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第3話 死淵

 

『バトルスタート!!!!』


 実況部の合図が模擬戦闘場全体に響く。

 その瞬間──会長は大剣を上段から振り下ろした。

 それにより、氷の斬撃が放たれる。


『出たぁ!! 会長の得意技の氷斬撃!』


 そんな実況が入り、見てる人達も戦いが終わったかのように見ている。

 まぁ……そうだよな。

 刀を持っただけの無能力者の俺が能力者に……それもAランクの生徒会長に勝てる訳なんてない。

 だけど一応、戦いはまだ続いている。

 俺は会長の氷斬撃を間一髪の所で避ける事ができたからな。


「今のを避けるなんてやるじゃない。まぁCランク程度の強さって所かしら」


 そう告げて来る会長は、余裕綽々と言った様子。

 多分、今の氷斬撃は手加減されていたな。

 まぁ……俺でも逆の立場だったら手加減するだろう。

 もし、本気を出して無能力者の俺を殺しでもしたら大事になってしまう。

 死なない程度に手加減するのは当然だ。

 でも……それだと困る。

 手加減した相手に勝っても意味はない。

 だから、俺は皆に聞こえないように小声で会長に語りかける。


「会長、手加減はやめて本気で来て下さい。ここからは俺も本気を出しますので」


「そんな事を言われても……もし、無能力者であるあなたを殺しでもしてしまったら……」


「会長、今は戦いです。相手が無能力者だろうが何だろうが関係ありません。一人の相手です。それに誓ったでしょう? 俺は絶対に死なないって」


「…………」


 会長はしばらく黙った後、口を開く。


「分かったわ。本気を出させて貰うわよ。その代わり……死んでも文句は言わせないわ!」


 刹那──急激に模擬戦闘場内の気温が真冬並みに下がった。

 会長の周りでは空気中の水蒸気が凝固し、氷となってポトポトと落ちていく。


『出たぁ!! これぞAランクである我が校の生徒会長の力だぁ!!』


 これがAランクの本気。

 凄い、羨ましい、妬ましい、怖い、逃げたい、美しい、かわいい。

 様々な感情が俺の中から込み上がる。

 でも──だからこそ──


「ありがとうございます、会長。そんなあなたにこそ勝つ価値がある」


 俺は会長に感謝の言葉を告げて、ポケットから白い錠剤を取り出す。

 会長はそれを見て不思議そうに尋ねて来る。


「何それ? 薬? ドーピングでもする気なの?」


「まぁ……そんな所です。一応、国から使用許可が下りている物ですが駄目ですか?」


「それなら構わないけど、ドーピング程度で勝てる程甘くないわよ?」


 そう、会長の言う通りだ。

 能力者と無能力者では超えられない壁が存在する。

 その壁はドーピング程度で超えられる物ではない。


「突然ですが会長、人間の3大欲求って知ってますか?」


「えっと……食欲・睡眠欲、後は性欲?」


「そうです。人間はこれが満たされない限り、常にこの3大欲求が本能で付きまとっていて、注意を割かなければならない」


「何が言いたい訳? 時間切れで引き分けにしようとでも?」


 会長が少しいらついた感じに言ってくる。

 そういえば入学式は、もう3分後なのか。

 ゆっくり説明しようと思ったけど、そんな時間はないみたいだな。

 だったら……速攻で終わらせてやる!


 カリッ


 俺は薬を口に放り込み、噛み砕く。

 そして会長も先程とは比べ物にならない威力の氷斬撃を何発も連続で放ってくる。

 しかし、俺は立ち止まらず会長の方へ走りながら、最小の動きで全てをぎりぎりの所で避ける。

 一見、やばそうに見えるが所詮は一直線上の打撃技。

 こんな物、ドッヂボールだと思えば避けるのは簡単だ。


「うそ……今ので無傷なんて……。無能力者だと思ってあなた、いや──颯太さんを心底舐めていたみたいだわ。今度こそ本気で行かせて貰うわよ!」


 会長はそう言いながら、大剣から9本の氷でできた刀身のような物を生やす。

 

「見るといいわ! 一度の振りで10の斬撃を生み出す私の必殺技、十氷斬撃を!」


 その言葉の直後、大剣は振り下ろされる。

 しかも一度に10の氷斬撃が来るだけでは終わらず、更に十氷斬撃をさっきと同じで何発も連続で放ってくる。

 しかし、俺はその全てを避け、防ぎ、受け流し、破壊しながら一歩も止まらず会長の方に向かっていく。

 

