第8話 希望
「希望だと? お前も無能力者なら分かるだろうが! この世界では無能力者に希望なんて無いんだよ!」
爆弾魔のリーダーらしき男はそう答える。
確かに……その通りだ。
でも……だからこそ……
「俺がこの腐った世界を変えてやるって言ってるんだよ!」
俺の言葉に爆弾魔は少しの間黙る。
その間に会長が横から小声で囁いてくる。
「颯太さん、もういいわ。後はAランクである私に任せなさい」
「すみません、会長。ここは……俺に任せて欲しいです」
俺は動こうとした会長を制止させる。
確かに無能力者の俺なんかがやるよりは、Aランクである会長に任せた方が良いに決まってる。
でも……それだと駄目なんだ……。
それでは結局、能力者による表面上の対処にすぎない。
この問題は、同じ無能力者である俺が解決しないといけないんだ。
と、俺が心の中で思っていたら、爆弾魔のリーダーの閉じていた口が開いた。
「変えるって何だよ? どうやって変えるつもりだよ! 無能力者のお前にできるのかよ!」
確かに無能力者の俺にできる事なんて限られている。
爆弾魔は続けて言う。
「大体、もし無能力者と能力者が平等になる政策が行われても、能力者の心には無能力者を馬鹿にする考えが残る筈だ!」
確かにそうだ。
かつて存在した人種問題のように、例え法律上平等になったとしても人々の心には差別的心が残ってしまうだろう。
だから俺は考えたんだ。
この問題を解決できる方法を。
そして辿り付いた一つの答えを……それは……
「だったら全員、能力が使えなくなればいいんだ!」
俺は爆弾魔に言い放つ。
俺が考え出した、この腐った世界を変える方法を。
俺は続けて爆弾魔に言う。
「皆、能力が使えなくなれば、能力者も無能力者も関係ない! 平等になれる筈だ!」
「だから、どうやって能力が使えないようにするんだよ! 無理に決まってるだろ!」
爆弾魔はいらつきながら問うてくる。
だから、俺は答える。
「<未開大陸>だ。そこならきっと、その無理を可能にする何かがある筈だ!」
「<未開大陸>……。だが、例えそれが可能だとしてもだ! 全人類の能力を封じると言う事は世界を敵に回すという事だぞ!」
爆弾魔の言う通りだ。
今、現在の社会は高ランクの能力者には非常に過しやすい社会。
そんな中、全人類の能力を封じて平等にするなんて俺の目的を高ランクの能力者が黙って見てる筈は無い。
世界を支配している高ランクの能力者全員を敵に回す事になる。
そんな事は分かっている。
だからこそ……俺は言う。
「だったら……そいつら全員踏み台にしてやるだけだ!」
「無能力者のお前にそんな事ができる訳が無いだろ!」
「だったら、その機関銃で俺の事を撃ってみろよ」
「何言ってるんだよ! そんな事したらお前が死ぬだろうが!」
「これから世界を敵にするんだ。そんな事で死んだりはしない!」
勿論、こんな事で俺が世界を変えられる証明になる筈はない。
それでも何かしら見せてやらなければいけないんだ。
俺が本当に世界を変える力を持っているかどうか見せてやるんだ。
だから……
「お願いだ。俺の事を機関銃で撃ってくれ」
「ちっ! 死んでも文句は言わせねーぞ!」
爆弾魔はそう言って秒速100発の機関銃を撃つ。
これに対して俺は背中から刀を抜き、一振り。
たった一度だけ刀を振った。
その一振りは、機関銃の銃弾一つを弾く。
そして弾かれた銃弾と弾いた銃弾は、再び別の銃弾に当たり、軌道を逸らす。
更に軌道が逸らされた銃弾は、他の銃弾に当たり、軌道を逸らす。
そしてそれらは連鎖する!
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!
そんな音と共に俺が弾いた一つの銃弾は結果的に全ての銃弾を弾き、最後に爆弾魔の持つ機関銃を破壊した。
「嘘……だろ……」
爆弾魔の口からは思わず、そんな言葉が漏れる。
そうして俺は3人組の爆弾魔達に告げる。
「これで分かってくれたか? 俺は本気だ。最後に聞いておく、お前の名前は何だ?」
「名前…………将平だ」
「そっちの二人は?」
「大和……」
「浩太……」
俺は爆弾魔である3人の名前聞く。
そして……
「大和、浩太、将平。お前達には俺の踏み台になってもらうぞ!」
俺はそう言いながら彼らの元へ歩み寄り、彼らの持つ拳銃を静かに、それでいて力強く叩き落とした。
◇
取り合えず、俺は【死淵】を解除させて、近くの店でパンを買い食欲を満たす。
その後、将平達3人を外に連れて行く。
駐車場には、既に連行用の荷台付き大型トラックが止まっていて中から警察が出てくる。
「この3人が無能力者の爆弾魔って事でいいの?」
「はい。後はよろしくお願いします」
会長が警察官とやり取りをしている中、俺はそこに割り込んで警察官に質問をする。
「あの、将平達は懲役何年くらいになるんですか?」
「将平……? あぁ、無能力者の爆弾魔か。懲役10年くらいかなぁ」
警察官はめんどくさそうに答える。
何というか……適当だなぁ。
まぁ、警察の仕事は戦闘の後処理や無能力者の犯罪者の連行。
基本的に雑用ばかりだから、そんな物なのか……。
そう思いながら俺は、将平達に話しかける。
「懲役10年くらいだそうだ。待ってろよ、将平。お前が出てくる頃には必ず、この腐った世界を変えてやるから…………ってあれ? 何で泣いてるの?」
「いや……俺達いつも無能力者としか呼ばれてなくて大和達以外で名前で呼ばれたのは初めてだから……」
名前で呼ばれたから嬉しくて泣いた……か。
確かに俺も名前で呼ばれた事はあんま無かったな。
などと思っていたら、将平達に手錠が付けられトラックの中に入れられる。
そうしてトラックの荷台ドアが閉まり、将平達の顔が見えなくなった時、中から将平が涙ぐんだ声で叫んでくる。
「俺は10年間、お前の変える世界を楽しみに待ってるからな! もし、10年後俺が出てきた時、今と同じだったら真っ先にお前の事を殴りに行ってやるからな!!」
そうして将平達の乗ったトラックは発進する。
そっか……この世界を変えるという俺の夢は、もう俺の物だけじゃないんだ。
大和、浩太、将平の3人……いや、この世界の無能力者全員の夢なんだ!
