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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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招かれた人(ミャルレント 前編)

今回と次回はミャルレント視点です

 私は今、トールさんのお家にいる。というのも、先日ご飯のお誘いを受けて、その場で了承しちゃったからだ。ギルドの受付嬢として、お仕事中にお誘いを受けるなんて良くないことなんだけど……何故かあの時、私はするっと受けてしまった。

 何故だろう? 自分でも良くわからない。猫人族(フェリシアン)としての気まぐれな本能がアタシの中に根付いているのはわかってるけど、それでも普段ならそこまで緩んだりはしない。なのに、トールさんの前でだけ、アタシの本音がユルユルッと漏れ出ちゃう。お仕事のお手紙を恋文と勘違いしちゃったり、差し出された野菜をその場でパクッと食べちゃったり、ユルユルの漏れ漏れでリタには呆れられ、ギルドマスターには怒られたりもした。でも、気づいた時にはそうなっちゃった後なので、アタシにもどうしようもない。


 それに、別に嫌なわけじゃない。困っちゃうのはアタシ自身の問題であって、トールさんは悪くないし、誘って貰えるのは嬉しい。今日だって朝の出勤時に着てくるのとは別のお洒落服をわざわざ持ってきちゃったし、時間ちょうどに迎えに来てくれたトールさんをちょっとだけお待たせして、リタから借りた香油でおヒゲを磨き上げたりもした。ママにもリタにもお墨付きを貰った夕焼け色のワンピースに身を包んだアタシを、トールさんも「素敵だ」と褒めてくれた。それがとっても嬉しくて、アタシの尻尾はユラユラと揺れっぱなしだ。


 雑談しながら辿り着いたトールさんのお家は、アタシが勘違いしたお手紙の依頼主さんから、報酬として受け取った物だ。家の前の畑には沢山の種類の野菜がちょっとずつなっていて、片隅にはあの・・干物も……目に入った瞬間飛びつきそうになったけど、尻尾に思い切り力を入れて耐えきった。でも、トールさんが「帰りにお土産に差し上げますよ」と言ってくれて、アタシのおヒゲがフニャッとなる。うぅ、やっぱり漏れ漏れだ……恥ずかしいけど、干物の誘惑に抗えないのは、きっとアタシじゃなくて猫人族(フェリシアン)の性なのニャ。


 お家の中はこざっぱりした感じで、色んな小物がゴチャゴチャしてるアタシの部屋とは違う。トールさんは綺麗好きみたいだから、納得の感じだ。お姫様みたいに椅子を引いて貰って座るのは、ちょっとドキドキ。目の前のテーブルにかかるクロスは眩しいくらいに真っ白で……新品でもこんなに白くは無いはずと思って、少しだけ首を傾げちゃう。何か特別な物なのかな? 魔物の希少部位とかならわかるけど、こういうのは良くわからない……でも、何だか高級なお店みたいで緊張しちゃう。汚したり、爪でひっかいたりしないように気をつけよう……


 そんな風に、おヒゲと尻尾をピンとして待っていたアタシの前に、満面の笑みと一緒にトールさんがお料理を出してくれる。


「『とろとろ温玉の猫髭サラダ』です。すぐに肉と魚も焼きますから、慌てないでゆっくり食べてください」


 トールさんの言葉遣いがいつもとちょっと違う。けど、そんなことよりアタシの意識はサラダに釘付けだ。アタシの毛並み同じ茶色いキャッツオブシが風に揺られ、真っ白なおヒゲはダンシングラディッシュかな? でも、一番気になるのは真ん中のトロっとした奴。


「この真ん中にあるのは……?」


「ああ、それは『温泉卵』……まあ、特別な調理をした卵といったところですね」


 卵! 火が通りきってない卵なんて、食べられるんだろうか? 生肉を平気で囓れる獣人種なら問題ないだろうけど、アタシたちは普通にお腹を壊しそう……と思ったけど、トールさんがちゃんと調理してるので、自分の作った物なら大丈夫だと教えてくれた。ちょっと心配だけど、でもこのプルプルした感じが凄く美味しそうで、ちょっとだけフォークで刺してみたら、中から黄身がトロッと溢れてきて……ああ、これは見ただけで堪らない感じがするニャ。

