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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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脅威度0

 えっちゃんを頭に町へと辿り着くと、当然の如くいつもの門番さんに呼び止められた。まあ頭に魔物乗せてるしね。スルーされたらそっちの方が驚きだ。

 とはいえ、焦りは無かったし、実際門番さんにもギルドに行って従魔登録をしてくれと言われた。予想通り魔物使いみたいな職業があるんだろう。僕の固有技能(スキル)がテイムだったら世界で僕だけ、という心躍る展開に内心ワクワクしながら「やれやれ、また目立っちゃうなぁ」とか言えるところだけど、僕の固有技能(スキル)は『威圧感』だからね。目立ってるのも不本意な方向でだし……ということで、初めて町に入ったときくらいの感じで周囲の視線を集めまくりつつ、僕は冒険者ギルドへと足を踏み入れる。


「邪魔するぞ」


「あ、おかりえなさいトールさ……ん?」


 時間は昼をちょっと過ぎた辺りということで、ギルド内部に人影はまばらだ。だからこそミャルレントさんが真っ先に声をかけてくれて、その視線が僕の頭の上で止まり、小首を傾げる。うん、可愛い。でも、今はそうじゃない。


「あの、トールさん? 頭の上のそれって?」


「うむ。スライムだな。懐いたのだ」


「なつ……え? スライムって懐くんですか?」


「いや、他は知らんがこいつは懐いたぞ? ほら、挨拶をするのだ」


 手のひらを上に向けて頭の側に近づけると、えっちゃんが「コイツ格好つけてるなー」みたいな感じでひとプルした後、手のひらにぴょいんと乗っかる。それをそのままカウンターの机の上に近づければ、ぴょいんと飛び降り、フルフルと愛嬌を振りまき始める。「あ、可愛い……」というミャルレントさんの呟きもいただいて、えっちゃんはご満悦なプルり具合……


「ぬっ!?」 ぷるるっ!?


「ど、どうかしましたか?」


「……いや、何でもない。気のせいだったようだ」


 不意に隣から、とてつもない『威圧感』を感じた気がしたんだけど……気のせいだろうか? 隣の受付嬢も素知らぬ顔だし……まあ冒険者ギルドだし、奥にいるギルドマスターが魔物と見て殺気を放った、みたいな格好いい理由とかあるのかも知れないしな。いやでも隣……まあいいか。


「それで、町で連れ歩くならここで『従魔登録』というのをして欲しいと言われたのだが、手続きは可能かな?」


「あ、はい。大丈夫ですが……スライムを従魔にしたという話を聞いたことがないので、ここに至った経緯を詳しくお聞かせいただいても良いでしょうか?」


「そうなのか? ああ、構わんよ」


 まあ魔物を手懐けられるなら、わざわざ最弱のスライムは選ばないか……僕は納得して、えっちゃんとの出会いと激闘の日々、死力を尽くした決戦から芽生える友情などの話をした。これがフルールさんに話すのなら盛りに盛ったところだけれど、ギルドへの報告となると正確性が重要なので、語るのはあったことをそのままだ。

 ……まあ、そのままだけど「全て」じゃない。スライムにフルボッコとか流石に告白できないしね。いや、でもスライムと激闘を繰り広げる程度の実力な時点で手遅れな気も……いやいやいや……まあ嘘をついても仕方ないしね。これからの頑張りに期待して貰いたい。


「……大体わかりました。ではそのお話の内容で訂正……いえ、修正したい箇所がいくつかありましたので、まずはそちらを説明させていただきます」


 そう言って続いたミャルレントさんの言葉曰く、何とえっちゃんはスライムではなく、メイズスライムという亜種だったらしい。魔力は地上より地下、広いところより狭いところ、明るいところより暗いところに溜まりやすい性質があり、「狭く」て「暗い」「地下」であるスライム遺跡は、まさにベストスポットと呼べる。で、そういう所にいる魔物は魔力を吸収して通常より強くなるため、亜種として別枠扱いになるのだそうだ。


