黒づくめの男
脳内に響き渡る、安っぽくて懐かしい感じの音。それは僕の成長を目に見える形で示してくれる、祝福の音。
このタイミングかぁ。てことは、名前付けたからだよね? 正直えっちゃんとの激闘の後で上がらなかったから今回は諦めてたんだけど、何でだろう? まあそれもこれも実際に目にしてみればいい。僕は頭の中でいつもの通り……固有技能!
新!『威圧感』特殊上位派生『威圧の絆』
対象の心身を完全に威圧しきった場合に自動発動。任意で対象を眷属化できる。「眷属リスト」と念じることで眷属一覧を表示できる。
お助け天使のワンポイントメモ
また時期尚早なスキルを……あれ? 名前が違う? 本来のこれ系のスキルは……あ、ネタバレは駄目ですか? わかりました。えーと、実力が同程度の相手を完全に威圧しきった場合に発動出来るようですね。絶対服従じゃなく友達になれるっていうのが、ヘタレ……げふん、優しいトールさんにはピッタリだと思います。
新!『威圧の剣』特殊能力追加『威圧カウンター』
敵の攻撃を『威圧の剣』で受け止めた場合、相手に対して短時間『収束威圧』を自動発動する。
お助け天使のワンポイントメモ
初心者のトールさんにはありがたい機能ですね。あくまで『収束威圧』を発動するだけで、自動で剣が動いて反撃してくれるとかじゃないので注意です。勘違いすると死んじゃうので、絶対間違えないでくださいね?
進化!『威圧の服装』 → 『威圧の旅装』
威圧の影響下にある相手からの攻撃を、相手が威圧されている分だけ軽減する。また「マント」「鞄」「水筒」にはそれぞれ特殊効果が付与される。効果は『威圧感』の出力に依存する。
お助け天使のワンポイントメモ
これは凄く良いですよ! 戦闘系に行く人がほとんどなんでこっちの進化は珍しいんですけど、追加された付属品がとても有用です。「マント」は装着している間暑さや寒さを軽減する効果が、「水筒」には内容物の変化を遅らせる効果があります。「鞄」は今のところ何も無いですが、進化を続ければ念願のインベントリみたいになりますよ! 「鞄」と「水筒」の中身には常時『威圧感』が発動するのもポイントです。
来たな。これは来たよ。『威圧カウンター』はもうちょっと早く取得出来ていれば対スライム戦で絶大な効果を発揮したんだろうけど……でも、逆に言えばあの苦戦があったから取得できたのかな? 結局盾とか防具が手に入らなかった僕としては、地味だけど凄く有用な固有技能だね。
『威圧の旅装』も何だか良さそう。これももうちょっと早く取得できていれば、スライム遺跡への行き帰りや内部での生活が……いやいや、これもやっぱり苦労したからだよね。基本的に僕の固有技能は今までやってきたことが固有技能の形に昇華するのが多かったからね。
でも、本命はそれじゃない。そう、じらしにじらしてみたけど『威圧の絆』こそが今回の目玉だ。どう考えてもえっちゃんたちに名前をつけたの影響してるし……というか、あれが「眷属化」だったのかな? 本来がどんな固有技能なのかはわからないけど、絶対服従より友達になれる方が間違いなくいい。僕の意思を正しく酌んでくれる辺り、流石神様のおやつ3日分だね。いつも助かってます、ありがとう神様。
ということで、天に向かってお礼を祈ったら、早速「眷属リスト」と念じてみる。するとずらっと名前の一覧表が、固有技能の時と同じ感じで表示される。一番上に燦然と輝く名前は、当然緑玉の王、えっちゃんだ。
えっちゃんの名前に意識を向けると、そこから上に重なるようにえっちゃんの固有データが表示される。他の子たちも順次チェックしていくと、名前をつけた子たちとそれ以外のスライムでは明らかな違いがあった。なんとえっちゃん達は種族そのものが「威圧スライム」に変化していたのだ。なんだそりゃと思って意識を向けると、そこもちゃんと解説されている。凄いね、流石だね。必要な時に必要な情報を必要なだけ。何処ぞのイルカとは格が違うよ。
