表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

291/589

かわいがり

「……特に何とも無いな」


 うん、まあそうだろうとは思った。別に病気でも何でもないわけだし、そもそも漠然と薬って言われても、何に効くのかわからないしね。となると、やっぱり傷薬的な物なんだろうか? でも塗るんだったら前の粘液の方が使い勝手は良さそうだったけどなぁ。


 ちなみに、こういう時は自分の体を少し切って塗ってみるなんてのが定番だけど、それはしない。自分の体を切るとか怖いしね。漫画とかだとガリッと親指を囓って血を出すみたいなのってあるけど、あんなのは絶対無理だ。あれ本当にやったら凄い痛いと思うんだけど、どうなんだろう? まあ試してみたいとは微塵も思わないので永遠に謎のままだけど。


 ということで、薬液の効能は現段階では完全に不明という調査結果で終わった。わかったのは薄い緑色の水みたいな液体で、匂いや味は無いということだけだ。効果の方はいずれ怪我をしたときとか、あるいは冒険者ギルドに持っていって調べて貰うのがいいかな?


てゅぷるーん?


「ああ、ごめんね。効果は良くわからなかったんだ。後で冒険者ギルドに行って調べて貰おうね」


てゅぷるーん!


 まだ生まれたばかりだからか、でーやんの反応は実に素直でわかりやすい。結局その日はそのまま寝てしまい、次の日。長らく放置してしまっていた畑の方をしっかりと手入れしたり久しぶりに収穫した野菜を方々に配達したりしてから、僕は改めて冒険者ギルドへとやってきていた。


「ということで、これの効果を調べて欲しいんだが……可能だろうか?」


「はい。大丈夫ですよ」


 魔物素材の容器にでーやんの薬液を入れた物を渡すと、ミャルレントさんが笑顔でそれを受け取ってくれる。


「確かにお預かりしました。ただ、効果の調査となると流石に今日受け取って明日にお返事、みたいなのは無理ですので、そこはご了承下さい」


「うむ。それは勿論大丈夫だ。で、調査依頼の費用だが……」


「費用? ああ、買取額ですか? 素材ならまだしも、薬となると効能によって値段の上下が激しいので、現段階では何とも――」


「いや、そうじゃなくて。あれ? 私が調べてくれと頼んだのだから、金を取られるのでは無いのか?」


 仕事を依頼したのだから、お金がかかって当然だ。と言うのに、僕の発言にミャルレントさんが苦笑してヒゲをピンと跳ねさせる。


「場合によってはそういうこともありますけど、今回の場合は『未知の魔物素材にどんな効果があるか』ですからね。これでお金を取ってしまったら、新種や変異種なんかの魔物が発見されても、誰もギルドに持ち込んでくれなくなっちゃいますよ」


「あー、まあそう、か?」


 確かに、見たことの無い魔物を倒したとして、その素材がお金になるかどうかなんてその場で判断できるものじゃない。調べて貰うのにお金まで取られたら、そりゃそんな死体は放置して確実にお金になる既存の物ばかり持ってくるようになるだろう。そうなれば有用な新素材の発見や、あるいは危険な特性を持つものがその辺に放置されたりしかねない。


「ですから、お金のことを気にする必要はありません。まあ調べた結果凄く有用な薬効があるとかでしたら、逆の意味で気にする必要は出てくるかも知れませんが」


「そっちは問題ない。これで金儲けをするつもりは無いからな」


 そう言うお金儲けはしないとちょっと前に自戒したばかりだ。どのみちでーやんの分泌できる薬液の量なんてたかが知れてるし、精々身の回りにいる困った人を助ける程度が分相応だと思う。


「では、宜しく頼む」


てゅぷるーん!


「ふふ。はい、承りました」


 震えるでーやんを笑顔で見つめるミャルレントさんに背を向け、僕たちは冒険者ギルドを後にした。そうして次に向かうのは、当然スライム遺跡だ。でーやんの今後のためにも、ここだけは先延ばしに出来ない。


 とは言え、勝手知ったる道のりだ。ちょっと前に大人数で移動したからこの辺の魔物は軒並み逃げたり退治されたりしてるし、それに加えて僕の『威圧感☆』があれば、もはやチラリとゴブリンの陰を見ることも無い。が、魔物が原因の問題そのものが生じないわけでは無かった。


てゅぷるーん! てゅぷるーん!