 これを聞いて、僕は密かに納得していた。だって、最初に聞いた話と全然大きさが違ったからね。1分の1パーフェクトえっちゃんはでかかったもん。あとは、何度も何度も話し中に確認されたことからして、普通のスライムはあんなに跳ねないらしい。柔らかい地面の開けた場所と、石の壁で囲まれた通路の違いはあるけど、それでも本来は膝くらいの高さまでぴょいんと跳ねるのが限界だそうだ。


「ということは、こいつは手練れでも苦戦するような強力な魔物なのか?」


「いえ、スライムはスライムなので、脅威度は変わらず0です」


 0……ゼロかぁ……脅威度というのは説明するまでも無く読んでそのままの意味で、それが0というのは、兎とかの小型草食動物と一緒……つまり常識の範囲内では脅威となり得ないということだ。ちなみに、ゴブリンですら脅威度1で、魔物の範囲で脅威度0なのはスライムだけらしい。どれだけ弱いんだよ……と思ったら、それにもちゃんと理由があった。スライムには、「敵にダメージを与える手段」が無いのだ。


 この世界のスライムは、どれだけ育っても強力な酸を生成したり、魔法を使ったりみたいな攻撃手段を持つことは無いらしい。つまり体当たりだけが唯一の攻撃手段なわけだけど、スライムのボディはぷるんぷるんなので、ぶつかったところで痛くない。唯一ぶつかった勢いで転んで頭でも打てば死ぬことも無くも無いけど、普通はスライムの体当たり程度で転んだりはしないので、結果として脅威度は0……ということだった。


 えー、えっちゃんの体当たりはかなりの勢いがあったと思うんだがなぁ……まあでも足腰をしっかり鍛えてあったり、鎧とかのそれなりの重さのある装備をしてれば転ばずに耐えることは現実的に出来そうだとは思えるから、そう言われたらそうなんだろうと納得するしかない。僕はあくまで僕自身を基準にしか考えられないけど、この世界の冒険者の基準が僕と同じだとはとても思えないからね。脅威度0の最弱モンスター扱いなのに、えっちゃん強かったし。


 その後も魔物を町に入れるということで細々とした説明や制約があり、「狙ってる感」全開でプルプルと愛嬌を振りまくえっちゃんを指でつついたりしつつ、僕は暫しの間ミャルレントさんの説明を聞き続けた。




*関係者の心境:リタの場合


 久しぶりに神がギルドに顔を出したと思ったら、不可思議な不定形生物を頭に乗せていた。神はそれをテイムしたスライムだと言い、カウンターに下ろす。

 ……何あれ、超可愛い。超プルッてる。横目で見てるだけなのに、癒やされ具合が半端ない。あれは欲しい。超欲しい。くっ、食事関連を制覇したら、今度はこっち方面に手を出してくるのか。神の進撃は止まらない。


 その後神はミャーとスライムをテイムした経緯を話していたが、相変わらず意味不明な行動をとっていた。何故スライムを剣で切ったり叩いたりしているのだろうか?


 スライムというのは、例外なく火に弱い。メイズスライムが多少大きかったところで、火の魔法どころかたいまつを押しつけてやるだけで皮膚が破れて中身がこぼれ、あっという間に絶命する。たまに物理攻撃が効かないと勘違いしている奴がいるので叩いても倒せることを説明はするが、普通はあくまで火を使ったら危ないような状況でだけ……そんなことは子供でも知っている常識・・だ。こちらにダメージを与えられないうえに、極めて簡単な手段で倒せるからこそ脅威度0なのだ。

 なのに何故わざわざ剣で切って小さくして、それから叩いたのだろう? そこにスライムをテイムする秘密があるのだろうか? 一介の受付嬢に過ぎない私にはわからない。わかるのは、あのスライムが超欲しいということだけだ。野菜の次の流行は絶対アレだ。普通なら同じ魔物を複数匹テイムなんてしないけど、神は普通じゃないので問題無い。問題なのは私がアレを手に入れるには、ミャーのご機嫌を取らなければならないということだ。どうするか……秘蔵のセクシー下着でも渡すか? あれはあれで高いけど、スライムのためなら……


 ……ああ、神がスライムをつつく度、プルプルと震えている。超ラブリーだ。超欲しい。野菜のように入手困難になる前に、手を打たねば。

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