で、それによると「威圧スライム」とは僕の眷属専用の種族で、固有技能に『威圧感・』が追加されていた。うん、『威圧感・』。・だよ。画面にゴミでも混じってるのかと思ったけど、・だったよ。効果としては「周囲を威圧する。効果範囲極小。出力は主の『威圧感』の最大1割」ということだった。つまり彼らは僕と同じく、その場にいるだけで周囲を威圧してしまう存在になっちゃったってことだ。これにはちょっと不安を覚える。具体的にはフルールさんのところに置いてきたくーちゃんが気になる。早めに確認しに行かないとだね。
その他の名前をつけてない子達は、普通に「メイズスライムA」みたいな感じで表示された。他人行儀でちょっと寂しいので出来れば名付けてあげたいけど、正直もう名前が思い浮かばない。まあ名前となれば一生物だろうから本人達が気に入らないのを適当に付けるのも嫌だろうし、そこはじっくりやっていこうと思う。フルールさんの時みたいにフィーリングの合う人の所に行きたいって子がいたら、その人に名付けて貰うのもアリだろうしね。
それと、全部のスライムたちに「念話?」という固有技能が追加されていた。ハテナって何だよと思ったら、「相手の意思を漠然と理解できる」という説明だった。漠然となのか……まあ確かに何となく雰囲気で通じ合ってる感じだからね。ただ、これによってスライム達とのやりとりが僕の完全な妄想だけじゃないということは判明した。自分で解ったつもりになってただけじゃなく、ちゃんとみんなの気持ちを少しでも理解してあげられていたんだとわかって、何だか嬉しかった。
その後は『威圧の旅装』のオプションである3点セットをチェックしてみた。もうそろそろ夏っぽいらしくて昼間は結構暑いんだけど、マントを着けたらほんのり涼しくなった。劇的な効果が無いのは、流石に「暑さ」を威圧とかはできないからだろう。ただし「水筒」の方は冷たい水を入れてやるとかなりの時間冷たいままだった。日本にあった保温とか保冷の出来る水筒くらいには持ちそう。見た目はジャングルに探検に行く人達が持ってそうな平べったくて丸い奴で、家で使ってるコップに3杯分くらいの量が入ったので、おそらくペットボトルよりちょっと多めに入るくらいだと思う。
「鞄」はズボンのベルトに付けるタイプで……そう、「服」から「旅装」になったおかげで、ズボンが紐じゃなくベルトで締めるタイプに変化した……大きさは縦20センチの、横30センチくらいかな? 思ったより大きいし、ポケットとかも沢山付いてて結構入りそう。ただ常時威圧状態ということだから、野菜を入れたら新鮮さが保てそうだけど、肉類を入れると固くなりそうなんだよね……長旅をする予定は今のところ無いけど、もし持っていくなら干し肉とかの最初からカッチカチの奴だけにするのが無難そう。いや、でもそれが普通か。
その他の気づきとしては、水筒も鞄も中に入れた物の重さを大分軽減できることと、中身が入ってると消すことができないことくらいかな? 重さの軽減は良いよね。威圧装備が重さを感じないことの副次効果なんだと思うけど、体力の無い僕には実に素晴らしい効果だ。これならきっと長旅も捗ることだろう……まあ経験値を稼いで強くなる計画が頓挫したままだから、当分その予定は無いけどね。
「どうよえっちゃん? 僕の新装備。イケてるかな?」
いつの間にかすっかり日も暮れ、薄闇の中で全身真っ黒な威圧装備に身を固めて格好いいポーズを取ってみる僕に対し、「流石に黒すぎじゃね?」というえっちゃんからのまっとうなツッコミを貰ってガックリと肩を落とすのは、僅か数秒後の事である。