 草原を歩く僕の頭の上では、でーやんが初めて見る町の外の光景にはしゃいでいる。それだけならばいいんだけど、僕の頭の上に直接乗っているのはでーやんではなくえっちゃんだ。最初は肩に乗っていたんだけど、少しでも遠くまで見たかったのか、あれよあれよという間にえっちゃんの上にまでぴょいんと昇ってしまったのだ。


 正直、地味に首が辛い。えっちゃんだけなら彼自身が重心を絶妙にコントロールしてくれてるおかげで重さも気にならないんだけど、その上ででーやんがはしゃぐと一気に首への負荷が増えるようなのだ。


てゅぷるーん! てゅぷるーん!


ぷるるーん!


てゅぷるーん……


 あ、はしゃぎすぎたでーやんにえっちゃんが注意したら、でーやんが大人しくなった。そのままポテンと肩まで降りてきたけど、明らかに元気が無い。


「はは。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったね……でーやん?」


 ぬぅ、話しかけてもでーやんが返事をしてくれない。こんなにションボリされるのは見てる僕の方まで悲しい気持ちになってしまう。


「はぁ……仕方ないなぁ。でーやん、ほら!」


てゅぷるーん!


 僕はでーやんを手に持って、その腕を目一杯上に伸ばす。えっちゃんの上よりも更に高い視点に、でーやんの体が興奮で震える。


ぷるるーん!


「あはは……いや、ほら、でーやんも初めての景色が楽しかっただけだろうしさ」


ぷるるーん!


 ぬぐぅ。えっちゃんに「甘やかし過ぎたら駄目だぜ?」と釘を刺されてしまった。わかってる。わかってるけど、何かこう……今まで知り合ったスライム達はみんなある程度大人だったから、ここまで幼い感じは初めてで、可愛くて仕方が無いのだ。


てゅぷるーん! てゅぷるーん!


「ん? 何だろう。もっと高い方がいいのかな? でもこれ以上は……あー、いけるか?」


 ファルタニアンさんにジャグリングの玉みたいにされていたのを思い出して、僕はでーやんを軽く上に放り投げてみた。人間の赤ちゃんならあり得ない行為だけど、でーやんはスライムなので仮に取り落としたとしてもダメージはゼロなので安心だ。


てゅぷるーーーん!!!


「お、楽しいのかな? ならもっとやってあげよう。ほーら!」


 どうやら喜んでいるようなので、幾度となく繰り返してでーやんを放り上げる。頭の上から呆れた感じの震えが来たけど、今の僕は日曜日のお父さんモードなので気にしない。お母さんが呆れるくらい子供と全力で遊ぶのは、お父さんの特権なのだ。


 そうやって普通ならそこそこ危険なはずの道のりを遊び倒しながら歩いて行けば、程なくしてスライム遺跡へと辿り着いた。正直遊びすぎて腕が痛い。明日は間違いなく筋肉痛になってそうだけど、僕も楽しかったからそれは甘んじて受け入れることにして、遺跡の中へと足を踏み入れ、前回最長老のいた場所まで歩いて行く。


 果たしてそこに、最長老の姿はあった。前回はでーやんが手引きしてくれたけど、今回はもうあの時のでーやんはいないわけで、ここで会えなかったらかなり困ったことになるところだったけど、どうやら幸運にも杞憂に終わってくれたようだ。


『久しいな、人の子よ』


「お久しぶりです。最長老さん」


 実際には、久しぶりどころかつい最近会ったばかりだ。だと言うのに、こうして最長老さんと話していると何故か凄く久しぶりな気がする。これは簡易的に意識が繋がっていることで、最長老さんの時間感覚が僕に感じられるからとかだろうか? でも長生きしてるなら、何百年があっという間みたいな感じ方をするのが定番っぽいのになぁ。


『我にはもはや時間の感覚が無いのだ。一日が千年の如く感じられ、万年が瞬きの如く思える。悠久の時を生きるとはそういうものなのだ』


「はぁ。そうなんですか」


 これもまた設定なんだろうか? それとも本当? まあどっちであっても特に問題ないけどさ。


『それで、今日は何用だ? それにその小さきスライムは……』


「それは……っ」


 問われて、思わず言葉に詰まる。でも伝えないわけにはいかない。だから僕はでーやんを抱き上げると、決意を込めて最長老さんに向き直る。


「この子は……でーやんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