調査結果(前編)
僕がスライムをテイムして見せ(エルフの人に引き合わせるために、姫で騎士っぽい子を選んでみた)、ジェイクさんも相棒になれそうなスライムをテイムできたことで、僕への依頼は完了となった。彼のスライム……名前は遠き理想と名付けられた……の言葉は誰にもわからないけど、ジェイクさんの肩で静かに揺れている姿は、その名の通りはるか遠くにある「最強」という理想に燃えているように見える。
実はえっちゃん達を経由すれば普通に話せるのだが、それはあえてしないのが男ってものだ。オッサンコンビに無粋な茶々を入れるべきじゃない……あ、流石にオッサン呼びはジェイクさんもオルタ君も嫌ですか。そうですか。ごめんなさい。
そんな遺跡からの帰り道、僕はジェイクさんから「ちょっと剣を見てやろう」と言われて、彼に稽古をつけて貰ったんだけど……これがまた凄かった。スライム達の跳ねる速度よりよっぽど遅いのに、ジェイクさんの剣を全然防げないし避けられない。これ以上無いくらい手加減されてるのに、僕の剣は全く当たらない。スライムには有効だったフェイントも「釣られる要素の無いただの無駄な動き」と称され、カウンターなんて狙うことすらできなかった。
でも、そんな本物の冒険者の力にほんの少しでも触れることができて、僕も自分が目指す道が少しだけ見えてきた。ジェイクさんに話したら「お前さんは本当に面白い奴だな」と笑われたけど、同時に認められた気もした。はるか遠くの目標はまだまだ見ることすら出来てないけど、とりあえず目先の道くらいは決められたことで、僕の中でくすぶっていた気持ちもすっきりしたし、今回のクエストは本当に受けて良かった。
その後は普通に町に入り、報告はジェイクさんがまとめてしておいてくれるというので、それに甘えて僕は自宅へと帰った。全く威圧されてなかったジェイクさんの攻撃は鞘で叩かれただけでも結構痛かったからね。日暮れにはまだ時間があるけど、今日くらいはゆっくり休もう。
あり物でサッと夕食を済ませて軽く身綺麗にすると、えっちゃんのぷんにょりボディを抱き枕にして、僕はゆっくりと意識を沈ませていった。
*関係者の心境:ミャルレントの場合
「おーう。帰ったぞー!」
ギルドの扉をやや乱暴に開けて、見覚えのある声の見覚えのある冒険者が入ってくる。そしてアタシは受付嬢なので、いつも通りの笑顔で彼を出迎えた。
「お帰りなさいジェイクさん。依頼の方はどうでしたか?」
「勿論問題なしだ。新しいツレもできたしな」
そう言って笑う彼の肩には、一匹のスライムがいる。ある程度知っている子以外は外見では判別できないけど、遺跡に行った彼が連れているのだから、おそらくは新しい子だろう。
「その子はトールさんに?」
「いや。コイツは俺がテイムした。遠き理想だ。宜しくな」
そう言ってニヤリと笑うジェイクさんに合わせて、肩のスライムもプルンと震える。でも、その言葉が聞こえない……いや違う。そこじゃない。彼は今何て言った!?
「えっ!? ジェイクさんテイムできたんですか!?」
「応よ。後で詳細は報告書にまとめて出すが、少なくともあの遺跡のスライムなら、誰が行ってもテイムできる可能性はある。だがスライム達の知能が思ったよりもずっと高い。ちゃんと組む相手を見極めるみたいだから、商売目的みたいな奴だとまず無理だろうな」
「ああ、そうなんですか……」
スライムの知能が高いと言われると未だにちょっと違和感があるけど、ファーガストと話していると彼の知性には驚かされることもある。というか、むしろ「姫はもうちょっと慎みを持った方が……」なんてお説教されることすらある。うぅ、スライムにお説教されるって……でも、自宅だから少しくらい油断してリラックスしちゃうのは仕方ないと思うのニャ。ファーガストの人格は尊重してるけど、それでもスライム相手に羞恥心を覚えるのは流石にまだ難しい。
「で、後は肝心のトールの方だが……」
ジェイクさんの言葉に、アタシは頭を切り換える。そう、今回ジェイクさんにした依頼は2つ。1つはスライムをテイムするところを見せて貰うことで……もう1つは、トールさんという人物を見極めること。人柄、能力、その他わかることをわかるだけ……アタシ個人の感情ではなく、冒険者ギルドとしてこれ以上それを後回しにすることはできなかった。
「まずは、奴の強さについてだが……これはもう、話にならないほど弱かった」
ジェイクさんのその言葉に、アタシは思わず首を捻る。確かにトールさんは見た目強そうには見えなかった。でも、あんな空気を出す人が弱いなんてあるんだろうか?
「言いたいことは解るが聞け。まず、アイツの体つきが戦う人間のソレじゃないのは見てわかってただろ? 戦士どころか農夫や大工の体つきですらない。親の手伝いを何もせずに遊び回っていた子供が、そのまま大人になったような体だった。持久力だけはギリギリで最低限ってところだが、それ以外はてんで駄目だったな。
で、奴の戦うところを見て、その後実際に剣も合わせてみたが、そっちもまた酷いもんだった。本人の「スライムとしか戦ったことが無い」ってのは事実だろうな。技術どころか基礎すらない、子供が棒っきれを振り回してるのをほんの半歩実践よりにした程度の技量だ。等速で直線にしか動かないスライムだから戦えただけで、人間相手だったら駆け出しどころか新人ですら奴になら勝てるだろう。そのぐらい弱かった」
「はぁ。そうなんですか……」
確かにトールさんは自分が強いなんて一度だって言ったことはないし、普段は畑を耕したり釣りをして美味しい干物を作ったりしてる人なので、強くないと言われれば納得できる。できるけど、あからさまに弱いと言われるのは何となく気分が悪い。
そんなアタシの感情がおヒゲにピンピン出ていたのか、ジェイクさんが苦笑いをする。
「そんな顔すんなよ。まあ奴の持ってる威圧感? 圧迫感? そういう能力を使えば、まるっきり弱いとまでは言わねぇよ。ただ、あれはおそらく自分よりほんのちょっと強い程度の相手にまでしか効かなそうだからなぁ……自分より弱い相手には無類の強さを誇るが、少しでも強い相手には手も足も出ない……何とも情けない能力だな。そう思わないか?」
「そんな! トールさんは良い人ですよ! ちょっとくらい弱いからって、そんな言い方しなくても!」
思わずムキになって答えたアタシに、ジェイクさんがニヤニヤした笑みを浮かべる。あ、やられた。この無精髭の筋肉オヤジは、時々こういうことをするのだ。だからこいつは絶対ヒゲ仲間にはしてやらないのニャ。
「何だよミャルレント。随分奴の肩を持つじゃないか? えぇ?」
「う、うるさいです! それより報告! 報告を続けて下さい!」
尻尾をピンと立てて威嚇するアタシに、ジェイクのおっさんがやれやれと肩をすくめている。凄くイラッとするのでいつか肉球パンチをお見舞いしてやりたいけど、職務的にも実力的にもそれが叶わないのが悔しい。
「それじゃ、お待ちかねのトールの人柄についての報告だ」





