第6話 ニーナ
「それで……何で生徒会長がいるんですか? お兄様のストーカーでもしてるんですか?」
楓は生徒会長に問う。
生徒会長とは温恩デパートに入った時にばったり出くわしてしまったのだ。
まぁ、温恩デパートは超大型デパート。
俺の通う東京特隊高校がある東京都に立地していて、都内最大のデパートとも言われてる程だ。
ここに行けば何でも買えると評判になる程、様々な専門店が集まっていて全て回るには1日あっても足りるかどうかってくらい大きい。
特隊高校から多少距離はあるものの、老若男女問わず都外から客が来る事も珍しくないのでストーカーは言い過ぎだろう。などとしょうもない事を考えている間にも楓と会長は言い争っている。
「べ、別に今日はストーカーなんてしてないわよ! それより、星宮さんこそ何で颯太さんといるのよ?」
「私はお兄様に頼まれて制服を一緒に買いに来ただけですよ。分かったら生徒会長はどっか行ってて下さい」
「制服を買うのなら私の方が適任じゃない? 私は生徒会長、校則はしっかり把握してるわ!」
うーん、何でこの二人は仲が悪いのだろう。
取り敢えず、俺が間に入って仲裁しなければ。
「まぁまぁ、楓は落ち着いてくれ。会長も落ち着いて下さい。3人で行けばいいじゃないですか」
「お兄様がそう言うのなら楓は何も言いませんが……」
「颯太さんがどうしてもって言うなら、一緒に行ってあげるわ!」
「よし、決まりだ。ところで会長は何を買いに来たんですか?」
「いえ、私は警備の仕事でここに。今日は有名なアイドルのライブが3時から行われるみたいなのよね」
「それで休日に一人で温恩デパートにいるのですか。かわいそうな人ですね……。楓には考えられません」
「べ、別に受けたくてこの仕事を受けた訳じゃないのよ! 誰もこの仕事を受けないから……」
そっか、確か聞いた事あるぞ。
掲示板に貼られた仕事の内、誰も受けないで期限が来てしまった物は生徒会メンバーが率先してその仕事を受けないといけないって。
誰も受けないで放置というのがまずいのは分かるが、生徒会も案外大変なんだな。
誰も受けないという事は、あまり良い仕事では無いって事だろうし……なんて考えてたら楓が
「ところでお兄様、あそこにいる子供って……?」
と、言いながら右側の通路の方を指差す。
そこにはうろうろしている可愛らしい6歳くらいの女の子がいた。
「見た感じ迷子に見えるな。迷子センターにでも連れて行って……」
「それもそうなんですが、あの子の腕を見て下さい、お兄様」
楓がそんな事を言うから、その迷子の女の子の腕を見る。
すると……その腕には……
「腕章が付けられていない……??」
そう、腕章が付いていない。
腕章が付いていない。それは例え子供でも許されない。
腕章は国民、いや世界人類全員に付けるのを義務付けられている物。
付けていない時の罰則は非常に重く、赤ちゃんであろうと外出時に腕章が付けられていない場合、懲役50年なんて事もありえる。
忘れたなんて言い訳も通用しない。
それに、例え忘れていても腕章には政府の監視が付いているので、付けていない状態で一定時間たつと警告が入り、無視したら即座に捕まる。
「取り敢えず、あの子の所に行ってみましょう、お兄様」
楓に言われて俺達は腕章を付けていない女の子の所に行き、その子と一緒に人目のつかない所へ向かった。
◇
「あなたの名前を教えてくれる?」
会長が女の子に問う。
俺達は今、障害者用のトイレの個室にいる。
ここなら周りに見られる事もなく、聞かれる事もないだろう。
「……なまえ?」
「そう、名前よ。何で呼ばれてた?」
「んー、にーな」
「ニーナ? 外国人?」
「がいこく?」
「いえ、何でもないわ。それで腕章はどうしたの?」
「わんしょう?」
「ほら、私の腕に付いてる奴みたいな」
「んー、そんなのしらない」
会長が色々聞いているようだが、分かったのはニーナという名前と腕章の事を知らないって事か。
腕章を知らないって事は生まれた時からしていないって事、か。
そんな事ありえるのか?
