お祝いラッシュ
「おめでとう!」「おめでとう!」「おめでとうでござる!」
誓いのキスを終えてパーティ会場の方へ移動した……まあ鍋パーティをした場所なのですぐ側だけど……僕とミャルレントさんを待っていたのは、正しく祝福の嵐だった。
「おーら、こっち来やがれトール!」
「ちょっ、ガラルドさん!? みゃ、ミャルレントさん、また後で!」
「あ、はい! また!」
首に腕を回され強引に引っ張られて、僕はミャルレントさんとは反対方向へ引き離されてしまった。日本だと二人揃って招待客にご挨拶を……みたいな流れだと思ったんだけど、まあこっちの世界の、それもガラルドさんがそうするならいいのか……いいのか?
「ほーれお前等! よく見ろ! コイツが今度俺の息子になった男の顔だー!」
「いや、みんな知ってるでござるよ」
「そもそもここにいるのは全員トールに招待された奴だろうしな」
「そうですな。むしろトールさんが接点となって知り合った方々の方が多いですし」
「何だよお前等、ノリがわりーな! 全部お前のせいだぞ、この、この!」
「痛い! 痛いですってガラルドさん!」
「そんなノリの悪い奴らは……ほーれ、行ってこい!」
「うわっ!?」
散々頭をグリグリされたうえに突然勢いをつけて放り出されて、僕は思わずたたらを踏む。
「おっと、大丈夫かトール?」
「ジェイクさん。ありがとうございます」
「ハッハー! じゃ、また後でな息子よ! 俺は酒を飲んでくるぜ!」
僕を受け止めてくれたジェイクさんにお礼を言っている間に、ガラルドさんはそう言って僕に背を向けお酒の方へと歩いて行ってしまった。
「はは。ごめんよトール君。悪気は無いんだ。ガラルド君はあれで精一杯なんだよ」
「コリン……お義父さん。精一杯と言うと?」
僕の問いかけに、コリンさんは苦笑して答えてくれる。
「彼は本当に家族が大好きだからね。ミャルレントが嫁に行ってしまうと昨日の夜はずっと一人で泣いていたんだ。ミャルレントでこれなら、実の娘であるミャリアちゃんの時はどうなるか……今から頭が痛いよ」
「ガラルドさん……」
「ああ、勘違いしないでくれよ? 当然だけど、ガラルド君はトール君とミャルレントの結婚を反対なんてしていない。むしろ誰より祝福してくれていると思うけど……男親というのは複雑なものだからね」
そう言って笑うと、コリンさんもまたガラルドさんの方へと歩いて行ってしまった。流石に父親の気持ちとなると僕には察することも難しいけれど……でも、うん。これからいくらでも話す機会はあるんだし、だからこそ今はこのくらいがいいんだろう。他にも挨拶したい人は沢山いるから、気を遣ってくれたってのもあるだろうしね。
「さて、じゃあ改めて、おめでとさんトール」
「おめでとうでござるトール殿!」
「ジェイクさん、イチタカさん。ありがとうございます!」
お祝いを言って拳を突き出してきたジェイクさんに、僕は自分の拳をゴツンとぶつける。相変わらずジェイクさんの手は硬くて涙が出そうになったけど、その痛みすら今は嬉しい。
「にしても、まさかお前さんが最初に結婚するとはなぁ」
「うぅ、先を越されてしまったでござる……まあ拙者の場合はそもそもお相手から探す必要があるのでござるが」
「あはは……が、頑張ってください! イチタカさんならきっといい人に巡り会えますよ!」
「そうだぜイチタカ。トールから新婚力でも分けてもらっとけ!」
「おお、それは是非とも欲しいでござる! ありがたやありがたや……」
「おぉぅ。ま、まあほどほどにお願いします」
手を合わせて僕を拝み始めたイチタカさんに対し、僕が出来るのは曖昧な笑みを浮かべることだけだ。紹介できる女性とかがいるわけでもないからね。
あー、でも、そうだな。今度シーシャさんに会った時にでも、一応頼んで……いや、何か大事になりそうだからやめておこう。やっぱりこういうのは自然の流れに任せるのが一番いいのだ、多分。
「そうだトール。結婚祝いなんだがな、俺もイチタカも色々と考えたんだが、正直大したことは思いつかなかった。なんで金は出すからってファルに一任したから、あとでアイツに確認しといてくれ」
「あ、はい。わかりました。ありがとうございますジェイクさん! イチタカさんも、ありがとうございます」
「なんのなんの! トール殿に受けた恩に比べれば微々たるものでござるが、喜んでもらえたら嬉しいでござる……まあ内容は拙者も知らないのでござるが」
「はは。楽しみにしておきますので、大丈夫です」
「トール!」
