↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムだって胸パッドにはなるし  作者: 垂直わーるど
PR
56/81

気まぐれ

「気まぐれなシェフはもういらん」

 まるちびがそう言ってナイフ(あくまで食事用のものだ)をテーブルに突き立てると、それまでにこやかな表情でそれぞれ一様に白衣に白い帽子白いマスクをして白い皿を掲げて列をなしていた気まぐれな(?)シェフたちはピューーーとこちらに背を向けて逃げて行った。

「やれやれ」

とまるちびがうんざりした顔でテーブルを眺めると、その対面のペンギンも

「ぺ、ぺん……」

と不満を表した。


 オレたちのテーブルは気まぐれな(?)シェフが作った奇妙な魚料理で満たされていた。

『さんまのたたき』(←棒で叩かれたらしき生サンマが三匹)

『さけのムニエル』(←ムニという魚が酒びたしになっている)

『さばさばのみぞに』(←サバサバした顔の魚が奇妙な液体で煮られている)

『たいやき』(←魚の型をしたクッキー?)

『生酢司』(←魚が酢っぱい臭いを発する液体に浸かっている)

などなど。


「せめて火を通せ。加熱しろ」

 まるちびがうめくように言う。

 彼の前には『生酢司』。まるちびは顔をしかめて、その皿を自分から遠ざけた。


「ぺ、ペン……」

 ペンギンは戸惑いながらも果敢に皿に挑もうとしている。

 初めに『さんまのたたき』に挑もうとして、何度もそれを口に運びかけたが、結局食べることができずに『たいやき』に移行した。

 腹は空いているようだ。

 どうやら火は通ってて、それなりに味がついているらしいそれを立て続けに食べている。


 食の好みは人間のままなのかな――、とぼんやりと考える。


 ペンパルは「ペンギンは放っておけば人間にもどる」と言っていた。


 人間にもどったとしてもあの自分で制御できない『たたり』は厄介だ。なんとかしないと――


 そんなことをぼんやり考えていると、叫び声が聞こえた。

「なんだ?」

 自分の『かなしレンコン』を食べていたまるちびが顔を上げ、次の瞬間自分の『マルチカッター』に手を伸ばそうとしたのはさすがだ。しかしその手が空振りして顔をしかめる。

「あっ! 『マルチカッター』ゴッサンにあずけっぱだった」

 舌打ち。


 軽くため息のようなものをついて、椅子に座り直した。どうやら傍観を決めたらしい。

 叫び声は「食い逃げだーーーー!」と言っていた。

 ウェイターたちに追われているのは、ドワーフの女兵士。

 兵士が食い逃げなんてめずらしいと思って見ていると、すぐにその女兵士は捕まった。

『おかしいな』

 すぐ近くから声が聞こえて驚いた。

 見るとメニュー表が声の出所のようだ。

 声に聞き覚えがあった。ごく最近聞いたばかりの声。

「ペンパル?」

 聞くと、メニュー表が首肯した(ように見えただけだが)。まるちびがうさんくさそうにメニューを見る。

「またオレらを見張ってたのか?」

『異常を感じたから”見た”だけだ』

 ペンパルは自分が手がけた書類を通して”見”たり、ちょっとした術を使うことができる。きっとこのメニューにもペンパルの手が加わっているのだろう。

「おかしいって何が?」

 オレが聞くと、メニューが答えた。

『あの兵士はわざと食い逃げをしたように見える』

「わざと?」

『宇宙厨房で食い逃げをすると強制労働もしくはごにょごにょ(言葉をにごす)を科せられる。それを知らなかったわけでもあるまい』

「案外本当にわざと強制労働をねらいに行ったのかもよ。ほら」

とまるちびが女兵士の騒動を少し離れた場所から見ている兵士の一団をナイフで示す。

「ここは治外法権だから、軍の法規よりも内部ルールの方が優先される。だからもしあの女兵士が軍に追われていたんだとしたら、ここでの”食い逃げ”はいい判断だったと思う」

 なーんてね、と言ってまるちびは『かなしレンコン』を口に放り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。