若い人が間違って産んでしまったとしても、今の日本では他言無用で無償で引き取ってくれたり、手続き無しで仮の戸籍を作って腕章を貰える制度もあるので腕章を付けさせないメリットなんてない。
そこまでする程、国は腕章を全員に付けさせようとしているんだ。
それに今の今までばれてない事も不自然だ。
ニーナは一体……そうだ、楓の能力なら真相が分かるかもしれない。
「楓、この子の過去を見る事は?」
「はい、お兄様。今、見てみます」
そう言って楓の目は紫色に光る。
楓の能力は、見た物が過去・未来に見る映像を見た物視点で見る能力。
つまり、ニーナが過去に見ていた映像をニーナ視点で見る事ができるのだ。
これなら何かしら分かる筈。
「楓、どうだった?」
「何……これ…………」
「楓? どうかしたか?」
「いえ、すいません、お兄様。もしかしたら楓の能力が不具合を起こしているのかも」
そう言って楓は顔を青ざめながら、壁の方を向いて能力を発動させる。
おかしな話だが、楓の能力では物体が見た過去・未来まで見る事ができるらしい。
能力に不具合があるのかもって言っていたし能力がきちんと発動しているか確かめているのだろう。
楓は壁と数秒睨めっこした後
「すいません、お兄様。少し別行動させて貰います。3時までには帰るので、それまで生徒会長と制服でも買っていて下さい」
「何かあるのか、楓?」
「野暮用です、お兄様。後、これをニーナちゃんに」
と言いながら楓はリュックから腕章を取り出し、手渡してきた。
「え……これって?」
「潜入用の偽腕章です、ニーナちゃんに付けといて下さい、お兄様」
「でもこれって……犯罪なのでは?」
「大丈夫です、これが原因でお兄様が捕まる未来は見えてないので」
そう言って楓はトイレから出て、何処かに行ってしまった。
具合でも悪かったのかな?、と俺が楓の事を心配していたら会長が
「颯太さん、星宮さんもいなくなったし制服を買いに行くわよ! ここは油臭いし早く出ましょう」
と言ってきた。
まぁ……楓はあれでも日本に10人しかいないSランク。
無能力者の俺が心配するような事なんて無いよな。
そういう事で俺は、会長とニーナを連れて制服買いに行く事にした。
◇
俺は1階にある制服の専門店に行って、会長に制服を選んでもらった。
なので俺がレジに向かおうとしたら
「待って、颯太さん。お金頂戴、私が買うわ」
と言って会長がレジに向かう。
「おじさん、これを頂戴」
「はいよ、値段は3万円だけどお嬢ちゃんはAランクだから4割引きで1万8000円ね」
会長はお金を払って俺の元へ帰ってくる。
これはランク割引制度。
ランクを持たない者は定価で、Dランクは1割引、Cは2割引、Bは3割引、Aは4割引、そしてSは半額。
こんな感じで日々の買い物ですら差別化される。
これがこのランク主義社会。
だからこそ俺は……この腐った世界を変えるんだ。
今、一度決心して俺は店を出る。
と、その時
「動くな!!!!!!!!!」
メガフォンで拡声した声がデパート中に響く。
そして、その声の主は……俺から10m程離れた所にいた。
そこには男3人がいる。
リーダーらしき男は機関銃とメガフォンを手に、周りの二人は銃を持っている。
そして腕に付けている腕章は3人とも無地。
会長も気づき、その3人を捕らえようとした瞬間
「動くな! 動いたら温恩デパート中に仕掛けた500個の小型爆弾を爆発させる!」
男の脅しで会長の動きは止められる。
もし、ここで動いて500個の爆弾を爆発させられたら尋常じゃない被害が出るぞ……。
これだと俺達にできる事なんて何も無い。
そんな中、奴等のリーダーは告げる。
「いいか、良く聞け! これは能力者が俺たち無能力者に対して行った事への復讐だ!」