部活までの一週間④
工藤の家に行った次の日。
「体育教師の中田だ。高校最初の体育は体力測定テストを行う!まずは体育館を軽く走って体を温めて準備体操から~」
そういって体育の授業が始まった。
そのランニングの最中に正治と工藤はこんな会話をしていた。
「なぁ正治お前は運動はどんなもんなんだ?」
「俺は球技全般が苦手で他はある程度出来る。上半身の筋力は皆無だがな!工藤は?」
「俺はお前とは逆だな。割と球技ができる。運動自体もそれなりにできるぞ。」
「マジかー。何したらボールと友達になれんの?ボールは投げりゃ明後日の方角に飛んでくし、ボールを蹴れば人の顔面に飛んでくんだが。」
どうやら正治とボールは犬猿の仲にあるようだった。
「何それ怖い。お前とはサッカーやりたくないわ。」
「えっ?サッカーって人の顔面にボール当ててKOにする競技じゃなかったっけ?」
「そんな競技じゃねぇよ!ボクシングと混じってんじゃねぇかそれ!」
あまりに偏った知識からいままでどんな生活を送れば球技でそんなこと発想になるのか工藤は疑問に思い質問する。
「なぁどんなものを見たらサッカーがそんなスポーツになるんだ?」
「いや。前テレビつけてた時にやってたんだが、その番組サッカー漫画の特集やってて蹴ったボールがコンクリートにめり込んでたんだよ。つまりそれくらいの勢いで蹴って人をKOするのが目的なんだと・・・」
「わかった。お前は一部分しかその番組を見てないしサッカーそのものを知らないってことだけがよくわかった。」
あまりに偏った知識から一つため息をつき工藤はそう結論付けた。
「まぁあんまりテレビ見ないからな。」
「それでもそのボール使って相手をKOっていう猟奇的な発想にはならねぇよ。」
「そうか?」
「そうだ。まぁそれはそれとして正直運動は疲れるしそこまで好きじゃないからさっさと帰りてぇな。」
「俺、この体育が終わったら家に帰ってゲームをするんだ・・・。」
「露骨な死亡フラグ立てんな。って言っても体力測定テストじゃ死ねる要素ないけどな。」
「それもそうだ。」
そういいながらランニング、準備体操が終わりいよいよ体力測定テストが始まった。
「まずは握力測定か。なぁ正治どうせなら今日の体力測定テスト勝負しないか?」
「いいぞ。何で勝負するんだ?」
「今日は時間的に出来ないであろうシャトルランと体育館じゃ出来ない50m走以外の全種目の合計得点で勝負して、負けた方がジュースを一本奢るってのはどうだ?」
「その勝負乗った。ほらまずは握力だ。工藤からやってみろ。」
そういって先生から受け取ってきた握力測定器具を工藤に渡す。
「おうよ。」
そういって工藤は力を入れ両方の握力を測る。
「ふぅ、右が50で左が52と。まぁまぁだな。ほら次は正治の番だぞ。」
「ふっ。そんなものか。これじゃ勝負にならないな。」
その発言を挑発と受け取った工藤は少しイラっとした。
「ああん?ご託はいいからさっさとやってみろよ。」
「みて驚くなよ。これが俺の本気だぁ!」
そういってまずは右手に持った測定用の器具に力を入れていく正治。
「ハァハァ。どうだこれが俺の全力だ。」
そういって見てみろよと言わんばかりの顔をしながら器具を工藤に見せつける。そしてその記録はなんと。
「29・・・だと・・・。クソ雑魚ナメクジじゃねぇか。女子以下か!」
「なっ?言ったろ?勝負にならないって。」
「自信満々で圧倒的に負ける記録出してくるやつなんか見たことねぇよ。」
そして正治の結果は右が29、左が32という数字で終わった。
「この勝負はしょうがない。工藤が50も握力があるゴリラだとは知らなかったのが敗因だ。」
「いや50って平均の少し上だからな。」
そんな馬鹿な会話をしていると同じく体力測定を行っている女子の方から光が話しかけてくる。
「またバカ騒ぎして二人はいったい何やってるの?」
「ん?二階堂さんか。別に大したことじゃないよ?」
そういって賭けの話と握力のを話す正治。
「あはは。やっぱり二人は面白いことやってるんだね。どっちが勝つのかな?」
「おいおい?こんなクソ雑魚ナメクジと俺を一緒にするな。俺が負けるわけないだろ?」
工藤は握力で圧倒的な差を見せつけこれなら楽勝と思っているがそれに対し正治はというと。
「やれやれ。これからの種目は全部お前が負けるのに一体何を言ってるんだ?」
握力での結果を踏まえてもまだまだ余裕そうな顔を見せていた。
「ああん?言ったなコラ。力の差ってやつを見せてやんよ。」
「握力だけがすべてじゃないことを教えてやるよ。ところで二階堂さんは握力はどうだったんだ?」
「えっ?私?私は・・・えーっと・・・」
光は言いにくそうにしていたが自分の結果を教える。
「右が16で左が17なんだ・・・」
