だったのだろうか?
「――今朝方に、似たような夢を見たような気がします。もしかしたら、本当にそんな事があったのかもしれませんね」
「お母さんを疑うのかしら? 確かあれは、朝から貴方の姿を見かけなくて、昼過ぎぐらいにフラッと戻って来たと思ったら、両手にこの子の小っちゃいのを持って来てたのよ」
「それらしい光景でしたが、何を持ってたのか、ましてや、何処から持って来たのかも覚えていませんね」
沈黙を保っていた父さんが、唸る様に声を発する。
「昔の山にも居たと言うのか? 見た事も無いがな」
「それで、当時はどう対処したんですか?」
「どうだったかしら。そういえば、その後どうしたのか、全然覚えて無いわね」
妖精には魔力供給が必要の筈。
当時の俺が、妖精に魔力を与える事は不可能だ。
魔力の操作は魔法使いから習ったのだ。
まさかとは思うが、そのまま亡くなってしまったりはしていないだろうな。
逆に、そんな事になっていたなら、覚えているだろうか?
記憶頼りでは限界もある。
当初の予定通りに、例の本で調べてみる方が手っ取り早いかもしれない。
思い付くなり、席を立つ。
「部屋に妖精に関する本があるんです。それで少し調べてみます」
「まぁ、そんな本があるのね。お母さんにも読ませて欲しいわ。いっそ、ここに持ってきて頂戴」
「それは構いませんが」
チラリと父さんの方を見やる。
渋面を浮かべてはいるものの、異論の声は上がらない。
席を立とうとする素振りも見受けられない。
一応、一泊する許可は貰った訳だが、それ以降に関しては何も言われていない。
妖精の一件が片付くまでぐらいは、滞在出来ると有難いのだが。
足早に自室へと向かう。
ベッドの上に置いておいた本を取り、食卓へと戻る。
食卓の上の食器が片付けられる。
そこに持って来た本を置く。
正面から以外では、本を読むのは困難だと思うのだが、二人の視線も本へと集まっている。
本のページを捲って行く。
目指すべきは、妖精の種類が書かれた箇所。
緑色の球体。
全体が葉っぱに覆われた妖精。
それらしい記述を探す。
探す事数分。
遂に該当するであろう記述を発見した。
記述された妖精の名前には、"コロポックル"とあった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