将平達は俺の事を待っててくれている。
なのに10年後、世界を変える事はできませんでした、じゃ済まないよな……。
だから……絶対にこの世界を変えてやる。
そうして俺は今一度決心するのであった。
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キキィ!
山奥に一台の大型トラックが止まる。
そのトラックは将平達を乗せている警察のトラックだ。
「さてと、この辺りでいいかな」
トラックの中には2人の警察官が乗っている。
助手席に座っている40代程度の男の警察官はトラックから降り、荷台のドアを開ける。
そして、荷台の中にいた爆弾魔である無能力者、将平達を外へ連れ出す。
「な……何だここ……森? 留置所は何処に……?」
突然、荷台から出された将平達は戸惑う。
と、次の瞬間、警察官の右手が拳銃の形となり、そこから銃弾が放たれた。
その銃弾は…………浩太の心臓を貫いていた。
「え……何を……何をして……」
「あ、俺の右手の事? これはCランクである俺の能力、《拳銃となった右手》。右手を拳銃に変える能力だ」
「違う……そうじゃなくて、何をしたって言ってるんだ!」
将平は叫ぶ。
将平には何が何だか分からなかった。
突然、警察の能力により仲間が殺される。
実際に起きている事なのに理解が追いつかない。
だが……そんな将平でも次の瞬間理解できた。
ダンッ!
警察官が放った銃弾は、今度は大和の心臓を貫く。
さすがの将平も、もう理解した。
この警察官は俺達を殺している。
でも……何で?
「何で……何で将平を殺した!!」
その将平の問いに警察官は薄ら笑いをしながら答える。
「逆に何で殺されないと思ったんだ? お前等みたいな生産性の無い無能力者を税金を使って留置所に入れる必要があるとでも?」
「な…………でもだ! そんな事が許される訳ないだろ! ばれたらお前だってまずい筈だ!」
「なぁ、知ってるか? 俺達が付けている腕章には盗聴などの政府の監視が付いている。俺は無能力者の犯罪者殺しを10年くらい前に先輩から誘われて始めたんだ。さすがに何十年間も上が気づかないって事は無いよなぁ?」
「と言う事は……まさか……」
「そのまさかだ! 上は認めてるんだよ! 犯罪者の無能力者を殺す事を!」
「なっ…………」
「それじゃあ、さようなら。無能力者君」
ドンッ!
そうして将平も撃たれて死亡した。
「さてと、この死体は放置で良いんだよな?」
「あぁ、この高尾山B-1地区は有名な死体放棄場だ。直に回収されるだろう」
「ふんっ、死体の回収なんて物好きな奴もいるもんだな」
「……そうだな」
こうして二人の警察官は自身の勤務先である交番へと戻る。
まるで何事も無かったかのように。
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俺は自分の家に帰って晩ご飯を食べている。
正面の椅子には昨日から俺と暮らし始めた楓。
そして真横の椅子には……ニーナがいた。
迷子センターにでも届けようとも思ったが、楓が家に連れて帰りたい、これが原因で捕まる未来は見えないから大丈夫、と駄々をこねたので連れてきてしまったのだ。
「そういえば楓、トイレでニーナを過去を見た時に不具合がどうとか言ってたけど大丈夫だったのか?」
「心配いりません、お兄様。楓は元気です!」
楓はそう言っているのだが……何か元気が無いように見えるなぁ。
まぁ……楓が大丈夫と言うのなら触れない方がいいのかな……。
俺はそう思い、ニーナに声を掛ける。
「楓が作ってくれたご飯はおいしいか?」
「うん! おいしい!」
ニーナは元気そうだな。
まだ謎も多いけど、楓の能力もあるし、少しずつ分かるようになろうだろう。
そう思っていたら、楓が
「まるで家族みたいですね、お兄様」
なんて冗談を言ってきた。
うー、やめて欲しい……。
ただでさえ、楓は可愛いのにそんな事を言われたら超えてはいけない一線を越えてしまいそうになってしまう。
なーんて下らない事を考えて、俺の1日は終わった。
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楓の能力は、見た物が過去・未来に見る映像を見る能力。
能力の使用には、かなりの負担がかかる為、長時間使用や連続使用はできない。
その為、普段は能力を使わない。
だから楓は気づけなかった。
将平達が死ぬ事に。
しかし、兄である颯太の未来は定期的に見ている。
だから……この時、楓は分かっていた。
月曜日に起きる事を。
だが、楓にはその事を言う事はできなかった。