エピローグ:そして歴史は続いていく
本日は2話投稿しております。本編最終話は一つ前の話になりますのでご注意ください。
「いってきまーす!」
町外れ。少し前に立て替えられたばかりの真新しい小さな家から、元気いっぱいの猫人族の女の子が飛び出してきた。茶色い毛並みは母親そっくりだが、尻尾の先だけが少し黒い。
「こら、ミャルトルーナ! 女の子はもっとおしとやかにしなきゃ駄目ニャ!」
「ふーんだ! おしとやかじゃつまんないニャ! アタシはぼーけんに生きるのニャー!」
「待ちなさい! ……まったく、誰に似たのかしら」
「そりゃあ勿論……お義母さんかな? ははは……」
スライムのアップリケが入った桜色のエプロンを身につけた猫人族の女性に睨まれ、やたら黒い男性がそっと顔を背けて乾いた笑いをこぼす。そんな男性を愛おしそうな視線で見つめてから、猫人族の女性は小さくため息をついた。
「せめてフリント君に迷惑をかけてなければいいんだけど……」
「大丈夫さ。二人とも仲良しなんだし。それに――」
ぷるるーん!
男性が振り返ると、そこには大きな緑色のスライムがいた。その背後から小さなスライムが三匹ほど飛び出し、猫人族の少女の走り去った方へと飛び跳ねていく。
「よろしくね、えっちゃん」
ぷるるーん!
えっちゃんと呼ばれたスライムは、「任せとけ!」と自信満々に体を震わせた。
「まったく! ママはぜんぜんわかってないニャ! 今時おしとやかな女の子なんて流行らないのに……そう思うニャ?」
「えぇぇ……ボクはおしとやかな子の方が好きだよ?」
「フニャー! そんなだからフリントはみんなから弱虫って言われるニャ! 領主様の子供なら、もっとしっかりしないと駄目なのニャ!」
「うぅぅ、わかってるけど……」
気弱なフリントを引き連れ、ミャルトルーナは町外れの草地を散策する。流石に子供だけでは町の外には出られないけれど、この辺を歩くと何となく冒険した気分になれるので、ここは最近のお気に入りスポットだった。
と、そんな二人の前に、不意に三匹のプニプニが立ちはだかった。
『ぐへへ。ここから先は通さないぜ!』
『ぐふふ。尻尾とか引っ張っちゃうぜ!』
『ぐひひ。おやつももらっちゃうんだぜ!』
「出たニャ! ワルイム三兄弟! 今日こそとっちめてやるニャ!」
「や、やめようよルーナちゃん。ボク怖いよ」
「もーっ! ならフリントは下がってるニャ! こんな奴らアタシ一人で十分ニャ!」
『ぐへへ。その強がりがいつまで持つかな?』
『ぐふふ。ヒゲも引っ張っちゃうんだぜ?』
『ぐひひ。今日の晩ご飯は特製ミートボールだぜ!』
「あ、なら今日は早く帰るニャ! ……じゃなくて! 行くニャー!」
シュッシュッと猫パンチを繰り出すミャルトルーナに、三兄弟が代わる代わるにプニョーンと体当たりを繰り出していく。そうしてじゃれ合うのが彼らの日常であり、その平和で楽しい日々がずっと続くと、その時の彼女らは信じて疑わなかった。
――迫り来る魔の手
「ほぅ。君がウチの娘となかよーくしてる子だと? なるほどなるほど……」
「ひぃぃ……こ、怖い……」
「子供相手に何やってるニャ!」 「イテェ!?」
――現れた謎の勢力
「大丈夫か!」
「……パパ?」
「ち、違うぞ!? 私は謎の黒騎士だ! そして彼は謎の騎獣カイザーエメラルダス!」
ぷるるーん!
「え? でもえっちゃん――」
「謎なのだ!」
――そして訪れる、本当の危機
「お願い、やめて! 何で……何でこんなことが出来るのニャ!」
「下がってルーナちゃん! ここはボクが!」
「ほぅ。お前みたいな餓鬼に何ができる?」
「出来るか出来ないかじゃない! やるかやらないかだ! ボクは領主の息子! この町は、ルーナちゃんは、ボクが必ず守ってみせる!」
――頼れる神の力を借り……
「あ、フラウおばちゃん」
「おばっ!? 閉店! 今日の女神は閉店です!」
「え? でもパパの作った新作プーノンがあるよ?」
「……ちょっとだけ開店します」
――仲間達と想いを重ね……
「ダンダンは丸殻虫人の戦士! 戦士は仲間を絶対に見捨てない!」
「そうね。ここでこの子を見捨てたら、私は二度と冒険者を名乗れない」
「チッ。やっと書類仕事にも慣れてきたところなんだがなぁ……」
「開店休業も今日までのようでござるな」
――そして受け継がれる意思が、小さな少女に奇跡を起こす。
「お願い、みんな。どうか力を……アタシに力を貸して欲しいニャ!」
ぷるぷるぷるるーん!
「その力、まさか!? 馬鹿な、遺伝なんてするはずがないのに!」
「鳴り響け、『輪唱威圧』!」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
「解放! 『威圧感 花丸』!」
「嘘だぁぁぁぁぁぁ! こんなに一瞬で汚れが落ちたら……洗濯屋で儲ける俺様の野望がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
To be next generation そして歴史は続いていく……
「これでおやつはアタシの総取りニャ!」
「えーっと、あれね。このお話はあくまでフィクションで、登場する人物や描かれたエピソードは実在する野菜男の娘とは……要はまた続きを書くことがあったら、これとは違う内容になるかもってことでしょ? ならそう書いておけばいいじゃない。まったく……
じゃ、これで本当に終わりよ。続きが読みたかったら何かこう、感想書くとか評価入れるとかしとけばいいんじゃない? 貴方の運命が、いつかこの先にたどり着きますように……またね」