 キャッツオブシの下に敷いてあったスライストマトにちょっとだけ黄身を漬けて食べてみる。すると、濃厚な黄身の味と、さっぱりとしたトマトの甘みと酸味、それにキャッツオブシの風味も合わさって、アタシのほっぺはトロトロトロンだ。目を細めて、思わず「うみゃー」と漏らしてしまう。慌ててお口に手を当てたけど、蕩けたはずのほっぺたが、恥ずかしくって赤くなる。

 気を取り直してもう一口と思ったら、トマトの下には四角く切った野菜が沢山入っていた。こっちにも黄身を少しだけ垂らして、匙で掬ってパクリと一口。サクサクパリパリ、色んな味と食感が合わさって、それが黄身でトゥルンとまとめられていく感じで、これも美味しい。思わず夢中になってかきこみそうになったけど、「肉と魚を焼いている」というトールさんの言葉が辛うじて頭の中に残っていて、ギリギリ手の動きを止められた。


 うぅ、尻尾が3回揺れるまで、一口で我慢……3回で一口……やっぱり2回で……


「お待たせしました。『パンドラステーキとはじける焼き魚』です。熱いので気をつけて食べてくださいね」


 目の前にある食べてもいい美味しい物を我慢するという拷問を耐え抜いたご褒美に、トールさんがお肉とお魚の乗ったお皿を出してくれた。見た目は普通のお肉とお魚だけど、こんなに美味しいサラダを作ってくれたトールさんなら、これもとっても美味しいに違いない。食べる前から、アタシのおヒゲがギュンギュン反応してる。


 大好物のお魚は後回し、まずはお肉を食べようとして、ナイフを手に持って気づく。鉄製のはずなのに、何だか凄くピカピカしてる。流石に銀と間違えたりはしないけど、鉄ってこんなに光るんだっけ? ともあれ、これなら良く切れそう。アタシはステーキにナイフを入れて……思ったよりも、ちょっとだけ固い。あれ? と思って少しだけ力を入れたら、何とお肉がパリッと割れた。その後は何の抵抗も無く下まで切れて、底がまたパリっと割れて、一口分のステーキが完成。

 断面を見ると、中が赤い。どう見ても火が通って無さそうだけど、やっぱりトールさんが「特別な調理」をしたらしいので、安心してそのままパクリ。うーん。美味しい。美味しいけど……凄く不思議。

 見た目は焦げたりしてないのに、お肉の周りの凄く薄い部分だけが、パリッとなっている。固いのに、焦げてない。だから凄く香ばしくて美味しい。なのに、中はトロトロだ。ジュワーッとお汁が溢れてきて、お口に入れただけで無くなっちゃう。だから、しっかり食べてるはずなのに、あんまり食べた気がしなくていくらでも食べられそう。3口くらいがお口がニュルニュルになっちゃうけど、そういうときはサラダをパクリ。そしたらまた、お肉がいくらでも食べられる気になっちゃう。


 おっと、気づいたらお肉ばっかり食べちゃってた。大好物のお魚を忘れさせるとは、トールさんの料理は本当に凄いニャー。これなら、きっとお魚も凄く美味しいんだろうニャー。期待に胸を膨らませて、お魚をナイフで切って、パクリ。すると……ぷちんっ!


「ニャッ!?」


「どうかされましたか?」


「お、お魚が口の中で、プチンッって! ……あ!? いや、すみません。食事中に……」


 あまりの衝撃に思わず声を上げてしまい、トールさんに笑われてしまった。もう何度目かわからないくらい赤面して尻尾の毛も逆立っちゃってるけど、そのくらいこのお魚は衝撃だった。

 皮はパリッと、身はふんわり。ここまでは普通の美味しい焼き魚だ。でも、噛むと口の中で、何かがプチッとはじけるのだ! 卵を持ってる魚ならわかるけど、このお魚は子持ちじゃない。じゃあ何がはじけてるんだろう?


「それは、特殊な調理で小骨がはじけるようになってるんです」

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