「ほら見てみろ工藤。これが一般的だ。50なんてゴリラの領域だろうが!」
「女子の握力を男子と同じ目線で見てんじゃねぇ!」
「大丈夫だ二階堂さん。握力だけがすべてじゃない!まだまだ他のもので挽回していけばいいのさ!」
「うっうん。そうだね!私も頑張ってみるよ!」
そういって女子の集団に戻っていく光。
「さぁ工藤次は長座体前屈だ!かかってきやがれ!」
そう正治はいい、勝負は進んだ。その後ほとんどの種目で正治が工藤を上回り焦り始める工藤。そして残すは最後のハンドボール投げのみとなった。
「なっなかなかやるじゃねぇか・・・」
「お前こそな。まさか握力であれだけ差をつけられてから追いつかれるとは思わなかったぜ。」
二人は賭けのため真剣に勝負をして正治が勝ち続けた結果、ついに得点は同点となっていた。
「ハンドボール投げは体育館の対角線上から投げるんだな。」
「端の壁に当たったら外で測定し直しだとさ。まぁ届くやつは届くだろうな。」
「ところで・・・」
「ああ・・・」
「「二階堂さんはいったいどうしたんだ?」」
二人は体育座りをしながら落ち込んでいる光に話しかける。
「私なんて・・・私なんて・・・」
「何があったらここまで落ち込めるんだ?」
「さぁ。わからん。」
「二階堂さん?いったい何があったんだ?」
「あっ。正治君。いや。ちょっと体力測定の結果に落ち込んでただけだよ・・・。」
そういって結果を書き込んでいる用紙を二人に見せる。そこには長座体前屈15㎝、上体起こし5回、反復横跳び25回、1m20cmととんでもない数字がならんでいた。
「これはさすがに・・・」
言葉に詰まる工藤。それに対し正治は何かを考え込んでいる。
「うぅぅ。運動は苦手なの・・・。」
「これはさすがに苦手すぎだと思うな。なぁ正治?」
「まぁ確かに。とはいえ俺の握力だって酷いもんだしこれくらいなら大したことないだろ。」
「なんでお前はそこまでポジティブなのかわからんが人によってはこの数字は落ち込むだろ。」
「そういうもんか?」
そこで光が自白を始める。
「私昔から何やってもあんまりうまくいかなくて・・・勉強はどうにかなっても運動までは手が回らなくてどうにもならなくて・・・。」
「ふーん。そうか。ちなみにどうにかしたいって気持ちはあるんだね?」
「それはもちろん。」
「なら部活で運動改善もしてみるか?どっちにしろ俺は全員に教える立場だしプラスアルファで何かできることを考えとくぞ?」
「ほんとに!なら頑張る!」
そういって光を元気づけることに成功した正治。
「そんじゃまた後でな二階堂さん。」
「うん。また後で二人とも。」
そういって光から離れて話し始める二人。
「なぁ正治?そんなことまで安請け合いして大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。努力する意思があるなら俺はどうにかするって。それに落ち込んでる女子見るのもあんまり気分いいもんじゃないだろ?」
「それもそうだな。」
そういった会話をしつつも残るハンドボール投げの順番が回ってきた。
「さぁ最後はハンドボール投げだ。どっちから投げる?」
「んじゃ俺からやるわ。」
そういって準備を始める工藤。
「おっしゃらぁぁぁ!」
大声を叫びながらハンドボールを投げそのボールは一直線に対角線上の壁に当たった。
「どうやら俺の結果は測定不能ということだ。これはお前も壁に当てないといけないなぁ正治?」
「ふん。任せておけ。俺も驚くような記録を出してやるさ。」
「そうか。なら期待して待っているとしよう。」
そういってから正治は準備を始め、
「だりゃぁぁ!」
叫びながらハンドボールを投げる。
ボールは一直線に向かって飛んでいった。
「ふっ。どうやら俺も測定不能らしい。」
そう。正治のボールは勢いよく真上に飛んでいき天井に挟まっていた。
「・・・これは酷い。」
「言ったろ?ボールを投げると明後日の方向に飛んでいくって。」
「いや確かに言ってたが真上に飛んでいく奴なんか見たことねぇよ。これはあれだな俺の勝ちだな。」
「ちょっと待て!俺のボールも測定不能なのになんでお前の勝ちになる!」
「常識的に考えてしっかり前に飛ばした俺の勝ちだろうが!」
「そんな常識俺は知らん!」
どう考えても正治の負けだが正治はダダをこね粘る。しかたないと工藤はある提案をする。
「それなら二階堂さんに聞いてみよう。」
そういって二階堂さんの元に向かう二人。ことの顛末を話した。
「それは工藤君の勝ちなんじゃないかな?常識的に考えて。」
「なぜだ!こっちも測定不能の結果なのにこの扱いの差は・・・!」
「お前にはホント常識ってないんだな。」
結局ジュースは正治が奢ることとなったのだった。
握力なんて大してなくても生きていける(作者談)。




