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原因と結果

「結界のイニシャルコストは守護を与える者が払ってくれたようです。なるべく、ランニングコストは軽微にして、代々の王族が支払うことにでもなっていたんでしょうね。その部分については、ロウランドとの戦争を終わらせた後に、故意か過失で失伝したのでしょう」

 リーシアが推測を織り交ぜながら、魔石に組み込まれた魔術の解析結果を伝える。

 推測の部分は外れていようと、何の悪影響も出ない部分であるので、間違っていても問題はない。


 ファメロが言った、代々の王にのみ口伝で伝わることについて、国を守る要のことだと考えれば納得がいった。

 王にのみ口伝、という部分については、クーデターが起こった場合にどうなっていたのか、リーシアの嗜好的に気にはなったが、結果として、その『遺産』自体が失伝することがなかったのは僥倖であろう。




 ファメロが、その魔石について伝えられた時には、国を滅亡に追いやりかねない、負の遺産として伝え聞いたようなものだったが、それが、真実、国を守っていた時代もあったのだと思えば、ファメロの胸にこみ上げるものがあった。


「尤も、それがことの原因ですが」

「……どういうことだ」


「魔石への魔力供給の必要性について失伝させた王は、それがなくなれば、魔石はいずれただの石になり、結界も解けて終わりだと、そう思っていたんでしょう」

「……だけど、そうじゃなかった」

 リーシアが片手で魔石を撫でる。ひやり、とした感触を撫でながら、ファメロに頷き返した。




「この魔石は、魔力の媒体として優秀すぎた。……魔力の供給がなくなっても、貪欲に、空気中から魔力を収集しようとしました。しかし、そんな微量の魔力では、すぐに結界は維持できなくなり、機能喪失。使用先が無くなった魔力は、ただ集まり続けるだけで、やがて淀み、瘴気へと変質。その瘴気は、形だけになった結界の残滓に引っかかり、国外へ流れ出すこともなく、グリーム国内に滞留。やがて、魔獣被害を引き起こすようになった。……元が、国全体を覆う結界で何よりでしたね。下手に王宮だけ囲うような結界だったら、王宮に出入りする人間の体調にだけ支障が出て、呪いとでも噂されているところですよ」


「終戦が、魔獣被害の原因か」

 ファメロが茫然と呟くのに、リーシアは苦笑する。それはあまりにも飛躍している。

「守護を与えた者の怠慢ですよ。そういうところが雑だというのです」

 開き直ってしまったリーシアに、見もしない超自然の存在の擁護もできずにファメロが言葉を詰まらせた。




「と、いうことで。ことの原因はそんなところですが、アナタはどうしたいですか?」

「どう、とは」

「まず、私にできることを言っておきます。結界を張り直す、というのは私の力ではできません。し、そもそも、戦争を前提にした結界等を私が張るわけもありません。……私は調停者、らしいですから?」


「魔獣被害をゼロに、というのは勧めない、だったか?」

「これにはこちらの都合もあって恐縮ですが、魔大陸からの瘴気が流れてこなくなる都合上、アルバ周辺の魔獣被害もぐっと減る予定です。ですが、私は、冒険者は必要な存在だと思っています」

 まだまだ民主化が進まない大陸で、あらゆる権力から解き放たれる冒険者という存在は必要だ。




 具体の例を挙げれば、特定の国が戦力を独占しないよう、冒険者はいつでも自由に国を出ることが許された。冒険者の出国を制限することが、冒険者協会によって禁じられているためだ。しばらく戦争のなかった大陸だからこそ、実現した協定ともいえる。


 冒険者の出入りがなければ、ロウランドとグリームの国境は今も固く閉じられていたかもしれない。


 また、例えば、冒険者という職がなければ、リーシアは、リーシアを生家から連れ出してくれた兄は、稼ぐあてもなく死んでいたかもしれない。




 もちろん、魔獣退治だけが冒険者の仕事ではないし、実際、リーシアが治める地の周辺では、冒険者のための新たな仕事を作る予定であるが、腕のいい冒険者にとって、魔獣退治ほど稼げる仕事がないのも、また事実である。


「だが、冒険者のために、国民の身を危険に晒すことはできない」

「それは、そうでしょうね」


「それでも、これまで国を守ってくれた冒険者の労に報いることはする。新たな雇用を創出することは約束しよう」

 ファメロの言葉に、リーシアはふ、とため息をついて、浮かせたままだった体を床に下ろした。




「では、残念ですが、アナタの望み通りに。……この魔石がなくなれば、魔力が国内に蓄積することもありません」

「その魔石はまるでくっ付いたように動かないんだが」


 もちろん、魔石をどうにかしよう、というのはファメロも試したことがあるのだろう。

 とはいえ、人力でどうとでもできる、結界の動力源など、セキュリティがなっていなさすぎる。

 ファメロ程度の力でどうこうできないのは当然といえた。


「あぁ、これ、貰いますから、私の力が及ばなくても問題ありません」

「……は?」




 首をかしげたファメロを見やりながら、リーシアは自信満々に右手を心臓の上に、左手を魔石に当てた。

「私、これ欲しいので、宅配お願いします」

 言葉が終わるか終わらないかのうちに、心臓の黄水仙が脈打って。


 しゅん、と、まるで、そこにあったのが幻のように、台座から魔石が消え去った。




 ファメロが茫然と、空になった台座を見つめる。

「……誰もやるとは言ってないんだが」


「国内に残しておいたら、同じことが起きるんですから、捨てるでしょう? まさか、他所の国に捨てることもできないのに、他にどこに持っていくんです?」

 素知らぬ顔のリーシアに、ファメロはため息をつく。




「これで、終わったのか? 全部?」

「そうですね。アナタが『ハズレ』でいる理由は綺麗さっぱり消え去りました」

「……そうか、俺はもう『ハズレ』じゃダメなのか……」

 感慨深げにつぶやくファメロに苦笑して、リーシアは身を翻す。




「約束通り、国内には留まりますが、王宮は居心地が悪いので宿を取ります。何かあったら、訪ねて来てください。明日の夕方には帰りますので」

「……俺の酌をする気は?」

「縮んだままでもよければ?」


「俺の侍従にバレてもいいなら、俺は気にしない。なら、俺が宿まで行こう。……王室御用達の珈琲豆を持って行ってやる」

 ファメロの言葉に、リーシアはこの日1番微笑んで、瞬きの間に姿をくらました。


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