「な、何で……何でこんな事が……もしかして、さっきの薬に何か秘密が?」


「いや、あれは師匠から貰った少し特別な猛毒薬ですよ。体内に入ったら、解毒剤を飲まないと5分で死ぬ強烈で即効性のね」


「何でそんな物を……」


「さっき言った事の続きです。人間は日常生活では常に本能で3大欲求が付きまとっています。しかし、人間は本当の死に際になると欲求に割いている力を全て『生きる』という事にまわす。だから俺は、その『生きる』を全て戦闘に向ける事で人間としての100%の力で戦う事ができる」


「な、何よ、それは!」


「これこそが無能力者の俺が唯一、5分間だけ能力者に対抗できる手段、【死淵】だ!」


 俺がそう説明している間にも会長は全力で俺に攻撃をしている。

 しかし、その全てが俺には届かない。


「まぁ、難しい事を色々言ってるけど、つまり火事場の馬鹿力って事ですよ」


 俺が最後にそう告げた時、俺は会長の目の前に辿り着いていた。

 会長は大剣で俺を遠ざけようとするが


 カンッ!!


 俺は会長の剣を弾き飛ばす。


「会長、確か剣がないと能力を制御できないんですよね?」


 会長は、自分が負けた事が信じられないと言った感じで固まっていたが、数秒後俺の問いに頷いた。

 辺りは静まり返っている。

 きっと無能力者なんかに学校を代表する生徒会長が倒されたから、戸惑っているのだろう。

 まぁ……取り敢えず


「この勝負、俺の勝利って事だよな?」


 俺がそう言うも誰からの返事もない。

 辺りは騒然としている。

 えーと無能力者の俺が勝ったのが信じられないのは分かるけど、早く勝負終了にして欲しいな。解毒剤も早く飲みたいし。

 確か審判は実況部の人だったから、と思い出しながら俺は実況部の人に声を掛ける。


「あのー、この勝負は俺の勝利でいいんですよね?」


「………………」


 駄目だ。全然反応してくれない。

 何か動き固まってるし。

 そういえば途中から実況もしてなかったな……と思っていたら


「私の負けです、あなたの入学は許可します」


 と、目の前の生徒会長は負けを認めてくれた。

 勝負は終わったので俺は解毒剤を飲む。

 その数秒後、俺はふらっとなって目の前の会長を押し倒して倒れてしまう。

 恐らく、【死淵】で体に負担を掛けたからだろう。

 取り敢えず、押し倒してしまった会長に謝らなければと思っていたら


「な、何してるのよ! 早く離しなさい!」


 などと会長が叫んでいるのだけど……何か顔が赤いぞ?

 それと……右手で何か柔らかい物を触っている感触もする。

 恐る恐る、右手で触っている物を見たら、俺が触っているのは大きくて、それでいて成長途中なのを感じられる柔らかい会長の胸!

 あばばばば、やってしまった。

 ここで会長の機嫌を損ねたら入学の取り消しも有り得るかもしれない。


「ごめんなさい、ごめんなさい。わざとではないんです。本当にごめんなさい!」


 俺は誠意を込めて急いで謝る。

 そして、恐る恐る会長の顔の方を見たら会長は赤面しつつも


「わ、分かってるわ。わざとじゃないのは分かってるわよ。だから……早く手をどけなさい!」


 と、言ってくれる。

 わざとではない事を分かってくれた会長に感謝しながら、俺は会長の胸から手をどかそうとするが……俺の手は言う事を聞かず、むにゅむにゅと会長の胸を揉んじゃってるよ!

 くっ、しまった。【死淵】の反動が……。

 そう、これには深い訳があるのだ。

【死淵】は自身の3大欲求を一旦封印する事で使える技。

 だが【死淵】は解除した後、反動により何かしらの欲求を満たさなければならない。

 普段は食欲や睡眠欲を満たして終わりだったが、今日は朝の殺人犯との戦いの後、その二つはある程度満たしてしまった。

 つまり、残った欲求は性欲。


「すいません、会長。これには深い訳が!」


 俺は会長の胸を揉みながら深い訳がある事を言おうとしたけど


「知るか、そんなの!!」


 そんな言葉と共に会長の拳が俺のお腹に直撃した。

 

 その後の記憶は途切れていて、気づいたら俺は保健室のベッドで寝ていた。

 時刻は午後の7時頃だから──まさかの8時間昼寝。

 隣の机には生徒手帳と入学時の書類などが無造作に置かれている。

 入学が取り消されたりはしてないっぽいな。

 

 って事は取り敢えず一件落着…………って事かな?

 

 


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