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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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労り合う気持ち

「申し訳ありません」


 でーやんが毒に犯されているとわかった以上、最初にやるべきは当然解毒手段の確保だ。実際王妃様には使われている訳だから大丈夫だろうと思っていたんだけど……冒険者ギルドから戻ってきたミャルレントさんが、開口一番そう言って深く頭を下げた。


「えっと、それはどういう……?」


「王妃様を襲ったポイズンディクロムという魔物は、かなり遠い地域の森の中に生息する魔物なんです。この周辺で発見されたという話は向こう十年遡ってもありませんし、かなり強い毒を持っているため、毒に犯された人がそのまま旅をしてこの町にやってくるなんてこともありません。


 なので、ギルドの備蓄は予想外の事態に対応するための解毒剤が一本だけで、それを王妃様に使ってしまったので、もう無いんです……」


「そう、なんですか……」


 言われてしまえば、その答えは納得せざるを得ないものだ。日本でだって、サハラ砂漠にしかいない毒蛇の血清が近所の病院に常備されているかと言われたら、そりゃ無いだろう。値段が高かったり経年劣化で定期的に買い換える必要があるとかであれば、むしろ一本でも備えがあっただけマシだとすら言える。実際それで王妃様が助かったのだから、備品係みたいな人がいるなら勲章だって貰えそうだ。


「今近隣のギルドなんかに連絡をして、備蓄があれば回して貰えるように手配をしています。獣王様の意向もあるので現物がありさえすればすぐに回して貰えるとは思うんですけど、それでも情報の伝達と物資の運搬で、おそらく早くても一週間はかかるんじゃないかと……」


「一週間…………」


 まだほとんど動けない僕の横には、体中の至る所に黒いモヤが浮かんでいるでーやんがいる。つい先日も同じベッドで寝たばっかりなのに、あの日のことがまるで遠い日の様に懐かしい。


「わかりました。待ちますから、できるだけ早くお願いします」


「トールさん…………では、失礼します」


 凄く辛そうな顔をして、ミャルレントさんが僕の家から出て行った。言葉にされなくてもわかる。きっと「無理はしないでください」と言いたかったんだろう。


 でも駄目だ。そのお願いを聞くわけにはいかない。今僕が無理をしないなんて選択肢は存在しないのだ。


「でーやん……頑張れ……」


 僕は横になったまま、でーやんに『収束威圧』をかけ続けている。本当なら『輪唱威圧』の方がいいんだけど、今の状態で『輪唱威圧』を使ってもあっという間に意識を奪われてしまう。そうなればでーやんの体内の毒を抑える力がなくなってしまうから、継続性を考えて『収束威圧』の方にしているのだ。


ぷるるーん!


「えっちゃん……うん、そうだね。わかってるから大丈夫だよ」


 えっちゃんに言われるまでもなく、自分の体のことはわかっている。『威圧感』の使いすぎで倒れてしまった僕が、ほとんど回復する間もなく更に『威圧感』を使い続けるなんて自殺行為だ。実際自分の中で、何か致命的なものに亀裂が入っているような感覚がある。王妃様の時に無理をして入ったヒビが、少しずつ深く大きくなっている感じだ。もしこれが割れてしまったらどうなるのかは……僕自身にもわからない。


でゅぷるーん……


「大丈夫だよでーやん。無理なんてしてないさ。むしろ無理したのはでーやんでしょ?」


 ゆっくりと手を動かして、でーやんの体に僕の手を乗せた。いつもより少しだけ体が火照っているように感じる。きっと必死に毒と戦っているのだろう。


 自分がどうなってもいいなんて思ってるわけじゃない。僕が倒れたり死んだりしてしまえば、きっと悲しむ人がいるだろう。でも、だからこそギリギリまで頑張りたい。同じようにギリギリまで頑張ってくれたでーやんに恥ずかしくない存在でありたい。


 正直、もう痛くも苦しくも無い。ただひたすらに体が重いだけだ。だからこそ頑張れるわけだけど、だからこそ危険であると自覚できる。痛みすら感じないとかどう考えても末期症状だけど、あと少し、ほんの少しだけ頑張りたい。大切な友達のために、最後の一滴まで力を振り絞りたい。