と、そこで横から僕に飛びついてくる人影があった。そちらに顔を向ければ、そこにいたのは黒い小人を肩に乗せたほんのりとんがったエルフ耳の少年だ。
「おめでとうトール! 凄く綺麗な結婚式だったよ!」
「おめでとうなのだ魔王! 流石は魔王なのだ! 丸殻虫人の戦士であるダンダンも、思わずビックリしてしまったのだ!」
「ありがとうエリュー、ダンダンもありがとう」
お礼を言いつつ、僕は二人の頭を撫でる。くすぐったがったダンダンはクルンと丸まって反対の肩まで移動してしまったけれど、エリューの方は嬉しそうに目を細めてくれる。
「ねえねえトール! ボクも! ボクもトールに結婚のお祝いを考えたんだ!」
「ダンダンも! ダンダンも考えたのだ!」
「えっ、そうなの? うわぁ、何だろう?」
「あのね、ボクはお金とかは無いから、毎日狩った動物を届けようかなって思うんだ。当分は新鮮なお肉が食べ放題だよ!」
「おお、それは豪勢だね! ありがとうエリュー。でも、あんまり無理はしないでね」
「大丈夫さ! 先生が色々教えてくれるから!」
元気いっぱいに言うエリューに、無理をしている感じはない。むしろ楽しみで仕方が無いって顔だ。僕も野菜のお裾分けをするときはこんな感じなので、その気持ちは良くわかる。ふふ、これは楽しみにしておこう。
「ダンダンのお祝いも聞いて欲しいのだ!」
「はは。勿論聞くよ。何をしてくれるの?」
「フッフッフ。ダンダンは考えたのだ。何をするのが魔王が一番喜ぶか……村のみんなと相談して、そうして選んだのがこれなのだ!」
そう言うと、ダンダンは背中の方に手を回して葉っぱに包まれた何かを差し出してきた。縦横五センチ、厚さ三センチほどのそれを受け取り丁寧に葉っぱを広げていくと、中には黄金色のとろりとした液体が入っている。
「これは?」
「それはダンダン達丸殻虫人の村で作ってる、何だか良くわからないけど凄く美味しい奴なのだ! 魔王のおかげで村の食糧事情も良くなったからそれが作れる様になったって、長老が喜んでいたのだ!」
「へぇ、そうなんだ。これは……このまま舐めればいいのかな?」
「そうなのだ! さあ、早く舐めるのだ!」
そうせっつかれて、僕はその黄金色の何かをそっと指ですくう。見た目や触った感触なんかは、蜂蜜に近いだろうか? でも蜂蜜よりはもうちょっと粘度が高くて、蕩けるチーズ並に糸を引く感じだ。
……本人も何だかわからないものだって言ってるけど、食べても平気だよな? ダンダン達の食性は僕達と同じっぽいから大丈夫だとは思うけど……一応『威圧感:病魔』だけはガッツリかけておこう。
「…………っ!?」
「どうだ!? どうなのだ魔王!?」
謎の粘液を口に含んで目を白黒させる僕に、ダンダンが期待に満ちた顔で感想を求めてくる。でも、それも当然だ。
「何だこれ、めっちゃ美味いぞ!?」
「ふふーん! そうなのだ! ダンダンは丸殻虫人の戦士! 戦士は嘘をついたりしないのだ!」
一口舐めたそれは、今まで食べたことの無い味だった。基本的には甘いんだけど、甘さの質が既存のものとはまるで違う。家の畑で育てたスイートデビルより甘いのに、砂糖のようなトゲトゲした甘さじゃないのがまた凄い。濃厚でありながら口の中でスッと溶け、後味はサッパリという……これが何でどうやって作っているのか皆目見当もつかないけれど、とにかくただただ美味い。
「長老が言うには、ずっと昔の丸殻虫人はこれだけ食べて生きていたらしいのだ。でも村の周囲の環境に変化が起きて、だんだんと作れる量が減っていって……でも魔王の野菜を食べたおかげでまた作れる様になったらしいのだ!」
「そうなんだ。不思議だねぇ」
「不思議なのだ。でも美味しかったらそれでいいのだ! ダンダンは丸殻虫人の戦士! 戦士は細かい事は気にしないのだ!」
「まあ、そう、かな? うん、まあいいよね」
僕だって『威圧感』による野菜の育成とかプーノンの副作用の抑え方とか、説明できない要因で色々と美味しいものを作ってきている。つまり世の中にはそういうこともあるのだというのを身をもって証明しているわけなので、ここは納得しておくのが得策だろう。美味しいし。
「ということで、本来は村人にしか食べさせないこれをほんのちょっとだけ魔王にもお裾分けするのだ! 今はこれだけだけど、また後で持ってくるのだ!」
「ありがとうダンダン。村のみんなにもお礼を言っておいてくれるかい?」
「勿論なのだ!」
エッヘンと胸を張るダンダンに、僕は笑顔で今日何度目かもわからないお礼の言葉を告げた。





