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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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筋肉の祭典

 呼ばれてステージ上に姿を現したのは、異質な雰囲気を持つ男性だった。下はピッチリと肌に張り付く紫色のズボンで、上は同じく肌にピッチリと張り付いた、紫と黒のチェック柄のシャツ。身長はかなり高くて、多分190センチくらいあると思う。鍛え抜かれた筋肉が全身を覆い、パーマがかかったチリチリの黒髪。ぱっくり割れた長めの顎はやや青く、黒い目のまぶたには紫のアイシャドウが色濃くのり、唇には真っ赤な口紅すら塗られている。


「んっふ。ミランダよ。町で『薔薇の妖精』って名前のお店をやってるの。宜しくね。可愛いボウヤやスライムちゃんを連れてきてくれた子には、たっぷりサービスしちゃうわよ? で、こっちがお友達のムッシュ・プニットよ。気軽にムッシュって呼んであげてね」


 そう言って、パチリとウインク。スライムの方もプルプルと震えているけど、ムッシュ君……男の子かはわからないけど、まあ一応……は僕が紹介したスライムじゃないので、言葉はわからない。ただミランダさんとおそろいの紫のブーメランパンツを履いている辺り、間違いなく仲良しではあるんだろう。


 会場からは微妙な反応があるくらいだけど、僕としてはミランダさんは意外と好感触だ。何故かと言えば、こういう感じの人は、テンプレ的には高確率で強くて面倒見がいいキャラだからだ。序盤から中盤にかけてやたら高い包容力を発揮して弱い間の主人公を優しく見守ったりして、最後の戦いの時とかは主人公のピンチに際して人知れず命がけの戦いを挑んだりして、それによって辛くも世界を救った主人公が平和になった世界で彼の犠牲を知って泣いたりするのがお約束って奴だ。


 まあ実際には僕とミランダさんは初対面なのでそんなことわからないし、そもそも未だにゴブリン1匹倒していない僕の英雄譚が始まる予定は蟻の触覚の先ほども無いわけだけど、少なくともスライムと仲良くなれたなら悪人では無いだろう。


「それでは、アピールタイムをお願いします」


 そんなミランダさんの容姿に全く動じること無く執事さんが司会を進行し、ミランダさんが軽く口を尖らせる。


「あら、もうなの? せっかくこれから魅惑のトークを繰り広げようと思ったのに……まあいいわ。それじゃムッシュ、行くわよ?」


 そう言ってその場に仁王立ちになるミランダさんに、ムッシュ君もまたその足下でプルリともせずその身を引き締める。


「んーっ! ふんっ!」


 掛け声と共に、ミランダさんが左手で右手首を掴み、全身に力を入れて筋肉を膨張させる。それに合わせるようにムッシュ君もぐいーんと体を伸ばし、自らの肉体を誇示するような形でぴたりと動きを止める。当然スライムには筋肉なんて無いんだけど、何とも言えず力強い感じがする。


「次よっ! ふんっ!」


 今度は上体をそのままに下半身だけを横に向け、腕を背後で組んで決めポーズ。ムッシュ君もまた伸ばした体にひねりを入れ、またしてもそこでぴたりと止まる。プルりともしないその体は、そこはかとないパワーが垣間見える。


 その後もミランダさんがポーズを変え、その度ムッシュ君も体を捻ったり膨らませたり、縮めて固くしてみせたりと手を変え品を変え肉体美をアピールしていく。最初こそ色物を見る目だったけど、ミランダさんの体つきが素晴らしいことと、スライムの限界を超えて華麗なポーズを取るムッシュ君に、会場の雰囲気も盛り上がる。


「さあ、これで最後よムッシュ! はぁぁっ!」


 一際大きな掛け声と共に、ミランダさんが両手を挙げて力こぶを作ってポージング。渾身の力が込められた腕の筋肉ははち切れんばかりに膨張し、丸太のように太く膨らんだ足は不動の大地を想像させる。

 そしてムッシュ君もまた、その体を極限まで伸ばしきり……あろうことか、途中で二股に分かれた。いや、別に裂けたとかそういうのじゃ無くて、ちゃんと繋がってるんだけど分かれたというか……丸い状態で棒か何かを上から押しつけたら左右がぐにっと膨らむ、あの膨らみの部分が伸びてる感じというか、そういうのだ。

 伸びた2本が途中でくの字にしなり、それは細いけれども締まっている、人間の腕のように見える。まさに今のミランダさんと同じポーズだ。


 ほんの数秒その状態が続き、ミランダさんが大きく息を吐いてポーズを解くと、ムッシュ君も一気に元の状態に戻り、更にへにょっと地面に潰れる。どうやらかなり負荷のかかるポーズのようだ。そんなムッシュ君を抱き上げると、ミランダさんが輝く笑顔で観客に向けて手を振った。


「見てくれてどうもありがとう! 最高だったわ! ムッシュも頑張ったわね。素敵だったわよ」


 ムッシュ君を撫でるミランダさんの顔には深い慈愛が浮かんで見える。会場からも惜しみない拍手が贈られ、それに答えるようにミランダさんは手を振り続けている。


「ミランダ氏のアピールタイムはいかがでしたか?」


 執事さんに水を向けられ、答えたのは何と当主さんだ。


「ふむ。彼……彼女? 氏の様な人物がこれほど沢山の人に受け入れられるというのは実に素晴らしいことだ。氏の人柄や努力もあるだろうが、そういう領民を持てたことを、まず私は誇りと思いたい。その上でファッションという観点で意見を言うなら……何というか、個性的、の一言だな」


「ありがとうございました。マギィ氏はどうでしょうか?」


 次に呼ばれたのはマギィさん……ああ、冒険者ギルドのマスターってマギィさんって言うんだね。とにかくギルドマスターだ。


「そうさね。あの肉体は凄いと思うよ? 魅せるのを意識してるのに、ちゃんと使える・・・ように中身も鍛えてある。是非ともウチで仕事をして欲しいところだけど……まあ店持ちじゃ難しいだろうね。服は……アタシぁ若いモンの考える事なんざわからないが、本人に似合うことが重要だって言うならピッタリだと思うよ? 他のヤツに似合うかは知らないけどね」


「ありがとうございました。それでは皆さん、ミランダ氏にもう一度盛大な拍手を!」


 執事さんがそう言うと、コメントを聞くためにやんでいた拍手が再び起こり、ニコニコしながらミランダさんがこっちに戻ってきた。服装が褒められた感じはしなかったんだけど、ミランダさん的には筋肉が褒められたら十分だったのかとても満足そうだ。ムッシュ君もやりきった感を出しているので、二人が楽しめたなら僕も嬉しい。


「さて、それでは次の方、宜しくお願いします」


 今までと同じように、しかし聞く人が聞けばわかるかも知れないってくらいの小さな違いをもって、執事さんが次の人を呼ぶ。それは僕の隣に座っていた人であり、僕のことを知っていて、にも関わらず今まで一言も言葉を交わさなかった人。それは即ち……


「では、お名前をどうぞ」


「ありがとうポーツマス。私はフルール・ハイアット。領主であるリチャード・ハイアットの娘です。そしてこの子はトール様から紹介して頂いたスライムで、名は翡翠の女王クイーンオブジュダ。くーちゃんですわ」


ぷりゅりゅーん!


 穏やかな笑みを浮かべて挨拶をするフルールさんと、気品すら感じさせる震え具合で「宜しくですわ!」と挨拶するくーちゃん。彼女の纏った衣装を目にし、観客席の人達が息を飲むのを感じた。

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