鳥族
村へ移動していた。
移動手段は例の、ドワーフ王兵が使ってたバケツみたいな移動道具。それにドワーフ女に肘をガチッと掴まれたまま青髪女もドワーフと同じバケツに片足(ドワーフが右足、青髪女が左足という塩梅だ)を入れて移動させられている。
移動速度は速い。
風が、青髪女の服を通して痛いほど伝わってくる。
赤髪猫的上司はドワーフ女の背後。この道具で移動するときは、誰かを風避けに利用した方がいいのだろう。後ろの方が風の抵抗が少なそうだ。
村の入り口が見えてきたところで背後から声が聞こえた。
「親愛なる国民たちに、一つだけ真実を教えてあげよう」
赤髪猫的上司だ。歌うように言う。
「我らが王は決して色ボケや色情狂になったわけではなく、しごく真面目な理由をもって女の胸を探しているのだ」
「真面目な理由……?」
青髪女が聞く。声が弱々しいのは風の抵抗に当てられたせいだけではないだろう。
「そう。我らが国にはたくさんの種族が存在し、それぞれの大使が城に常駐しているのは周知の通りだが、先日ある種族の大使が連れ込んだ女に問題があった――」
村の広場に到着した。
そこでドワーフが青髪女を離す。青髪女は腰が抜けたようにヘナヘナと座りこんだ。
「最後の一人を連れて参りました」
赤髪上司が自分の手柄のように明るい声で言う。
オレは青髪女の服の隙間から外をそっと窺った。鎧を着た兵士が五、六人。それよりは軽装の、だが一目で役人とわかる人間が二人。
それとあれは――?
「鳥族じゃ……」
オレの隣でやはり周囲に目をこらしていたホウじいさんが言う。
「鳥族……?」
「ああ、ヒトと鳥の中間にいる、空を飛べ、言葉も自由に操ることのできる種族だ」
「へー」
まだ子どもなのだろう。身長は周囲の大人の胸よりやや低いぐらい。髪の色は黒く、腰までの長さがある。
しかし――
「しかし――」
ホウじいさんが苦々しく言った。
「ああも盲ていては、空を飛ぶことは叶わぬじゃろう」
「ああ……」
女の子の両目には、一直線に薙ぎ払われたような痛々しい傷跡があった。
役人は青髪女の胸元をちらりと見て、隣の役人に「本当にこの村は巨乳ばかりじゃのう」と言ったあと、つまらなそうに書類に何かを書き込んで、目の見えない鳥族の少女を青髪女の近くまで連れてきた。
「ほうれ、仕事じゃ」
一人の鎧兵が青髪女を立たせ、役人が目の見えない少女の両手を青髪女の胸に触れさせる。
「え……!」
青髪女の胸に触れた少女が驚きの声を上げた。
なんだ……?
オレはホウじいさんと顔を見合わせた。
「ボ、ボマー……です」
少女の言葉に周囲の役人や兵士が活気づいた。
「なんと!」
「本当にいたのか!」
怒声や悲鳴に近い声が村を満たす。
なんだ……?
赤髪猫的上司が周囲の喧騒の中、青髪女に口を寄せる。
「ある大使――まあ、鳥族の大使なんだがその大使が連れ込んだ女が賊となって一人の王子を殺した。その殺害方法から女はボマーと呼ばれている。目撃者はこの鳥族の少女だけ。しかし少女は賊によって視力を奪われた。その触覚だけが犯人を特定する唯一の拠り所だったんだ」
「わ、わたしはそんなことしていない」
青髪女が言う。
「まあ、そうだろうな。しかし、少女の口から出た言葉はすべて真実なんだ。なぜなら、王付きの魔女の力で彼女には嘘をつくと死ぬという魔法がかけられているから。彼女がお前をボマーと思い、そう口にしたならそれが真実になる」
ちなみに嘘をついて死ぬ時は、目から血の涙を流して死ぬらしいぜ、と赤髪猫的上司が言った。