「ああ、でも、そうだね。確かにちょっと疲れたかも。少しだけ……少しだけ休むよ。ごめんねでーやん。少しだけ……」


でゅぷるーん


 自分も辛いだろうに、おやすみと言ってくれるでーやんの優しい震えを手に感じながら、僕の意識が吸い込まれるように落ちていく。そうして次に目覚めた時には、家の中が随分と暗くなっていると感じた。おそらく三時間か四時間くらいは寝ていたのだろう。ほんの気持ち程度ではあるけど、体が回復している気もする。


「でーやん……」


 その代わりに、でーやんの体の黒いモヤは確実に増えていた。一応本人が言うにはちょっとずつ体内で毒を分解しているらしいけど、それが本当であったとしても、毒が広がる速度の方が早いんじゃ焼け石に水だ。


「んっ……」


 目が覚めたので、毒に対する『収束威圧』を再開する。人間と違ってスライムには臓器とかは無いので、「ここをやられたら死ぬ」というのが無いのは救いだ。だが代わりに全身が血であり臓器であるから、全身に万遍なく毒が広がってしまい、対処は人よりもずっと難しい。王妃様の時は傷口近くの毒だけを威圧すれば良かったけど、でーやんの場合は全身に散っているので『収束威圧』なのに収束する対象が広く、どうしても効率が落ちてしまうのだ。


ぷるるーん!


「ああ、おはよう……でもないか。うん、そうだね。ちょっと何か食べるよ」


ぷるるーん!


 食欲は全く無いけど、えっちゃんが持ってきてくれた携帯食を囓る。ぼそぼそとして美味しくないけど、寝ながらでも食べられるのは便利だ。


 部屋の隅では、ルイーズさんが椅子に座ったまま眠っているのが見える。彼女はかなり格上の存在だけど、それでも王妃様の治療をした時からずっと100%全力状態だった僕の『威圧感☆』に晒され続けたことは、少なからず負担だったんだと思う。でーやんがこの状態なので「癒しの香り」の効果もなくなっているし、きっと外から見た以上に精神的な疲労が溜まっていたんだろう。


「……少し水が飲みたいな。ああ、いいよえっちゃん。ルイーズさんを起こして」


 スライム達が水汲みをするのはかなりの重労働だから、それならばルイーズさんを起こした方が早くて簡単だ。疲れてる彼女を労りたい気持ちもあるけど、今の僕が何より優先するのはでーやんのことで、そのために僕の体調の回復が必要だと言うのなら、寝ているルイーズさんを起こすことを躊躇ったりはしない。


「……ん。ああ、寝ちまってたのか。お、トール、起きたのかい?」


「はい。すみませんけど、水を一杯貰えますか?」


「ああ、いいよ。じゃ、汲んでくるからちょっと待ってな」


 言ってルイーズさんが家を出ると、すぐに井戸から水を汲んで戻ってきた。スライム達だと時間単位でかかる作業も、彼女ならあっという間だ。


「ほら、飲みな。ゆっくりだよ?」


「ん……はぁ。ありがとうございます。もういいです」


「あいよ。どうだい? 寝たら少しは良くなったのかい?」


「そうですね。回復したとは思いますけど、その分はすぐにでーやんに使っちゃってますから」


「まったく、馬鹿な男だねぇ。そのスライムといいアンタといい、人のことにばっかり一生懸命になって……従魔と主ってのはこんなに似るものなのかね?」


「はは。以前にも言われたことがあります」


 ちょっと前にミャルレントさんから僕とスライム達は似ていると言われたことを思い出す。こんなに頑張っているでーやんやえっちゃん達と似ていると言われるのは、何度言われても嬉しい。


「ま、そう言う馬鹿は嫌いじゃないよ。安心しな。アタイだって空気くらい読むし、王妃様の恩人……恩スライムかい? に助かって欲しいのは同じさ。アンタをいただくのは二人とも元気になるまで保留にしといてやるよ」


「それはできれば諦めて欲しかったなぁ……」


 冗談めかして言うルイーズさんに、僕は小さくそう呟きながら、でーやんの体を蝕む毒にひたすら『収束威圧』を発動し続けた。

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