勇者の剣
ヤオヨロズ企画。擬人化作品。
私はただの鉄の剣でいたい……
私を手にしているのは勇者と呼ばれる男。
古き王家の血を引き、天空神に愛された、運命に選ばれし者。
まごうことなき”本物”の力を持っていますが、その力を筋力に全振りしているので、脳筋勇者とも言われています
彼は、魔物はすべて敵だと言って、その生息地ごと根切りを行う暴力的な人間でした。勝手に人の家に押し込んで、タンスを開けたり、ツボを破壊するのが大正義だと思っている、ちょっと危ない人でもありました。
勇者とはそういうものだと言い放ち、堂々と実行するのが彼なのです。たぶん、とても思い込みが激しいのだと思います。
私を手にしているのは、そんな勇者でした。
あ、私は只の鉄の剣ですよ。間違っても、勇者の剣などと呼ばれてはいけない代物――自分で言うのもなんですが、偽物なのです。
でも、勇者はこれが俺の剣だ、勇者の剣だと言ってきかないのです。だから壊れる度に、何度も何度も打ち直されては酷使されてきました。
冒険の序盤、軍資金稼ぎと称して王家の墓を荒らす勇者が装備しているのも私だったのです。
お墓の奥深くで見つけた扉が開かないというので、勇者は隙間に私を差し込んで、テコの原理でこじ開けました。役目を終えた私はあっさりとへし折れるのですが、勇者からは気合いが足らないと言われました。
墳墓から出てきた勇者は、私を鍛冶屋に私を持ち込んで、決して折れないようにと注文を付けました。溶かし込まれた私は、そこらにあった玉鋼を混ぜ合わされ、太く長く生まれ変わるのでした。
冒険の中盤、レベル上げと称して森のいたいけな魔獣たちを殺戮しまくる勇者の手にも私が握られていたのです。
10日10晩と立て続けに戦闘を行う彼のせいで、ひびが入った私が、またポキリ。根性が足らないと言われた私は、鍛冶屋に持ち込まれてまた溶かされます。そして、そこらにあった真銀を継ぎ足されて、また太く長く生まれ変わるのでした。
冒険の終盤、名声を獲得すると称してわざわざドラゴンの営巣地に乗り込み、よせばいいのに龍の逆鱗に触れた勇者の腰にも私は存在していました。
龍は手ひどい勢いで炎を吐いてきて、勇者は私を盾にしてそれを防いだのです。戦いの後、私は熱による疲労破壊で完膚なきまでにポッキリとへし折れました。
このときは努力が足らないと言われた気がします。三度鍛冶屋に持ち込まれた私は、三度溶かされ、そこらにあった神金を混ぜられて、毎度毎度のことながら、太く長く生まれ変わるのでした。
さて、ここま語ったことは、冒険の一端にすぎません。だから、私が打ち直された回数は、もっと多いのです……。
そして、最期の戦い――魔王戦が始まります。
私を手にした勇者と、魔王の間でとても激しい戦いが繰り広げられました。
で、魔王を打倒した勇者がこう言うのです。
「また、折れてやがる」
だからと言って、魔王の城で見つけた、禍々しさしか感じない呪われた金属を私に加えるのはやめて欲しいのです。
本来の私はただの鉄の剣なのですから。
偽物? 鉄の剣さんは本物なんだと思います。
最期は、神殺しの剣にでも進化しているのでしょう。
でも、認めたくないのでしょうね。