生肉
牢獄である。
肌寒いし、薄暗いが、このような場所にしてはまだ割と清潔であるのが幸いだ。
まだ新しい牢獄なのだ。
この国の城自体が新しいので、その地下にあるこの牢獄もまだ新しい。
監房の数は多いようだが、使用されている監房は少ないようだ。周囲の気配が少ない。
鉄格子の向こうにドワーフ――ポリアンナと呼ばれている女兵士がいる。
食事を持って来たのだ。
鉄格子の下の小さな扉を開けて、トレーに載せたそれを差し入れて来る。
そして、ちらりと青髪女の胸元――オレとホウじいさんに目を向ける。
「フクロウは雑食性だったか?」
「肉食じゃ。猛禽類は肉食に決まっとるじゃろう」
「知らねーよ。そんなん」
言いつつ、ポリアンナは差し入れたトレーの上を見る。金属製の食器に入ったスープとパン。
「肉がねぇな」
「できれば生肉を所望する」
「生肉ね。んで、スライムは?」
「ん?」
「スライムにも食事が必要だろう」
「食事……」
オレは思案した。
「あえて言うなら、光かな」
「光?」
「光合成で生きてるんだよ。ゲーテ風に言うならば、『もっと光を』というところだ」
「光ねぇ」
ポリアンナは牢獄の天井を見た。自然光を望める窓はどこにも無い。
「日光浴の許可でももらうか……」
その時、ホウじいさんが声を出した。
「ネズミじゃ!」
「え、どこ?」
ポリアンナが腰を浮かせる。
「ほれ、おまえさんの後ろじゃ。その通路を右に行きおった」
どれ、とホウじいさんが青髪女の服から抜け出した。
「ワシはちと食事に行ってくるわい」
そう言って、牢獄の鉄格子をすり抜けて、ネズミが消えたという方角へスゥーっと飛んで行く。
「…………」
「…………」
オレはポリアンナと視線を合わせた。二人同時に叫び声を上げる。
「あああーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! 逃げやがったぁぁぁぁぁ!!!!」




