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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
第二章 妖精秘境編 中編
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83 元勇者の魔王、帰るは我が家

 相も変わらず、頭上からは木洩れ日が差し込んで来る。


 山に入る直前、夕方だったにもかかわらず、だ。


 体感的には、既に日は沈み、夜半といった頃合いだろうか。


 不可思議な山の中を、時折響き渡る声の方向を目指して歩いてゆく。


 当然ながら、こちらからも応答の声を上げている。


 でなければ、別の場所へと移動してしまうかもしれないしな。


 バッグを背負い、腕の中には妖精らしき緑の球体を抱えている。


 横では、ブラックドッグが付かず離れず歩いている。


 今は随分と落ち着いている。


 山に入る際の様子とは大違いだ。


 すわ何事かと思ったが、この球体を助けるべく駆け出したのだろうか。


 魔物同士であれば、他種族を助けるといった行動は取らないように思える。


 いや、そうでもないのだろうか。


 セントレアなどは、個体の癖が強過ぎるが、面倒見は良いように見受けられた。


 人間だとか、魔物だとか、妖精だとか、関係無いのかもしれない。






 父さんが居るであろう、呼び声のする方向へと移動する。


 声の感じから察するに、お互いの距離は随分と近づいた筈だ。



「コロ?」



 腕の中の緑色の球体が声を発する。


 "ぽ"、か、"ころ"、しか言葉を発していない気がする。


 何の妖精なのかは未だに不明だが、ピクシーとは違い、人語を介さないようだ。


 とはいえ、こちらの言っている事に反応は返してみせている。


 こちらの言葉は理解しているのかもしれない。


 もしくは、反射的に言葉を返しているだけかもしれないが。


 しかし、見れば見る程に、不思議な妖精だ。


 自分自身の力で立てず、うつ伏せに転がってしまうなど、割と致命的だ。


 この見た目なら、余程の悪意でも持たれない限り、傷つけられたりはしないとは思うが、今の今まで、どうやって生活を送っていたのだろうか。


 想像するのが困難だ。


 体の大部分を葉っぱに覆われているようだし、植物に関係する妖精なのだろう。


 夜間にも木洩れ日が差し込むような、不思議な山な訳だし、他の個体も生息していそうではある。


 父さんと合流した後、この子も仲間の元へと帰してあげたいところだ。






 幾度目かの声の掛け合いの後、山中にて父さんと無事に合流を果たした。



「何故山に入った! 事前に入るなと言っただろうが!」



 開口一番、怒鳴られる。



「済みません。ですが、ブラックドッグが突然駆け出してしまったのを追いかけたんです。故意に侵入した訳ではありません」



 隣にたたずむブラックドッグを見やり、父さんが自問するように声を発する。



「山に入れるということは、魔物では無いのか?」



 山には魔物は侵入出来ない?


 畑地帯と同種の何かが作用しているのだろうか。



「えぇ、この子は妖精の一種です。魔物だと広く誤解されてはいますが」



 視線をブラックドッグからこちらへと向け直して来た。


 視線の先にあるのは、腕の中の緑色の球体だ。



「それで、その抱えている物は何だ? 何を山で拾って来た?」


「この子も妖精の一種のようなのですが、ご存じありませんか? どうやら、この子を助けるべく、ブラックドッグはこの山へと侵入したようでした」


「見た事も無いな。オレが知っているのは――いや、何でもない。とにかく、何であれ捨て置け。山の中から持ち出す事はまかりならん」


「ですが、この子は自立出来ないようで、地面に置いてやると、うつ伏せに倒れ込んでしまうんです」


「――冗談を言ってるのか? では今までどうやって生きて来たと言うつもりだ?」


「そんな事、俺が知る筈ありませんよ。事実は事実なんです。集落にどういう決まり事があるのかは知りませんが、この場に捨て置いて命を落とす事になれば、問題なのではありませんか?」



 俺の言葉の受け、父さんは渋面を浮かべている。


 僅かな間、沈黙が場を支配する。



「コロ?」



 沈黙を最初に破ったのは腕の中の妖精だった。


 両者の視線が、自然と腕の中の妖精に集まる。



「――ふぅ。仕方が無い。住処を探すにしろ、この山の中では分からんだろうが、夜も更けた頃合いだ。今日の所は家に連れて来る他あるまい。ついでだ、オマエも来い」


「俺も家にお邪魔しても構わないんですか? 何だったら、この子だけを預かって頂ければ良いのですが」


「別に無理にとは言わん。来たくなければ来なくて良い」



 あんまりな物言いに、思わず絶句する。


 だが、ふと考え直してみた。


 十数年ぶりに会った息子らしき人物。


 自分が父さんの立場だったならば、どう感じるだろうか。


 まずは疑うだろうか。


 本物足り得る証明を求める?


 少なくとも、いきなり信じたりはすまい。


 母さんだけは、こちらの自己申告すら聞かず、いきなり受け入れてみせたが、そんな反応はまずあり得ない。


 元より、父さんとは仲が良かったとは言い難い。


 苦手としていたぐらいだ。


 父さんとしても、得手とはしてはいなかったに違いあるまい。


 お互いに、距離感を計りかねているのかもしれない。


 ここは譲歩するべきか。



「分かりました。それでは一晩だけ、お邪魔させて頂きます」


「そうか。では付いて来い。良いか? くれぐれもこれ以上、他所の場所へ行こうとはするなよ?」


「はい」



 大人しく肯定しておく。


 既に目的だったブラックドッグを連れ戻す事は叶っている。


 この山には、未だ興味が尽きないとはいえ、荒らし回るつもりもない。


 父さんの後に追従し、山を下りる。






 しばらく歩いた後、ようやく山から出る事が叶った。


 やはり、山の外は当然のように真っ暗だ。


 空には月と星はあれども、日は沈んで久しい様子。


 山の中に木洩れ日が差し込んでいたのは、異常という他あるまい。


 故郷を飛び出すまでの、十数年間。


 これ程までに不可思議な山のふもとに住んでいて、疑問に思うことは無かった筈だ。


 最近になって、こんな状態になっているのだろうか?


 それとも、覚えていないだけで、昔から変化していないのだろうか。


 山を背に、家路を急ぐ。


 すると、家の前に誰か立って居た。


 母さんだ。


 俺を、というよりも、父さんの身を案じて、今の今まで待って居たのだろうか?


 こちらに気が付いた母さんが、声を掛けて来る。



「随分と掛かったんですね。少し心配していたところでした。でも、ちゃんと連れ帰って来てくれたんですね」


「あのまま見過ごす事は出来なかっただけだ。山に余所者を立ち入らせるなど、皆に知られれば事だ」


「みんな、無事で良かったわ。――あら? 何を抱えているのかしら?」


「あぁ、山で拾った――いえ、救助したんです」


「救助? 随分と丸いのね。山にそんな生き物、居たかしら?」


「恐らくは妖精の類かと」


「妖精? あらあら、お母さん、妖精なんて初めて見るわ。良く見せて頂戴な」


「それは構いませんが、取り合えず、家の中に入りませんか? 外で騒げば、集落の人達に何事かと思われかねません」


「あら、御免なさい。それもそうね。じゃあ、二人共、お帰りなさい」


「あぁ、ただいま」



 父さんが返事をする。


 きちんと受け入れられたとは言い難い状況で、口にするのははばかられたが、返事しないのも失礼だ。


 小さく返答する。



「――ただいま」



 こうして、奇妙な帰郷の初日は過ぎゆくのだった。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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